異世界に飛ばされちゃったわたしは、どうもお姫様の身代わりに花嫁にされちゃったらしい。

みにゃるき しうにゃ

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すっごく綺麗な女性が突然訪ねて来たんですけど?

その3

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 ベッドに入り、これからどうしようと考え始めたところで、家の外がなにやら騒がしくなった。大きな声とバタバタと音を立ててやって来る足音。きっと昨日のおじさんだ。

「今はダメだと言っているでしょう」

「姫、入りますぞ」

 バタンと音を立てて、扉が開けられる。

 『あ、まずい』と思った。下着類はクロモに見られるのも恥ずかしいからしっかり絞って目のつかない場所に隠してるけど、濡れたままのドレスはクロモのローブと一緒に衝立に掛けたままだ。冷めたお湯の入った桶もそのまま置いてある。

 きっとおじさんが不審がる。

 だけどおじさんは、開けたのと同じくらいの勢いでドアをバタンと閉じると向こう側から謝ってきた。

「し、失礼いたしました。沐浴中とは露知らずっ」

「だから今はダメだと言ったでしょう」

 クロモが怒ったようにおじさんに言っている。クロモが怒ってくれているせいか、わたしは怒る気にはなれなかった。考えてみればタイミング悪ければ裸見られちゃってたんだろうけど、今は一応服を着てベッドの中に入っている。

 けどおじさんはたぶん、一番最初にお湯が入った桶を見てそれだけで慌てて扉を閉めちゃったんだろう。ドアの向こうでおじさんは頻りにクロモに謝っている。

 なんでクロモに謝るの? とも思ったけど、結婚してるフリをしてるんだった。奥さんの裸見ちゃって(実際は見てないけど)すぐ傍に旦那さんがいたら、そりゃ謝るよね。

 あんまりおじさんが平謝りしている声が聞こえてきたから「大丈夫、気にしないで」と言ってあげたかったんだけど、口を開きかけて今喋れない設定だったと思い出した。

 しばらくおじさんとクロモのやり取りがあった後、ノックの後声をかけてクロモが部屋に入って来た。

 喋るなよというゼスチャーの後、念の為か例の声が出なくなる魔法を掛けられる。

 そんな事しなくても喋ったりしないよと言いたかったけど、昨日今日でわたしのお喋り具合を知ったクロモからしてみれば心配だったんだろう。仕方がない。

 それからクロモは衝立に掛けてあった自分のローブとわたしのドレスをどこかに隠し、お湯の入っていた桶を片付けた後、何か小さな容器を持ってきた。なんだろう。

「手、出して」

 言われるままに手を出すと、クロモはその小さな容器を開け指ですくい取る。そしてそれをわたしの腕にあるすり傷に塗り始めた。

「!」

 薬だっていうのは分かったけど、しみる。痛い。つい避けようと引きかけた手をクロモに取られた。

「しみるだろうが、我慢してくれ」

 今更言う。塗る前に言ってほしかった。

 手にあるすり傷に全部塗り終えるとクロモは薬の容器をわたしに渡した。

「他にも傷があるようなら、後で自分で塗ってくれ。取り合えず客人を入れる」

 客人……おじさんの事だろう。

 わたしはコクリと頷きお姫様らしく見えるよう姿勢を正した。

「どうぞ、お入り下さい」

 クロモに促され、おじさんが「失礼します」と入ってくる。

「姫。わたくしの事が分かりますか?」

 おじさんの問いに首を振ってみせる。

「おかわいそうに。こんなに傷だらけになられて……」

 わたしの腕のすり傷に気づき、おじさんは『昨日崖から滑り落ちた時に付いた傷』と思ってくれたらしい。

「彼女を襲った者について、何か分かりましたか?」

 そんな人いるわけないって分かってるはずのなのに、白々しい。クロモがフードで表情を隠したまま、おじさんに尋ねている。

 おじさんはクロモの方に向き直ると、神妙な顔で首を振った。

「残念ながら、これといった情報は得られておりません。そもそも姫が狙われる理由すら、分からないのです」

 そりゃそうでしょ。実際にはお姫様が自分で逃げ出して起こしちゃった事故なんだから。

 だけどそれを隠したいクロモは「そうですか」ともっともらしく頷いている。

「もしかしたら、私の考えすぎだったのかもしれません。姫自身ではなく、姫の持参金を狙ってやって来た物盗りに追われ、足を滑らせたのかもしれません」

 いつの間に考えたんだろう、新しい説をクロモが唱える。

「持参金? クロモ殿はほとんど断られ、姫は最低限の物しか嫁入り道具として持って来なかったと聞いておりますが」

「現実を知る者がどれだけいるでしょう。末姫とはいえ国の姫が嫁ぐのなら莫大な財産が付いてくると思い込んでいる輩は少なくないでしょう」

 なんとなく、クロモの声に軽蔑する声が含まれているような気がした。

「ふむ」

 そんなクロモに気づいているのかいないのか、おじさんは顎に手をやり考えている。

 そこへ、家のドアをノックする音が聞こえてきた。

「誰か来たようだ。失礼」

 ひと言断ってクロモは突然訪問者の確認に向かう。当然おじさんと二人きりになってしまうわけで……気まずい。

 クロモが完全に出て行ったのを確認しておじさんがわたしのいるベッドへと近づいて来た。クロモに魔法を掛けてもらっているからうっかり喋っちゃう心配はないけど、なにか不安で思わず逃げるようにベッドの中で尻込みした。

「姫。本当に記憶がないのでございますか?」

 ついおじさんが怖くて「いやいや」と首を振ってしまった。それをおじさんは否定と受け取ったのか、ますます近くへと寄って来る。

「何か覚えていらっしゃるのですか?」

 ずい、と寄られてわたしはますます怖くなって激しく首を振った。

 そこへパタパタと足音を立てながらクロモともう一人、とても美しい波打つ金の髪をなびかせた女性が入って来た。

「勝手に入るなっ」

「あら、どうしてダメなの? 愛しいわたしのクロモが結婚したんですもの、ひと言くらい花嫁様に挨拶しないと」

 おじさんもわたしもびっくりして固まる。

 この女性は、誰?

 そういえばお姫様と恋仲ではなかったという話は聞いていたけど、クロモに恋人がいたのかは聞いた覚えがない。

 てことは、この人クロモの恋人? もしかしてお姫様にクロモを横取りされた形になって、怒ってる?

 サァッと顔から血の気が引いた。

 実際にはお姫様の方も別に好きな人がいてクロモと結婚したかったわけじゃないんだけど、その事をこの人が知るわけがない。そんで今はわたしがお姫様って事になってる。つまりこの人の敵意はわたしに向けられるって事だ。

 同じように思ったのか、すかさずおじさんが立ちふさがるようにわたしを背にして立った。だけどクロモは口では「入るな」とか言ってたのに、その女性がこちらに近づいて来るのを止めようとするそぶりはなかった。

 やっぱりあっちは本当の恋人でわたしはニセモノの花嫁だから?

「とまれ。姫に害をなすつもりか」

 おじさんが女性に向かって制止する。女性は一応立ち止まりはしたものの、腕を組みおじさんをねめつけた。

「どうしてわたしのかわいいクロモのお嫁さんを傷つけなきゃならないのよ。だいたい貴方、誰?」

 バチバチと二人の間に火花が散るのが見えた気がした。

 そんな二人に割って入るように、クロモの深い深いため息が聞こえてきた。

「誤解を生むような言い方をする方が悪い。失礼。これは我が姉のミシメです」


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