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すっごく綺麗な女性が突然訪ねて来たんですけど?
その4
しおりを挟むクロモの言葉に、その女性の顔をじっくりと見た。そういえばキラキラ光る綺麗な金髪も、透き通った空みたいな青い瞳も、よく似てる気がする。滅多にフードの奥の顔を見せてはくれないけれど、顔だちも似てる気がする。
「それは、失礼を。私は王の……」
「貴女がニシナちゃんね? わたしはクロモの姉のミシメよ。これから仲良くしましょうね」
にっこりと、ミシメさんはおじさんを無視してわたしに話しかけてくる。もちろんおじさんとしては面白いはずがない。
「わたしのかわいいクロモはどちらかというと奥手だからお嫁さんなんてまだ先の話と思っていたから、嬉しいわ」
わたしに話しかけてくるミシメさんの後ろで、クロモがおじさんをなだめてるっぽいのが見えた。
ニコニコと笑いながら話しかけてくるミシメさんにほんのちょっと身体を引いてわたしは曖昧な笑顔を作った。
それに気づいたミシメさんがほんの少し顔を曇らす。
「なあに? 緊張してるの? それとも……」
「姉さん、彼女は記憶を失ってるんだ。あまり脅さないでくれ」
気づいてくれたクロモが、かばってくれる。
「失礼ね。誰が脅したっていうのよ」
怒ってミシメさんはクロモに反論するけど。
正直に言うと怖かった。クロモの声を冷たいと思う事はあっても、その瞳を怖いと思った事は無い。だけどクロモとよく似た瞳のはずなのに、ミシメさんの瞳は怖かった。
だけど今、クロモと言い合いをしているミシメさんの瞳は恐ろしくはない。きっと「かわいい」とか「愛しい」とか付けてクロモを呼ぶのは冗談ではなく本気なんだろう。
そんなかわいい弟の元へ嫁いできたお姫様だから、もしかしたら本当は気に入らないのかもしれない。
「それに姫は崖から落ちてしまわれたショックで、言葉を失っておられるそうだ」
わたしをかばうように言ってくれたのは、おじさんだった。
「記憶喪失で、口が利けない……?」
吟味するようにミシメさんは呟いた。かと思うと突然パッと表情を変え、心配そうにわたしに語りかけてくる。
「まあ、可愛そうに。崖から落ちただなんて! そういえばあちこちすり傷だらけじゃない。女の子なのに!」
がばっと突然抱きしめられ、戸惑った。これ、いったいどういう状況なのかしら。
「姉さん!」
止めるようにクロモが言ってくれるけど、ミシメさんはやめようとはしてくれない。
目を白黒させパニクってると、ようやくミシメさんはわたしを放してくれた。
「とにかく、彼女はまだ安静にしてもらわなければいけませんから。部屋を移動しましょう。お二人とも彼女の顔は見たんですから、もう良いでしょう」
咳払いをしてそう言うと、クロモは二人を追い出そうとしてくれる。けど二人共、それに従おうとはしれくれなかった。
「いや、姫にも用があるのです。姫、こちらに来られる際最低限の世話で良いとお一人しか侍女を連れて来られませんでしたが、その侍女の代わりはどういたしますか? とりあえず三名程手配させておりますが」
え? 侍女? いやいやいや。困る。そんな人が来たらずーっと魔法掛けてもらって黙ってなきゃいけなくなっちゃうし、四六時中誰かがいたら、絶対ボロが出ちゃうよ。
ぷるぷると首を振り、助けを求めるようにクロモを見る。
「彼女の世話はこちらでやります。侍女は必要ありません」
キッパリとクロモが断ってくれてホッとする。だけどおじさんも折れてくれない。
「王族でなくなったとはいえ、仮にも末姫様ですぞ。一人の侍女も付けないのは……」
「ここに嫁いで来た以上、もうお姫様ではなくクロモのお嫁さんだわ。ここの暮らしに慣れてもらわなくちゃ」
おじさんに反論してくれたのは、ミシメさんだった。
「とはいえ、しばらくは彼女の世話をする人が必要よね」
えー。ミシメさん味方じゃないの?
思わずぷるぷると首を振ってしまう。
おじさんは味方がいたと喜ぶように笑顔で口を開く。
「そうでしょう。ですから侍女を何人か……」
「侍女はいらないわ。わたしが世話をするから」
にっこり。ミシメさんはわたしに笑顔を向ける。
その迫力のある笑顔に押されて、ついわたしはコクリと頷いてしまった。
「し、しかし!」
「姉さんには姉さんの家庭があるでしょう」
反論したのはおじさんと、それからクロモだった。
「あら、愛しい弟とその可愛いお嫁さんが困ってるんですもの。それを手助けして怒るような主人じゃありませんわ」
にっこり。言葉はクロモに向けているようだったけど、その笑顔はおじさんに向けられていた。
おじさんもわたしと同じ様に、蹴落とされたように困惑しながらミシメさんの言葉に頷く。
「とういわけで、お引き取り願えますかしら? それと、しばらくはこの家に近づかないでいただきたいの。貴方の大声はこの子を怯えさせているようだから」
笑顔のまま、ミシメさんが言う。
「何か御用のある時は手紙でクロモを呼び出して下さいな。ミムクノ村で落ち合ってお話下されば良いと思いますの。わたくしの可愛い義妹の心配をありがとうございます。わたくしが責任をもってお世話しますから。では」
ミシメさんはあの笑顔のままズイズイとおじさんに近づき、その迫力に押されたおじさんはじりじりと後退し、やがておじさんが部屋の外まで出たところで、ミシメさんはパタンとドアを閉めてしまった。
ミシメさんの圧勝だ。
それでもおじさんは鍵の掛からないドアのすぐ外にいるわけだから、もしかしたら戻って来るかもと思ったけど、そのまま家を出て行く気配がした。
ホッと息をついた。ひとまず一人は帰ってくれた。
だけどもう一人、いる。強敵のクロモのお姉さん、ミシメさんが。
ちらりとそちらを見ると、にっこりと笑顔を返された。
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