40 / 59
たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは また別のおはなし。
その5
しおりを挟むあれからちょくちょくお姉さんはやって来て、わたしと一緒にレースを編むようになった。
ちゃんとした職人さんに作ってもらったレース針も使い勝手が良いらしい。
元々魔方陣を編むことの出来るお姉さんはレース編みの理解も早く、しかも魔方陣の形は頭の中に入っているから本を見なくても編める。すごい。わたしには到底ムリ。
そんなわけで器用なお姉さんと不器用なわたしとじゃ、数ヶ月の差なんてあっという間に埋められてしまい、今じゃお姉さんのほうが編むのが早いくらい。
「こうやって見ると確かに、服の飾りに使うのも悪くないわねぇ」
編みかけのレースを自分の服にあて、お姉さんがつぶやく。
「でしょう。スカートや袖の縁にこんな風にちょっぴりレースを付けるだけでもすごく可愛くなりますし、細かなレースを広範囲につけてドレッシーにも出来るんですよ。今編んでるのは白糸ですけど黒い糸のレースとかもセクシーで素敵だと思うんですっ」
この世界に一緒に持ってきた本が、コースターとかドイリーばかり載っている本で残念だ。魔方陣とは全く違う形の四角とかブレードとかの素敵なレースもお姉さんに見せてあげたい。
「黒い糸のレース……。想像出来ないわ。今度染めてもらおうかしら」
そんな話をしていたら、ノックと共にクロモがやって来た。
「最近入り浸り過ぎじゃないか、姉さん」
そんな憎まれ口を叩くけど、本気で嫌がってるわけなない事はわたしもお姉さんも知っている。
「あら、こんなに可愛い妹ちゃんが出来たんですもの。入り浸りたくもなりますわ」
言いながらお姉さんはきゅっとわたしに抱きついてくる。
「お姉さん、危ないですよ。普通の針ほどは尖ってないけど、レース針だって刺さる時には刺さるんですから! 部活の先輩が昔うっかり転んだひょうしに刺さっちゃって、先が鈎状になってるから抜くのもめっちゃ痛かったって言ってました。治るのも時間かかったって」
想像するだけで痛い。震えがきちゃう。
「まあ。そうね、テーブルの上とはいえハサミもあるのだし、気を抜いちゃダメね。ごめんなさい」
そう言いながらもお姉さんはにこにこ笑っている。
一方クロモはムッとした顔でお姉さんを睨んでる。
そんなクロモにお姉さんは「ふふふ」と笑いながら告げる。
「いいじゃない。昼間の数時間くらい。あとはクロモと妹ちゃん、ずーっと二人っきりでしょう? ひっつきたければその時どーぞ」
お姉さんはすぐにそうやってわたしとクロモをからかう。
最初の頃は動揺して赤くなっちゃってたけど、最近だいぶ慣れてきた。それはクロモも同じなのか、以前のように過剰に反応することなく「あー、はいはい」と流して返事をする。
「そんな事より、本を貸してくれないか? 君の世界から持ってきた本を」
「え? うん。分かった。ちょっと待っててね」
最近は魔方陣ばかり編んでたから、わたしが持ってきた本は部屋にしまいっぱなしだった。まあすぐに取り出せる場所に隠してるからすぐに持って来れたけど。
日本語の書かれたその本を見ると、懐かしくてちょっとうるっときてしまった。クロモやお姉さんに見られたら心配かけちゃうから、慌てて涙を拭う。
「はい。どーぞ。けど、何に使うの? クロモ、日本語読めないよね? でもそーいえば不思議だよねー。文字は違うけど、言葉は同じだなんて。あ、もしかしてクロモ、わたしに翻訳魔法とか掛けてくれてたり?」
本を渡しながらクロモに問いかける。するとクロモは少し困ったように笑いながら答えてくれた。
「魔法は掛けていない。同じなのは偶然だろう。そしてその本は、君の世界を探す手がかりにしたい」
手がかり。そっか。クロモがどんな探し方をしているのかはわたしには分からないけど、手がかりがあった方が探しやすいよね。
「他にも何かいる? こっちの世界になくてあっちにある物……。あ、スニーカーとかどうかな。こっちにはああいう靴無いでしょう? あとは……。あ、お金とか。文字とか絵が入ってるから手がかりになりやすいかも!」
そう思って早速取りに行こうとしたら、クロモがわたしの手を取った。
「いや。取りあえずは本だけでいい。他の物はまた次に必要になったら頼む」
「そう? 手がかり多いほうが分かりやすいと思うけど。あ、でもそっか。まだあんまり絞れてない時にあれこれ出してもどれから手を付けたらいいのか分かんなくなっちゃうか。うん、分かった。じゃあまた何か必要になったら遠慮なく言ってね」
にこりと笑いかけると、クロモも「ああ」と返事をしながらにっこりと笑ってくれる。
最初の頃は王子様スマイルだーと思っていたその顔も、今ではクロモの笑顔だって思えるようになってきた。他の誰でもない、クロモの笑顔。
そうして笑顔を交わしているとふと、すぐ傍でお姉さんがニヤニヤしながらわたし達を見てるのに気づいた。
「お邪魔虫はそろそろお暇したほうが良いかしら?」
楽しそうに言いながらお姉さんがテーブルの上のレース糸を片付け始める。
「え? 別に邪魔なんて……」
お姉さんを止めようとそちらに行きかけて、クロモと手をつないだままだった事に気づいた。
「ん? ああ、すまない」
クロモもそれに気づいて放してくれる。
「あら、つないだままで良いのに。わたしはもう、帰りますから」
まだいてくれても全然構わないのに。引き止めたけど「可愛い弟の恋路を邪魔したくないわー」と言って、結局お姉さんは帰って行ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる