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ラストバトル
しおりを挟む◇勇者視点◇
「見つけたぞ!、魔王!。」
俺の名はエクスカリビア、人々から世界を救う勇者と呼ばれている。
この世界『アルシャンタン』は、大きく分けると二つの勢力争いがあった。
一つは僕達の種族であるボラ種族、もう一つは僕達の種族の1/10程度しか居ない少数種族……魔王率いるアイダル種族だ。
アイダル種族は数こそ少ないものの能力が非常に高く、『詠唱』によって天候等を操る為、昔から『神に愛された種族』として栄華を極めていた。
しかし、長年の優待遇により彼らは傲慢になり、富を牛耳られた僕達の種族は貧困に追い込まれた。
そんな時だった。
彼らの『詠唱』が殆ど効かない『俺』と言う存在が現れたのは。
俺は破竹の勢いで彼らを蹴散らし、瞬く間に彼らを劣勢に追い込んだのだ。
そして俺は、とうとう彼らの総主である魔王の元までたどり着いた。
そしてここが、魔王の住む城の一番深い場所である。
高く広く薄暗い室内は、びっしりと古臭い本が並んでいる。
彼はその間の奥にある、赤く大きな椅子に腰をかけていた。
「あらまあ……これはこれは勇者様。
こんな辺境までようこそ。
わたくしがここの、あなた方の仰る処の魔王ですが、どうぞよしなに。
クスクスクスクス…………。」
目の前にいる魔王は、俺が浸入したにも関わらず、本を読む手を止めなかった。
彼は俺の目に、随分と不敵に写った。
柔らかい言葉に反して唸るように低い声。
俺の登場に驚くこともなく椅子から立ち上がろうともしない。
背もたれに体重をあずけ、優雅に足を組んでいる。
俺の登場を心から楽しんでいる様子に見えた。
「あらぁ、勇者様って野蛮なイメージがありましたけど……何と美しい男性なんでしょうか。
素敵なお方。
わたくし胸がときめいてしまいますわ。
うふふふふ……。」
俺は背筋に悪寒を感じた。
魔王は得体の知れない恐怖を感じさせる男だった。
(なぜ魔王はカマ言葉なんだ……!。)
俺の額に汗が流れる。
すらりとした体型の男だった。
見た目は俺より幾つか年上か……、キリリと上がった眉に窪んだ目元が、知的で涼やかな印象を与えた。
「おい……魔王、随分と余裕じゃないか。
これからお前と俺の、最終決戦を始めようかと言うときに!。」
「あっつ……、暑苦しいですねぇ。
最終決戦って言われましても、わたくし闘いは苦手です。」
……苦手、と言われても困る。
「勇者様。」
魔王が低く甘い声で俺の事を呼んだ。
「実はわたくし、貴方様には感謝しているのですよ。」
「……お前に感謝される覚えはない。」
「ふふふ……気丈なお方。
でも、わたくし嬉しかったのです。
わたくしの嫌う、高慢な同族達を一掃してくださって。
わたくしを城に閉じ込める、傲慢な一族を消し去ってくださって。
貴方様のお陰で、わたくしはやっと心穏やかな時間を得たのです。」
「……お前、城に閉じ込められていたのか。」
「はい。
何故ならわたくし、ある能力を持つが故に、一族に恐れられていたのですから。」
「………………。
それはどんな能力なんだ?。」
「はい、それは……。」
「それは?。」
「どんな結界も破る能力です。
……勿論貴方様の、我らの能力が殆ど効かない体質も破る程の……ね。」
「なっ……何っ!?。」
自分にとってあまりにも不利な能力に、僕は思わず一歩後退した。
「さて勇者様……。」
魔王は軽く詠唱すると、自分の身長よりも長い杖を手元に呼び出す。
「ここへ来たのはわたくしを倒したいからでしたっけ?。
仕方のないお方……。
わたくし本当に争い事が嫌いなのですが、でも命を取られると言うのならやむを得ませんねぇ……。
では素敵な勇者様、……思う存分いたぶって差し上げますわ!。」
「あ、ごめんちょっと待って!。」
彼は俺の制止も聞かずに、口元に人差し指と中指を着けて『詠唱』した。
広間の床を、彼の陣が埋め尽くす。
いきなりの大詠唱だ。
「クッ……!。」
俺は来るであろう攻撃を軽減させるため、防御の円陣を回りに張り巡らせる。
ブワッ!
灼熱の暴風が襲い掛かってきた。
視界が巻き上がった煙で多い尽くされる。
ゴウゴウ、と物凄い音と共に来る熱風に二度、三度、四度、と防御の円陣を重ねる。
が、暴風が収まった後、前のめりに膝を折った俺の身体から、肉が焼けるような臭いがした。
(熱い……、痛い……。)
ここまで手痛い攻撃を食らったのは初めてだった。
身体の表面が所々炭化していて、動くとボロボロと崩れそうで怖かった。
「勇者様!。」
感激したような魔王の声がした。
視線だけ、彼の方へ向ける。
魔王は嬉しそうに、自分自身を抱き締めていた。
「わたくしの、この詠唱を食らって生きていたのは貴方様が初めてです!。
何て素敵なお方なんでしょう!。
では、お次はこれなどいかがでしょう?。」
魔王が再び、自分の口元に人差し指と中指をあてがった。
床全面に、彼の術を象った陣が広がる。
(まずい……あんなもの何度も食らうわけにはいかない!。)
俺は咄嗟に回復術を詠唱する。
大詠唱と違い、範囲の狭い術は効力が発揮されるのも早い。
柔らかい水が俺の回りに降り注ぎ、傷は少しながら癒えた。
よし、これなら動ける。
俺は異世界から運ばれたと言われる、伝説の大剣『カーバイン』を全力で降り下ろす。
「切り裂けェーーーーッ!!。」
魔王は、瞬時にまずいと判断したらしい。
もう少しで完成する大詠唱を潔く止めて、防御術を展開した。
ハニカムの形を詰め合わせたような術が幾層も発動し、俺の一閃に立ち塞がり……
パリンパリンパリンパリンパリンッ
「グッ!。」
魔王の肩を切り裂いた。
「何だって!?。」
俺は正直驚いた。
俺の一撃が、肩を斬る程度まで威力を落とされるとは思わなかったからだ。
魔王もまた、驚いた様な顔をしていた。
「わたくしの防御術を貫通するなんて……。
こんな事、初めてです。」
魔王の顔が変わった。
先程の掠める程度の一撃が、魔王にとっては大きかった様だ。
彼の眼が鋭さを増した。
「勇者様……。
どうやらわたくし、貴方様を侮っていた様です……。
次は、本気で挑みますわ。」
魔王が、再び大詠唱を始めた。
最初の術よりも床に描かれた陣が複雑なのを見て、俺は、言葉通り彼が本気であることを汲んだ。
これを食らえば負ける。
僕は『カーバイン』を握りしめ、精神を統一する。
彼は大詠唱を必ずや完成させようとするだろう。
なら、その前に先程よりも強力な一閃を放てば勝てる。
俺は『カーバイン』にありったけの気力を込める。
と、彼が大詠唱を終えた。
まずい、早すぎる。
俺は目を瞑った。
が、彼が術を放つ事は無かった。
何と、大詠唱を重ねがけするようにもう一つ唱えたのだ。
その術が恐ろしい程の威力になる事は想定出来たが、同時にチャンスだと思った。
間に合う!
俺は、自分の持てる全ての力を込めて、『カーバイン』を降り下ろした。
また彼も、弾けるような勢いで術を放出した。
……瞬間、何が起こったのか分からない程の衝撃が襲い掛かってきた。
全身が砕けるような、捻れるような、吸い込まれるような、焼けるような、長い長い一瞬だった様に思う。
ああ、俺は死んだ。
そう感じた。
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