銃と少女と紅い百合

久藤レン

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私がいたいのは

10-23 紫と黒

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 暗く灰色の世界に凄まじい音と衝撃が走った。遠くから響く花火の音と比べ物にならない程強く。砕け吹き飛んだ窓とビルの壁面、そしてビルの下にあった廃工場が爆撃にでもあったかのように崩れ砂煙を上げていた。

「・・・・・・・」

 吹き飛んだビルの壁面から神代唯牙は廃工場を見下ろす。その右手は肩まで紫色の結晶の装甲で覆われている。彼女は冷たい目で崩壊した工場を見下ろしたまま煙草を取り出すと吹き荒ぶ風を気にしながら火を付けた。

 数秒前に花火が街から上がった瞬間、それを確認した唯牙は右手に結晶を精製しアークの顔面を殴り飛ばした。彼は部屋の窓とコンクリートをぶち破り、そのまま眼下の廃工場へと吹き飛ばされた。破壊された壁と工場は砲弾でも撃ち込まれたような惨状になっている。

「とりあえずの1発だ、死んでないだろ? 立て、まだ殴り足りん」

 ふぅ、と煙草の煙を吐きながら崩壊した工場へ語りかける。これ程までの攻撃をして尚、唯牙は鋭い目付きで見下ろしている。すると崩壊した工場の砂煙の中からガラガラと瓦礫が崩れる音がした。

「・・・やれやれ、僕じゃなかったらミンチだよ?」

 そんな軽い声が土煙から届く。

「同じ”神器“を持ってる僕じゃないとね」

 煙の中からアークはゆっくりと歩いて現れた。着ていた服は所々破れ土と砂に汚れているがその体には傷一つなく血の一滴も流れていない、ビルからとてつもない威力で殴り飛ばされたにもかかわらず、しかしそれ以上に異質なのはその顔だった。

 彼の首から上は漆黒の兜と言うべき装甲に覆われていた。黒い結晶が形作りバチバチと赤黒い閃光を迸らせ、瞳だけが紅く煌めいていた。それは唯牙の右手を包んでいる紫の結晶と似ている。

「イテテテ、それよりいいのかい? 最初に僕が言ったこと覚えてる? この街に13ヶ所の・・・」

「解決済みだボケカスが」

 アークが話すのを唯牙が遮る。

「・・・・どうやって? 外部と通信はさせていない筈だけど」

 アークは言いながら右手を首にあて漆黒の兜を傾け首をゴキッと鳴らした。

「優秀な友人がいてな、私の神器の出力を応用、利用してこっちの会話を向こうに飛ばしてた お前の事だ、私の連絡手段を断って来るだろうと思ってな」

 唯牙は左手のブレスレットを見せつける、それは浅葱が作り出した特殊な装置。

「アハハハハハ、流石だね神代唯牙! それじゃあさっきの花火がお友達からのお知らせだったってわけだ」

「ああ」

 笑い楽しそうに言うアークに唯牙は冷たく応えると大きく煙草を吸い煙を吐きながら言う、氷のように冷たい目で。

「楽に死ねると思うなよ」

「おやおや? せっかく街を守ったのに、ここで僕達が殺りあったら街まで被害がでちゃうかもよ?」

「うるせぇ・・・ 殴らなねぇときがすまねぇんだよッ!!!」

 咥えていた煙草をアークの方へ吐き捨てると同時に唯牙の右手を光と閃光が包む。その衝撃にビル全体が震える。

「アハハハッ!! 予定外だけど少しだけ遊ぼうか!?」

 アークも同じく黒い閃光を迸らせた。二人が足に力を込めたその時。

「なにやってんだ、お前」

 別の声が間に響く。二人は驚き戦闘態勢のまま声の方を向いた。

「お前は今日は喋るだけだつってただろうが」 

 声はいつの間にかアークの背後にいた男のものだった。
 アークと唯牙は声の主を見る。そこには一人の男が顔をしかめ立っていた。アークよりも少し背の高い黒髪の男は黒ずくめのコート姿でアークを呆れた表情で見下ろす。

「今回はお前はただ話するだけって言ってただろうが、なんでぶっ飛ばされてんだよ」

「アハハハ ゴメンゴメン! 僕もこんな事になるとは思ってなかったんだけれど」

 男がアークに話しかけると笑いながらアークはビルから見下ろす唯牙を見て言う。

「流石は神代唯牙ってとこかな、一発ぶちかませるだけの準備はちゃんとしていたってことさ」

 そして右手を漆黒の兜に覆われた顔に持っていくとはらりと払うように動かす。すると兜はバチバチと赤黒い閃光を迸らせると同時に黒く輝く粒子となって溶けるように消えた。

「それで、何かあったのかい?」

 素顔に戻ったアークは眼鏡の位置を整えて言う

「ネージュの所に向かったアイツからの報告でな、そろそろ終わるっぽいぜ」  

「おお、そうかい」

「と言う訳で今回はここらでお暇させてもらうよ! 久々に会えて嬉しかったよー!!」

 唯牙に届くよう声をはりニコニコと無邪気な笑顔でアークは手を振った。

「・・・・・このまま帰れると思ってんのか」

 向けられる笑顔に唯牙は重い殺意の篭った目で睨み言う。そのまま右手に力を込めアークに飛びかかろうとしたその時。

「わりぃけど今日じゃあねえんだわ、殲滅の爆雷帝さんよ」

 先程現れた男の声が唯牙の上から聞こえた。アークへの殺意に飲まれていた唯牙は男が飛び上がるのに気付けなかった。

「つーわけで今日はこれでおひらきだ」

 飛び上がった勢いのまま体を回転させ男はビルの屋上へ踵落としをぶち込む、その足はコンクリートに砕きあり得ない程の衝撃で砂の城を崩すようにビルを倒壊させた。激しい音と共に寂れたビルは唯牙を飲み込み一瞬で瓦礫の山になる。

「コラコラ、やり過ぎだって」

 アークは舞う砂埃を煙たそうに払う。

「このビルだけで済むように手加減はしたっての」

 その横に男も着地すると同じくコートをパタパタと払った。

「これで死んでくれたりするか?」

「死ぬ訳ないでしょ、なんなら火に油を注いじゃったと思うよ?」

 倒壊したビルの瓦礫が勢い良く弾けとんだ。地響きを起こしながら瓦礫の中が爆発したかの如くコンクリートの破片を吹き飛ばす。その中から無傷の神代唯牙が姿を現した。怒りに燃える目で二人を睨みながら。

「ほら~ 切れちゃってるじゃん!」

「俺が来る前から切れてただろ、多分」

 その姿を見ても二人は余裕を崩さない。

「あそうだ、紹介が遅れたね 彼は七国覇道(しちごく はどう)僕の友人」 

「・・・・七獄?」

 その名前に唯牙はピクリと反応した。

「うん、あの七獄の人間だよ 知ってるでしょ七獄一族」

「イカれた戦闘狂一族だろ、お前みたいなカスゴミの友人には丁度いいじゃねえか」

 怒気を孕んだ声で答え唯牙は二人に向かって歩き出した。右手を構え紫電を纏い。

「このまま僕達二人同時に相手出来るとでも?」

 迫る唯牙に言う。

「関係ない、殺す」

「この辺りは人払いが済んでるとはいえ僕達三人が戦えば街まで被害が出るかもしれないよ」 

「出る前に、ぶち殺す」

 唯牙は1歩1歩進む、拳に怒りと殺意を握りしめながら

「ていうか出す、今戦うなら街まで巻き込んで暴れるし民間人を巻き込んで戦う 小さな虫を踏むみたいに巻き込んで殺しながら戦おうかな」

 唯牙の足が止まった。

「・・・・相変わらずだなこのゲスカス野郎がッ」

 限界を超えた怒りに呼応するように唯牙の周り数メートルを激しい紫電が迸る、その閃光は触れた周りのコンクリートの破片を焼き砕く程だった。しかしアークはそれを見て嘲笑う

「アハハ! それじゃあね唯牙! 安心しなよ、必ず機会は作るさ」

 立ち尽くす唯牙に背を向けて二人の男は歩き出した。その背中を唯牙は睨み続ける。二人の姿が夜の闇に消えるその時アークが一言だけ言い残して言った。

「僕だって君を殺したいからね」

 聞いたことのない感情のない音だけの声だった。


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