112 / 116
私がいたいのは
10-22 繋ぐ光
しおりを挟む
◆
戦いの終わる少し前
冷たい隙間風が入り込む灰色の部屋、うっすらと塵と埃が床を覆う。そんな薄汚れた部屋を不釣り合いな純白のLEDの蛍光灯が明るく照らしていた。
窓際の椅子に腰掛けていたアークは手にしていた本をバタリと閉じた。
「ふぅ・・・ この国では顔の上に布を被せるのは葬儀の風習ではなかったかい? 行儀が悪いと思うよ」
読み終わった本を机の上にそっと置くと机を挟んで座っている相手を見る。 神代唯牙は背もたれに深くもたれ掛かりハンカチを顔に乗せて浅く寝息を立てていた。
「まさか本当に寝ちゃうなんて、嫌われているとは思っていたけれどちょっとショックだよ僕」
アークはハハハッとあどけなさの残る顔で自重気味に笑うとそのまま懐から懐中時計を取り出し盤面を目を細めて見た。
「でもそろそろ終わる頃合いじゃないかな?」
唯牙はアークの言葉に全く反応する事なく静かに呼吸で胸だけを揺らしていた。
「君が可愛がっていたあの子、今頃もう殺されているんじゃないかな」
煽るような口調でアークは続ける。
「他の因子を持つ子達もそろそろ回収しようと思っていたからね、多少痛めつける事になるだろうけど丁度よかったよ」
唯牙に反応はない。
「・・・・・・遠路遥々やってきたって言うのにここまで冷たくされると、流石の僕も応えるね」
顔をしょぼんと萎ませるとアークはゆっくりと椅子を引き立ち上がる。無骨なコンクリートの床にふわりと埃が舞った。 そのままくるりと振り返り窓へ近づくと外の景色へ目をやった。星の見えないどんよりとした雲が広がる闇の空、眼下には生気の感じられない廃墟、それを越えた遠く先には別世界のような綺羅びやかな街の明かりが輝いていた。
うっすらと見える光をアークはぼうっと見つめる。
ここはアークによって人が祓われ電波と言う繋がりが絶たれた陸の孤島。アークと唯牙だけに色がついているような乾いた黒と灰色の空間。
まるで時間が止まっているかのように静寂が流れ続ける。
───しかしこの瞬間にも、少女達は大切な人の為に戦い続けている。皮膚を、肉を裂き、血を流しながら 骨を砕きながら小さな体を奮い立たせて戦い続ける。
────ぼんやりと外を見ていたアークが椅子に手をかけもう一度椅子に腰掛けようと窓から目を逸らしたその時。
遠くの夜空に綺麗な花が咲いた。
体の芯にまで響く低い音にアークが振り向くと灰色の部屋に鮮やかな光が届く。遠くに見える町並みの上空に輝く大きな花火が上がっていた。
「おや・・・ あれはこの季節に見られる物だったかな?」
冬の夜空に咲いた花火を窓越しに見ながら呟いたアーク、その背後でガタリと音がした。その音に振り向こうとしたアークの背中に花火の音とは比べ物にならない程に深く、重く敵意と殺意が突き刺さる。
振り向いたアークの目に映ったのはいつの間にか立ち上がっていた唯牙と目前に迫る紫の拳だった。
◆
「なになに?」 「なんかのイベント?」 「季節外れすぎない?」
寒空の下、大きな駅とその前に続く繁華街、道行く人々は突然打ち上がった花火に驚き足を止め空を見上げた。そんなざわめく人々を見下ろすように建つビルの屋上に動く人影があった。
「たーまや~」
人影はライターに火を灯し次の打ち上げ花火を乱雑に置きそっと近づける。
「あ~今日はまじしんどかった~」
花火の導火線に火が付くのを確認すると足の力を抜き勢い良く地面に倒れ込んだ。
「まーじで13ヶ所に大規模テロレベルの玩具仕掛けてやがったぞ・・・・」
浅葱乱馬は夜空にぼやいた後はぁっと深く溜息を吐く。そこにすぐ横から優しい声がかけられた。
「爆薬にこの国には居ない筈の危険生物、毒ガスやらなにやら、本当にお疲れ様ねあさちゃん、ありがとう」
「まーじで今迄で一番働いたかもしれん・・・・ てか私よりお前は大丈夫なのかよ? 動き回っていい怪我じゃねえだろ」
乱馬は答えながら首だけを動かし声の主を見た。声をかけた女性はコートを着込んでいるが見えている手首や首、顔にも片目を隠すように包帯が巻かれ、そこには痛々しく赤い血が深く滲んでいる。
「あの子達が頑張ってるのに私だけ寝てる訳にはいかないわ」
「・・・それもそうだな」
ボッ
二人の横で小さな爆発音が上がると甲高い音と共に空へと閃光が登る。
「それにしても花火で合図って、季節外れにも程があるだろ」
ドォン 黄色の花火が空に咲く
「仕方ないわ、向こうからの通信はどうにか出来たけれど私達からあっちへの通信は妨害されて出来ないんだもの、ふふっでもちょっと可愛いじゃない」
「まったく、売ってるの探すの大変だったんだぞ・・・ まあ確かにアイツにしちゃあ茶目っ気がある作戦だよな」
乱馬は横になったまま次の花火を立てて火を付けた。
「おっ、これ一番デカイやつだぞ」
「おー!」
一際大きな筒からまた花火が飛び立つ。
「ま、これでアタシらの仕事は終わりだ 後はアンタらのとこの大先生の仕事だぜ」
「ふふっ そうね」
ドォン
舞い上がった閃光が暖かな赤色で炸裂して輝き街を薄く照らす。 乱馬の横でその花を見上げる白銀ハルは、その光を真っ直ぐな目で見つめてそっと口を開いた
「やっちゃえ、ユイ」
戦いの終わる少し前
冷たい隙間風が入り込む灰色の部屋、うっすらと塵と埃が床を覆う。そんな薄汚れた部屋を不釣り合いな純白のLEDの蛍光灯が明るく照らしていた。
窓際の椅子に腰掛けていたアークは手にしていた本をバタリと閉じた。
「ふぅ・・・ この国では顔の上に布を被せるのは葬儀の風習ではなかったかい? 行儀が悪いと思うよ」
読み終わった本を机の上にそっと置くと机を挟んで座っている相手を見る。 神代唯牙は背もたれに深くもたれ掛かりハンカチを顔に乗せて浅く寝息を立てていた。
「まさか本当に寝ちゃうなんて、嫌われているとは思っていたけれどちょっとショックだよ僕」
アークはハハハッとあどけなさの残る顔で自重気味に笑うとそのまま懐から懐中時計を取り出し盤面を目を細めて見た。
「でもそろそろ終わる頃合いじゃないかな?」
唯牙はアークの言葉に全く反応する事なく静かに呼吸で胸だけを揺らしていた。
「君が可愛がっていたあの子、今頃もう殺されているんじゃないかな」
煽るような口調でアークは続ける。
「他の因子を持つ子達もそろそろ回収しようと思っていたからね、多少痛めつける事になるだろうけど丁度よかったよ」
唯牙に反応はない。
「・・・・・・遠路遥々やってきたって言うのにここまで冷たくされると、流石の僕も応えるね」
顔をしょぼんと萎ませるとアークはゆっくりと椅子を引き立ち上がる。無骨なコンクリートの床にふわりと埃が舞った。 そのままくるりと振り返り窓へ近づくと外の景色へ目をやった。星の見えないどんよりとした雲が広がる闇の空、眼下には生気の感じられない廃墟、それを越えた遠く先には別世界のような綺羅びやかな街の明かりが輝いていた。
うっすらと見える光をアークはぼうっと見つめる。
ここはアークによって人が祓われ電波と言う繋がりが絶たれた陸の孤島。アークと唯牙だけに色がついているような乾いた黒と灰色の空間。
まるで時間が止まっているかのように静寂が流れ続ける。
───しかしこの瞬間にも、少女達は大切な人の為に戦い続けている。皮膚を、肉を裂き、血を流しながら 骨を砕きながら小さな体を奮い立たせて戦い続ける。
────ぼんやりと外を見ていたアークが椅子に手をかけもう一度椅子に腰掛けようと窓から目を逸らしたその時。
遠くの夜空に綺麗な花が咲いた。
体の芯にまで響く低い音にアークが振り向くと灰色の部屋に鮮やかな光が届く。遠くに見える町並みの上空に輝く大きな花火が上がっていた。
「おや・・・ あれはこの季節に見られる物だったかな?」
冬の夜空に咲いた花火を窓越しに見ながら呟いたアーク、その背後でガタリと音がした。その音に振り向こうとしたアークの背中に花火の音とは比べ物にならない程に深く、重く敵意と殺意が突き刺さる。
振り向いたアークの目に映ったのはいつの間にか立ち上がっていた唯牙と目前に迫る紫の拳だった。
◆
「なになに?」 「なんかのイベント?」 「季節外れすぎない?」
寒空の下、大きな駅とその前に続く繁華街、道行く人々は突然打ち上がった花火に驚き足を止め空を見上げた。そんなざわめく人々を見下ろすように建つビルの屋上に動く人影があった。
「たーまや~」
人影はライターに火を灯し次の打ち上げ花火を乱雑に置きそっと近づける。
「あ~今日はまじしんどかった~」
花火の導火線に火が付くのを確認すると足の力を抜き勢い良く地面に倒れ込んだ。
「まーじで13ヶ所に大規模テロレベルの玩具仕掛けてやがったぞ・・・・」
浅葱乱馬は夜空にぼやいた後はぁっと深く溜息を吐く。そこにすぐ横から優しい声がかけられた。
「爆薬にこの国には居ない筈の危険生物、毒ガスやらなにやら、本当にお疲れ様ねあさちゃん、ありがとう」
「まーじで今迄で一番働いたかもしれん・・・・ てか私よりお前は大丈夫なのかよ? 動き回っていい怪我じゃねえだろ」
乱馬は答えながら首だけを動かし声の主を見た。声をかけた女性はコートを着込んでいるが見えている手首や首、顔にも片目を隠すように包帯が巻かれ、そこには痛々しく赤い血が深く滲んでいる。
「あの子達が頑張ってるのに私だけ寝てる訳にはいかないわ」
「・・・それもそうだな」
ボッ
二人の横で小さな爆発音が上がると甲高い音と共に空へと閃光が登る。
「それにしても花火で合図って、季節外れにも程があるだろ」
ドォン 黄色の花火が空に咲く
「仕方ないわ、向こうからの通信はどうにか出来たけれど私達からあっちへの通信は妨害されて出来ないんだもの、ふふっでもちょっと可愛いじゃない」
「まったく、売ってるの探すの大変だったんだぞ・・・ まあ確かにアイツにしちゃあ茶目っ気がある作戦だよな」
乱馬は横になったまま次の花火を立てて火を付けた。
「おっ、これ一番デカイやつだぞ」
「おー!」
一際大きな筒からまた花火が飛び立つ。
「ま、これでアタシらの仕事は終わりだ 後はアンタらのとこの大先生の仕事だぜ」
「ふふっ そうね」
ドォン
舞い上がった閃光が暖かな赤色で炸裂して輝き街を薄く照らす。 乱馬の横でその花を見上げる白銀ハルは、その光を真っ直ぐな目で見つめてそっと口を開いた
「やっちゃえ、ユイ」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。
wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。
それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。
初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。
そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。
そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。
そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。
そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる