ブラック企業から異世界転生したら、魔王軍の人材流出がもっとヤバかった 〜ハズレスキル「平時調整」で成り上がる〜

猫屋敷/犬太郎

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第2話

第4節 崩壊寸前の面接会場

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 魔王との面談を終えたカナスは、執務区からさらに下層へと降りていった。
 古代の魔族が築いたとされる地下区画は、空間そのものが不安定で、構造自体がまるで迷宮のように変化し続けている。
 だが、彼が向かうのは、そんな“地獄の迷宮”の中でも特に混沌が支配する場所──魔王軍採用局 第三面接室であった。

「……ああ、これは酷い」

 カナスが扉を開けた瞬間、まず飛び込んできたのは、怒鳴り声、ため息、そして爆発音の残響だった。

 面接会場と呼ばれるその部屋は、既に会議室の体をなしていない。
 壊れかけた椅子、吹き飛んだ天井の一部、そして隅のほうでは何かが燃えていた。

「“転職理由は?”って聞いただけなのに、凶暴化して襲ってきやがった!」

 面接官と思しき鬼族の男が叫びながら、左腕を押さえている。
 その隣で、ドラゴン族の若者が全身から煙を上げながら倒れていた。
 ──緊張と怒気と火災の残り香が、室内を満たしていた。

「……応急処置と、火の魔法の封印を優先してください。大丈夫、保険は降りませんが労災申請は通ります」

 冷静に状況を処理しながら、カナスは手帳を取り出してメモを始めた。

 「第三面接室:危険種族区分との仕切りなし → 再構築必要」

 「面接官に対する術式的防御なし → 生命保険の見直し要」

 「応募動機“殺戮本能が疼いたから” → 選考基準の再定義」

 ──書けば書くほど、頭痛が増す。

 だが、こうして“書いて”おかねば、後で誰も記録を参照しない。それが魔王軍の現状である。

「主任! すみません……! 次の候補者が……もう待合室で暴れ始めてて!」

 若い文官──小鬼族の青年が、ほぼ泣きそうな顔で駆け込んできた。
 彼の背後では、獣人系の応募者が「なんで順番守らなきゃいけねぇんだよ!!」と絶叫していた。

「……なるほど。“人材流出”以前に、“採用工程”が戦場になってますね。了解です、私が面接します」

 カナスはネクタイを少しだけ締め直し、破壊された椅子の中から唯一背もたれの残ったものを引きずり出して腰を下ろした。

 まるで“審問官”のような所作である。

「次の方、どうぞ」



 入ってきたのは、顔に無数の刺青を刻んだ半魔族だった。
 視線は獣のようにギラつき、唇からは噛みしめた血の匂いが漂ってくる。

「──名前と、志望動機を」

「ケヒヒ……人間を殺すチャンスが欲しいからだ。上官に逆らっても構わねぇ、命令されりゃ拷問もする」

 即・不採用。

 心の中で即断しながらも、カナスは穏やかな声で返す。

「……なるほど。それでは、我が軍の『協調行動適性試験』にご協力いただけますか?」

 次の瞬間、部屋の一角に隠してあった**“防衛式魔方陣”**が発動し、半魔族は魔力ごと床に拘束された。

「はい、では医療班と処理班、収容施設の担当者を──手配済みです。次の方どうぞ」

 そう、これは“面接”ではなく、
 もはや選別と収容という“前線業務の一部”に近い。

 それでも、カナスは一人きりでこの業務を捌いていく。
 それが、“主任”という役職に課された現実だった。



 面接終了後、時計を見ると既に深夜だった。

 数十名に及ぶ志願者の内、実際に「使えそう」と判断されたのはわずか一名。
 その一名も、どうやら“前職:孤独な農民”であり、戦力化には訓練と再教育が必要だという。

 ──これが、“魔王軍の人材戦線”の実態である。

「……なるほど。これは、確かに“もっとヤバい”な」

 スーツの袖をまくり、冷水で顔を洗いながら、カナスは自嘲気味に呟いた。

 誰もが逃げ出すこの部署で、
 それでも、彼は“やるべきこと”をやり続ける。

 焦燥と疲労に潰されそうになりながらも、立ち止まらない。

 ──かつてブラック企業の主任だった女は、
 いま、魔王軍の“最前線”に座っていた。
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