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第2話
第5節 業務改善? 謎の資料と魔法のパワポ
しおりを挟む翌朝、カナスは半ば儀式のように深いため息をついてから、魔王軍本部の中でも最も湿度の高い、資料保管庫“記録の塔”へと向かった。
ここは魔王軍の中でも、最も人が寄りつかない場所の一つだ。
紙とカビの混ざった匂い。
無数の魔力式書類と、暗号化された呪文記録。
そして何より──管理する者がいない。
カナスがこの塔を訪れる理由は一つ。
「業務改善には、まず現状把握と“過去の失敗”の分析が必要……なんですが……」
絶望が口から漏れた。
整理されていない記録の山。
巻物、石板、羊皮紙、なぜかCD-R、挙句にはドラゴンの鱗に彫られた何かが、棚という棚から溢れ出していた。
「……なぜ分類すらされていない」
元・ブラック企業の主任は、思わず膝をついた。
ここで“PDCA”を回そうにも、P(Plan)の段階ですでに資料が“混沌”である。
「よし、仕分けから始めましょう……」
言葉は静かだが、心はすでに叫んでいた。
──私は何と戦っているんだ?
だが、カナスは逃げなかった。
指先に魔力を宿し、触れた記録を自動的に分類・解読する魔導アーカイブ式術式を展開する。
これは、彼女が昨晩“半分寝落ちしながら”開発した応用魔法だった。
分類、索引、構造化、再記述。
元いたブラック企業では「フォルダ名を日付だけにするな」と怒鳴っていた彼である。
この混沌を見て、もはや“人間だった頃の神経”が呼び起こされてしまった。
「……ああ、あの頃よりはまだマシだ。死人が出ていない分だけ、な」
*
数時間後。
彼の前には、膨大な記録の中から選び抜かれた数冊のファイルと、一つの……何かが残った。
「パワーポイント式幻灯記録」
それは、今は亡きある文官が作成した、**“幻灯魔術を用いたプレゼン形式の業務改善案”**だった。
「パワポ……?」
ファイルを開くと、淡く発光する魔法陣が展開され、宙にスライドが表示される。
《魔王軍組織改革・第一次提案書》
──序文:
“我らが魔王軍は、理念なき人海戦術に依存し、組織的脆弱性を露呈している。
これを是正するため、以下の提案を行う。”
・業務フローの可視化
・階級ごとの職責明文化
・労働時間の魔力定量化(!)
・罵倒ではなく“動機づけ”による指導術
カナスは、思わず息を呑んだ。
──これは……まともだ。
否、“まとも”というより、下手な人間の軍より整っている。
しかし──最後のスライドには、こう書かれていた。
《結論:この改革案は採用されなかった》
──理由:
「“人材”がいない」「理解されない」「逆に異端視された」
そして最後に、一文だけ。
“でも、どこかの誰かが拾ってくれたら、それでいい”
「……ああ、クソ。共感してしまうあたり、私ももうダメなのかもしれない」
だが、資料の主は正しかった。
少なくともカナスにとっては、“拾う価値がある”。
今、自分がやっていること。
この戦場のような採用業務。
地獄のような組織。
その全てに必要なものが、ここにあった。
「……では、始めましょう。『第二次業務改善計画』を」
その名も──**“現場から始める魔王軍改革プロジェクト”**。
パワポ風魔法を起動しながら、彼女の目にはもう迷いはなかった。
人材が足りない? 離職が多い?
ならば、現場を変えればいい。
それが“主任”の役割なのだから。
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