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第2話
第7節 ヒアリング地獄と、沈黙の副官
しおりを挟む──地下三層、第七会議室。
かつてこの場所は、反乱軍の尋問に使われていたという。
重厚な扉、無機質な石壁、冷たい魔灯の明かり。
いずれも「誠実な聞き取り」に向いているとは言い難い。
だが、主任という立場の者に与えられた裁量など、知れている。
カナスは与えられたこの“拷問室まがい”の空間で、今日もまたヒアリングを始めていた。
「まず確認します。三ヶ月前の勤務報告、どうして未提出に?」
「……あ、いや、その、上官が失踪しまして……」
「では、その後の引き継ぎは?」
「……あ、いや、それも……」
──壊滅していた。
報告、引き継ぎ、勤務記録、全滅である。
戦闘の激しさは重々承知している。
だが、それと記録不備の常態化は、まったく別の問題だ。
「記録がなければ、次の部隊もまた死ぬ」
そんな当たり前が、組織の誰にも共有されていない。
「わかりました。では、今後の定着率向上のためにも、以下のテンプレートを各方面に配布します」
カナスが差し出したのは、業務改善資料No.11──
“転属・死亡時における情報共有の迅速化”に関する手順書だった。
受け取った魔族兵は、あからさまに戸惑った顔を見せる。
「な、なんで……こんなに細かく……?」
「そうしないと、二週間後にお前の部隊が全滅するからです」
その語気に、怒りや焦りは一切ない。
事実だけが、淡々と重みをもって突き刺さる。
「死ぬ前提で動かないでください。生き残る仕組みを整えること。
それが、主任の責任です」
そして彼女の隣には、常に一人の人物が控えていた。
魔王直属の副官、ラディア=ノア。
銀髪の魔族で、無口で、無表情で、極めて沈黙的な存在。
ヒアリング中も、彼女は一言も発しない。
だがその瞳は、回収される書類の隅々まで目を通し、
時にはさりげなく魔力で“嘘”を見抜いていた。
まるで、“魔王軍の人間スキャナー”。
「……この副官、何者なんです?」
あるヒアリング対象が、カナスの背後で小声を漏らした。
彼女は笑いもせず、淡々と答える。
「沈黙の魔眼。……全て視えてるそうですよ」
途端に、対象者の顔色が変わる。
──嘘が通じない。
そのプレッシャーだけで、三割は自白に転じるという。
午前で六人、午後で八人。
死にかけた部隊長、逃亡兵、全てを背負って潰れかけた副長。
誰もが、“魔王軍の犠牲者”だった。
だがカナスは、誰も責めない。
責任を追及するためではない。
情報を拾い、仕組みを編み、再発を防ぐ──
地味で地道で、だが確実な“予防戦”を貫いていた。
それが彼女に与えられた異能、“平時調整”の本質だった。
「主任、次の者、呼びました」
沈黙の副官が、いつものように小さく囁いた。
その声音には、わずかにカナスを労わる気配があった。
だが彼女は、それに報いるように微笑みを返す。
「ありがとう。……でもまだ、終わらないですね」
その瞳の下に浮かぶ隈は、さらに濃くなっていた。
だがその奥には、
倒れる者を見捨てたくないという、奇妙な意地が灯っていた。
──その日もまた、地獄のようなヒアリングは続いた。
剣も魔法もなく。
ただ、書類と声と、疲弊した意思だけが、この“戦場”を支えていた。
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