下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

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5、お兄様は生徒会長。

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  アルマー貴族学園の入学式の前、生徒たちは事前に受けた試験の結果でA組、B組、C組と3クラスに分けられる。
  わたしは成績優良者の入るA組、と言っても王族、公爵家、侯爵家の子息はA組と決まっているんだよね。高位貴族と成績優良者の絆を作る為、なんて理由づけされているけど、結局は高位貴族の体面を慮ってのことだと思う。
  実際のわたしの成績は分からない。学園から送られてきた書面をお母様が破り捨ててしまったから。
  伯爵家以下の生徒は純粋に成績だけで分けられる。わたしのサポート要員は優秀らしく二人ともA組にいた。

 「さあ、講堂に移動しましょう。」
  ギルバートに先導されて歩き出す。
  ああ、二人がいてくれて良かった。わたし一人だったら絶対に迷子になる。貴族学園って何でこんなに広いんだろう。わたしが昔通っていた平民学校は倉庫みたいなところに、黒板と机があるだけだった。
  あっ、わたしが学校に通っていたなんて意外だった?最近の平民は平民学校に通うから読み、書き、計算ぐらいは出来るんだよ。

  講堂に行くと入学式のための席が用意されている。わたしの席は最前列の4番目、あれ、変だな。わたしより高位の貴族は二人だけだって聞いていたのに。
  わたしはお父様から王族と公爵家の人間だけには気をつけるように言われている。あとは権力を使えばなんとでもなるらしい。
  わたしは冒険者ギルドで危険な魔獣のレクチャーを受けた時のように二人の特徴をしっかりと暗記した。

  バーミリオン公爵家の長男、オスカー・バーミリオンは燃え盛るような赤毛が特徴で怒りっぽい人らしい。冒険者仲間のあいだでも言われてたんだけど、赤毛の人って本当に短気で怒りっぽいのかな?とりあえず彼には近づかないようにしよう。
  フェロン公爵家の次女、イザベル・フェロンは美しい銀髪とエメラルドのような緑色の瞳が特徴で、とてもおしゃれな人らしい。ファッションの話とかしたら仲良くなれるかな?でも貴族のファッションなんて分からないよ。彼女にも近づかないようにしよう。
  最後の一人が誰だかわかった。隣国ハイデル王国の第三王子、カルロス・ハイデル王子。留学して来たらしい。この人に関しては前情報がまったく無いので、近づかないようにしよう。

  学園長の学園の歴史やら何やらの話をずっと聴いていたら、何だか眠くなってきた。
  隣の席のオスカー・バーミリオンが腕を組み、足を投げ出して眠りはじめた。その貴族らしくない姿に下町の兄さん達を思い出して親近感を覚えた。

  最後に在校生の代表として挨拶するために登場したのは、生徒会長をしているお兄様だった。
  そう、わたしには3歳年上のお兄様がいる。レイモンド・コーサイス16歳、アルマー貴族学園の四年生で生徒会長をしている。入学してからずっと首席で通している、とても優秀な兄だ。
  わたしはこの兄とあまり上手くいってない。

  初めて会ったのはコーサイス侯爵家に移って4ケ月ほど経った冬の日、お兄様が冬の休暇で王都の侯爵家に帰省したときだ。
  「はじめまして、お兄様。」
  わたしは覚えたての貴族のお辞儀で挨拶したのだが、もの凄くビックリした顔をされた。
  お母様は手紙でわたしのことを伝えたと言っていたが、きっと出すのを忘れてしまったのだ。お母様は貴婦人の皮を被っているからバレにくいけど、とても大雑把な性格をしている。
  この出会いからお兄様との関係はずっとギクシャクしている。

  会ってもほとんど話しかけてもくれない。内気な人なのかな、と思って来たけれど、生徒会長として堂々と挨拶しているところを見ると、そうは思えない。
  嫌われているのかな。そう思うとすこし悲しくなった。
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