6 / 63
僕の初恋[レイモンド視点]
しおりを挟む
ジーンエイデン王国の人間は愛でしか動かないと言われている。
ジーンエイデンの男は愛によって全てを得て、愛によって全てを失う、なんて言葉もある。
そんな恋愛至上主義の国だから政略結婚はほとんどない。さすがに平民との結婚は許されないし、家格の違いすぎる結婚は身分を落とす原因にもなる。それでもジーンエイデンの男達は愛に生きるのだ。
「その年で初恋もまだなんて信じられないよ。」
夏季休暇を前に浮かれている友人のクロードが言った。
「僕からしたらフローラに夢中になっているお前の方が信じられないよ。ひと月前まではクラリスより可愛い娘は何処にもいないって騒いでいたじゃないか。」
「失恋したんだからしょうがないだろ。レイはモテるから良いよな。今度はマーガレットに告白されたんだろう。」
「ああいうグイグイ来るタイプが一番苦手なんだ。」
「学園一の美女に対してそうくる?そんなんだから血が青いとか言われるんだぜ。」
「それよりフローラは誘えたのか?」
「うん!」クロードがにぱっと笑った。
「ヨンドでやる夏祭りに一緒に来てくれるって。」
クロードは背が低いとか地味顔だとか自分を卑下するけど、明るく気もきくので意外とモテる。
「頑張れよ。」そう言って友人と別れた。
夏季休暇はコーサイス侯爵家の領地があるコーエンで過ごすことになる。王都から馬車で3日もかかるが、貴族の社交から遠ざかることが出来るので気は楽だ。
クロードは僕がモテると言っていたがそんなことはない。ジーンエイデンの男達は愛に生きるが女性は割と現実的だ。僕が継ぐであろう侯爵家に群がって来るのだ。
僕が侯爵家の後継ぎでないと知ったら彼女達はどんな顔をするだろう。
コーサイス侯爵家の後継ぎには絶対的な条件がある。石化解呪の血族魔法を受け継いでいることだ。次に出来れば女性が望ましい、となる。
圧倒的に女性に受け継がれ易い魔法なのだ。
妹が見つかれば妹が、見つからなければ従姉妹のケイトが侯爵家の後継ぎになるだろう。
馭者が代わったせいか馬車がいつもは通らない下町の道を進んでいく。雑多な人々が行き交う道に事故が起こりそうでヒヤヒヤした。
その時、僕の瞳が一人の少女を映した。シンプルな水色のワンピースを着た少女が隣にいる少年と笑いあっている。社交で見るような微笑みとは違い、楽しくてたまらないという笑顔だった。その瞬間から僕の時間が止まった。
領地の屋敷に帰ってからも、少女のことを思い出してぼうっとしていた。
彼女はどんな声をしているのだろう?あの赤い唇で名前を呼ばれたら、どんな気持ちになるのだろう。
この気持ちが恋だと気がついた時、僕は笑ってしまった。まさか自分が一目ぼれするなんて思っても見なかった。
それから直ぐに王都に戻り少女を探したが見つからなかった。
貴族的な顔立ちだったから、御忍びで下町を見ていた貴族の御令嬢なのかもしれない。
僕は友人達に笑われながらアルマー貴族学園のすべてのクラスを見て回った。
彼女は意外なところにいた。
冬休みに王都の屋敷に帰省したとき、彼女が現れた。
「はじめまして、お兄様。ユインティーナ・コーサイスです。」
彼女の声は思った以上に魅力的で、長い睫毛に縁取られた蒼い瞳を見ていると、夜空の星々に吸い込まれそうな気持ちになった。
それから僕はずっと、どうしていいか解らないままでいる。
ジーンエイデンの男は愛によって全てを得て、愛によって全てを失う、なんて言葉もある。
そんな恋愛至上主義の国だから政略結婚はほとんどない。さすがに平民との結婚は許されないし、家格の違いすぎる結婚は身分を落とす原因にもなる。それでもジーンエイデンの男達は愛に生きるのだ。
「その年で初恋もまだなんて信じられないよ。」
夏季休暇を前に浮かれている友人のクロードが言った。
「僕からしたらフローラに夢中になっているお前の方が信じられないよ。ひと月前まではクラリスより可愛い娘は何処にもいないって騒いでいたじゃないか。」
「失恋したんだからしょうがないだろ。レイはモテるから良いよな。今度はマーガレットに告白されたんだろう。」
「ああいうグイグイ来るタイプが一番苦手なんだ。」
「学園一の美女に対してそうくる?そんなんだから血が青いとか言われるんだぜ。」
「それよりフローラは誘えたのか?」
「うん!」クロードがにぱっと笑った。
「ヨンドでやる夏祭りに一緒に来てくれるって。」
クロードは背が低いとか地味顔だとか自分を卑下するけど、明るく気もきくので意外とモテる。
「頑張れよ。」そう言って友人と別れた。
夏季休暇はコーサイス侯爵家の領地があるコーエンで過ごすことになる。王都から馬車で3日もかかるが、貴族の社交から遠ざかることが出来るので気は楽だ。
クロードは僕がモテると言っていたがそんなことはない。ジーンエイデンの男達は愛に生きるが女性は割と現実的だ。僕が継ぐであろう侯爵家に群がって来るのだ。
僕が侯爵家の後継ぎでないと知ったら彼女達はどんな顔をするだろう。
コーサイス侯爵家の後継ぎには絶対的な条件がある。石化解呪の血族魔法を受け継いでいることだ。次に出来れば女性が望ましい、となる。
圧倒的に女性に受け継がれ易い魔法なのだ。
妹が見つかれば妹が、見つからなければ従姉妹のケイトが侯爵家の後継ぎになるだろう。
馭者が代わったせいか馬車がいつもは通らない下町の道を進んでいく。雑多な人々が行き交う道に事故が起こりそうでヒヤヒヤした。
その時、僕の瞳が一人の少女を映した。シンプルな水色のワンピースを着た少女が隣にいる少年と笑いあっている。社交で見るような微笑みとは違い、楽しくてたまらないという笑顔だった。その瞬間から僕の時間が止まった。
領地の屋敷に帰ってからも、少女のことを思い出してぼうっとしていた。
彼女はどんな声をしているのだろう?あの赤い唇で名前を呼ばれたら、どんな気持ちになるのだろう。
この気持ちが恋だと気がついた時、僕は笑ってしまった。まさか自分が一目ぼれするなんて思っても見なかった。
それから直ぐに王都に戻り少女を探したが見つからなかった。
貴族的な顔立ちだったから、御忍びで下町を見ていた貴族の御令嬢なのかもしれない。
僕は友人達に笑われながらアルマー貴族学園のすべてのクラスを見て回った。
彼女は意外なところにいた。
冬休みに王都の屋敷に帰省したとき、彼女が現れた。
「はじめまして、お兄様。ユインティーナ・コーサイスです。」
彼女の声は思った以上に魅力的で、長い睫毛に縁取られた蒼い瞳を見ていると、夜空の星々に吸い込まれそうな気持ちになった。
それから僕はずっと、どうしていいか解らないままでいる。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる