下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

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僕の初恋[レイモンド視点]

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  ジーンエイデン王国の人間は愛でしか動かないと言われている。
  ジーンエイデンの男は愛によって全てを得て、愛によって全てを失う、なんて言葉もある。
  そんな恋愛至上主義の国だから政略結婚はほとんどない。さすがに平民との結婚は許されないし、家格の違いすぎる結婚は身分を落とす原因にもなる。それでもジーンエイデンの男達は愛に生きるのだ。

 「その年で初恋もまだなんて信じられないよ。」
  夏季休暇を前に浮かれている友人のクロードが言った。
 「僕からしたらフローラに夢中になっているお前の方が信じられないよ。ひと月前まではクラリスより可愛い娘は何処にもいないって騒いでいたじゃないか。」
 「失恋したんだからしょうがないだろ。レイはモテるから良いよな。今度はマーガレットに告白されたんだろう。」
 「ああいうグイグイ来るタイプが一番苦手なんだ。」
 「学園一の美女に対してそうくる?そんなんだから血が青いとか言われるんだぜ。」
 「それよりフローラは誘えたのか?」
 「うん!」クロードがにぱっと笑った。
 「ヨンドでやる夏祭りに一緒に来てくれるって。」
  クロードは背が低いとか地味顔だとか自分を卑下するけど、明るく気もきくので意外とモテる。
 「頑張れよ。」そう言って友人と別れた。

  夏季休暇はコーサイス侯爵家の領地があるコーエンで過ごすことになる。王都から馬車で3日もかかるが、貴族の社交から遠ざかることが出来るので気は楽だ。

  クロードは僕がモテると言っていたがそんなことはない。ジーンエイデンの男達は愛に生きるが女性は割と現実的だ。僕が継ぐであろう侯爵家に群がって来るのだ。
  僕が侯爵家の後継ぎでないと知ったら彼女達はどんな顔をするだろう。

  コーサイス侯爵家の後継ぎには絶対的な条件がある。石化解呪の血族魔法を受け継いでいることだ。次に出来れば女性が望ましい、となる。
  圧倒的に女性に受け継がれ易い魔法なのだ。
  妹が見つかれば妹が、見つからなければ従姉妹のケイトが侯爵家の後継ぎになるだろう。

  馭者が代わったせいか馬車がいつもは通らない下町の道を進んでいく。雑多な人々が行き交う道に事故が起こりそうでヒヤヒヤした。

  その時、僕の瞳が一人の少女を映した。シンプルな水色のワンピースを着た少女が隣にいる少年と笑いあっている。社交で見るような微笑みとは違い、楽しくてたまらないという笑顔だった。その瞬間から僕の時間が止まった。

  領地の屋敷に帰ってからも、少女のことを思い出してぼうっとしていた。
  彼女はどんな声をしているのだろう?あの赤い唇で名前を呼ばれたら、どんな気持ちになるのだろう。
  この気持ちが恋だと気がついた時、僕は笑ってしまった。まさか自分が一目ぼれするなんて思っても見なかった。

  それから直ぐに王都に戻り少女を探したが見つからなかった。
  貴族的な顔立ちだったから、御忍びで下町を見ていた貴族の御令嬢なのかもしれない。
  僕は友人達に笑われながらアルマー貴族学園のすべてのクラスを見て回った。

  彼女は意外なところにいた。
  冬休みに王都の屋敷に帰省したとき、彼女が現れた。
 「はじめまして、お兄様。ユインティーナ・コーサイスです。」
  彼女の声は思った以上に魅力的で、長い睫毛に縁取られた蒼い瞳を見ていると、夜空の星々に吸い込まれそうな気持ちになった。

  それから僕はずっと、どうしていいか解らないままでいる。
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