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学習の成果[イザベル視点]
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怖かった。カルロス王子がオスカーに言った言葉を聞いて、こんなに恐ろしい人だったのだと気が付いた。
カルロス王子に連れられて来たのは、まるで客室のような内装の馬車の中だった。
「イザベル、僕は君を妻にと望んでいる。君だってユインティーナみたいな目にあいたくはないだろう。」
プロポーズを装った脅迫。自分が泣き叫ばないのが不思議だった。頭の中に ユインティーナの言葉があった。
『誘拐された時、泣き叫んだりしちゃダメだよ。面倒くさいと殺されてしまうことがあるからね。』
私は今まで、ずっと安全な場所にいた。暴力の匂いがする場所になんかいたことがない。カルロス王子が私の髪や頬を撫でている。気持ちが悪い。
『おとなしそうにして隙を見つけるんだよ。最悪の場合は貞操を捨てても命を守る。命より大切なものはないから。』
カルロス王子が私の服を脱がせ始めた。
もう無理。私、この人が大っ嫌いなんだもの。顔立ちは整っているけれど腐った魚みたいな目をして気持ちが悪い。
私は拳を握り締めて思いっきり王子の股間を殴った。ユインティーナの言ったとおりカルロス王子は動けなくなっている。
私は慌てて出口に飛び付いたが、開かない。外から鍵がかけられていた。
『急所を狙うのは逃げられる場所にいる時だよ。逃げ損なうと相手をすごく怒らせてしまうから。』
やってしまってから思い出しても遅かった。脂汗をかいて動けなくなっていたカルロス王子がこちらを睨み付けている。
「イザベルは上品な女だと思っていたのに残念だよ。おまえを妻にするのはやめだ。」
カルロス王子が私の髪を掴んで殴ろうと拳を振り上げた。
殴られると思って両腕で顔を守ろうとした瞬間、ベッドの下から這い出してきたソフィアと目が合った。ソフィアがワインボトルを手に、カルロス王子の背後から頭を殴りつけたのを呆然として見つめていた。
また ユインティーナの言葉が思い浮かんだ。
『もし攻撃を仕掛けるなら背後から狙って。武器が無かったら硬いものなら何でも武器になる。壺とかボトルとか。』
護身術は得意でないと言っていたソフィアの方が私よりも優秀な生徒だったようだ。
頭を殴られたカルロス王子が倒れている。ワインボトルが割れ、あたりに赤ワインが飛び散っていた。カルロス王子の血液も混じっている。あたりは凄惨な殺人現場のようになっていた。
「殺してしまったかしら?」
ソフィアが後悔しているかのように言った。
「何を言ってるの。誘拐犯を攻撃するのは正当防衛よ。」
私の口から ユインティーナの言葉が出てきた。
「そうね。」
「それより早く拘束してしまいましょう。目を覚ましたら大変だわ。」
私たちは紐を見つけてカルロス王子を縛り始めた。
「ソフィアはここで何をしていたの?」
「護衛の人たちが私を強姦するって言っていたのを聞いて、カルロス王子の馬車に隠れていたの。」
「ワインボトルは?」
「ここで見つけて武器になるかもと思って持っていたの。」
「出口の扉が開かないからカルロス王子を人質にとって逃げるしかないと思うの。」
「上手くいくかしら?」
「やるしかないわね。それにしてもソフィアは不器用ね。もっとしっかり縛らないと抜けられてしまうわよ。」
「うるさいわね。自分こそ逃げ道もないのに急所を殴ったくせに。」
出口の扉が音を立てた。私は慌てて割れたワインボトルを手に取った。
『割れたビンやボトルはナイフの代わりになる。』
とっさに身構えた私たちは、入ってきた ユインティーナとオスカーを見て体の力を抜いた。
「どうしたの、それ?」
唖然とした表情を浮かべた ユインティーナを見ておかしくなった。私たちでも彼女を驚かす事が出来るのだ。
「護身術教室、役に立ったわよ。」
オスカーが私を見て安心したように笑った。
カルロス王子に連れられて来たのは、まるで客室のような内装の馬車の中だった。
「イザベル、僕は君を妻にと望んでいる。君だってユインティーナみたいな目にあいたくはないだろう。」
プロポーズを装った脅迫。自分が泣き叫ばないのが不思議だった。頭の中に ユインティーナの言葉があった。
『誘拐された時、泣き叫んだりしちゃダメだよ。面倒くさいと殺されてしまうことがあるからね。』
私は今まで、ずっと安全な場所にいた。暴力の匂いがする場所になんかいたことがない。カルロス王子が私の髪や頬を撫でている。気持ちが悪い。
『おとなしそうにして隙を見つけるんだよ。最悪の場合は貞操を捨てても命を守る。命より大切なものはないから。』
カルロス王子が私の服を脱がせ始めた。
もう無理。私、この人が大っ嫌いなんだもの。顔立ちは整っているけれど腐った魚みたいな目をして気持ちが悪い。
私は拳を握り締めて思いっきり王子の股間を殴った。ユインティーナの言ったとおりカルロス王子は動けなくなっている。
私は慌てて出口に飛び付いたが、開かない。外から鍵がかけられていた。
『急所を狙うのは逃げられる場所にいる時だよ。逃げ損なうと相手をすごく怒らせてしまうから。』
やってしまってから思い出しても遅かった。脂汗をかいて動けなくなっていたカルロス王子がこちらを睨み付けている。
「イザベルは上品な女だと思っていたのに残念だよ。おまえを妻にするのはやめだ。」
カルロス王子が私の髪を掴んで殴ろうと拳を振り上げた。
殴られると思って両腕で顔を守ろうとした瞬間、ベッドの下から這い出してきたソフィアと目が合った。ソフィアがワインボトルを手に、カルロス王子の背後から頭を殴りつけたのを呆然として見つめていた。
また ユインティーナの言葉が思い浮かんだ。
『もし攻撃を仕掛けるなら背後から狙って。武器が無かったら硬いものなら何でも武器になる。壺とかボトルとか。』
護身術は得意でないと言っていたソフィアの方が私よりも優秀な生徒だったようだ。
頭を殴られたカルロス王子が倒れている。ワインボトルが割れ、あたりに赤ワインが飛び散っていた。カルロス王子の血液も混じっている。あたりは凄惨な殺人現場のようになっていた。
「殺してしまったかしら?」
ソフィアが後悔しているかのように言った。
「何を言ってるの。誘拐犯を攻撃するのは正当防衛よ。」
私の口から ユインティーナの言葉が出てきた。
「そうね。」
「それより早く拘束してしまいましょう。目を覚ましたら大変だわ。」
私たちは紐を見つけてカルロス王子を縛り始めた。
「ソフィアはここで何をしていたの?」
「護衛の人たちが私を強姦するって言っていたのを聞いて、カルロス王子の馬車に隠れていたの。」
「ワインボトルは?」
「ここで見つけて武器になるかもと思って持っていたの。」
「出口の扉が開かないからカルロス王子を人質にとって逃げるしかないと思うの。」
「上手くいくかしら?」
「やるしかないわね。それにしてもソフィアは不器用ね。もっとしっかり縛らないと抜けられてしまうわよ。」
「うるさいわね。自分こそ逃げ道もないのに急所を殴ったくせに。」
出口の扉が音を立てた。私は慌てて割れたワインボトルを手に取った。
『割れたビンやボトルはナイフの代わりになる。』
とっさに身構えた私たちは、入ってきた ユインティーナとオスカーを見て体の力を抜いた。
「どうしたの、それ?」
唖然とした表情を浮かべた ユインティーナを見ておかしくなった。私たちでも彼女を驚かす事が出来るのだ。
「護身術教室、役に立ったわよ。」
オスカーが私を見て安心したように笑った。
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