あの夏の出口へ、もう一度。

響影

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 あいつと出会った日を俺は今でも忘れない。あの日あいつと出会っていなければ今の俺は普通の日常を過ごせていたことだろう。この出会いが俺にとって良かったのかは、俺はいまだにわからない。ただ、あいつが居なければ俺の夏休みは退屈なものになっていた事は確かである。
 あいつと出会ったのは、大きな入道雲が山の向こうに見えたあの日。俺はまだ、年中短パン小僧として遊び回っていた頃だった。セミの声がうざったいこの季節に俺は決まってばあちゃんの家に預けられていた。朝から両親に叩き起こされ、車で6時間、出発の時は顔を出していなかった太陽が上から照りつけてくる頃。山間のばあちゃんが住む村が木々の影から姿を現す。
「あさと、起きてる?おばあちゃんの家が見えて来たわよ。」
「…起きてるよ」
眠い目を擦って車窓から村全体を見下ろす。
中央に大きな川が流れていて、その川を中心に家や田んぼが広がっている。家が密集している所もあれば、畑の中にポツンと建ってたり、俺の住んでいる街ではあまり見ない光景だった。
中央の川を目で追っていく。川は山側にいくほど細くなってゆき木々で見えなくなってしまう。俺は山に生えているその木々を山を登っていくように目線をやった。すると、山の中に幾つかの赤色が見えた。明らかな人工物で形の全体が見えず何か分からなかった。
「パパ、あの山の中にある赤いのなに?」
「ん?どこにそんなのある?山の中なら紅葉か花か何かじゃ無いのか」
運転中のためか、パパは山の方に全く目を向けない。植物でないことは明らかだ。
「違うよ、何かの建物だよ」
「あなた、今の季節に紅葉は無いわよ。山の中なら神社じゃ無いかしら。昔はお祭りの時に山を登って神社に行った記憶があるわ。」
「へー。」
正体を知ってしまうとさっきまでのワクワクは無くなった。なんだ、ただの神社か。複数の赤い何かは鳥居の端っこの部分で、言われてしまえば神社にしか見えなくなってくる。あれが母の知らないもので何かの謎に繋がる建造物だったら後で探検しようと思っていたのに。つまらない。
再び神社に目線をやる。さっきまで鳥居しか見えていなかった神社だが、今度は狛犬が向き合っているのが見えた。あれは。
狛犬の間に誰かがいる。全身青ぽい見た目で、黒髪の人がどこかをじっと眺めている。窓に張り付くようにしてその人物を注視した。もう少し目が良ければ顔が見える。もう少し。もう少し。

目が合った。

目が合った瞬間、俺は急いで覗いていた顔を引っ込めた。はっきりと顔は見えなかった。でも、確かに目が合ったことが分かる。神社までの距離はかなりある。狛犬も人もなんとかそこにある事がわかるくらいの距離だ。その距離で目が合うなんて事があるのだろうか。恐る恐るもう一度、窓を覗く。
窓の景色は随分と変わってしまい、神社はもうすでに見えなくなっていた。車は丁度、坂を降りて村に入る所だった。


のどかな田園をぼーと眺めていると車はある家の塀の中に入り止まる。
車から降りて砂利が引かれた庭に足をつける。
「よく来たね。」
声に顔をあげると、ばあちゃんが顔の皺をニコと持ち上げて笑っていた。
玄関に向かうばあちゃんと両親の後ろを歩いていると一陣の風が吹く。振り返るとどこまでも続く遠い青と村を囲む緑が見えた。この村で俺は夏を過ごすことになるのだ。と改めて実感し、両親の背を追いかけた。

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