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しおりを挟むこの村に来て、八代と出会ってから10日が経過した。村に来る前は俊にいちゃんがいない夏を過ごすのがとても億劫であった。ばあちゃんとの生活も楽しいけどそれだけでは事足りないのだ。そんな退屈を取り除くように八代は現れた。八代が居るだけで毎日が楽しい、だから今年の夏も楽しいままあっという間に時間が流れて終わっちゃうんだろうな。
八代と話しているといつの間にか太陽が沈み始めて、東の空に八代の着物と同じくらいの深い青色が薄っすら見えてくる。暗くなる前に帰らなければ。俺はいつもの階段から腰を上げ八代の方へ振り返る。
「暗くなって来たから、そろそろ帰る。」
「…そっか、気をつけてね。」
いつも通り別れの挨拶をして階段を数段降りて行く。そこで再び振り返ると八代はまだ手を振っており、それに対して振り返す。八代はいつも俺が見えなくなるまでそこに佇んでいる。だから、俺が帰った後八代が何をするのかどこに行くのかを俺は知らない。八代の家は神社の近所にあると言っていたが、どこら辺に有るのだろうか。そもそもあんな仕事でちゃんとした家に住めているかどうかも怪しい。八代については神社で仕事をしているという事以外に情報が無く、家族のことや八代自身の昔のことを聞いても適当にはぐらかされてしまうのだ。俺はこの夏休みをかけて八代について知って行こうと思う。それがこの夏休みの大きな目標だ。
階段を降り切って道路までの道を進んでいく。空はまだオレンジ色で、頭上をカラス達が横切っている。暗くなる前にさっさと帰ろうと急足で道路に出ようとした瞬間目の前の道を塞がれてしまった。
「ちょっと待った!お前、ここら辺じゃ見ない顔だな」
目の前に現れたのはこの間ハマノ屋で怖い話をしていた子供達だった。行手の中心にいるのがタンクトップに短パンを合わせ、頭を丸刈りにしている図体のでかい子供だった。
「けんちゃん、辞めようよ。」
その横に一際小さいシャツを着た男の子がタンクトップの少年の裾を掴んで腰を丸めている。その様子を一歩下がった所から睨みつけるようにこちらを見つめている二つ結びの女の子と、その横でこちらに興味ないと言わんばかりに腕の虫刺されを掻いているよく分からないキャラクターのTシャツを着た男の子が並んでいる。
なぜ道を塞がれたのか訳が分からず右往左往していると、けんちゃんと呼ばれた少年が一歩踏み出し口を開いた。
「お前!この神社から出て来たってことは黒い女の手下だろ!俺が成敗してやる。」
「けんちゃん、無茶だよ。もう帰ろうよ。」
丸刈りは鼻の下を親指で拭くとこちらにズカズカと迫って来た。
「待って待って、勘違いだって。俺黒い女の手下とかじゃないから」
俺が抵抗を示していると丸刈りの背後から女の子が口を挟む。
「じゃあ、なんでこんな時間に神社から出て来た訳?知らない顔だし、怪しすぎなんですけど」
丸刈りがフンスと荒い鼻息を立て、チビがその横で赤べこのように首を振っている。
「俺はな、夏休みだけママのばあちゃんちに来てるからお前らが知らないだけだ。神社で友達と遊んでたから神社から出て来ただけで、黒い女なんて知らないからな!」
「神社で友達と遊んでたのに1人だけなのか?それって凄く怪しくね?」
さっきまで腕を掻いていたTシャツがニヤニヤしながらこちらを見つめる。
それを聞いた丸刈りが言った。
「おい、余所者。その友達はどこにいるんだよ。」
先ほど手を振って見送ってくれた八代の姿を思い出す。
「八代、ならまだ上に居るはず。」
丸刈りが子分らを引き連れてさらに前へと出て来た。
「確かめに行くぞ。お前ら付いてこい。」
「けんちゃん、本当に黒い女が出ちゃうよ。帰ろうよぉ。」
丸刈りが弱音を吐いているチビの腕を無理やり引っ張って階段を登っていく。その後を女の子が俺を睨みつけながら階段へと足を踏み入れる。
「余所者君も行こうぜ」
Tシャツが俺に声をかける。
俺も行かないと八代に悪い気がしてTシャツの後をついて行った。
「余所者じゃ無くて俺の名前はあさとだ。」
Tシャツが登りながら振り返る。
「お前、あさとって言うんだ。俺はナオ。そっちの生意気そうな女子がはるか。で、あのちっこいのが一太。先頭を歩いてるハゲが健太。」
「おい!聞こえてんぞ!ハゲって言うな!」
丸刈り、もとい健太がガバッと大きく振り返り唾を飛ばしながら大声を上げる。健太はポケットに手を突っ込んで再び階段を登りだす。
さっき帰るために降りた階段を数分も経たずに再び登り返しているのは、なんだかおかしな気分だった。
「あんた、おばあちゃんの家に泊まりに来てるって言ってたけど、そのおばあちゃんの家はどこら辺なの?」
女の子が背中を向けたままこちらに声をかける。
「ばあちゃんちは駄菓子屋の近くの田んぼ付近にある。」
「どの家も大体田んぼの付近にあるから分からないわよ。」
ばあちゃんちに場所を説明するのにあたふたしているとTシャツのナオが横から口を挟む。
「俺、苗字を言ってくれれば大体わかるぜ。」
「苗字…俺の苗字は今井。」
「イマイ、今井、今井ねぇ、今井ってこの村に誰かいたかしら?」
女の子がちらっとこちらを見て睨みつける。きっと、まだ俺のことを怪しんでいるのだ。
女子からこんな目を向けられたことが無く、思わず固唾を飲み込んだ。すると、暫くしてナオが口を開いた。
「あー、お前今井のばあちゃんの孫か。」
「!、ばあちゃんと知り合いなのか?」
「俺のうち、ハマノ屋だからさ。村に住んでるやつなら大抵分かる。」
「おばあちゃんと同じ苗字なの?私、お母さんのおばあちゃんとは苗字違うよ。」
はるかが素朴な疑問をぶつけてくる。
「俺んちパパとママ、どっちも今井だから親戚が大体全員今井なんだ。」
「なーんだ」とつまらなそうに呟く女の子と打って変わって俺は肩を撫で下ろした。
もう暫くすれば、階段の頂上に辿り着く。辺りは先ほどよりも更に暗くなって来ており、東側の深い青が村を覆い尽くそうとしている途中であった。
一番先頭の丸刈り健太が「早く上がって来い」と声をかける。どうやら健太とチビの一太は頂上に到着した様子だ。次にはるか、ナオ、俺の順番で階段を登り切る。
昼間と違いガラリと雰囲気を変えた神社はまるで他の神社に訪れたかのようであった。ただでさえ木々に覆われて暗いのにも関わらず、太陽の光が入ってこないこの場所は人が足を踏み入れてはいけない場所のような冷たい空気を醸し出していた。そんな空気が流れる場所へ訪れて、殆どの子供が思わず息を呑んだ。ただ、健太だけは息を飲み込まず声を上げた。
「誰もいねぇじゃん。黒い女も、お前の友達も。」
境内の中には俺たち以外の人気配はなかった。
「八代ー?いないのかー?」
俺は八代の名前を大きく口を開けて読んだ。しかし、返事は返ってこない。
「多分、家に帰ったんだと思う…。」
「階段も降りずにか?」
健太がごもっともなことを言う。
「もしかして、他に降りる場所があるんじゃないかな。そこから帰ったんだよ。ほら、だから僕たちも帰ろうよ。」
一太が涙目になりながら早口で言葉を紡ぐ。一太が身体を階段へと向けて進もうとするが健太が片手で一太を掴み、阻止する。すると、一太は更に涙目になってなんだか可哀想な気がして来た。
「じゃあ、一太の言う他の階段を探そうぜ」
と、健太が言い放ち行動に移そうとしているところにナオが待ったをかけた。
「なんだよ、ナオ。怖いのかよ。」
ナオは被ってる帽子のつばを軽く持ち上げて健太に言った。
「暗い中で森に迷ったら俺たち黒い女所か熊の餌食になっちまう。また今度にしようぜ。」
はるかが「そうよ!」と同調し、半べそかいている一太が肩を撫で下ろす。
「確かにそうだな。おい!お前ら!帰るぞ。」
健太は再びズカズカと階段へと向かっていく。その背後を一太がくっつくように追いかけ、はるかも振り向かずに早足で階段降りていく。降りて、登って、降りて。俺の体力はもう既にヘトヘトだった。ナオが俺の背中を叩いて階段を降り始める。さっさと家に帰ってばあちゃんの飯が食べたいな、と俺も同じように階段を降りようとした時だった。
「今度からは1人で来るんだよ。あさと。」
背後から八代の声がしてバッと振り返る。かなり近くで聞こえた筈なのに、背後には誰もおらず薄暗く佇む社殿とこちらを睨んでいる狛犬だけが視界に入るだけだった。気のせいだったのか?と思いながらも再び前を向くと、ナオが周囲を見渡した後、こちらをジッと見つめていた。神妙な顔をしたナオが俺に何かを言おうと口を開いた瞬間、はるかがこちらに声をかける。
「何してんの?早く帰ろうよ。」
ナオははるかの方を向いてニカっと笑う。
「なんでも無いぜ。さっさと帰んないと母ちゃんに叱られちまう。」
何事も無かったかのようにこちらに背中を向けて階段を降りていくナオが何を言いたかったのか分からず、さらに増えたモヤモヤを抱えながら、俺も階段を降りて行った。
あの後、ばあちゃんちに帰るまでナオはこちらを見なかった。別れの挨拶の時だけ目が合ったのみで、その時も様子に変わりはなくニコッと笑っているだけで合った。あの時聞こえた八代の声は聞き間違いなんかではなく、ナオにも聞こえていたのでは無いのだろうか。なら、八代はどこから話しかけて来たんだろうか。八代の謎が深まるばかりである。帰り際に、健太が「まだ、黒い女の手下じゃ無いって決まった訳じゃ無いからな。覚えとけ!」と捨て台詞を吐いて行った。黒い女は本当に関係がないのだが、地元の子供達の仲間に入れた気がしてちょっとだけ嬉しい気持ちであった。夜の神社へ行ったことを日記に書き出して、電気を消して布団に入る。窓の外からさまざまな虫の声と遠くの方でカラスの鳴き声が聞こえた気がする。あさとの意識は段々と夢の中へと落ちて行った。
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