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断頭台の吸血鬼編
陽姫劇場─開幕─
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白い床に付いた細かな傷を眺めて、かれこれ2時間は経っただろうか。
この部屋には時計が無いので、今が朝か夜かさえ分からない。
さらに天井の照明が放つ光が白い壁や床で反射し、常に俺の睡眠を妨げ続けていた。
天の声に頼めば照明を消してもらえるかな、と一瞬考えたが、行動には移さなかった。
監視対象が照明消してくれと頼むなんて、まるで今から逃亡しますと言っているようなものだ。
(なんて……そもそも、この拘束から脱する事が出来る吸血鬼は居ないだろうな。)
両手を指先まで固定する拘束具に加え、胸部と首の拘束具によって、上半身は完全に固定されている。
さらに足首とふくらはぎにも片脚ずつ拘束が施され、地上から1m程離れた位置で俺の身体は磔にされている。
それに加えて、血液操作特有の電気信号を首の拘束具が察知し、即座に高圧電流が流れるという対吸血鬼仕様の十字架だ。
逃げ場も自由も無い。
同時に暴走して誰を傷付ける恐れもない。
死ぬ前の安らぎの場としては、これ以上は無いだろう。
『識別番号48157。』
静寂を破るようにスピーカーから俺を呼ぶ声が部屋中に響き渡った。
「はい……何でしょう。」
『面会希望者が今から貴様の居る部屋に──』
「拒否してください。危険です。俺は誰も傷つけたくない。」
わざわざ来てもらって申し訳無いとは思う。
だが万が一にも、誰も死なせたくない。
どれほど嫌いな人間の訃報でも、聞けば感傷に耽ってしまうものだ。
行方不明になった弟を発見しても安堵や心配の言葉1つ吐かず、ましてゲーム機を根こそぎ奪っていくカス野郎とは違う。
それに俺が誰かを傷つければ、レイアさんが苦しむ事になる。
訪問者が誰であれ、俺は──
『そうか。ならば……は? もう着いた?』
ウィーン!
「なんだ、その干からびた面。ミイラかよ。」
「ッ!?」
開いた扉の向こうから、憎たらしい声と共に、白衣姿の面会希望者が、俺の意見など無視してズケズケと入ってきた。
その面会希望者は良く見知った顔であり、良く言えば揺るぎない信念を持ち、悪く言えば超利己的な人間。
先程挙げたカス野郎、もとい──
「陽ッ……なんでお前が此処にッ!?」
「処刑前に親族代表して会いに来たんだ。もう少し喜べよ。」
誰にも会いたくないとは思っているが、それでも両親や学校の友達が会いに来てくれたのなら、涙を流して喜んだだろう。
なのに何故、よりによってコイツなのか。
「何が目的だ。」
「敵か? 少しぐらい信用しろ。これでも巻き込まれてる側だぞ。」
陽は呆れた顔で、短い茶髪が揃った後頭部をカリカリと掻いた。
そして、すぐに表情を変えた。
人さし指を天に向けて立て、射るような焦茶色の瞳を俺に向けてきた。
「目的は1つ。お前を救ってやるから、今すぐ暴走しろ。これは全隊員の総意と取って良い。」
「……断る。」
「拒否できる立場だと思ってんのか? 拒否できる状態でもないみたいだしな。一方的に実験してやるよ。」
陽は容赦無く俺の拒絶を切り捨てた。
俺は睨みつけるが、奴は気にする様子もなく言葉を続ける。
「さっき誰も傷つけたくないとか言ってたけど、それは俺も含めてか? 随分と丸くなっちまったなぁ?」
「……レイアさんにこれ以上、罪の意識を感じさせたくない。」
「だったら暴走しろよ。このままお前が処分されたら、それこそあの子は立ち直れなくなる。」
「ッ……」
その尤もな意見に、言葉が詰まった。
けど、どんな結果であれ彼女が苦しむのなら、俺は見たくない。
見なくて済む選択をしたい。
「傲慢だな。」
そんな俺の心を見透かしたように陽は言い放ち、ポッケに手を突っ込んだ。
拷問器具の一つや二つ飛び出してくると俺は身構えた。
そして、陽が取り出したのは──
「……手帳?」
パラッ…
陽は右手に持った手帳の赤い表紙を左手で捲り、1ページ目に書かれた内容を朗読し始めた。
「母さんのラーメン屋のポイントカードが紛失して、お前のテーブルから出てきた事あったじゃん?あれ、俺の財布に入ってたのを見つけて罪を擦り付けるために入れてたんだ。ごめんな。」
この世に存在する懺悔に、ここまで内容も規模感もクソみたいな懺悔はあるんだろうか?
陽は手帳のページを捲り、2ページ目の内容を朗読し始めた。
「お前が小3の時、テーブル上のお前の夏休みの課題にコーラをこぼしちゃって、誤魔化すために一部を破ってノワの家の前に放置することで、お前の管理不足のせいだって言ったことあったよな。ごめんな。」
あったらしい。
表裏にしょうもない事を書かれた手帳の1枚目に同情する。
しかも絶妙に記憶の片隅に残ってるタイプの内容だった。
無きながら新しい問題集を先生に貰いに行った記憶が蘇ってくる。
「どうだ? キレたか?」
「イラッとはしてるけど。ナニコレ。」
「分かった……じゃあ次の懺悔は──」
これ何時まで続ける気だ。
──────────────────────
「「「「「……」」」」」
陽に巻き込まれているのは、俺だけではなかった。
「汐原輝について見て頂きたい物があります。」とドクターに言われて集合した上層部の面々は、拘束された吸血鬼にしょうもない事を懺悔し続ける様を、会議室の黒い長机に揃った状態でリアルタイムで見せられていた。
開始5分まで静かに鑑賞していた金城も、まるで意図が分からず、モニターの右横に立つドクターに声をかけた。
「おい総一郎。これに何の意味が──」
「Just calm down, Mr金城。お茶でも飲んで、くつろいで下さいよ。紗理奈、金城さんに紅茶を。」
「はい、ただいま。」(な~んで、出勤直後呼び出されたと思ったら、お偉いさん方に茶を差し出す事になってんだぁ!? しかも、あの画面のって陽君だろ!? 何してんだあの子ッ!?)
紗理奈は感情を一切表面に出さず、傍目でモニターを覗きながら、淡々と紅茶を注ぎ続けた。
温かく旨い紅茶は混乱する者達の心を落ち着けていく。
いつもなら時間の無駄だと帰っていく金城ですら、紅茶ソムリエの紗理奈が淹れた茶の味に免じて、黙って画面を眺めていた。
コポコポ……
お茶を注ぐ音と香りの心地よさと金城ですら留まる状況に、誰も文句を言うことはなく──
「総一郎。」
だが、その男は違った。
長い時間を吸血鬼に費やした英雄としての経験からか、または父としての息子娘に対する理解なのか。
初めから意図を理解していた御手洗徹雄は、無表情のまま鋭い隻眼を息子へと向けた。
だがドクターは臆することなく、微笑みを絶やさなかった。
「なんでしょう、父さん?」
「あの男を呼んだのは、汐原輝の処罰を延期する為か?」
支部長の言葉に、皆に掛けられた紅茶の催眠が急速に消え失せた。
「ッ!? 無駄だぞ、そんな事はッ!! 事あるごとに暴走する吸血鬼なんぞ組織の癌にしかならんッ!!」
金城の言葉で保守派の者達が一気にドクターへ反発する。
「そうだッ!! ふざけるなッ!!」
「『鬼の姫』に飽き足らず、さらに我々に背負わせるのかッ!!」
「私達の家族を危険に晒すつもりかッ!!」
落ち着きを失った者達からの罵詈雑言に襲われるドクターを見て、常に冷静を装う紗理奈のティーポットの取っ手を持つ手に力が入った。
ピシッ…
だが行動には移せない。
自分の人生を棒に振る勇気は彼女には無かった。
そんな葛藤する紗理奈に対してか、それとも唾を飛ばしながら外面など気にせず暴言を吐き続ける上層部の面々に対してか、その両方か。
「少し話を聞いてくださいますか?」
ドクターがゆるりと立ち上がり、手のひらをこちらに向けて静止を求めた。
「「「「「ッ!」」」」」
父親とは正反対の掟破り、ユーモアのある性格から一転、御手洗徹雄の息子だと分かる猛禽類の様な目つきに全員静まり返った。
「人類が吸血鬼と対峙し続け、早600年……均衡は常に吸血鬼側に傾き続けていたと言っていいでしょう。」
ドクターはモニターの横から離れ、前へ歩き始める。
長机に腰を下ろす幹部達の背を抜け、上座に座る支部長の下へ歩きながら、歩きながら話を続ける。
「けど父さんの第3席撃退に始まり、『Project Dhampir』の成功、そして第4席の確保。天秤の皿が少しずつ水平になっていく感覚がありました。」
ドクターは支部長の横で立ち止まり、机に手をつく。
「そして、今回の輝による第10席の撃退──父さん。彼は僕等が600年待ち望んだ希望の光かもしれません。」
「……奴がヴラドを倒すと?」
「それは分かりません。けれど──」
言葉の途中でドクターは視線を右に向け、モニター越しに未だ懺悔を続ける兄と、止めることも逃れる事も出来ず、諦めた表情で聞き続ける弟の姿を見た。
巫山戯ている様にしか見えないそんな状況に、彼は1つ確信し、父へ向き直る。
「汐原兄弟を皮切りに人類の歩みは加速する。僕はそう信じています。」
──────────────────────
陽が白旗を振ったのは、懺悔開始からだいたい1時間が経過した頃だった。
処刑までの残り少ない時間に、無数の懺悔を浴びせられ続けるとは思わなかったし、大小様々な非道行為の数々を隠し通してきた陽に対し、逆に感心してしまった。
もちろん許す気はないし、死んだら祟るが。
「ネタ切れ~……で、暴走しそうか?」
「ぶん殴りたくはなったけど、それまでだ。ホントに覚え─」
「じゃあ、次だなッ!助手君、例の物をッ!!」
陽が指を鳴らすと扉が開き、キャスターの付いたモニターを押す、可憐で天使のような吸血鬼が現れた。
任務用の黒いジャケットを脱ぎ捨て、白いシャツに白衣を羽織っていた。
いつもは下ろすかポニーテールの金色の髪は、両側で三つ編みにまとめられている。
そして琥珀のような瞳を隠すように、細い赤色のフレームの眼鏡が掛けられていた。
陽チョイスだろうか。
いつもと違う姿を見れた事を嬉しく思う反面──
「お、お待たせしました! 助手のレイアです!」
「では助手君。このモニターを──」
「レイアさんにッ! そんな事をッ! させるなッ!」
どんな懺悔よりも、レイアさんを小間使いにする陽の姿が俺を苛立たせたのだった。
この部屋には時計が無いので、今が朝か夜かさえ分からない。
さらに天井の照明が放つ光が白い壁や床で反射し、常に俺の睡眠を妨げ続けていた。
天の声に頼めば照明を消してもらえるかな、と一瞬考えたが、行動には移さなかった。
監視対象が照明消してくれと頼むなんて、まるで今から逃亡しますと言っているようなものだ。
(なんて……そもそも、この拘束から脱する事が出来る吸血鬼は居ないだろうな。)
両手を指先まで固定する拘束具に加え、胸部と首の拘束具によって、上半身は完全に固定されている。
さらに足首とふくらはぎにも片脚ずつ拘束が施され、地上から1m程離れた位置で俺の身体は磔にされている。
それに加えて、血液操作特有の電気信号を首の拘束具が察知し、即座に高圧電流が流れるという対吸血鬼仕様の十字架だ。
逃げ場も自由も無い。
同時に暴走して誰を傷付ける恐れもない。
死ぬ前の安らぎの場としては、これ以上は無いだろう。
『識別番号48157。』
静寂を破るようにスピーカーから俺を呼ぶ声が部屋中に響き渡った。
「はい……何でしょう。」
『面会希望者が今から貴様の居る部屋に──』
「拒否してください。危険です。俺は誰も傷つけたくない。」
わざわざ来てもらって申し訳無いとは思う。
だが万が一にも、誰も死なせたくない。
どれほど嫌いな人間の訃報でも、聞けば感傷に耽ってしまうものだ。
行方不明になった弟を発見しても安堵や心配の言葉1つ吐かず、ましてゲーム機を根こそぎ奪っていくカス野郎とは違う。
それに俺が誰かを傷つければ、レイアさんが苦しむ事になる。
訪問者が誰であれ、俺は──
『そうか。ならば……は? もう着いた?』
ウィーン!
「なんだ、その干からびた面。ミイラかよ。」
「ッ!?」
開いた扉の向こうから、憎たらしい声と共に、白衣姿の面会希望者が、俺の意見など無視してズケズケと入ってきた。
その面会希望者は良く見知った顔であり、良く言えば揺るぎない信念を持ち、悪く言えば超利己的な人間。
先程挙げたカス野郎、もとい──
「陽ッ……なんでお前が此処にッ!?」
「処刑前に親族代表して会いに来たんだ。もう少し喜べよ。」
誰にも会いたくないとは思っているが、それでも両親や学校の友達が会いに来てくれたのなら、涙を流して喜んだだろう。
なのに何故、よりによってコイツなのか。
「何が目的だ。」
「敵か? 少しぐらい信用しろ。これでも巻き込まれてる側だぞ。」
陽は呆れた顔で、短い茶髪が揃った後頭部をカリカリと掻いた。
そして、すぐに表情を変えた。
人さし指を天に向けて立て、射るような焦茶色の瞳を俺に向けてきた。
「目的は1つ。お前を救ってやるから、今すぐ暴走しろ。これは全隊員の総意と取って良い。」
「……断る。」
「拒否できる立場だと思ってんのか? 拒否できる状態でもないみたいだしな。一方的に実験してやるよ。」
陽は容赦無く俺の拒絶を切り捨てた。
俺は睨みつけるが、奴は気にする様子もなく言葉を続ける。
「さっき誰も傷つけたくないとか言ってたけど、それは俺も含めてか? 随分と丸くなっちまったなぁ?」
「……レイアさんにこれ以上、罪の意識を感じさせたくない。」
「だったら暴走しろよ。このままお前が処分されたら、それこそあの子は立ち直れなくなる。」
「ッ……」
その尤もな意見に、言葉が詰まった。
けど、どんな結果であれ彼女が苦しむのなら、俺は見たくない。
見なくて済む選択をしたい。
「傲慢だな。」
そんな俺の心を見透かしたように陽は言い放ち、ポッケに手を突っ込んだ。
拷問器具の一つや二つ飛び出してくると俺は身構えた。
そして、陽が取り出したのは──
「……手帳?」
パラッ…
陽は右手に持った手帳の赤い表紙を左手で捲り、1ページ目に書かれた内容を朗読し始めた。
「母さんのラーメン屋のポイントカードが紛失して、お前のテーブルから出てきた事あったじゃん?あれ、俺の財布に入ってたのを見つけて罪を擦り付けるために入れてたんだ。ごめんな。」
この世に存在する懺悔に、ここまで内容も規模感もクソみたいな懺悔はあるんだろうか?
陽は手帳のページを捲り、2ページ目の内容を朗読し始めた。
「お前が小3の時、テーブル上のお前の夏休みの課題にコーラをこぼしちゃって、誤魔化すために一部を破ってノワの家の前に放置することで、お前の管理不足のせいだって言ったことあったよな。ごめんな。」
あったらしい。
表裏にしょうもない事を書かれた手帳の1枚目に同情する。
しかも絶妙に記憶の片隅に残ってるタイプの内容だった。
無きながら新しい問題集を先生に貰いに行った記憶が蘇ってくる。
「どうだ? キレたか?」
「イラッとはしてるけど。ナニコレ。」
「分かった……じゃあ次の懺悔は──」
これ何時まで続ける気だ。
──────────────────────
「「「「「……」」」」」
陽に巻き込まれているのは、俺だけではなかった。
「汐原輝について見て頂きたい物があります。」とドクターに言われて集合した上層部の面々は、拘束された吸血鬼にしょうもない事を懺悔し続ける様を、会議室の黒い長机に揃った状態でリアルタイムで見せられていた。
開始5分まで静かに鑑賞していた金城も、まるで意図が分からず、モニターの右横に立つドクターに声をかけた。
「おい総一郎。これに何の意味が──」
「Just calm down, Mr金城。お茶でも飲んで、くつろいで下さいよ。紗理奈、金城さんに紅茶を。」
「はい、ただいま。」(な~んで、出勤直後呼び出されたと思ったら、お偉いさん方に茶を差し出す事になってんだぁ!? しかも、あの画面のって陽君だろ!? 何してんだあの子ッ!?)
紗理奈は感情を一切表面に出さず、傍目でモニターを覗きながら、淡々と紅茶を注ぎ続けた。
温かく旨い紅茶は混乱する者達の心を落ち着けていく。
いつもなら時間の無駄だと帰っていく金城ですら、紅茶ソムリエの紗理奈が淹れた茶の味に免じて、黙って画面を眺めていた。
コポコポ……
お茶を注ぐ音と香りの心地よさと金城ですら留まる状況に、誰も文句を言うことはなく──
「総一郎。」
だが、その男は違った。
長い時間を吸血鬼に費やした英雄としての経験からか、または父としての息子娘に対する理解なのか。
初めから意図を理解していた御手洗徹雄は、無表情のまま鋭い隻眼を息子へと向けた。
だがドクターは臆することなく、微笑みを絶やさなかった。
「なんでしょう、父さん?」
「あの男を呼んだのは、汐原輝の処罰を延期する為か?」
支部長の言葉に、皆に掛けられた紅茶の催眠が急速に消え失せた。
「ッ!? 無駄だぞ、そんな事はッ!! 事あるごとに暴走する吸血鬼なんぞ組織の癌にしかならんッ!!」
金城の言葉で保守派の者達が一気にドクターへ反発する。
「そうだッ!! ふざけるなッ!!」
「『鬼の姫』に飽き足らず、さらに我々に背負わせるのかッ!!」
「私達の家族を危険に晒すつもりかッ!!」
落ち着きを失った者達からの罵詈雑言に襲われるドクターを見て、常に冷静を装う紗理奈のティーポットの取っ手を持つ手に力が入った。
ピシッ…
だが行動には移せない。
自分の人生を棒に振る勇気は彼女には無かった。
そんな葛藤する紗理奈に対してか、それとも唾を飛ばしながら外面など気にせず暴言を吐き続ける上層部の面々に対してか、その両方か。
「少し話を聞いてくださいますか?」
ドクターがゆるりと立ち上がり、手のひらをこちらに向けて静止を求めた。
「「「「「ッ!」」」」」
父親とは正反対の掟破り、ユーモアのある性格から一転、御手洗徹雄の息子だと分かる猛禽類の様な目つきに全員静まり返った。
「人類が吸血鬼と対峙し続け、早600年……均衡は常に吸血鬼側に傾き続けていたと言っていいでしょう。」
ドクターはモニターの横から離れ、前へ歩き始める。
長机に腰を下ろす幹部達の背を抜け、上座に座る支部長の下へ歩きながら、歩きながら話を続ける。
「けど父さんの第3席撃退に始まり、『Project Dhampir』の成功、そして第4席の確保。天秤の皿が少しずつ水平になっていく感覚がありました。」
ドクターは支部長の横で立ち止まり、机に手をつく。
「そして、今回の輝による第10席の撃退──父さん。彼は僕等が600年待ち望んだ希望の光かもしれません。」
「……奴がヴラドを倒すと?」
「それは分かりません。けれど──」
言葉の途中でドクターは視線を右に向け、モニター越しに未だ懺悔を続ける兄と、止めることも逃れる事も出来ず、諦めた表情で聞き続ける弟の姿を見た。
巫山戯ている様にしか見えないそんな状況に、彼は1つ確信し、父へ向き直る。
「汐原兄弟を皮切りに人類の歩みは加速する。僕はそう信じています。」
──────────────────────
陽が白旗を振ったのは、懺悔開始からだいたい1時間が経過した頃だった。
処刑までの残り少ない時間に、無数の懺悔を浴びせられ続けるとは思わなかったし、大小様々な非道行為の数々を隠し通してきた陽に対し、逆に感心してしまった。
もちろん許す気はないし、死んだら祟るが。
「ネタ切れ~……で、暴走しそうか?」
「ぶん殴りたくはなったけど、それまでだ。ホントに覚え─」
「じゃあ、次だなッ!助手君、例の物をッ!!」
陽が指を鳴らすと扉が開き、キャスターの付いたモニターを押す、可憐で天使のような吸血鬼が現れた。
任務用の黒いジャケットを脱ぎ捨て、白いシャツに白衣を羽織っていた。
いつもは下ろすかポニーテールの金色の髪は、両側で三つ編みにまとめられている。
そして琥珀のような瞳を隠すように、細い赤色のフレームの眼鏡が掛けられていた。
陽チョイスだろうか。
いつもと違う姿を見れた事を嬉しく思う反面──
「お、お待たせしました! 助手のレイアです!」
「では助手君。このモニターを──」
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