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「……俺はお前が思ってるような奴じゃない」
しかし、そんな男との二人旅は長くは続かなかった。暫くすると男に仲間が出来たからだ。
男のやり方? それとも生き様? に感銘を受けた、行き場のない者たちがどうか連れてって下さいと、足手纏いにならないからと、自分の有用性を売って男に乞うようになったのだ。
最初は男も断っていたものの、諦めの悪い者や、同じことを言い出す人たちが多くなってくれば、折れざるを得なかったようで。結局街をめぐるごとに人数が増え、旅団並みの数になった。
その時にはもうただの旅人というよりも、各々の特技を生かし芸団まがいの事をしていて。逆に奪わなくても路銀が稼げるようになったのは、男にとっても嬉しい誤算だったのかもしれない。
「旦那!」
「団長」
「おはよございます、兄貴!」
「……お前らは俺を何だと思ってるんだ」
男を慕う者に囲まれて、俺と一緒に二人きりで旅をしていたときよりも笑顔が増えたのは俺にとって嬉しい誤算だった。…でも、なんでそう思うのか、少しだけ悔しさや悲しさも混じっているこの感情がよく分からなかった。
だから、男の仲間に聞いてみた。
俺の体質を知っているのは全員ではなかったけど、一番最初に男に志願してきたナイフの扱いが上手いルビと、半ばぐらいに来たけど男からそれなりに重宝されている情報収集が得意なエマとか、他にも少しいるけど、俺を特に気にかけてくれていたのはこの二人だったから。
「…ねぇ、ルビ、エマ」
「なぁに?」
「あんだよ」
どうして男が俺を使わないのか、男に対する俺の気持ちとか。
両親が肉塊と化してから、自分でもよく分からないほど沈んでしまった感情は、きっと死んではいなかった。死ぬ前に、男に掬い上げられてしまったのだ。俺という命ごと。
全てを話し終えると、ルビはとても痛ましげな顔をして、エマは表情を見る前に抱き締められてしまったから分からなかったけど、きっとルビと同じような顔をしていたんじゃないかなと、思った。
「……どうしてか、分かったの?」
「……どうして? そんなの、一つしかないわ」
「………あぁ、そうだな、一つしかない」
どうしてこんなことをするのか意味が分からなくてそう言うと、エマの抱き締める力が強くなった。ルビも痛ましげな顔のまま俺たちに近づいて、頭を撫でてきた。
きょとりとする俺に、二人はまるで愛しいものを見るような眼差しを向けて言う。
「きっと、あなたはあの人のことが大好きなのよ」
「……だい、すき…?」
「すっごく、いっぱい好きってことだ。好きより上の、好き」
「すきよりも上の、すき…」
二人の結論は、あまり口に馴染みのない言葉だった。何度も反芻する俺を見て、エマは笑う。
「あの人だって、きっとそうよ」
「え?」
「あの人もあなたが、すっごく、いっぱいいっぱい、だーい好きだから、そんな風に思うのよ」
「…あの男が…俺を…?」
思っても見なかったことだった。
確かに、俺の感情はルビたちが言ったものに近いかもしれない。でも男も…? 俺と同じ感情を持っているなんて、微塵も思っていなかった。そんな…でも、まさか……。
頭をぐるぐるさせている俺に気を使ってか、二人はそれ以上言葉を重ねなかった。ただ黙って、男が就寝前に俺を迎えにくるまで見守ってくれた。
「……寝るぞ。来い」
「…ん。おやすみなさい、ルビ、エマ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
男は昼間は忙しくしていて信頼できる仲間に俺を任せて仕事をしているが、夜になると必ず俺を迎えに来て同じ布団で寝るのだ。
最初は俺が逃げ出さないか警戒しているからこうしているのかと思ったけど、エマたちの話を聞いた後だとなんだか違って思える。不思議だ。
「……なんだ」
「…別に。今日はちょっと、寒いから」
「……そうか、なら今日はもう一枚上にかけて寝るか」
「…ん」
抱き上げられたまま考え事をしていたからか、無意識に男の服を掴んでいた。寒いなどと誤魔化せば、布団を増やすなどと言う男に、もしかしたら本当に大事にされているのかもと思った。
だとしたら、俺はどうやって男に応えればいいのだろう。
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