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しおりを挟む幸せ…かどうかは分からなかったけど、きっと平穏な日々だった。
二人で旅をしていた時のように俺の能力を狙って襲われることも減ったし、何よりガヤガヤと楽しげにするエマたちの騒がしさは、色褪せた世界の退屈をほんの少しだけ忘れさせてくれたから。
けれど、そんな平穏は長くは続かなかった。
「………っ、くそ!」
強く手を引かれて走る、走る。
男は俺の手を引き、この事態に悪態をつきながら武器を振るって駆けた。決して止まらず、後ろを一度も振り向かないで。
「………ルビ、エマ、」
「……」
ぼそりと呟いた名前は、ついさっき看取った男の仲間の名前。俺たちを逃がすために、無慈悲な魔法の犠牲になってしまった。
もう、誰もいない。男を慕ってついてきた仲間たちは、全ていなくなってしまった。
ーー皆んな、俺を庇って。
「!」
男が、驚いたように足を止めた。突然のそれに対処できず体当たりするように俺も止まれば、一刻も早く逃げなければならないのに、男が足を止めた意味が分かった。
「……行き、止まり」
「……」
この街にはつい一昨日来たばかりで、地図なんて持ってるわけがなかった。いつもこういう補佐をしてくれたエマはもう居ないし、奇抜な発想でいくつもの危機を救ってくれたルビも居ない。
「………っ、クソッ」
男は悔しげにもう一度悪態を吐いた。まるで何かを後悔するように。
でもそんなことをしていても、神様は助けてくれないし、敵は情け容赦なしに迫ってくる。
「……大人しく、その子供を渡せ。そうすれば、貴様の命くらいは見逃してやってもいい。ーーが、抵抗するなら、容赦はしない」
ほら、もう追いつかれた。
四方八方を囲まれて、今までにない程の絶体絶命だ。
あれほど身を呈して逃がしてくれた仲間も、一人もいなくて。いくらこの男が強くても、この人数を相手にするには絶望的だ。
今使わないで、いつ使う? 俺にはそれくらいの価値しかないのに。
『使う』と言ってくれるのを待ってるつもりだった。けれど駄目だ。俺にだって分かる。『使わない』で切り抜けられる状況じゃない。だから、もう一度だけ、聞くよ。
「………ねぇ、これでも、俺を『使わない』の?」
俺を背に庇い、武器に手をかける男にそう問いかけた。
誰と重ねているかは知らないけど所詮俺は偽物なのだから、その命に代えてまで救う必要はないんだ。だから、さぁ、ほら、是と肯定すれば、この事態は好転する。
「ーー黙れ! いくら言われようが俺はお前を使わねぇし、お前らにくれてやるつもりもない!」
けれど、男は、この期に及んで否と叫んだ。
思わず目を見開く。俺を見下ろす男の目が、悲しみで揺らぎ、怒りが迸っていたから。
「お前らみたいなやつらに、こいつは渡さない…もう二度と離してなるものか!」
溜まりに溜まった怒りを解放したかのように吠え、男は細長い剣ーー刀を構えて、敵に向かって駆け出した。
その背中は、俺の世界で唯一色付いて見えるもので、初めて見た時と全く変わっていなかった。
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