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しおりを挟む「ーーあぁ、」
正しかったのは、きっとルビたちだったのだろう。
『俺は、お前に生きてほしいだけだ』
男が俺に向ける感情は、慈しみは、本物だった。
だから仲間が死にそうになっても、自分の命が危うくなっても、男は俺を使わなかったのだ。
そしてそれを、皆んな知っていたのだろう。だからいくら理不尽に命を奪われようと、男が…俺が無事でよかったと安堵したように笑って逝った。…逝ってしまった。
男が慈しんでいたのは俺だけじゃなくて、エマたちも同じだったはずなのに。そうじゃなければ逝ってしまった仲間を思って、あんな顔をするはずがないのに。
…でも、もう遅い。
平穏なあの日々には、戻れないのだから。
だから……
「…あ、」
剣戟の音がする前方からナイフが転がって来た。
こつりと俺の足に当たって止まったナイフを見下ろして、ふと思い付く。
男が俺を使ってくれないのなら、
「俺が俺を、『使う』しかない」
俺が男に問いかけるのは、俺の魔力は俺には扱えないから。体内にある魔力は、魔力核を持つ者には使えない…他者に引き出されてようやく魔力としての役割を果たすのだ。
……なら、
「……体内から、出せ、ば」
使えるかもしれない。
恐る恐るナイフを掴んで、持ち上げる。思ったよりも小振りで、軽いそれの鋭利な切っ先が月明かりに照らされ、青白く光る。
魔力は、血とも思われている。俺は一度も使われたことがないから、どうやって魔力を体内から引き出しているのかは分からない。けれど使えば使うほど純度が下がるのなら、その方法もさして違いはないのかもしれない。
どうやって魔力を引き出すのかも、魔法を使うかは知らない。けど、きっとここまで成長した俺の魔力純度ならーー
「……は、…はぁ、」
ナイフを持って、心臓の付近に構える。
息が、乱れる。手が震えてる…。もしかして、恐怖を感じている…? はは、そんな…
「……今更死にたくない、なんて、そんな身勝手なこと、出来ない……」
それに、俺はあの男には生きていてほしい。俺がいなければ、俺と会わなければ、きっともっとあの平穏な日々を過ごせたのだ。
争いごとにおいては冷徹だけど、することに置いて全てに筋が通っている男だった。理不尽なことは一切しなかったし、懇願されることには弱くて、懐に入れると甘くなる。
とても人間くさい男。俺と違って、とてもたくさんの感情を抱えているのに。いつも優先するのは自分よりも俺だった。
俺は、嬉しかったの、だろう。だから報いたいと、役に立ちたいと思ったのだ。男が俺自身を見ていなかったとしても。
「………ふ、」
震えが、止まった。息も落ち着いてきた。大丈夫、大丈夫。きっと、上手くいく。
「ーー隊長! 子供が…ッ!」
覚悟を決めた瞬間、俺の異変に気付いたのか敵の誰かがそう叫んだ。
当然、男も俺を振り返り、目を見開いたかと思えば瞬時に踵を返してこちらに向かってくる。
でも、ごめんなさい。もう決めたんだ。
死なないで。生き延びて下さい。それと、
「ありがと」
こんな俺を慈しんでくれて、とっても嬉しかった。エマの言う通り、俺はあなたのこと、好きで、すっごく、いっぱいいっぱいだーい好きで。…えっと大好きの上は、なんて言うんだったっけ。あぁそうだ、
ーー愛して、る。
男の手が届く寸前で、ナイフを心臓に出来るだけ深く突き刺し、引き抜いた。両親が死んだ時のように、血が眼前に舞う。
男が悲壮に顔を歪ませたのを見ながら、俺は精一杯笑った。
「煌めけーー俺の命」
男の敵となるもの、全てを葬って。
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