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死に損なった、先の話
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しおりを挟む僕が荷馬車の外へと出たときには、もう全て終わっていた。
「…………これ、は…」
足元に転がる死屍累々。5人程のその死体の向こうに、ナイフと称するには少し大振りの凶器を持った彼が、いた。
鮮血に濡れた純白のローブをたなびかせ、まるで眼下にある魂を悼み、祈りを捧げるように静かに佇む、カナデが。
「………………」
あまりに異様な光景に、僕は絶句する。
ーーこれは、カナデがやったのか、と。
「………なん、で、」
呆然と状況を飲み込めないような、呆けた声が聞こえた。
声の元へ視線を向ければ、地面に伏している者たちと同じような服装の男が、瞳に涙を滲ませて木の根元に座り込んでいた。
震えながら小さく、「なんで…」と「どうして…」を繰り返す男に、カナデがゆらりと視線を向け、言葉を発する。
「…なんで?」
はっきりと声を上げる彼に、男はビクリと肩を震わせた。恐怖で引き攣った顔を恐る恐る上げ、カナデの表情を見て、固まる。
「ーーそれは、お前らが俺を舐めてたからだろ?」
傲慢を纏った、嘲りの言葉が響いた。
「…魔法しか能のないガキ。そう侮ってかかるからこうなる」
ゆらり、ゆらりと、少しづつ男に近づいて行くカナデの表情は、僕たちの位置からだと見えない。
「……誰に吹き込まれたのか知らないけど、もう少し自分の頭で考えるべきだったな」
いつも口数の少ないカナデが、饒舌に語る。
「たかがガキに、副騎士団長隊の監視がつくわけないだろ。少し考えたら分かることだ」
「ーーッ!!」
繋がれた両手で、ナイフを構え近づいてくる姿は、男には死が近づいているに等しい恐怖なんだろう。
もう、逃げる素振りすら見せない。
「…さぁ、お前で最後だ。人を殺しに来たんだから、もちろん殺される覚悟もーーして来たよな?」
そう、ナイフを振り上げたカナデにハッとし、駆け寄ろうと一歩を踏み出して、
「ーーば、けものがッ!」
詰まりながらも吐き出された怒号に、今まさに振り下ろそうとしていた腕がぴたりと静止した。
「ッ、ばけ、化け物がッ! なんで…なんでだよ! どうしてだ!! お前は俺ら側だろ!? なのにどうしてッ、あいつらだっ、て、殺す必要が、あ、あったのか!? それだけの力を持ってる癖に! この世界に復讐できる力を持ってる癖に! どうしてっ!! なんでだよッ!!」
はぁはぁと息を荒げ、言い切った男には、もう恐怖は残っていなかった。いや、恐怖が振り切ってしまったのだろう。耐えきれなくなったそれが爆発して、どうせ死ぬならと言葉を吐いてるに過ぎない。
男の発した言葉の殆どは八つ当たりに近かったが、それはきっとこの場の誰もが思ったこと。
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