52 / 162
episode3
王妃の腕輪
しおりを挟む
王妃の腕輪がバートリー家から返還され、王太子宮の宝物庫に納められた。
ミスティカ様の腕輪を殿下が見せて下さるというので、休みの日に王太子宮へと赴いた。
以前は建国祭で高まった土地の霊力と、レオノーラさんの願いの力で、一時的に姿を現していたミスティカ様は、今は力の大半を失い、宝石の中で眠っていてお話しすることも出来ないらしい。
私達の前に現れた人型のミスティカ様は、金色の髪に紅玉の瞳を持つ、とても美しい少女だった。ミスティカ様曰く、精霊としての力が弱まっているから幼い姿だったそうで、本来の姿は大人の女性とのこと。
(本来の姿のミスティカ様も見てみたいわ)
しかし殿下が呪文を紡いで宝物庫の堅牢な扉を開け、二人並んで中に進むとすぐに異変に気付かされた。
「!!?」
宝物庫の中には、以前にはなかった物達がこれでもかというほど、存在感を放っていた。
「ま、待って下さい!何ですかこれは!?」
「え、セシリアだけど?」
「分かってるわ!」
私は壁に飾られた数ある絵の中の一枚を指差し、声を上げた。
というのも宝物庫の中を進めば進むほど、色んな私の絵画が上質な額縁に収められて、壁に何枚も掛けられているのが嫌でも目に入る。それも年代順に並べられており、奥へ進むほどに年齢も進む。
全身が描かれているものもあれば胸から上のみの物、見返りの物、着飾ってドレスアップした物や普段着ドレスやら、実に多種多様に存在している。
「何で宝物庫の至る所に私の絵が飾られているのか聞きたいのですっ」
「ああ、セシリアの絵を飾るスペースがなくなってしまってね」
「へぇ……スペース…?」
「セシリアの絵を飾るだけの部屋に一面に飾っていたんだけど、とうとうその部屋のスペースがなくなってしまって、いくつかここに移動させたんだよ」
「…………」
部屋一面に私だと…?ではこの絵の数々はごく一部に過ぎないという事か。
「もう一部屋新たに飾り場所を増やしたいんだけど、どの部屋に移動させるか決め兼ねていてね、部屋が決まるまでの間は宝物庫に置いておく事にしたんだよ。そこらに置いてある物より、僕にはセシリアの絵の方が宝物だけどね。この見返りセシリアもとてもお気に入りの一枚なんだ」
うっとりと語っているが、貴重な品々や、各国からの献上品よりも絵の方が大事だと?
しかも部屋一面に私の絵を飾る部屋をまだ増やすつもりらしい。
幼少の頃からの婚約者である殿下には、確かに大切にして頂いてきた自覚はあるのだが、変態が発覚するまでは互いに穏やかな愛を育んでいると思っていた。
だが殿下の愛情は私が思っていたより大分重苦しい愛情なのではと、変態発覚と奇行の数々に気を取られすぎていてそこに目を向けていなかったが、最近になってようやく気付いた。
「ほら、これがミスティカの腕輪だよ。」
自分の絵に囲まれるという奇妙な体験をさせられ、完全に歩みと思考が止まってしまっていた。お陰で本来の目的である腕輪の事を忘れかけてしまっていた。
奥の石段に宝剣レーヴァンテインと共に置かれた腕輪は、年代物だが美しい金細工に、ミスティカ様の瞳の色と同じ、輝く紅玉が嵌められていた。
「王妃の腕輪という名称ですが、王妃様にお渡ししなくてもいいんですね?」
「レーヴァンテインは僕が受け継いだからここでいいんだよ、腕を出して。これは既にセシリアの物だよ」
確かにミスティカ様は対になるレーヴァンテインが側にないと力が弱まっていくとご自身がおっしゃっていた。レーヴァンテインの所有者が殿下だから、ミスティカ様の腕輪は現在私が継承するということか。
殿下に言われて恐る恐る腕を出す。
「僕の唯一のお妃様」
甘い笑みを湛えた殿下は腕輪をはめた方の私の手に口付けを落とす。そんな殿下とは対象的に、自分は仄かに複雑な思いが胸に宿ってしまった。
唯一……。
(殿下の唯一でいるためには、結婚後に王子を産んで差し上げないといけないわ…)
「…力が戻ったらまたミスティカ様にお会い出来ますよね?レーヴァンテインの方の精霊様にもいつかお会いしてみたいですわ」
「そうだね、その内会えるよ……その為に性魔術で僕の魔力をたっぷり注いであげるね」
(そうだった~!!!)
私がミスティカ様のお姿が視えるようになれたのは、殿下に魔力を注がれたからだった。
それも性魔術とかいう精を魔力に変換して私に注ぐといった方法で。
「セシリアが積極的で嬉しいな、もしかして精霊に会いたいというのは方便で、僕と今すぐに愛し合いたくて言っているのかな?」
「えっ!?違いますっ、魔力の受け渡しの事をすっかり忘れていただけです!!私ったら、ついうっかりしてしまいましたわ!」
焦りが前面に出てしまい、何だか無駄に声が大きくなる。
「恥ずかしがらなくて大丈夫だよ、そろそろお茶の時間にしようか?僕の部屋に用意させるよ」
(助けて襲われる!!)
はっきり違うと否定したのに、何でこういう時の殿下って無駄にポジティブなの!?
「お庭!お庭がいいです!久々に庭園でお茶が飲みたいなっ!!」
ミスティカ様を元あった場所に戻すと、逃げるようにして先に宝物庫から出た。そして通りがかった侍女に凄い剣幕で庭の東屋にお茶の用意を頼みこんだので、めちゃくちゃ喉が乾いてる人みたいになった。
ミスティカ様の腕輪を殿下が見せて下さるというので、休みの日に王太子宮へと赴いた。
以前は建国祭で高まった土地の霊力と、レオノーラさんの願いの力で、一時的に姿を現していたミスティカ様は、今は力の大半を失い、宝石の中で眠っていてお話しすることも出来ないらしい。
私達の前に現れた人型のミスティカ様は、金色の髪に紅玉の瞳を持つ、とても美しい少女だった。ミスティカ様曰く、精霊としての力が弱まっているから幼い姿だったそうで、本来の姿は大人の女性とのこと。
(本来の姿のミスティカ様も見てみたいわ)
しかし殿下が呪文を紡いで宝物庫の堅牢な扉を開け、二人並んで中に進むとすぐに異変に気付かされた。
「!!?」
宝物庫の中には、以前にはなかった物達がこれでもかというほど、存在感を放っていた。
「ま、待って下さい!何ですかこれは!?」
「え、セシリアだけど?」
「分かってるわ!」
私は壁に飾られた数ある絵の中の一枚を指差し、声を上げた。
というのも宝物庫の中を進めば進むほど、色んな私の絵画が上質な額縁に収められて、壁に何枚も掛けられているのが嫌でも目に入る。それも年代順に並べられており、奥へ進むほどに年齢も進む。
全身が描かれているものもあれば胸から上のみの物、見返りの物、着飾ってドレスアップした物や普段着ドレスやら、実に多種多様に存在している。
「何で宝物庫の至る所に私の絵が飾られているのか聞きたいのですっ」
「ああ、セシリアの絵を飾るスペースがなくなってしまってね」
「へぇ……スペース…?」
「セシリアの絵を飾るだけの部屋に一面に飾っていたんだけど、とうとうその部屋のスペースがなくなってしまって、いくつかここに移動させたんだよ」
「…………」
部屋一面に私だと…?ではこの絵の数々はごく一部に過ぎないという事か。
「もう一部屋新たに飾り場所を増やしたいんだけど、どの部屋に移動させるか決め兼ねていてね、部屋が決まるまでの間は宝物庫に置いておく事にしたんだよ。そこらに置いてある物より、僕にはセシリアの絵の方が宝物だけどね。この見返りセシリアもとてもお気に入りの一枚なんだ」
うっとりと語っているが、貴重な品々や、各国からの献上品よりも絵の方が大事だと?
しかも部屋一面に私の絵を飾る部屋をまだ増やすつもりらしい。
幼少の頃からの婚約者である殿下には、確かに大切にして頂いてきた自覚はあるのだが、変態が発覚するまでは互いに穏やかな愛を育んでいると思っていた。
だが殿下の愛情は私が思っていたより大分重苦しい愛情なのではと、変態発覚と奇行の数々に気を取られすぎていてそこに目を向けていなかったが、最近になってようやく気付いた。
「ほら、これがミスティカの腕輪だよ。」
自分の絵に囲まれるという奇妙な体験をさせられ、完全に歩みと思考が止まってしまっていた。お陰で本来の目的である腕輪の事を忘れかけてしまっていた。
奥の石段に宝剣レーヴァンテインと共に置かれた腕輪は、年代物だが美しい金細工に、ミスティカ様の瞳の色と同じ、輝く紅玉が嵌められていた。
「王妃の腕輪という名称ですが、王妃様にお渡ししなくてもいいんですね?」
「レーヴァンテインは僕が受け継いだからここでいいんだよ、腕を出して。これは既にセシリアの物だよ」
確かにミスティカ様は対になるレーヴァンテインが側にないと力が弱まっていくとご自身がおっしゃっていた。レーヴァンテインの所有者が殿下だから、ミスティカ様の腕輪は現在私が継承するということか。
殿下に言われて恐る恐る腕を出す。
「僕の唯一のお妃様」
甘い笑みを湛えた殿下は腕輪をはめた方の私の手に口付けを落とす。そんな殿下とは対象的に、自分は仄かに複雑な思いが胸に宿ってしまった。
唯一……。
(殿下の唯一でいるためには、結婚後に王子を産んで差し上げないといけないわ…)
「…力が戻ったらまたミスティカ様にお会い出来ますよね?レーヴァンテインの方の精霊様にもいつかお会いしてみたいですわ」
「そうだね、その内会えるよ……その為に性魔術で僕の魔力をたっぷり注いであげるね」
(そうだった~!!!)
私がミスティカ様のお姿が視えるようになれたのは、殿下に魔力を注がれたからだった。
それも性魔術とかいう精を魔力に変換して私に注ぐといった方法で。
「セシリアが積極的で嬉しいな、もしかして精霊に会いたいというのは方便で、僕と今すぐに愛し合いたくて言っているのかな?」
「えっ!?違いますっ、魔力の受け渡しの事をすっかり忘れていただけです!!私ったら、ついうっかりしてしまいましたわ!」
焦りが前面に出てしまい、何だか無駄に声が大きくなる。
「恥ずかしがらなくて大丈夫だよ、そろそろお茶の時間にしようか?僕の部屋に用意させるよ」
(助けて襲われる!!)
はっきり違うと否定したのに、何でこういう時の殿下って無駄にポジティブなの!?
「お庭!お庭がいいです!久々に庭園でお茶が飲みたいなっ!!」
ミスティカ様を元あった場所に戻すと、逃げるようにして先に宝物庫から出た。そして通りがかった侍女に凄い剣幕で庭の東屋にお茶の用意を頼みこんだので、めちゃくちゃ喉が乾いてる人みたいになった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
3,842
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる