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episode3
幼き思い★
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「いい子だね、たくさんイって疲れちゃった?」
殿下は眼を和らげ、くたりと横たわる私の頰や頭を愛おしそうに撫でてくる。
唇にキスを落とした直後、僅かに唇を離した距離で囁いてきた。
「セシリアは休んでいていいからね?」
見上げると上半身を起こした殿下は、下穿きの屹立を露出して目の前でそそり勃ったものを扱き始める。艶っぽい吐息が荒々しくなり、しばらくして盛大に私の胸と顔に射精した。
「………」
「全部飲まなくていいから少しだけ飲もうね?」
そう言いながら身体にかかっている僅かな精を指で掬って、口に運んできた。
「えっ」
「魔力に変換しておいたから……はぁっは……」
「ちょ、ちょっとまっ!」
「少しだけだから」
狼狽する私の口に興奮気味に指を突っ込んできて、そのまま指で舌を絡ませて蹂躙される。
「むぐー!」
涙目になりながら両手で殿下の腕を引き、急いで指を口から引っこ抜いて口早く捲し立てた。
「も、もう今日はこれ以上何もしませんからね!?終わりですから!」
早めに宣言しないと、何をされるか分からないという恐怖からくる真撃な訴えだった。
私とは対照的に落ち着いた殿下は優しく、そして何の含みなく微笑んだ。
「分かっているよ、セシリアのために我慢する。セシリアのためなら僕はこの泉のように湧き出る情欲を抑えよう」
(我慢!!我慢ですって!!?)
先日は学院で生徒会室に引き摺り込んできたり、先程のご乱心のあとに我慢と申すのですか!?
それにこちらは体力も精神力もごっそり無くなったのに、どんだけ元気なんですか!?
「この欲望を抑える事は簡単ではないけれど、愛しいセシリアのためなら僕は口だけでなく行動でしめせるんだよ。愛は押し付けるものではないからね、ああでもセシリアからの愛は全力で押し付けられたい」
「あ、そうですか。それはどうも…」
「そうだよ。身体を清めたらさっき選んだドレスを着せてあげよう」
清廉な眼差しで真っ直ぐに見つめながら言ってくるが、騙されてはいけない。やってる事はほぼ変質者だ。
◇
いつも通り殿下の手自ら身体を清めてくださり、選んだドレスを着せてくれた。
「とても似合っているね」
煌めくビーズが縫い付けられた上質な水色の絹のドレスは、空いた胸元がドレスから繋がるネックリボンで隠されているので可愛らしさと上品さを上手く演出している。七分丈の袖はチュール素材で腰にはドレスと同じ絹の布の薔薇の飾り、裾には繊細なレースにフリルが施されている。
姿見で全身を確認すると、やはりとても自分好みのデザインで、我ながら中々似合っていると思う。
殿下は似合いそうなドレスを用意していたと言っていたが、本当に私の事をよく見て理解してくれていると改めて思った。
これでは急ごしらえであり合わせのドレスを用意したどころか、元々今日ドレスを贈られる予定だったのだと思わせるほどしっくりきている。
殿下も全身を上から下まで眺めてくるが、その視線は甘い含みこそあれ、少しも不躾でないところが流石だ。変態の癖に。
ドレスに満足したところで、ふと私はこの寝室に来た時からずっと気になっていた、寝台の脇に置いてある黒紅の天鵞絨に覆われた何かに目を向けた。
「そういえばこれは何ですか?」
適度に配置されたセンスの良い調度品が配置されているこの寝室の中、何か分からないこの天鵞絨の物は異質だった。
「ああ、これ?」
殿下が覆っていた天鵞絨を取ると一枚の絵が姿を現した。
「何ですかこれは……?」
「セシリアだけど?」
「分かってるわっ」
何このやり取りデジャブ?
天鵞絨の下から現れたものは私が描かれた一枚の絵だった。
「何で私の子供の時の、しかも外で寝ている絵が寝台の脇に置いてあるのか聞いているのです」
「ああ、幼少の頃にセシリアと添い寝している気分になりたくて、ルーセント侯爵夫妻に頼み込んで画家を手配して描いてもらったんだ」
よく見れば絵の中に描かれている背景はウチの庭。そういえば子供の頃はよく庭で暴れ回った後にそのまま疲れきって庭で寝ていたなぁ。
侯爵庭の芝生の上でスヤスヤと眠っている様子がそのまま絵としてここに残っているとは。
幼少の頃の思慮深い微笑みを浮かべた、天使のような少年殿下が、私の寝姿を欲したと思えば微笑ましい気がするが、こうして立派なド変態へと成長を遂げた今となるとまた違った感想を抱いてしまう。
「誰にも見せたくないから、寝る時以外はこれで覆い隠しているんだよ。僕だけの物だからね。就寝時にこうやってセシリアの絵と一緒に眠るのが幼少の頃からの日課なんだ」
「へぇ……」
何年もの間、就寝時はこの絵と共に添い寝している妄想で眠っているですって?
何だか知らない事実がどんどん白日の元に。
しかも本人が知らないのに自分の両親が共犯ときた。
固まっている私に殿下が声をかける。
「この頃のセシリアもとても愛らしくてこの絵もお気に入りなんだけど、この際だからお願いしてもいいかな?」
(何だか嫌な予感が…)
「成長した今のセシリアの寝ている姿の絵が欲しいんだ。丁度良い女流絵師も見つかってね。男の絵師に僕のセシリアの夜着姿や寝顔を見せる訳にはいかないから見つかって良かったよ」
(げっ!?)
「この幼いセシリアと現在のセシリアの絵をローテーションさせながら、セシリアと添い寝している気分に浸って眠りたい」
(でた殿下の謎のローテーション!)
煌めく笑顔で言ってくるが、使用用途が小っ恥ずかしすぎて了承しかねる。更に「囲まれながら寝るのもいいな」とか呟やきだした。
「……殿下ってこの頃から…わ…私の事好きだったりしました……?」
何とか平静を保ちながらも無理矢理話題を変えてみたけれども、これはこれでちょっと恥ずかしいかもしれない。でも幼少の頃に私の絵を欲したという事は、その頃既に私に対して好意を持って下さっていたという事なのだろうか?そこは純粋な疑問でもあった。
「え、気付いてなかったの?」
殿下が意外だと言わんばかりの表情で目を丸くして見つめてくる。
私は長い間、婚約者としての義務を殿下は果たして下さっていると思っていたのだ。
次第に虚をつかれたような殿下の双眸が、慈しむような色に変わった。
「僕に澄まし顔で挨拶する姿も、大人にははにかんで挨拶する姿も、元気に遊ぶ姿も全部大好きだったし、真面目にお妃教育に励む姿や、苦手なダンスや裁縫を克服しようと努力する姿を見てもっともっと好きになった。でも、理屈じゃないんだ」
胸に手を当てると、誰もが魅了される完璧な造形美と涼やかな美声が熱を持った表情と声色になり、それが今自分にのみ向けられているという事実に胸が熱くなる。
「出会った時からずっと、そしてこれからもセシリアを心の底から愛してる」
殿下の言葉に自分から話題を振ったのにも関わらず、込み上げてきた甘く痺れを伴った熱が胸を満たして、言葉を失ってしまった。
殿下は眼を和らげ、くたりと横たわる私の頰や頭を愛おしそうに撫でてくる。
唇にキスを落とした直後、僅かに唇を離した距離で囁いてきた。
「セシリアは休んでいていいからね?」
見上げると上半身を起こした殿下は、下穿きの屹立を露出して目の前でそそり勃ったものを扱き始める。艶っぽい吐息が荒々しくなり、しばらくして盛大に私の胸と顔に射精した。
「………」
「全部飲まなくていいから少しだけ飲もうね?」
そう言いながら身体にかかっている僅かな精を指で掬って、口に運んできた。
「えっ」
「魔力に変換しておいたから……はぁっは……」
「ちょ、ちょっとまっ!」
「少しだけだから」
狼狽する私の口に興奮気味に指を突っ込んできて、そのまま指で舌を絡ませて蹂躙される。
「むぐー!」
涙目になりながら両手で殿下の腕を引き、急いで指を口から引っこ抜いて口早く捲し立てた。
「も、もう今日はこれ以上何もしませんからね!?終わりですから!」
早めに宣言しないと、何をされるか分からないという恐怖からくる真撃な訴えだった。
私とは対照的に落ち着いた殿下は優しく、そして何の含みなく微笑んだ。
「分かっているよ、セシリアのために我慢する。セシリアのためなら僕はこの泉のように湧き出る情欲を抑えよう」
(我慢!!我慢ですって!!?)
先日は学院で生徒会室に引き摺り込んできたり、先程のご乱心のあとに我慢と申すのですか!?
それにこちらは体力も精神力もごっそり無くなったのに、どんだけ元気なんですか!?
「この欲望を抑える事は簡単ではないけれど、愛しいセシリアのためなら僕は口だけでなく行動でしめせるんだよ。愛は押し付けるものではないからね、ああでもセシリアからの愛は全力で押し付けられたい」
「あ、そうですか。それはどうも…」
「そうだよ。身体を清めたらさっき選んだドレスを着せてあげよう」
清廉な眼差しで真っ直ぐに見つめながら言ってくるが、騙されてはいけない。やってる事はほぼ変質者だ。
◇
いつも通り殿下の手自ら身体を清めてくださり、選んだドレスを着せてくれた。
「とても似合っているね」
煌めくビーズが縫い付けられた上質な水色の絹のドレスは、空いた胸元がドレスから繋がるネックリボンで隠されているので可愛らしさと上品さを上手く演出している。七分丈の袖はチュール素材で腰にはドレスと同じ絹の布の薔薇の飾り、裾には繊細なレースにフリルが施されている。
姿見で全身を確認すると、やはりとても自分好みのデザインで、我ながら中々似合っていると思う。
殿下は似合いそうなドレスを用意していたと言っていたが、本当に私の事をよく見て理解してくれていると改めて思った。
これでは急ごしらえであり合わせのドレスを用意したどころか、元々今日ドレスを贈られる予定だったのだと思わせるほどしっくりきている。
殿下も全身を上から下まで眺めてくるが、その視線は甘い含みこそあれ、少しも不躾でないところが流石だ。変態の癖に。
ドレスに満足したところで、ふと私はこの寝室に来た時からずっと気になっていた、寝台の脇に置いてある黒紅の天鵞絨に覆われた何かに目を向けた。
「そういえばこれは何ですか?」
適度に配置されたセンスの良い調度品が配置されているこの寝室の中、何か分からないこの天鵞絨の物は異質だった。
「ああ、これ?」
殿下が覆っていた天鵞絨を取ると一枚の絵が姿を現した。
「何ですかこれは……?」
「セシリアだけど?」
「分かってるわっ」
何このやり取りデジャブ?
天鵞絨の下から現れたものは私が描かれた一枚の絵だった。
「何で私の子供の時の、しかも外で寝ている絵が寝台の脇に置いてあるのか聞いているのです」
「ああ、幼少の頃にセシリアと添い寝している気分になりたくて、ルーセント侯爵夫妻に頼み込んで画家を手配して描いてもらったんだ」
よく見れば絵の中に描かれている背景はウチの庭。そういえば子供の頃はよく庭で暴れ回った後にそのまま疲れきって庭で寝ていたなぁ。
侯爵庭の芝生の上でスヤスヤと眠っている様子がそのまま絵としてここに残っているとは。
幼少の頃の思慮深い微笑みを浮かべた、天使のような少年殿下が、私の寝姿を欲したと思えば微笑ましい気がするが、こうして立派なド変態へと成長を遂げた今となるとまた違った感想を抱いてしまう。
「誰にも見せたくないから、寝る時以外はこれで覆い隠しているんだよ。僕だけの物だからね。就寝時にこうやってセシリアの絵と一緒に眠るのが幼少の頃からの日課なんだ」
「へぇ……」
何年もの間、就寝時はこの絵と共に添い寝している妄想で眠っているですって?
何だか知らない事実がどんどん白日の元に。
しかも本人が知らないのに自分の両親が共犯ときた。
固まっている私に殿下が声をかける。
「この頃のセシリアもとても愛らしくてこの絵もお気に入りなんだけど、この際だからお願いしてもいいかな?」
(何だか嫌な予感が…)
「成長した今のセシリアの寝ている姿の絵が欲しいんだ。丁度良い女流絵師も見つかってね。男の絵師に僕のセシリアの夜着姿や寝顔を見せる訳にはいかないから見つかって良かったよ」
(げっ!?)
「この幼いセシリアと現在のセシリアの絵をローテーションさせながら、セシリアと添い寝している気分に浸って眠りたい」
(でた殿下の謎のローテーション!)
煌めく笑顔で言ってくるが、使用用途が小っ恥ずかしすぎて了承しかねる。更に「囲まれながら寝るのもいいな」とか呟やきだした。
「……殿下ってこの頃から…わ…私の事好きだったりしました……?」
何とか平静を保ちながらも無理矢理話題を変えてみたけれども、これはこれでちょっと恥ずかしいかもしれない。でも幼少の頃に私の絵を欲したという事は、その頃既に私に対して好意を持って下さっていたという事なのだろうか?そこは純粋な疑問でもあった。
「え、気付いてなかったの?」
殿下が意外だと言わんばかりの表情で目を丸くして見つめてくる。
私は長い間、婚約者としての義務を殿下は果たして下さっていると思っていたのだ。
次第に虚をつかれたような殿下の双眸が、慈しむような色に変わった。
「僕に澄まし顔で挨拶する姿も、大人にははにかんで挨拶する姿も、元気に遊ぶ姿も全部大好きだったし、真面目にお妃教育に励む姿や、苦手なダンスや裁縫を克服しようと努力する姿を見てもっともっと好きになった。でも、理屈じゃないんだ」
胸に手を当てると、誰もが魅了される完璧な造形美と涼やかな美声が熱を持った表情と声色になり、それが今自分にのみ向けられているという事実に胸が熱くなる。
「出会った時からずっと、そしてこれからもセシリアを心の底から愛してる」
殿下の言葉に自分から話題を振ったのにも関わらず、込み上げてきた甘く痺れを伴った熱が胸を満たして、言葉を失ってしまった。
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