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episode3
私の王子様
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次の日は流石に体力も回復したので、殿下と一緒に執務をこなす事にした。
王太子宮に滞在させて頂く際の居室にて、私は備え付けのテーブルで、殿下はもう一つ質の良い重厚な机を運び込んでそれぞれ書類を捌いていた。
お互いが黙々と執務をこなしつつも同じ空間にいる、というこの状況も好きな事に気が付いた。
そしてやはり少しでも殿下の助けになれていたらいいなと強く思う。
本日の明るい時間に改めて殿下が薔薇園の調査に行っている間にも、私は書類整理をしていた。
そうした時間を過ごしているうちに、しばらくしてから戻ってきた殿下は、分厚い紙の束を手にしていた。
「セシリア……これ……」
そしてその紙の束をおずおずと差し出して来たので、受け取ったそれに視線を落とす。
「追加の書類でしょうか?お任せ下さい」
「いや……」
殿下に頼られるのはとても嬉しい。
そう思って紙に目を通すと、延々とローゼンシアの歴史において子を為さなかった王や、その後即位した継承権を持つ者が即位後に成した功績などがつらつらと書き出されていた。
かと思いきや、他の紙を見るともし子が出来なかったら僕を不能という事にすればいいとか、側室を勧められた時の回避方法なども綴られている。
そして途中から殿下が、私の事をどれほど愛しているかという説明が夥しい量の文面で埋め尽くされていた。
「……」
(いや、そもそも結婚してあっさり王子が産まれたらこの遣り取り不毛すぎない??私のせいですね、はい、すみません)
そもそも私は子供の問題を心配したのではなく、単純に殿下とリアナ様が逢瀬をしているのかと勘違いした事による失言だった。
「……何でしょうかこれは?」
「えと、馬車内ですぐに言えなかった事を文字にしてみた…。あの時はあまりの衝撃で思考が停止してしまったから、当日部屋に戻ってから急いでこの手紙を書いて……」
「本当にすみませんでした!」
「僕が即座にちゃんと話を聞いて上げなかったから悪いんだ、セシリアは悪くないっ!セシリアを安心させようとすぐに手紙を書いて送ろうと思って、こんな量になってしまった。
でも、この手紙の束を送る事によって、逆にセシリアに気味悪がられたらどうしようと思ってしまって、でも内容を要約しようにもどの部分を抜粋すれば一番伝わるか、分からなくてすぐに渡せなかった」
(下着盗まないという配慮はないのに、この無駄に分厚い手紙の束を渡したら気味悪がられるかも、という配慮はあるの!?どんだけ不思議な思考してるのよ!!むしろ手紙が分厚いくらいで不満なんかないわよっ)
婚約者の使用済み下着をコレクションにしてる方が、遥かに不気味ですよと言いたいが口を噤んだ。
そうか、手紙の内容を考えすぎた結果が先日送ってきた、シンプルな手紙という事か。
もしかして睡眠時間を削ってまで、歴史書を引っ張り出して該当する人物や功績を書きだしていたのだろうか。
「私は直接話し合えて良かったと思います。
あと不能という事にすれば良いとか書かれてますけど、そんなにも性欲旺盛ですのに??」
そこじゃないっていう事は自分でも分かっているのだが、どうしてもこの部分を突っ込まずにはいられなかった。そんな私の疑問に殿下は答えてくれた。
「それと子供を成せるかはまた別なんだけどね」
「そうなのですか?」
まだまだこの分野においては、自分の知らない事が沢山あるようだ。
「男側に問題があったとしても、女性のせいにされる事が多いからね…」
「ところでクラウス様、こちらの紙の束は頂いてもよろしいのですか?」
「え、貰ってくれるの!?勿論セシリアに宛てた物だから大丈夫だよ!
あ、でも、重いって嫌がらない!?気味悪がらない?
死後の世界に行っても、産まれ変わっても一緒に居たいって書いてるけど、引かない?大丈夫?」
量が多くて見落としていたけど、そんな事も書いていたのか。
文字を追って探してみると確かに書いてあった。死後の世界も一緒に居たい。生まれ変わって、姿形が変わろうとも、と。
確かに一般的に言えば殿下の愛は重いのかもしれない。でも一般的なんて、他の方々の事は関係ない。
「別に重いなんて思いませんよ。死後も産まれ変わってもですか、何を今更。いつまでも何処迄もお供致します」
そう言った途端強く抱き締められ口付けられた。
変態なんて好みではないはずだった。
それでも今後、私の前に乙女が理想とする物語から出ててきたような、変態ではない完璧な王子様が現れたとしても、きっと私はときめかない。
私の王子様はこの方だけ。
この恋は理屈じゃない。
王太子宮に滞在させて頂く際の居室にて、私は備え付けのテーブルで、殿下はもう一つ質の良い重厚な机を運び込んでそれぞれ書類を捌いていた。
お互いが黙々と執務をこなしつつも同じ空間にいる、というこの状況も好きな事に気が付いた。
そしてやはり少しでも殿下の助けになれていたらいいなと強く思う。
本日の明るい時間に改めて殿下が薔薇園の調査に行っている間にも、私は書類整理をしていた。
そうした時間を過ごしているうちに、しばらくしてから戻ってきた殿下は、分厚い紙の束を手にしていた。
「セシリア……これ……」
そしてその紙の束をおずおずと差し出して来たので、受け取ったそれに視線を落とす。
「追加の書類でしょうか?お任せ下さい」
「いや……」
殿下に頼られるのはとても嬉しい。
そう思って紙に目を通すと、延々とローゼンシアの歴史において子を為さなかった王や、その後即位した継承権を持つ者が即位後に成した功績などがつらつらと書き出されていた。
かと思いきや、他の紙を見るともし子が出来なかったら僕を不能という事にすればいいとか、側室を勧められた時の回避方法なども綴られている。
そして途中から殿下が、私の事をどれほど愛しているかという説明が夥しい量の文面で埋め尽くされていた。
「……」
(いや、そもそも結婚してあっさり王子が産まれたらこの遣り取り不毛すぎない??私のせいですね、はい、すみません)
そもそも私は子供の問題を心配したのではなく、単純に殿下とリアナ様が逢瀬をしているのかと勘違いした事による失言だった。
「……何でしょうかこれは?」
「えと、馬車内ですぐに言えなかった事を文字にしてみた…。あの時はあまりの衝撃で思考が停止してしまったから、当日部屋に戻ってから急いでこの手紙を書いて……」
「本当にすみませんでした!」
「僕が即座にちゃんと話を聞いて上げなかったから悪いんだ、セシリアは悪くないっ!セシリアを安心させようとすぐに手紙を書いて送ろうと思って、こんな量になってしまった。
でも、この手紙の束を送る事によって、逆にセシリアに気味悪がられたらどうしようと思ってしまって、でも内容を要約しようにもどの部分を抜粋すれば一番伝わるか、分からなくてすぐに渡せなかった」
(下着盗まないという配慮はないのに、この無駄に分厚い手紙の束を渡したら気味悪がられるかも、という配慮はあるの!?どんだけ不思議な思考してるのよ!!むしろ手紙が分厚いくらいで不満なんかないわよっ)
婚約者の使用済み下着をコレクションにしてる方が、遥かに不気味ですよと言いたいが口を噤んだ。
そうか、手紙の内容を考えすぎた結果が先日送ってきた、シンプルな手紙という事か。
もしかして睡眠時間を削ってまで、歴史書を引っ張り出して該当する人物や功績を書きだしていたのだろうか。
「私は直接話し合えて良かったと思います。
あと不能という事にすれば良いとか書かれてますけど、そんなにも性欲旺盛ですのに??」
そこじゃないっていう事は自分でも分かっているのだが、どうしてもこの部分を突っ込まずにはいられなかった。そんな私の疑問に殿下は答えてくれた。
「それと子供を成せるかはまた別なんだけどね」
「そうなのですか?」
まだまだこの分野においては、自分の知らない事が沢山あるようだ。
「男側に問題があったとしても、女性のせいにされる事が多いからね…」
「ところでクラウス様、こちらの紙の束は頂いてもよろしいのですか?」
「え、貰ってくれるの!?勿論セシリアに宛てた物だから大丈夫だよ!
あ、でも、重いって嫌がらない!?気味悪がらない?
死後の世界に行っても、産まれ変わっても一緒に居たいって書いてるけど、引かない?大丈夫?」
量が多くて見落としていたけど、そんな事も書いていたのか。
文字を追って探してみると確かに書いてあった。死後の世界も一緒に居たい。生まれ変わって、姿形が変わろうとも、と。
確かに一般的に言えば殿下の愛は重いのかもしれない。でも一般的なんて、他の方々の事は関係ない。
「別に重いなんて思いませんよ。死後も産まれ変わってもですか、何を今更。いつまでも何処迄もお供致します」
そう言った途端強く抱き締められ口付けられた。
変態なんて好みではないはずだった。
それでも今後、私の前に乙女が理想とする物語から出ててきたような、変態ではない完璧な王子様が現れたとしても、きっと私はときめかない。
私の王子様はこの方だけ。
この恋は理屈じゃない。
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