転生王女は王国の愛され救世主

渡鳥紫苑

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1巻

1-3

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「というわけみたいですが、誤解は解けましたか?」

 サルーン様を振り向きながら問いかけると、呆気にとられていた顔を急に怒気をはらんだ表情に変えて立ち上がりました。

「この嘘つき駄犬だけんが! クリスタ王国の王宮に、獣人がいるわけないだろ!!」

 サルーン様が語気を荒らげながら、拳を振り上げました。
 そんな暴力を黙って見ている私ではありません。
 魔法で瞬時に《身体強化しんたいきょうか》を施し、その腕を掴みます。
 本当、人間の傲慢さって嫌になります。
 自分より弱い立場の人を作って好き勝手して……奴隷制度なんて本当はみんなにやめてほしいです。
 でも、他国の長い歴史のしがらみを断ち切るのは難しいでしょう。
 いつか我が国が大陸中に貢献できる何かを成す事ができたら、みんなも話を聞いてくれるかもしれません。
 サルーン様の腕を掴みながら、彼の瞳を真っ直ぐ見つめます。

「今回彼を連れてきたのは、なんのためですか? 意味もなく連れてきたんですか?」

 その問いにサルーン様は歯切れ悪く答えます。

「カイル殿下に見ていただこうと思って……」

 理由になっていない返答に呆れてしまいます。
 私の手から抜け出そうともがくのに一向に動かせないままの腕を、サルーン様は驚きの表情で見つめています。

「この場で、彼を私にお譲りください」
「はぁ?」

 サルーン様が間抜けな声を発しました。
 さすがに敬語使おう? と思わず呆れてしまいます。

「代わりに後ほどサルーン様がほしいと思う物を提供させていただきますから」
「ご存知ないのかもしれませんが、奴隷は奴隷印での契約をしているので、奴隷印の書き換えをしない限り権利譲渡はできませんよ?」
「常識ではそうですよね。でも、私は奴隷印を消せるので問題ありません」

 また全開の天使スマイルで、堂々と言ってやります。

「消す!? 奴隷印を!?」

 サルーン様が焦ったように、先ほどより大きい声を出します。
 理解できないのもしょうがないでしょう。
 今までの返答を聞いた限り、サルーン様はあんまり頭の回転が速くないと思いました。
 残念美少年だったのか……と思わず心の中で呟きます。
 そう、サルーン様は美少年です。
 こちらの世界の人々は、顔面偏差値が異様に高いです。
 そこもやっぱり異世界の定番なのかな? と考えます。
 奴隷印は何百年も前の力のある王様が作った魔法道具で付けられるもので、施されると一生消えない魔法とされています。
 これは私の大嫌いな《隷属れいぞく契約けいやく》の一種です。
 一度奴隷に落ちると、一生這い上がれないなんて辛すぎます。
 残念ながらクリスタ王国にも《隷属の契約》は存在します。
 わが国では、そのやり方や施される対象も奴隷印のそれとは違っていますが。
 獣人などの希少な種族は、かどわかされて無理矢理奴隷にされる事態が極々稀ごくごくまれにあるそうです。
 奴隷印には《力の誓約》や《服従の誓約》など様々な誓約魔法が付与されています。
 そんな魔法の印は、大きければ大きいほどその力は強くなります。
 主人が代われば、その度に奴隷印は新しく刻印されます。
 とはいえ、一方的に縛るだけの奴隷印なんて、私は魔法で消せちゃいます。
 それと、後々言いがかりなどをつけられないために、〝魔法契約書まほうけいやくしょ〟を作ってサルーン様にサインさせようと思います。
 この世界には、魔法契約書という、絶対に破れない契約書が存在します。
 この魔法契約を破れないのは、私が前世で契約書を交わしたらその約束を破れないと思っているイメージが強い事が影響しているのだと思っています。
 それだけ拘束力が強い大事な紙のため、書式が詳細に決まっています。
 私はいつでも使えるようにある程度記入しておいた紙を、マイかばんに常時用意しています。
 マイ鞄とは私だけが使える亜空間魔法道具で、容量無制限の便利鞄です。
 こちらを常に太ももに着けています。
 掴んでいた腕を離してサルーン様のサインをもらい、横を通り過ぎて獣人の少年に近づきます。
 怖がらせないように膝を地面について、ゆっくりと少年より低い位置から近づきます。
 ドレスの汚れなんて気にしていられません。
 この姿勢は、サルーン様達には考えられないものなのでしょう。
 息を止めて、口をあんぐりと開けて見ています。
 それでも私は人の目は気にせず、少年にゆっくり近づきます。
 目線は真っ直ぐ、相手の瞳から外さずに固定しながら。

『触れてもいい? あなたの傷を治させて?』

 ゆっくり自分の手のひらを彼の奴隷印が押されている胸に近づけます。
 血と汗で湿っている胸にゆっくりと触れて、魔力を慎重に流して奴隷印を消していきます。
 三つの異なる奴隷印が押されているとわかり、怒りで目の奥がチカチカします。
 こんな幼い少年が三回も奴隷印を押されたなんて頭がおかしいとしか思えません。
 奴隷印が消えた時、少年が私の腕に口を大きく広げて噛み付いてきました。
 ビックリしつつ、後ろに控えている騎士に、もう片方の手で平気だと合図します。

『大丈夫だよ。あなたを傷つけたりしないから』

 体にある痛々しい無数の傷を治しながら、安心してほしくて笑いかけます。
 少年にさらに近づくと、瘦せすぎて今にも折れそうな手足や、痛々しい複数の傷が鮮明になり、怒りがマグマのように湧いてくるのを感じました。
 その体は、食事をまともに与えられなかった事を如実に物語っています。
 私は怒りを抑え、彼を安心させるために微笑みながら沢山ある傷の治療を継続します。
 奴隷印があると、他人に危害を加えられなくなるので、少年は私に噛み付けた事に驚いたみたいでした。噛み付いたまま身動き一つしません。
 そんな時に私の腕から一筋の血が滴りました。
《防御シールド》があるのに傷を負わせられるなんて、子供でも顎の力が相当強いのだと感嘆してしまいます。
 あれ? このシーンって、小さい頃何度も見た、好きなアニメ映画の冒頭の名シーンに似ているなと場違いな感想を抱いてしまいます。

『怖くないよ。怯えていただけなんだよね』

 その言葉で、微動だにしなかった少年がゆっくり腕から口を離して、自分の歯形が残る傷を申し訳なさそうに舐めてくれました。その仕草が可愛すぎます。

『あなた、お名前は?』
『……駄犬』

 間を置いた後に、初めて獣人語で返答してくれました。
 いくら奴隷でも、名前が駄犬だなんて信じられません。

「彼はいつからサルーン様の所にいたのですか? 彼の名前はなんといいますか?」

 振り返ってサルーン様に問います。

「……確か、奴隷商人が連れてきたのは、一年ほど前だったと思います。それ以前の事は知らないです。私はずっと駄犬と呼んでいました」

 その返答に唖然としてしまいます。
 獣人を奴隷にするには、その身体能力の高さゆえに生後間もない時期でないと難しいと聞いていました。つまり、自分の名前も覚えていない時に奴隷にされたんだろうと思い至って、また怒りが湧き上がります。
 私は膝をついた姿勢のまま少し離れて、誠心誠意の謝罪の気持ちを込めて頭を下げます。
 この場の全員に聞いてほしいので、ここは共通語で話します。

「人族があなたに酷い事をして申し訳ありませんでした。心からの謝罪を……謝って許されるわけではありませんが」

 サルーン様達は引き続きポカーンと口を開けたまま私を見ています。亜人に頭を下げる王族なんて天地がひっくり返ってもありえないと思っている様子でした。

「あなたは自由になりました。どこに行ってもよいのですが、先立つ物がないのであれば、こちらの王宮で働いてみませんか?」
「……」

 少年は混乱しているようで返答がありません。
 少年は幼い頃から奴隷として過ごしていたために、色々この世界の事情がわかっていない可能性が高いです。
 普通であれば、獣人の子供は群れの中で、守られて大切に育てられます。
 獣人は群れで行動していて、何かの理由で産みの親が育てられない時は他の大人が世話をします。
 獣人の性質上、育児放棄などは考え難いです。

「先ほどおっしゃっていた、あなたと同族の方もここにはいますから、彼に話を聞いてからその後の事を決めるのでも結構ですよ……」

 その発言に、少年もサルーン様達も、驚いた表情をしました。
 サルーン様は今日表情筋の筋肉痛に見舞われるかもしれません。
 ずっと表情が大きく動いているのを見てそう推測しました。
 先ほどから気配のある、木の上に向かって私は声を掛けます。

「アーサー、下りてきてもらえますか?」

 木の上から、葉っぱと共に銀髪のニタニタ笑いの青年が下りてきました。

「お嬢、お呼びですかーー?」

 耳もなければ尻尾もない、どう見ても人族で、短い銀髪、銀色にも灰色にも見える瞳の顔立ちの整った青年です。

「お願いしてもいいですか? 指輪を外して、彼にあなたの本当の姿を見せてあげてほしいのですが」
「お嬢の頼みならしょうがないなぁーー」

 アーサーは大袈裟にため息をつくと、中指に嵌めていた銀色の指輪をヒョイッとみんなの前で取ってくれました。
 その瞬間、銀髪の中から同じ銀色の毛に包まれた耳と、腰の辺りから立派なフサフサの尻尾が出現しました。
 いつ見てもモフモフしたいです。今の状況も忘れて、ついフサフサ尻尾に目が釘付けになってしまいます。久しぶりにブラッシングしたい気持ちが溢れてきます。
 はっ! そんな場合じゃなかったと慌てて少年の方に視線を戻します。
 その時、私の横を黒い影が一瞬で通り過ぎます。
 気づけば少年がアーサーに思いっきり抱きついていました。
 よほど同族に会えたのが嬉しかったようです。

「チビ、大丈夫か?」

 アーサーが優しく彼の肩をさすっています。

「俺様、結構ムカついているからこいつらやっちゃってもいいですか?」

 アーサーは顔を上げると、サルーン様達を睨んで牙を見せます。
 実は彼のニタニタ笑いは、マジギレ中の表情です。
 そうです。アーサーは今マジギレ中です。
 色々思う事があっても木の上で見守っていたので、我慢の限界が近いみたいです。
 いきなりサルーン様達に襲いかかったら、どんな理由でもアーサーが悪者扱いされます。
 そんなの絶対嫌だから、私は頭を左右に振ってアーサーを止めます。
 とはいえ、私も怒りが限界に近いので、しっかりと瞳を見つめながら宣言します。

「アーサーの分も倍返しするので、ちょっとこの場は我慢してもらってもいいですか?」

 私もとても怒っています。
 これは王族の権力を発揮する案件です。
 しかし、それよりも先に、持っていた腕輪に魔法を施して少年に渡します。

「これはアーサーの指輪と同じ効果があります。馬鹿な人族にわずらわされないために、よかったら使ってください」

 少年は抱きついているアーサーの足から少し顔を離して振り返ると、赤くなった目を隠しながらその腕輪を受け取ってくれました。

「チビ、お前、名前がないならお嬢にとりあえずつけてもらえよ。名前がないと呼びにくいし、お嬢は名付けのプロだから」

 アーサー……勝手に名付けのハードルを上げないでもらいたいです。
 でも、ぜひ名付けしたいです。
 少年はアーサーの足に抱きつきながら頷いてくれました。
 私はゆっくり近寄りながら、優しくアーサーの足ごと彼を抱き締めます。

「名前は、テトはどうかしら? 夜空って意味なんだけど……あなたの素敵な黒毛にピッタリだなと思って」

 少年がゆっくりと頷いてくれました。了承をもらえて嬉しくなります。
 この世界の少数民族語で、テトは夜空という意味です。
 少年の容姿にちなんだ名で、ピッタリだと思います。
 ガリガリの小さな体を壊れないようにそっと抱き締めます。
 こんな小さな体で一体どれだけの悲劇を身に受けてきたのか考えると、目頭めがしらが熱くなります。
 テトの耳元でお願いして、触れている体に《読み取り》の魔法を発動して彼の痛みや、これまでの記憶を読み取ります。
《読み取り》の魔法は前世のサイコメトリーや走馬灯などのイメージの応用で考えました。
 強く印象に残っている出来事がスライドショーのように頭に浮かびます。
 あまり使用しないと決めているのですが、今回はこの後のために必要なので発動します。
 テトの感じてきた痛みや苦しみが、私の中に流れ込んできます。
 想像以上の苦痛に眉間にしわが寄って、足に力を入れないと立っていられません。
 テトは人族の私に抱きしめられて嫌悪感を覚えるだろうに、腕の中で大人しくしてくれています。場違いな感情ですが、その姿が言葉にできないくらい可愛いです。
 子供の獣人さんとお知り合いになれるなんて奇跡的です。
《読み取り》が終わったので、彼の事はアーサーに任せて、謁見の間に行くためにしぶしぶ離れます。
 そして、サルーン様とは、アーサーの事を他言しないように魔法契約書を交わしておきます。
 彼らにはこの後、〝撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ!!〟を体感してもらおうと思っています。
 まだ少年であるサルーン様なら、意識改革ができるかもしれないので、この機会に違う価値観に触れてもらおうと思います。



 4.意識改革しちゃいました 


 さてさて、先ほどの庭園から場所は変わって謁見の間です。
 他国の賓客ひんきゃくを招く場合や、一般の国民との面会が行われるその部屋は、中ほどに階段があり、長方形の空間です。
 そして沢山の人を収容できる十分な広さがあります。
 この謁見の間は、全体が白亜の大理石で作られています。とても豪華で華麗な空間です。
 ゴテゴテの装飾はなく、アクセントに国花である薔薇のモチーフが施されています。
 玉座にはお父様が座っています。
 その後ろには、ゆうに五メートルはあるクリスタ王国の国章のタペストリーが掛けられていて、お父様の威厳を感じさせる作りになっています。
 そのタペストリーを背景にして、玉座を囲むようにお母様、お兄様、私が並んで立っています。
 そこから少し離れて、我が国の大臣や宰相達が横並びに並んでいます。
 並ぶ前、遅れて謁見の間に入った私とサルーン様を見て、お父様達は瞬時に何かあったのだと察したようで、にやりと笑っていました。
 汚れていたドレスは魔法で元通りで、何も変なところはないはずなのに気づくなんて、さすがお父様達です。
 私達が入った時には、国同士の大事な話や貿易交渉はすでに終わっていて、和やかに談笑をしているところでした。
 サルーン様は後学のためという名目で来たはずなのに、貿易交渉に同席していないなんて、後学の意味がないのではないか? と今更ながら思ってしまいました。
 和やかな会話が続きますが、私のこのマグマのような怒りを収めるためには、建前ばかりの会話なんて今は論外です。これはもうしゃしゃり出るしかありません。
 一段落したであろうタイミングで、私は笑顔で挙手します。

「アレクサンダー国王にお願いしたい事があります。ワリード大使に私個人として、交渉をさせていただいてもよろしいですか?」

 お父様は私の顔を見ると優しく微笑みます。
 その笑顔はわけ知り顔で、きっとお父様には私の頭が、怒りでマグマのようになっている事はお見通しなのでしょう。
 生温かい笑顔のお母様とお兄様も、すでにわけを知っているみたいな顔をしています。
 そういう事であれば、もし私の行動が国際問題になりそうなら三人が上手く止めてくれるでしょう。

「ワリード大使が許可をしてくださるなら認めよう」

 お父様は頷きながらそう答えてくれました。
 ワリード大使は新緑の髪色の短髪のイケメンさんです。緑の髪とか素敵すぎます。
 ちなみにワリード大使もサルーン様も今はローブ姿ではありません。今はローブを脱いで、中に着ていたとても素敵な民族衣装です。
 ローブはマントのような用途で、サルーン様は謁見の間に入る時に衛兵に預けていました。
 ワリード大使が、他の使節団の面々と顔を合わせて頷き合っています。

「クリスタ王国の宝玉であるレイチェル様からのお話、ぜひ喜んでお聞きしたいと思います」
「ワリード大使、どうもありがとうございます」

 私はお父様にアイコンタクトをして、カーテシーをして玉座の前の階段を下ります。
 ワリード大使の目の前まで進み、手のひら大の麻袋をマイ鞄から取り出します。
 取り出したのは、とっておきのものです。

「こちら、アラーレ連合国のサハーラでも育つ〝いね〟という新種の農作物の種になります」

 その場にいる全ての人が息を呑んだのがわかりました。
 なぜなら、サハーラは作物が育たない不毛の地だからです。

「レイチェル様、サハーラは今や砂漠です。乾季が長くオアシスも少なく、作物を育てるというにはあまりに不適合だと思うのですが……」

 ワリード大使が不思議そうな顔で答えてくれます。

「それは十分承知しています。以前は緑もあった土地なのに、今は完全な砂漠ですよね。その地の方々はとてもお困りの事と存じます。そこでこの〝稲〟です。こちらは、太陽の光と極わずかな水のみで成長する作物になっています」

 ちなみにこの作物をこの世界の人が作れなかった理由は、光合成を知らなかったからだと推測しています。
 小学生の時に勉強した植物の光合成です。
 こちらの世界の小麦の品種改良をしている時にイメージして、魔法で作ってみました。
 大使達はそんな物が⁉ と驚愕しています。かたや我が国のメンバーは、またなんて物を作っているのだと苦笑いを浮かべています。
 アラーレ連合国の方々は、これが喉から手が出るほどほしいはずです。
 サハーラの砂漠化問題は近年深刻で、そこの民は居住区を移さないといけなくなっています。

「加えて、今回お渡しする種を植えると、その土地は砂漠の砂ではなく、生きた土に変わるように恩恵を与えてみました」

 これも植物が作り出した栄養の一部を、この作物から土に与えるイメージを施しました。
 ただこんなチートの物がこの世界に溢れたらまずいと思って、この袋の中の一世代限りの恩恵にしています。

「恩恵はこの世代だけですが、作物自体は植えれば何世代も育ちます」

 ワリード大使が喉を鳴らす音が、私の耳まで聞こえてきました。
 興味を持ってくれたみたいです。

「我が国としては、なんとしても手に入れたい一品ですね。して、その見返りとして我々に何を望まれるのでしょうか?」

 そう、これは交渉です。ほしい物があるからこそ、こうして交渉材料を見せたのです。
 ワリード大使は、こんな物を出されたら何を要求されるか、たまったものじゃないでしょう。

「三つ、私の願い事を聞いていただきたいです」

 私は仰々ぎょうぎょうしく指を三本立て、ワリード大使の目を見ます。

「まず一つ目、この交渉は私個人の取引であり、クリスタ王国とは関係ない、国同士の交渉ではない事を明記した魔法誓約書へのサイン。二つ目、合計二つ、みなさん全員に魔法をかけさせていただきたいです。人体に有害なものでも、誓約系のものでもありません。ある少年が受けた身体的な痛みをみなさんに一時的に体験していただくだけです。そして三つ目、一つ目の魔法を使った後に、私の話を少しの間聞いていただきたいです」

 みなさんは、ぽかんとした少し間抜けな表情をしています。
 意味がわからない内容に、どうしたらいいのか考えあぐねているようです。

「その二つ目の魔法はなんなのか先にお聞きしてもよろしいですか?」

 そうですよね……そうくるのは想定していました。

「《イリュージョン》という私が考えた魔法です。《夢を見せる》魔法と《同調》魔法で気持ちや感情を共有するものです」
「感情を伴う夢を見させる? そんな事が可能なのですか?」
「はい。説明してもよくわからないと思い、先ほどのような言い方になってしまいました。とりあえず危害を加えたりはしませんのでご安心を」

 ワリード大使は振り返ると、他の面々と真剣な顔で相談し始めました。
 その脇でサルーン様が床を凝視ぎょうししています。
 おーーい。どこ見ているの?
 しばらくするとワリード大使が私に向きなおり、片膝をつきました。

「レイチェル様を信じて、この取引、ぜひお願いしたく存じます」

 さすが、聡明そうめいなワリード大使です。意味不明な内容でも了承してくれました。
 私はマイ鞄から魔法誓約書を取り出し、サインしてもらいます。

「では、こちらの種をお渡しします。育てる際の注意事項は紙に記入しておきました。では、早速魔法をかけさせていただきますね。立ったままで大丈夫ですが、みなさん目を閉じてください」

 五十人ほどいるアラーレ連合国の方々がみんな目を閉じているのを確認し、魔法をかけようとすると、なぜかクリスタ王国の人々もみんな目を閉じている事に気づきました。
 えぇ⁉ 我が国の人達にもかけるの?
 お父様もお母様も、お兄様まで目を閉じています。
 私が戸惑うのをわかっていたのか、お父様が目を閉じたまま頷いています。
 もう知りませんと思いながら、謁見の間にいる目を閉じている人に限定して魔法を発動します。
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