ゴブリンロード

水鳥天

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本質

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 その場にいる全員がロードに注目する。ロードの仕草を不思議そうに眺める者もいればその意味をくみ取れる者もいた。

 そして次にユウト除く全員が注目の対象をユウトに移す。ユウトは急に向けられた視線に焦りを抑えられず目が泳いだ。

 ロードの願いにユウトの頭の中では様々な問題が渦巻く。これまでの自身の行動を振り返っても場当たりでどうやって生き延びるかだけを考え懸命に足掻いてきただけに過ぎなかった。最悪の事態へ陥ったとしても自身が死ねばことは丸く収まるさえ考えている。だからこそ無茶もできた。それを突然、自身以外の者にまで思考の手を伸ばすことができるかと尋ねられても、今のユウトには判断できない。思いもしなかった事態だった。

 ユウトは同族であると知らされたハイゴブリン達を見る。リナも四人の子供たちもユウトを見つめていた。ユウトから見てハイゴブリン達はまるでゴブリンに見えない。強いて言うなら肌、髪、瞳の色と耳の形状が人でない証になる程度だった。じっと見つめてくるそれぞれの表情に恐怖は感じられない。そして負けたくないという反抗の意思のようなものが見える気がした。

 情報処理と未来予測が間に合わない思考の中でユウトは思いがけず語り始める。

「オレは・・・正直どうしていいのかわからない。突然守って欲しいなんて頼まれたってオレに何ができるか見当もつかない」

 ユウトは今の心境を語る。次第に頭の中で渦巻く理性が機能しなくなっていくのが感じ取れるが、紡ぐ言葉を止められなくなっていた。

「でもオレは、目の前で懸命に生きようとしているものを見過ごせない」

 絞り出すように苦々しい表情でユウトは目線を床に落としながら語る。意識と無意識がぶつかり、せめぎ合って残ったほんの少しの希望を言葉にしていた。

「どうしようもないとしても、オレは助けたい。助けを求めて伸ばされた手なら、掴んでやりたい」

 ユウトはため込んだものを吐き出すかのように力強く立ち上がる。横に座るガラルドに向いて言葉を続けた。

「だからガラルド。オレはロードの願いを受け取りたいと思っている。これは、理屈じゃない。説明できない。感情の暴走かもしれないし。この身体のせいなのかもしれない。でもこの思いは確かなオレの意思だ!」

 ガラルドを正面にとらえてユウトの決死の思いは語られる。ガラルドは兜の奥から冷たい視線で立ち上がったユウトを見つめていた。

 そこにジヴァが語り掛ける。

「いいじゃないかガラルド。この件に関してロードと取引を行ったとしても我々の間にある契約には違反はないと保証しよう」

 ユウトの決意を後押しするようなジヴァの申し出を聞き、ガラルドはユウトから目線を外して誰もいない正面を向いて押し黙る。

 沈黙が流れる。ガラルドは呼吸を乱すこともなくこれまでに見せた怒りの感情の起伏も見せなかった。ユウトの頬に一筋の汗が流れる。さらに雨風が強まり枝葉のぶつかり合う音がガラルドの返答を待つユウトの心情を掻き立てた。

「オマエは人を襲ったことがあるか?」

 ガラルドはロードの方を向くと唐突に質問を投げかける。

「ない。その証拠を明示する術はないが」

 ロードは焦りを見せることなく淡々と答えた。

「返答はいつまで待てる?」
「いつでもかわまん。どんな返答だろうと我のすることに変わりはない。だた時間は少ない」

 ロードの答えを聞いてガラルドは小さく「そうか」と言葉を返す。

「俺の返答は明日には伝わるだろう」

 そう言ってガラルドは立ち上がるとリナの方へ向く。リナは不安そうにガラルドを椅子から見上げた。

「よく生きて戻った。その決断を俺は否定しない」

 ガラルドはそうリナに語る。それを聞いたリナは「はい」と答え目線を落とすとその目から涙があふれた。

「大工房に戻る」

 リナからヨーレンの方に向いたガラルドはそう告げると足早にその場から歩きだし、入ってきた扉へと向かう。ヨーレンはリナと目が合うと小さくうなずきガラルドに続いた。

 残ったユウトは黙ってジヴァと向き合う。ジヴァはユウトに反応した。

「なんだい?ユウト」

 張り付いたような笑みを浮かべるジヴァにユウトは眉間にしわを寄せて疑問を返す。

「何を企んでいる。契約の件についてガラルドに語る顔はいやらしいほど楽しそうだったぞ」
「おやおや。気づかれていたかい。何、すぐにわかるさ。フフッ」

 ジヴァは実に楽しそうに笑うと立ち上がる。

「せっかくだ。わしも久々に大工房へと顔を出そうかね。あんた達についていこうか」

 そう言いながらジヴァはユウトの前を通り過ぎ、ガラルドとヨーレンの後に続いて扉を出て行ってしまった。

 ジヴァの態度は極端に短い付き合いでもこれから予期できない事態が訪れるという予兆には十分で、ユウトの胸のざわめきと行動は高まる。ユウトも大工房に戻ろうと足を進めようとしたときリナが声を掛けてくる。

「あのっ、ユウトさん?でよかったかしら」
「え?あ、ああ。それで構わないよ」

 ユウトは足を止めてリナに向き直る。おしとやかな声にユウトはドキッとした。

「突然こんな話に巻き込んでしまってごめんなさい。さっきはああ言ってくれてとてもうれしかったわ。ありがとう」
「いや、まだお礼を言われるには早いよ。まだどう転ぶかオレには全くわからないから」

 ユウトは軽く自嘲しながら自らの自信のなさをごまかす。

「いいの。無茶をお願いしていることはわかってる。でももし、もう一つ私からのわがままを聞いてもらえるなら、レナを・・・どうかお願い。助けてあげて」

 少し身構えていたユウトはリナのわがままを聞いてふっと肩の力が抜ける気がした。

「うん。わかった。レナのことはオレの友達のセブルと一緒に気にかけておくよ」

 そう言ってユウトは手を軽く上げて挨拶する。そして先行したガラルド達の後を追って急ぎ足に部屋を去った。
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