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case2:螺旋工場の恋。アイツに処女を奪われる前に、脱DTしようとしただけなのに!
有限会社 大山工業
しおりを挟む ――郊外にその螺旋工場はあった。代表を務める大山榮は企業から受注を受けている新作ねじの最終調整をおこなっていた。今日は一日座って作業をしていたので肩がこる。
ううんと背伸びをしたところで、キンコンカーンコーンと昔ながらのチャイムが鳴る。今日はこれで終了だ。
「社長、お疲れさんでした!」
「おお、お疲れ、ミコト」
「お疲れさまでした」
「大地もお疲れさん」
大山工業の従業員は社長の榮を含めて3人。5年目の野田ミコトと1年目の三栗谷大地だ。この二人は高校からの同級生でもあった。普段はこの3人で螺旋の製造を行っているが、繁忙期に前社長である父に手伝ってもらっている状況だった。
「ミコト帰るぞ!」
「先帰ってて。俺ちょっと、社長に話がある」
「遅くなるなよ」
大地は声をかけて、工場の2階に続く階段を上る。カンカンと音を立てて上がっていくが、扉を閉める瞬間、榮とミコトを強くにらんだ。
(あいかわらずだな)
ミコトに対するこのド執着。傍から見れば息継ぎもできないほどの重さだと思うのに、ミコトはあっけらかんとしている。
「どうした、話って」
まさか退職を考えていないだろうな…と思いながら、榮は尋ねる。
「あの社長って昔、童貞キラーだったって聞いたんですけど」
「まあな…。ってなんで知ってるんだ?」
「この前の飲み会の時に、他の社長さんが社長がつぶれた後に教えてくれました」
「あいつらはまったく…」
かわいいミコトに何をおしえくれてるんだ。
この辺りは町工場が多い。幼馴染として育った者たちも親の後を継いでおり、彼らとたまに飲み会をするのだ。
――榮は今でこそくたびれた40代のおっさんだが、25歳で妻と結婚するまでは、まあ遊んでいた。男も女もいけるし、タチもネコもしていた。榮自身は平凡な顔をしているが、なかなか良いらしく、一時期『童貞キラー』と異名をとるほどだった。
幼馴染ということは当然そこら辺の事情も知っている。面白がって教えたのだろう。
「それがミコトに何か関係があるのか?」
「えっと、ですね…。その、俺を脱童貞させてくれませんか?」
「え、お前童貞なの?」
その顔の良さで?モデルのようなスタイルの良さで?髪の色素は薄く、目も薄いヘーゼルだが青みかかっている。ミコトの出生は少々複雑だ。幼い頃から養護施設で暮らし、高校卒業後と同時に大山工業に就職した。
『どっちかのひいじいちゃんが北欧の人で、隔世遺伝でなんかおれにでてきちゃったんですよね。まあ、目の色が気持ち悪いって捨てられましたけど』
あっけらかんと自分の出生を教えてくれた。
「大地には頼まないのか?」
「え、それって大地で脱童貞するってことですか?」
「違う、違う。そういう相手を紹介してもらえってこと」
んんっと顔を顰めた。
「何度か、合コンは連れて行ってくれましたけど、みんな大地目当てだし。あいつはあいつで女の子無視して、俺としか喋らないし、俺もう針のむしろで…」
まあ、普段の態度から見ればそうだろう。
大地との出会いは衝撃的だった。ばりっとしたリクルートスーツをきて、大山工業の前で仁王立ちしていたのだ。その堂々たる態度に、企業買収!?立ち退き!?と榮はビビった。
『なに、あの人恐い…』
ガクブルしている榮を心配し、様子を見に行ったミコトが驚いたように叫んだ。
『うわ、大地じゃん!何してんの!?』
『ミコト、俺はここに就職するぞ』
何が起こったのかと思ったほどだ。ちょうど新しく人を雇おうと思っていたので、ちょうどよかったことは良かったのだが…。大地の希望もあり、工場の二階でミコトと同居して住み込みではたらいている。
「一応マッチングアプリも登録して何度か女の子と会ったんです。でもなんでか大地が途中で合流するし、この前なんか、待ち合わせ場所に大地がいて、そのままデートすることになってしまって…」
「ああ、まあ。あの大地だもんな…」
高校時代に柔道学生日本一にもなったことがあるという立派な体格の持ち主だ。その上、顔も良い。当然モテるだろうに、大地はずっとミコトが好きなのだ。
(大地が一方的すぎるんだよな)
「そりゃ、あいつとは、昔から抜き合いっことかもしてきましたけど…。一戦は越えたくないっていうか。セフレならまあ耐えられそうなんですけど、あいつ本気になったら凄そうだし…。
――それに、最近は、あいつすぐに、俺のお尻の孔弄ってこようとするんです。正直、脱童貞の前に処女が奪われそうです」
「あ。そうなんだ」
そうだよな。20代の性欲がとめられるはずないよな。
「ちなみに弄られたって、どれくらい?」
「多分、指二本くらいは…。寝室も同じだから、布団潜り込んできてスマタだってしてくるし…。『ぶち込んでないんだからこれくらい我慢しろって』。
――だから社長、お願いです。社長のお尻で、脱童貞させてくれませんか?」
「いや…それは…」
「お願いします!」
土下座せんばかりの勢いに、ちらりと榮は2階を見る。するとやはり、覗き窓の隙間から大地が見下ろしていた。
ミコトのことを凝視している。
「仕方ない。若者たちのために一肌脱ぎますかねえ」
「ありがとうございます!」
やったー!とミコトは万歳をする。ミコトはかわいい従業員だが、大地も大切な仲間だ。ふたりには幸せになって欲しい。
その二人のためにこの老身を使わせてやろうと榮は意気込んだ。
ううんと背伸びをしたところで、キンコンカーンコーンと昔ながらのチャイムが鳴る。今日はこれで終了だ。
「社長、お疲れさんでした!」
「おお、お疲れ、ミコト」
「お疲れさまでした」
「大地もお疲れさん」
大山工業の従業員は社長の榮を含めて3人。5年目の野田ミコトと1年目の三栗谷大地だ。この二人は高校からの同級生でもあった。普段はこの3人で螺旋の製造を行っているが、繁忙期に前社長である父に手伝ってもらっている状況だった。
「ミコト帰るぞ!」
「先帰ってて。俺ちょっと、社長に話がある」
「遅くなるなよ」
大地は声をかけて、工場の2階に続く階段を上る。カンカンと音を立てて上がっていくが、扉を閉める瞬間、榮とミコトを強くにらんだ。
(あいかわらずだな)
ミコトに対するこのド執着。傍から見れば息継ぎもできないほどの重さだと思うのに、ミコトはあっけらかんとしている。
「どうした、話って」
まさか退職を考えていないだろうな…と思いながら、榮は尋ねる。
「あの社長って昔、童貞キラーだったって聞いたんですけど」
「まあな…。ってなんで知ってるんだ?」
「この前の飲み会の時に、他の社長さんが社長がつぶれた後に教えてくれました」
「あいつらはまったく…」
かわいいミコトに何をおしえくれてるんだ。
この辺りは町工場が多い。幼馴染として育った者たちも親の後を継いでおり、彼らとたまに飲み会をするのだ。
――榮は今でこそくたびれた40代のおっさんだが、25歳で妻と結婚するまでは、まあ遊んでいた。男も女もいけるし、タチもネコもしていた。榮自身は平凡な顔をしているが、なかなか良いらしく、一時期『童貞キラー』と異名をとるほどだった。
幼馴染ということは当然そこら辺の事情も知っている。面白がって教えたのだろう。
「それがミコトに何か関係があるのか?」
「えっと、ですね…。その、俺を脱童貞させてくれませんか?」
「え、お前童貞なの?」
その顔の良さで?モデルのようなスタイルの良さで?髪の色素は薄く、目も薄いヘーゼルだが青みかかっている。ミコトの出生は少々複雑だ。幼い頃から養護施設で暮らし、高校卒業後と同時に大山工業に就職した。
『どっちかのひいじいちゃんが北欧の人で、隔世遺伝でなんかおれにでてきちゃったんですよね。まあ、目の色が気持ち悪いって捨てられましたけど』
あっけらかんと自分の出生を教えてくれた。
「大地には頼まないのか?」
「え、それって大地で脱童貞するってことですか?」
「違う、違う。そういう相手を紹介してもらえってこと」
んんっと顔を顰めた。
「何度か、合コンは連れて行ってくれましたけど、みんな大地目当てだし。あいつはあいつで女の子無視して、俺としか喋らないし、俺もう針のむしろで…」
まあ、普段の態度から見ればそうだろう。
大地との出会いは衝撃的だった。ばりっとしたリクルートスーツをきて、大山工業の前で仁王立ちしていたのだ。その堂々たる態度に、企業買収!?立ち退き!?と榮はビビった。
『なに、あの人恐い…』
ガクブルしている榮を心配し、様子を見に行ったミコトが驚いたように叫んだ。
『うわ、大地じゃん!何してんの!?』
『ミコト、俺はここに就職するぞ』
何が起こったのかと思ったほどだ。ちょうど新しく人を雇おうと思っていたので、ちょうどよかったことは良かったのだが…。大地の希望もあり、工場の二階でミコトと同居して住み込みではたらいている。
「一応マッチングアプリも登録して何度か女の子と会ったんです。でもなんでか大地が途中で合流するし、この前なんか、待ち合わせ場所に大地がいて、そのままデートすることになってしまって…」
「ああ、まあ。あの大地だもんな…」
高校時代に柔道学生日本一にもなったことがあるという立派な体格の持ち主だ。その上、顔も良い。当然モテるだろうに、大地はずっとミコトが好きなのだ。
(大地が一方的すぎるんだよな)
「そりゃ、あいつとは、昔から抜き合いっことかもしてきましたけど…。一戦は越えたくないっていうか。セフレならまあ耐えられそうなんですけど、あいつ本気になったら凄そうだし…。
――それに、最近は、あいつすぐに、俺のお尻の孔弄ってこようとするんです。正直、脱童貞の前に処女が奪われそうです」
「あ。そうなんだ」
そうだよな。20代の性欲がとめられるはずないよな。
「ちなみに弄られたって、どれくらい?」
「多分、指二本くらいは…。寝室も同じだから、布団潜り込んできてスマタだってしてくるし…。『ぶち込んでないんだからこれくらい我慢しろって』。
――だから社長、お願いです。社長のお尻で、脱童貞させてくれませんか?」
「いや…それは…」
「お願いします!」
土下座せんばかりの勢いに、ちらりと榮は2階を見る。するとやはり、覗き窓の隙間から大地が見下ろしていた。
ミコトのことを凝視している。
「仕方ない。若者たちのために一肌脱ぎますかねえ」
「ありがとうございます!」
やったー!とミコトは万歳をする。ミコトはかわいい従業員だが、大地も大切な仲間だ。ふたりには幸せになって欲しい。
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