ノンケだった僕たちは…。～タチもネコも経験させられて～

case３：モブ竿俳優の俺が男の娘の彼氏役に抜擢されて…。

彼氏役に抜擢

　――紘(ひろ)はAV男優を数多く抱える株式会社【ブラックパンサー】に就職した。まだ若く経験も少ないこともあり、まだ撮影ではモブ役しかもらえない。もしくは清掃係である。清掃業者としても一流なのではないかと思うほど手際よく片付けが行われる。体液やらローションやら、そのほか諸々を掃除するのにもすっかり慣れたころ、社長室に呼ばれた。
「悪いな、忙しい時に」
　伝説のAV男優といわれる社長・筏は、がっしりとした肉体をソファに沈めていた。
「いえ、一本取り終わったあとなんで」
　午前中の撮影は、企画ものだった。女性社員がアダルトグッズを紹介し、客に扮した竿役俳優たちが辱めていくというものだ。撮影自体の雰囲気は明るかったが、なんせアダルトグッズがエグイ。スタンダードなものから、SMチックなもの、また空想上の怪獣のペニスを模倣したディルドなど、まさにＨＥＮＴＡＩだった。
　実際はみんなプロなので使用するにしてもあっさりとしたものであったが。
　AV女優の喘ぎも、AV男優のテクニックも、全てプロ仕様…。男として抱いていた夢は、初めての撮影で打ち砕かれた。
「紘、由愛(ゆめ)とは知り合いだったか？｣
「あ、はい。同期です｣
　由愛とは紘と同期のイケメンAV俳優だ。新人研修時より注目が高く、同期のAV女優達からも声を掛けられていた。同期入社で男性はふたりだけだったため、当初は仲が良かったのだが…。ある時から、由愛の方から距離を置くようになった。
　ちょうどその頃、女性向けAVの相手役に由愛は抜擢され、その後も立て続けに出演している。未だモブ竿役しかもられない紘との格差が広がってしまったのが原因だろう。
「由愛が今度、男の娘役でデビューするんだが｣
「へえ、男の娘って。えええ」
「意外と需要あるんだよ。男にも女にもな」
　BL系ドラマのヒットが近年続いている。その影響もあるのだろうか。
「まあ、由愛くん、イケメンですもんね」
　女装が似合うかどうかは分からないが、あの勝気な目は性別問わず惹きつけられるものがある。
「お前さ、彼氏役やらない？」
「彼氏役？」
「ほら、うちの事務所高齢化著しいのは知ってると思うけど」
「まあ、そうですね…」
　女性向け、男性向けでいえば、事務所は男性向けだ。対象年齢も３０代以上だ。そのため、企画ものや凌辱もの、プレイとしては激しいもので非現実的なものが多い。屈強な男たちが多く、４０代のおじさんAV男優が主力となっていた。
　｢『高校生の男の娘・由愛くん』で売り出すつもりなんだけどな。シチュレーションとしては、大好きな彼氏と一緒に電車にのって、そこでレイプされるっていう｣
「初めてにしては結構、ハードですね…」
　初心な反応が見たいという願望かもしれないが、元々女性が相手役にしてはきついのではないか。たしか、由愛は性的な趣向もノーマルなはずだ。
「まあそこは、ちょっとした由愛との駆け引きがあるんだが。どっちにしろ、彼氏役って考えると、お前以外に年齢的に会わないんだよ。お前、童顔だし学ランに似合ってただろ。ちょうどいい。出演してくれないか？」
「はあ、そういうことなら…」
　BL系は初めてだが、既にこの会社に染まってしまっている紘としては仕事の一環だ。メインが由愛ならば、相手役とはいえモブ役をするだけだろう。
　手当代もいつもの倍貰えるそうだ。そんな値段を提示されては、節約生活を送っている紘にとってはおいしい仕事だ。
　うきうきとした気分で紘は社長室を出る。その背をじっくりと社長が見つめていたことも知らずに。