儚く堕ちる白椿かな

椿木ガラシャ

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玖・終

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「おじいさまっ」





 思いもしない祖父の行動に雪人は驚くが、七種家の例に漏れず立派な体格の継一郎に叶うべくもなく、腕を後ろ手にひとつに掴まれてしまう。

 雪人は下着をはいていない。

 長襦袢の下は、常に何もまとっては居らず、着物の裾を捲り上げれば直ぐに、白い内股が覗けるのだった。

 継一郎によって、雪人の太股から尻が暴き出される。

 その白さに思わず息を飲み込んだのは、間直に雪人の肌を晒されている清一だけではなかったであろう。

 継一郎は、着物の裾を帯にたくし上げて止めると、白い尻の谷間に指を滑らせ、深く探った。





「おじいさま、やめてっ」



 雪人から悲鳴が上がる。

 指は蕾付近を彷徨い、割り入ったのだ。





「ヒ、あっ!」





 一ヶ月ぶりの異物の侵入に、雪人の掠れた声が漏れる。

 継一郎は、清一の目の前に、雪人の秘した部分を晒す。





「そなたが欲しかったのは、雪人であろう。雪人の『ここ』であろう?」





 男の指に開かれ、雪人の未だ淡い色は、外気に晒された為かヒクリと蠢いた。



「そなたは知らぬであろう。名器と呼ばれるまでに狂おしい雪人のこの部分を」



「否!」





 継一郎はそのヒクリと震えた内壁を撫でた。

 祖父の指で弄られ、雪人は胸を張り仰け反った。



 止まらない指に頭を振り、肩を揺らしたせいで、前が肌蹴る。

 白い肌が、徐々に露わになるさまは、麗しい雪人に相応しい風情だった。



 清一は乱れる雪人に、ごくりと唾を飲み込む。

 継一郎の言うとおりだ。雪人には幼い頃から淡い戀心を抱いていた。



 しかしその雪人が、屋敷の同じ血を持つ男たちに抱かれていると知って…先日、偶然なも襖の隙間から継保に抱かれている雪人を見て、衝撃で暫く呆然としていたものだ。

 片子の店に下宿している2週間の間にも、何度、隣で寝ている雪人を襲おうとしたか解からない。

 しかし、夢の中でも男たちに抱かれているのか、苦悶の声を上げる雪人に、自分は他の男たちとは違うのだと、解かって欲しかった。





 今となっては、それも、愚かな自制心だと笑うしかないが。





「雪人のこの部分を一度ならば、やっても良いぞ。ただし、そなたの死と引き換えにな」





 悪魔の囁きが、清一の耳元で響く。

 どうせ、このまま解放されても、おめおめと生き恥を晒す事になる。

 父や家族に責められ、世間からは馬鹿なことをしたと蔑みの目で見られ、愛しい雪人とは会うことさえ叶わないだろう。

 雪人と逢えないなど、地獄を歩くのと同じだ。



 何よりも、雪人を寵愛している男たちが、清一を許すとは思えない。

 間違いなく、『死』は間近に訪れているのだ。





 ならば一度だけ。

 死が訪れる前に、最上の至福を味わっても良いのではないか?



 清一は真っ直ぐに雪人を見据えた。その黒い眦には、迷いも戸惑いもない。

 あるのは、明確な雪人への情欲だった。



 継一郎は、滑稽だと言わんばかりに笑うと、雪人を片手で、清一の前に突き飛ばしたのだ。

 清一は転んだ雪人の足首を掴むと、己の体の下に引き摺り倒す。



 どこにそんな力が、残っていたのかと思うほどの機敏さで、雪人を包み、首筋の顔を埋めた。





「いやぁ…!」



「雪人!」





 雪人の悲鳴に思わず、傍観者であった一番年下の継保が清一を剥がそうとする。

 しかし、それを留めたのは、雪人を最も長く所有してきた継直の鋭い声であった。





「継保、やめなさい。雪人には、我々から逃げ出そうとした罰を与えなくてはいけない」





 雪人はもがく。

 清一の腕に爪を立てるが、返ってそれは、清一を喜ばせるだけだった。

 太い指が、雪人の尻の穴を弄くり、躊躇いもなく侵入する。

 どこか手馴れた継一郎の指とは違い、無骨に割り開かれ、雪人は苦悶の声を漏らす。



 吐息を漏らし咽を反らすが、視線の先に映った祖父が面白そうな顔をしているのを見、目尻に涙が溜まる。

 なぜ祖父が、清一を嗾けたのか理解ができない。

 雪人が悪いのならば、叱責してくれればいいのだ。

 なのに、なぜ、こんな…。

 清一は雪人の白い左足を持ち上げると、膝に抱え、足の指に舌を這わせた。

 指の間を擽られ、雪人はびくびくと震える。

 舌は甲から脹脛、膝へと流れ、太股にたどり着く。



 美しい雪人の全てを見たいと、欲望に支配された双眸は、言っていた。

 清一は、雪人の蕾へと目を落とす。

 男の視線に晒され、息をした蕾をさも愛しげにみやると、躊躇いもなく口付けた。





「はっ、いや…」





 舌に内壁を探られ、訪れる快感に胸が高鳴る。慣れた行為に、一ヶ月間、感じる事のなかった疼きが内から蘇ってくる。

 雪人は、疼きと滑る舌が否で、腰を振るが、それは自分から愛撫を強請っているようにしか見えなかった。

 太い指が舌と共に雪人の中を解す。





「うぁ…いやぁ、だめ…ぁあ…ああ!」





 清一は前を寛げると、己の怒張を取り出し雪人の蕾へと宛がった。

 怒張の先を宛てられただけで、その先っぽを飲み込もうと、蕾が独りでに開いた。



 清一はそれがまるで、雪人が誘っているかのように見得、腰を推し進めた。

 雪人は甲高い悲鳴を上げる。





 雪人を腕に抱きかかえ、一気に奥まで貫いた。

 体は揺さ振られ、かくかくと震える。しかししがみ付いて離れないのは、他ならぬ雪人の方であった。

 蕾は、清一の怒張に絡みついて、強く締め付ける。



 獣のように、雪人を喰らった。

 一瞬の隙間もないほどに、身体を絡ませると、雪人の赤い唇を吸い上げ、腰を抱きながら激しく突き上げた。



 雪人の嬌声が、引切り無しにあたりに響く。





「やぁ…!あ、つい…ふといっ…せー、いちっ。せいいち!…もっ、とぉ!」





 悩ましく、美しく響く声に、耐え切れなくなったのは誰であろう。





 男の中のひとりが、手に何かを持ってふたりに近づいた。



 清一と雪人は気付かない。

 狂乱に耽っているふたりは、お互いの存在にしか、感じる事ができなかった。



 大きく突き上げられ、雪人は一瞬息が止まる。

 無意識の内にきつく男の物を締め付けてしまうと、清一がうめき声を漏らす。



 ――そして。









パーン――









「あぁぁぁ!」





 鼓膜を破りそうなほど大きな音が響く。

 と同時に、雪人は、中に吐き出される清一の精液に慄き、嬌声を上げた。



 内壁を浸食する欲望の残滓を感じながら、雪人は硬く眼を閉じた。

 胸元に覆い被さってくる清一を雪人は薄っすらと薄い瞼を開け、見詰めるが、なぜか赤いものに覆われている。





「清、いち?」





 自分の胸元を覆うように顔を伏せているのは清一であるが、頭の半分がない。

 大量の血で埋め尽くされているそれが何か理解したとき、傍らに父の継直がいることに気付いた。





「…父さん?」





 父がピストルを持っていた。

 それが、清一の頭を打ち砕いたのだと、雪人でも解る。



 雪人が呆然としている間に、直倫が清一に近付き、雪人から引き剥がした。





「さっさと雪人からどけ。この、庶民風情が!」





 繋がっていた部分から、異物が引き出され、排泄感に思わず雪人は甘い吐息を上げる。

 清一が抜けた後、雪人の蕾からは残滓が溢れ出た。





「こんな男でも感じていたのか、お前はっ」





 それと直倫は、嘲るように見遣る。

 だが、投げられる言葉とは裏腹に、直倫は雪人を起こすと、その赤い唇を奪った。





「けど、俺もお前を見て、感じちまった」





 そういって未だ呆けている雪人の白い手を取ると、自分の下肢へと持っていく。

 雪人の手が触れたそこは、布越しでも解るほど確かに硬く膨らんでいた。





「来い、雪人。久しぶりに抱いてやるよ」





 直倫はそういうと、雪人を抱き上げようとする。

 雪人と触れ合えぬ一ヶ月は、辛いものだったのだ。



 しかしそれを、留めたのはまたもや、継一郎だった。





「またんか、直倫。後からお前にも好きなだけ抱かせてやる。だが先に、仕置きをせねばならん」





 そういうと、継一郎は孫たちを見た。





「継晴、継貴、継保。先に、お前たちが、雪人を抱いてやりなさい。雪人の躰に、七種家の男たちがどれだけ嫉妬深いか、教えてやれ」





 再び座敷牢の畳に寝かされた雪人は、躰に覆い被さってくる兄弟たちに、自由になり損ねた鳥の無残な末路を見たような気がした。





 ――着物を剥がされ纏うものがなくなったその姿は、羽根をもぎ取られた鳥と同じだった。



 縛られた腕は、掴まれた足は、折られ使い物にならない翼と同じだった。





 自由を掴み損ねた鳥は、一生籠の中で生きるしかないのだろう。

 羽根をもがれ、翼を折られ、飼い主の庇護の下でしか、生きる術は無い。





 ――雪人は、終わらない凌辱に嬌声を上げながら、七種家から逃げられない己の運命を、どこか遠くに感じていた。









終焉



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