妖シ杜

椿木ガラシャ

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鬼ノ伴侶

肆 ※

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 ――その夜も、阿栢は嬲られていた。実家・鉦家だけではなく、僧侶たちも一緒だ。
「はう、う…」
 酒を片手にしている男たちの前で、梁に紐を通して荒縄に躰を持ち上げられていた。
 脚は宙に浮き、腕も後ろ手に縛られている。しかも、尻の孔に異物を仕込まれていた。尻の孔から先が見え隠れするものをみて、男たちは厭らしく笑っていた。
「阿栢さま、もっと締め付けねば、落ちてしまいますぞ」
「ほらほら、折角御住職から頂いたありがたいものなのですから、もっと大事に」
 そういって、鉦家が指先で尻の孔から零れ落ちそうになっているものを指先で中に押し返した。
「ひ、いああ…つ、ぶれる…!」
 押し返されたせいで、中の物が擦れ、阿栢の弱い部分をも刺激する。
「そうそう、なんともいえない悦なお姿をしておられる」
「これならば、この卵を産んだ雉も悦びましょう」
 そう、阿栢は雉の卵を尻の孔に咥えさせられていた。一寸ほど卵を押し戻され、指が引き抜かれる瞬間壁をなぶられて、阿栢は喘いだ。
 酷い恰好だ。完全の男たちの慰み者として、弄ばれている。
 阿栢の媚態に耐え切れなくなった僧侶が立ち上がり、阿栢の内股を撫でた。そろりそろりと撫でて、阿栢の陰茎をいきなり掴み上げた。
「ああ、出る、う…」
 いきなりの刺激のせいで、中に押し戻されていた雉の卵が再び下がってきてしまった。
「阿栢さま、また出てきましたぞ」
 もう一人の僧侶も立ち上がり、阿栢に近づく。阿栢の尻の孔に手を添えて、先ほど実家がしたように卵を指先で押し返した。そのまま指先を食い込ませ、奥にある卵まで指先で突き、阿栢は内股を震えさせた。
 僧侶たちは一人が阿栢を責め、卵と落とさせようとし、もう一人が押し戻すという奇妙な遊びをしていた。
「ほれほれ、出してしまいなされ、阿栢さま」
「いやいやいかん。もう少し、卵を咥えていなされ」
 僧侶たちは笑いながら阿栢で遊んでいた。しかし徐々に熱が入り、阿栢の他の部分を弄んだ。卵を落とそうとする僧侶は、陰茎を口に含んで、陰嚢さえも嬲る。
 卵を押し返そうとする僧侶は、指で卵を転がしながら、阿栢の背筋を舌で舐め上げた。
 暫くして、勝負が付いた。
「俺の負けだ」
「あはは、諦めるか。それでは」
「ひあん!」
 鈴口を爪で抉られ、ついに阿栢は卵を産み落とした。
 ぽんと卵が排泄され、卵を押し返していた僧侶の掌に落とされる。掌であったため幸いにも、卵はつぶれることは無かったが、ころころと3個ほど飛び出てきた。
 僧侶はコロコロと掌で弄ぶ。面白そうに余興を眺めていた鉦家に、僧侶は卵を手渡した。
「おお、温まっている。よほど、阿栢さまの中が温かかったのでしょうな。この卵から雛がかえってしまったら、阿栢さまは本当の雛の母親になってしまいますな」
「お上手ですな、藤原どの」
 はははと男たちは笑い、阿栢は疲れたように頭を垂れた。
「しかし、その前に種付けをせねばなりませんな」
 後ろから攻めていた僧侶が、阿栢の腰を抱え、一物の先を蕾に擦り付ける。卵を飲み込んでいた蕾は、自ら一物を求め花開く。
 僧侶が腰を推し進めると、蕾は難なく亀頭を飲み込んだ。
 阿栢の躰が伸び、指先が震えていた。
 その時、屋敷内で異変が起こっていた。
 なにやら騒がしい。外の忙しなさに気が付いた一番若い鉦家が襖を開ける。
「どうかしたか、鉦家」
  実家が息子の様子に気付き、声をかける。
「いや、なにやら屋敷内が騒がしいように感じたのですが」
 鉦家が振り向いて父に顔を向けるが、襖に影が映る。その影に気づいたのは、阿栢を犯していた僧侶であった。
「うあああ!鬼だ!」
 叫び声に、他の者たちが振り返った。襖に影が映っている。一瞬、人間かと見間違えそうになるが、頭に角があり、体格も人間とは比べ物にならないほど大きい。
 影が部屋に長く伸び、怖ろしいほどの存在感を表す。
 阿栢もゆるゆると頭を上げる。
「百鬼…?」
 ――バタン!
 襖が倒されて、鬼が現れた。赤褐色の大柄の身体と、頭の角、豪奢な着物…阿栢が唯一知っている鬼が其処にいた。
「阿栢、迎えに来たぜ」
 百鬼が現れたことで、男たちが忙しなくなる。阿栢を犯していた僧侶たちは、驚いて阿栢から離れる。実家も腰を抜かし、屋敷の中にいる者たちに叫ぶ。
「誰かおらぬか!鬼が、鬼じゃ!」
 そんな中で、唯一気を保っていたのは一番若い鉦家だった。
「この、阿栢を陵辱した鬼め!」
「何が陵辱だ。貴様らよりましだ。阿栢を辱めているのは、どちらか」
「ふん、阿栢は幼い頃から俺が目をつけていたんだ。それを横取りしたのは、貴様であろう」 
 鉦家は百期に向かい立ちの切っ先を向けた。鋭い刃先がきらりと光り、血走った鉦家の目が写った。
「鉦家どの、やめてください…!百鬼どのは杜の主です。我々がかなう方ではありません」
 必死に懇願する。阿栢を取り戻しに来てくれた百鬼に対しても、阿栢は願い出る。
「百鬼どのもどうか…このまま、わたしを捨て置いてください」
「黙れ阿栢。お前は俺の伴侶だ。お前をどうするかは、俺が決める」
 百鬼の言葉に、阿栢は押し黙った。
「鬼の伴侶だと?笑わせてくれる」
「鉦家どの!」
 鉦家が太刀を振り上げる。振り上げて、百鬼の身に振り落とそうとするが、百鬼はその切っ先を自らの手で掴んだ。
「むう…」
 柄を持った両手が振るえ、鉦家は呻いた。百鬼はそのまま力で刃を折ってしまう。
 鉦家は刃を折られた衝撃で、そのまま壁に転がる。かなり大きな音がしたところを見ると、激しく身体を打ちつけたのだろう。
「くっ――」
 低いうめき声を上げて、鉦家は気を失った。
「うわああ!」
「逃げろ!!」
 それが合図だったように、へっぴり腰で百鬼を見ていた僧侶らは、急いで逃げ出した。鉦家の父である実家は既に逃げていた。息子が最後まで気位高く百鬼に向かっていたのに対し、何とも情けないことであった。
 僧侶らの姿を見送った百鬼は、縛り上げられたままの阿栢へ近づく。荒縄を解き、阿栢を床に降ろす。
 床に降ろされた阿栢は縛られていたせいで痺れている手足をゆっくりと広げた。その阿栢を見て、
「さあ、帰ろう阿栢」
 百鬼の誘いに、阿栢はしばし躊躇う。
 杜の主である百鬼を、杜を出て人間の住むところまで出てこさせてしまったのだ。その責任は、阿栢にある。
「あっ」
 次の瞬間、阿栢は百鬼の腕の中にいた。赤子のように抱き上げられ、腰と膝裏に百鬼の太い腕が回っている。戸惑っている阿栢などしらないように、百鬼は歩みだした。
 阿栢は慌ててしがみ付く。百鬼の太い首に手を伸ばし、振り落とされないようにしがみ付いたのだった。


 ――杜から人の居住地は、それほど離れていない。ましてや、鬼である百鬼の足となれば、さほど時間はかからなかった。
 杜に入った途端、阿栢は窪みのある樹の幹に寝かされてしまう。阿栢が驚き見上げる中、百鬼はごく当然と言った感じで、阿栢の膝頭を掴み、肢を開かせた。
 百鬼の太い指先が、阿栢の尻の肉を撫で、孔に添えられる。
「百鬼、どの…?」
 まさかと、慄く阿栢の細い腰を、百鬼が抱える。
「まって、あっ」
 尻の孔に指先が入り、遠慮なくかき回された。己以外の牡に嬲られていた痕跡を消し去ろうというように、容赦が無いほどだった。
 そして、百鬼の一物が阿栢の前に表れ、指に嬲られたせいで淡く花開いている、蕾へと付きたてた。
「手加減はできないと思え」
 ぞくっとするほど、低い情欲を孕んだ声であった。明らかな嫉妬と、肉欲…今まで、阿栢を翻弄するように抱いていた余裕は、まったく見受けられなかった。
「あ、あぁあ!」
 阿栢は嬌声を上げて、百鬼の怒張を受け入れた。太い亀頭が、阿栢の中を裂いていく。太い物は、男たちと比べ物にならない。様々な道具で犯されるよりも、更に深いところへと百鬼の一物が犯していく。
 阿栢は圧し掛かってくる百鬼の首に手を伸ばした。
「お前は、俺のものだ。阿栢っ。誰にも、渡さぬ」
 阿栢は耳元に囁かれる百鬼の、激情と独占を露にした声に、阿栢は打ち震えた。百鬼が阿栢を求めているのだ。最強の鬼として、恐れるものが何も無いはずの百鬼が、阿栢という人間をただ求めている。
 そして、阿栢も自ら求めた。
 囚われてしまったのだろう、阿栢も百鬼という存在に。
 果てしなく、激しく交わる。阿栢は見っとも無くも、足を百鬼の腰に巻きつけ自ら腰をゆすっていた。弱い部分を激しく抉られて、甲高い嬌声が引っ切り無しに響いた。
「ひゃ、っき…や、ん…もっと、きてぇ…」
「阿栢っ、阿栢」
 互いの指先はいつの間にか絡み合い、唇も深く交わしている。舌を絡め、熱いものを互いに与え合う。
 快楽を教え込まれただけではない、百鬼の灼熱の熱さを阿栢は求めていた。


 杜はゆるやかに時が流れる。百鬼が阿栢を連れ帰って以降、その杜に人がおとずれることはなくなった。杜そのものの存在を隠すように、更に奥深くへと鬼の支配する杜が移動したのだ。
 何時しか杜にも、ゆるやかな幸福が訪れるようになっていた。人の訪れることの無い杜で、唯一の人として阿栢は存在していた。
 百鬼は変わらず伴侶として阿栢を傍に置き、下にも置かぬ扱いをした。
 そして、阿栢も自らの存在を百鬼の伴侶として認め、末永く幸せに暮らしたとのことだった。
 妖し杜の、鬼と人間の物語だった。
 




 終焉
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