16 / 29
伴奏曲16
しおりを挟む
伏せていた写真たてを海原は手にする。
ひとは運命《さだめ》から逃《のが》れられない。すべては神の導きにある。
走り出すあずさの後ろ姿に海原は悲し気な笑みを浮かべる。
私はなぜ、生きているのだろうか。
「ジョン!」
あずさはジョンに気づくと手を大きく振る。
「私ね、病院を作ろうと思っているの。あと学校!」
ジョンは振り向かない。ただ黙々と働き続ける。
「メキシコは病院が無料。でも患者であふれ満足な治療が受けられない。だから、税金でどうにかならないかと思って」
小走りに息を荒げたあずさはジョンの腕をとった。
「この素晴らしい島を私は守りたい。餓死をする子供たちを私はほっとけない。ね、ジョン。日本にはね。給食があるの。この島にはたくさんの知識人がいるじゃない。だから私」
そこまで言い切ったところであずさは涙を拭った。
「親より先に死ぬのが親不孝なら、助けられるいのちだってあるってことでしょう?」
ジョンはあずさの腕を振り払った。
「余計なことをするな! 俺たちを暇つぶしの道具にする気か!!」
ジョンはあずさを突き飛ばした。
荒んだこころ。
あずさはジョンの痛みに触れてしまった。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃないの」
ジョンはあずさにこころを開こうとしない
。
「私ね」
「帰れ!!」
あずさはジョンの気迫に押される。
「私、絶対に負けないから!」
*
この島民たちのイベント。
安藤は見上げる険しい崖を上り崖の上に咲く花をとる。
「ふーん」
安藤はあずさが残した奇跡を前にして安藤は腕を組む。
崖から落ちてしまえば明らかに大怪我をする行事を不思議そうに眺める。
自分に縁のない行事だ。
島民らが集まり神父が見守る。
拳を振り上げたマースが勢いよく崖を上りだした。
「危険ですよね」
安藤が神父に尋ねると「恐怖を打ち消す。強い愛情は言葉では言い尽くせませんからね。試練。招待された結婚式を覚えていますか?」
安藤は小首を傾げる。
しばらく思案していたが、この島にいれば、あずさの軌跡をジクソーパズルのように拾い歩ける。
この出来事もなにかに繋がるかも知れない。
ひとは運命《さだめ》から逃《のが》れられない。すべては神の導きにある。
走り出すあずさの後ろ姿に海原は悲し気な笑みを浮かべる。
私はなぜ、生きているのだろうか。
「ジョン!」
あずさはジョンに気づくと手を大きく振る。
「私ね、病院を作ろうと思っているの。あと学校!」
ジョンは振り向かない。ただ黙々と働き続ける。
「メキシコは病院が無料。でも患者であふれ満足な治療が受けられない。だから、税金でどうにかならないかと思って」
小走りに息を荒げたあずさはジョンの腕をとった。
「この素晴らしい島を私は守りたい。餓死をする子供たちを私はほっとけない。ね、ジョン。日本にはね。給食があるの。この島にはたくさんの知識人がいるじゃない。だから私」
そこまで言い切ったところであずさは涙を拭った。
「親より先に死ぬのが親不孝なら、助けられるいのちだってあるってことでしょう?」
ジョンはあずさの腕を振り払った。
「余計なことをするな! 俺たちを暇つぶしの道具にする気か!!」
ジョンはあずさを突き飛ばした。
荒んだこころ。
あずさはジョンの痛みに触れてしまった。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃないの」
ジョンはあずさにこころを開こうとしない
。
「私ね」
「帰れ!!」
あずさはジョンの気迫に押される。
「私、絶対に負けないから!」
*
この島民たちのイベント。
安藤は見上げる険しい崖を上り崖の上に咲く花をとる。
「ふーん」
安藤はあずさが残した奇跡を前にして安藤は腕を組む。
崖から落ちてしまえば明らかに大怪我をする行事を不思議そうに眺める。
自分に縁のない行事だ。
島民らが集まり神父が見守る。
拳を振り上げたマースが勢いよく崖を上りだした。
「危険ですよね」
安藤が神父に尋ねると「恐怖を打ち消す。強い愛情は言葉では言い尽くせませんからね。試練。招待された結婚式を覚えていますか?」
安藤は小首を傾げる。
しばらく思案していたが、この島にいれば、あずさの軌跡をジクソーパズルのように拾い歩ける。
この出来事もなにかに繋がるかも知れない。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる