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第5章 学園騒乱

第34話 昼休みの一幕

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「頼むカズヤん!オレを弟子にしてくれ!」
「はぁっ!」

 昼休みに入り昼食を取ろうとした俺の前に来るや否や、いきなり座りこむと地に額を叩きつける我が友人。その見ていて色々な意味で痛そうな姿は、いわゆる土下座というやつだ。危うく箸を落としそうになるところをかろうじて防ぎ、驚きの声を口にした。

「ヒノシン・・・頼むから頭を上げてくれ。目立つ」
「あっ、悪い・・・」

 人目を避けてわざわざ校庭の隅まで来たのにこれは困る。人が少ないとは言えゼロではない。俺が周囲に視線を飛ばすと流石にヒノシンも気付いてくれた。

 立ち上がると埃を払い「この通りだ!」と今度は深々と頭をさげる。
 ヒノシンよ、俺に頼みたいことがあるのは分かるが食事を取る時に埃を払うのはやめてくれ。折角の料理に埃が被ってしまう。今日の弁当はリア特製なんだ。

「すっ、すまん」
「いや、いい・・・それより普通にしてくれ。目立つ」
「わかった。すまん」

 友はどうやら気づいでくれたらしい。それにしても謝ってばかりだな、ヒノシンは。もっとも俺は怒られてばかりだが・・・

「悪いが俺は弟子はとらん!」
『えっ!折角、弟弟子ができると思っていたのに』

 俺の発言に対して二頭身姿の“雷”の精霊コウが抗議の声をあげる。ちなみに先の戦闘で顕現して以来、ミウがくっついて離れないので召喚したままだ。
 そのあと、レイカまで出てきてコウの服を軽く摘み『私も心配したんだから』発言をしたものだから、軽く修羅場っていたりする。面白いので食事が終わるまではそのままにしておくつもりだ。

「コウ!俺はお前も弟子にしたつもりはない。久しぶりに顕現したんだ・・・、しばらく彼女らと話しているといい。よっ、色男!」

 コウに軽くデコピンをすると再びミウとレイカによって繰り広げられている“修羅場”に突っ返した。青と赤の争奪戦が再開される。

「待たせて悪かったなヒノシン」
「カズヤん・・・精霊三体もか?」
「いや、その話は今度な。それより弟子がどうとかはいいのか?」
「はっ!そうだオレを弟子にしてくれ!」

 再び頭を下げ出すヒノシン、しまった!振り出しにもどしてしまった。

「だから弟子はとらん!とらんが特訓には付き合う。これは俺の方から持ちかけるつもりだった。リアからも頼まれていたしな」
「それじゃあ!」

 顔を上げ小さな子供のように瞳を輝かせるヒノシンに俺は「わかったから落ち着け」とヒノシンの顔の前に両手を広げ制することにした。

「食事が済み次第、今日から開店するマジックショップで話そう。リアとナナクサさんも来ることになっている。取りあえずヒノシンも何か食え」
「おう」

 本当は昼食をリアと二人きりで取りたかったがあえて別行動にした。考えたくはないが、ナナクサさんを人質にとって良からぬことを例の三人組が企てる恐れもあったため彼女の側にはリアについていてもらうようにした。

 俺はリアが作ってくれた弁当をしっかりと味わってから向かうことにした。

☆★☆

「リアちゃん・・・それでトキノ君とはどこまで進んだの?」
「ナンノコト?」
「片言になっているよ」
「あ、う」

 昼食中、不意にユキちゃんからかけられた質問に背筋を伸ばして答えるわたし。
思わず片言になってしまいました。片目を閉じ、笑いかける仕草は可愛らしいのですが明らかに獲物を見つけた獣の目にしか見えません。
 わたしもカズヤの“彼女さんアピール“するつもりでいましたが面と向かって言われてしまいますと緊張してならないのです。

「えっと、言わないと・・・ダメ?」
「ダメ・・・・。心配させた罰!」

 わたしは近頃、ユキちゃんを遠ざけていました。
 カズヤの一件でわたし自身、塞ぎ込んでいたのもありますが、事件性を疑ったわたしはユキちゃんを巻き込まないように注意して距離を取っていました。
 大切な親友なのに・・・
そんな負い目がある以上、黙っているのは良くない気が次第に強まっていきます。

「わたしとカズヤはその、・・・付き合ってる、よ」
「どうやって付き合うようになったの?告白はどっち!何て答えたの!!」
「ユキちゃん、ちょっと落ち着いて!」

 前のめりになって興奮しながら撒くして照る親友の姿を見ていると、何だか幸せな気分になってきました。

「告白はカズヤから、だよ。『好きだ』って『ずっと一緒にいたい』って・・・」
「うんうん・・・それでリアちゃん、何て答えたの」
「『大好きです』って・・・」
「わぁぁ!、それで?他には何かなかったの?」
「『お嫁さんにして下さい』って・・・言っちゃった」
「キャー!リアちゃん凄い!プロポーズされて受けたんだ。トキノ君ヤルー!」
「あう・・・」

 食事が終わるまでの間、終始ユキちゃんは興奮し盛り上がるのに対して、わたしはみるみる赤くなって縮こまってしまうのでした。

☆★☆

「おっ!やっと来たか二人とも。それより何かあったのか?」
「別に~」

 リアとナナクサさんがようやく現れたので声をかけたが、明らかに様子が変だ。ナナクサさんはリアと俺を交互に見やり何やらニヤニヤしている。対してリアは終始俯き顔を見せようとしない。

 ?

 まっ、いっか。

 俺にヒノシン、リアとナナクサさんが合流し閑古鳥の鳴くマジックショップへ訪れた。学園を通しての伝達も宣伝も何もしていない。つい最近までは空きスペースだったそうだから無理もない。

 集まった四人に母さん、アリスさん、ナオヒトさんを加え話し合うことになった。
 ヒノシンとナナクサさんが母さん達を俺達の“姉さん”と勘違いしたことに、母親二人は上機嫌となった。ナナクサさんは「(若さの)秘訣を教えてください!」と思いっきり食い付いていた。

 さて・・・、事情を知らないヒノシンとナナクサさんには、俺が生き返った辺りは触れないようにして、襲われたことや事件性があること、例の三人組が関与しているでほぼ間違いないことを伝えた。
 連中は正面から正々堂々来るタイプではない以上、俺やリアの関係者は狙われる可能性が少なくない。親しい人なら尚更だ。自衛のためにも知ってもらう必要があるだろう。
 ヒノシンの心配は無さそうだが、ナナクサさんには護身用の魔法道具を後で作って渡すことにしよう。リアの了承済みだ。

 次に三人組の正体について、クラスメートだったことには驚かれた、というより俺とリアは怒られた。「どうして、授業前に会った時に言わなかったか」と。
 三対三の勝負について三人目については保留とした。母さんはヒカリを強く推したが中等部の妹を駆り出すのはやはり躊躇われる。ナナクサさんも当然外れる。

 となると、最後の本題

「カズヤ君、今日の放課後、探索エリアの人気ひとけの無い所に連れて行ってくれとは随分、急だね?学園の模擬戦闘場では駄目なのかい?」
「学園の結界の特殊な仕様が邪魔なんですよ。ヒノシンと特訓するのには探索エリアの方が都合がいいんです。学生のみで侵入可能な場所にはそういう場所が無いみたいですので・・・」

 以前、ナオヒトさんが俺と探索エリアを巡りたい、と話していたことを思い出し探索エリアへの同行を頼みこんでいた。B級ライセンス持ちのナオヒトさんが一緒であれば俺達だけでは入れない場所にも立ち入りが許可される。
 是非、協力を得たいところだが、肝心のナオヒトさんは困った顔を浮かべている。嫌というわけではないけど別の理由があるような雰囲気だ。

「ぼくも一緒に行きたいのは山々なんだけど、仕事があるから定時までは動けないんだ。事前に申請していれば良かったんだけどね。仕事の時間が終わるまで待っていてくれないか?」

 ナオヒトさんは社会人だ。自分の生活もある。仕事が終わるまでは装備の手入れや情報整理に集中するしかないようだ。

「あら、それなら行ってきていいわよ」

 その空気を打ち破ったのはアリスさんだった。

「しかし、店長!それでは・・・」
「気にする必要ないわよ。勤務の範囲内にしておくし、手当が出るようにも申請しておいてあげるから」

 アリスさんは「何なら残業手当も出るようにしておくわよ!」と口にする。ナオヒトさんの目が光ったような気がした。

「店長!本当にいいんですね!後で“なし”なんてないですよね!?」
「そんなことしないわよ。元々、シラナギ君には販売員だけでなく、学園生に同行して探索エリアに向かうサービスも検討していたでしょ。その試験も兼ねてということにするつもり。仮に認められなかった場合、正式に私からの依頼クエストにするけど・・・どう?」

「ママ、格好いい!」
「アリス、そういうところ相変わらずね」

 悩めるナオヒトさんにアリスさんは正当な理由を述べ不可能を可能にした。リアも喜び、母さんも呆れ顔ながら嬉しそうだ。ナナクサさんとヒノシンはついて行けず置いていかれている。

「もちろん!私も付いて行くけどね!サヤカも来るでしょ!」

 コクリと母さんも頷き、休み時間はお開きとなった。

 放課後の出来次第で三人目が決まる。
気になることがあったんだ。そっと『アナライズ・アイ』でヒノシンを見た時に表示されたあの称号・・・

称号技能
眠れる勇者:勇者としての力には目覚めているが、完全に目覚めてはいない者に与えられる称号



 ヒノシンは化けるかもしれない。
 ライバルという名の親友を得られるかもしれない喜びに俺は震えていた。
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