異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ

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第六話 失いたくないもの

 あれからアキラは穏やかな日々を送っていた。
 朝はロウと食事をして、昼は屋敷の中や庭を探索。気づけば甘いお菓子をもらっている。執務中のロウの隣で本を読んでいるだけの日もあった。
 ロウは優しい。忙しい身でありながらアキラのために時間を作ったり、難しい報告書に目を通しながらでも、問いかければ必ず手を止めて向き合ってくれる。
 アキラはそんな日々が幸せだった。
 ──だからこそ。
 それは、あまりにも突然だった。



「アキラ様……?どこです?」

 ルシアの声がする。

「ここにいるけど?」
「アキラ様!アキラ様!……大変……!ロウ様に知らせなきゃ……っ」

 ルシアは大慌てで寝室を出て行く。
 「え?」とアキラはベッドの上で首を傾げた。まるで自分が見えていないかのような反応だった。
 アキラはふと自分の手を見る。

 ──あれ?

 掌の輪郭がぼんやりとして、透けて見える。指先を見つめると、向こうの机の上の書類がくっきりと透けて見えるではないか。

「……え?」

 アキラは慌てて立ち上がった。
 手だけじゃない。体全体が透けている。 

「嘘……だろ……?」

 まるで風に溶けてしまうように。よく見れば輪郭はわずかに分かるが、パッと見ては分からない状態になっていた。

 (まさか……)

 その時、ある事が頭に過った。これは元の世界に戻る前兆かもしれない。
 胸が張り裂けそうになる。その時、突き破るようにロウが扉を開けて入ってきた。

「アキラッ!!」

 ロウの大きな耳がぴくりと動く。焦った表情でアキラを探す。

「アキラ……!?どこにいるんだ!」
「ロウ!」
「そこにいるのか……?」
「うん、ここだよ」

 アキラは透明になった手を伸ばす。ロウの鋭い瞳が、愛しい人を必死で探す悲しみに満ちている。

「アキラ……元の世界に、戻るのか……?」
「分からない……でも、体が透けてるってことは多分……」
「行かないでくれ」
「ロウ……」

 聞いたことのないロウの悲痛な声に、アキラは泣きたくなった。
 自分でもどうしたらいいかわからない。なぜ急に透明になったのか。こちらへ来るときも突然だったから帰るときも突然って事なのか……?
 ロウとはもうお別れってこと?
 そんなの嫌だ。

「俺……ロウの側にいたい……一緒にいたいよ」

 アキラは涙声で、透明な体を震わせながら訴えた。
 ロウは透明になったアキラを優しく包み込む。
 ロウの目に涙が光る。大きな背中を揺らしながら、アキラを強く抱き締める。離したくない。お別れなんて考えたくもない。もし本当に神がいるのなら、俺からアキラを奪わないでくれ──そう強く願った次の瞬間、アキラの体に温かさが戻った。色が、輪郭が、ゆっくりと戻っていくのがわかる。

「アキラ……?体が……!」

 アキラは手を伸ばして自分の腕を確かめる。肌の感触が戻り、はっきりと見えるではないか。

「透明じゃない!?治った!?」
「ああ、」

 ロウは嗚咽混じりに涙をこぼす。大きな手でアキラの背中を抱き締め、肩を震わせた。

「良かった……本当に……」

 アキラは震える手でロウの広い背中をポンポンと撫でた。

「泣くなよ」

 小さな声で笑いながら、ロウは涙を拭く。

「愛してる、アキラ」

 アキラは胸がぎゅっとなる。少しの沈黙の後、唇を震わせ口を開く。

「俺も、たぶん、愛してるんだと思う……お前のこと……」

 抱き合った二人の間に、静かな幸福が広がる。もう離れることはない。愛しい人と共に過ごす日々。それは、誰にも壊せない二人だけの時間だった。

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