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屋敷に着くなり、アルベルトは迷うことなくルカの手枷と足枷を外した。
金属が床に落ちる、乾いた音。
それを合図にするように、ルカの肩からふっと力が抜ける。
「疲れただろう。ゆっくり休むといい」
そう言って案内したのは、屋敷の奥まった廊下に面した一室だった。
扉を開けると、柔らかな灯りに照らされた寝台と、最低限ながらも上質な調度品が整然と並んでいる。
「ここが君の部屋だ」
ルカが一瞬、目を見開く。
それから部屋の中を見回し、扉の位置を確かめるように視線を滑らせ──やがて、すぐ隣の部屋に繋がっていることに気が付いた。
「……近いな」
「俺の寝室の隣だ。何かあったら、すぐ分かるだろう?」
「ふうん……監視付きってわけね……」
ルカはそう言うと部屋に足を踏み入れた。──その直後だった。
「……っ」
ふらり、と身体が揺れる。
アルベルトが声をかけるより早く、ルカはふらふらとおぼつかない足取りで、ベッドの縁に腰を落としていた。
顔色が明らかに悪い。
もともと白い肌が、さらに血の気を失い、呼吸も浅くなっている。
──やはり。
アルベルトはオークション会場にいた時から、彼が弱っていることに気づいていた。
反抗的な態度の裏で、体力が限界に近いことを、見逃すほど鈍くはない。
「大丈夫か」
ルカは答えず、ベッドに座ったまま、ぼんやりとした目で部屋を見回している。
逃げ場を探しているようでもあり、それ以上に、現状をうまく飲み込めずにいるようにも見えた。
やがて、その視線がアルベルトへと向けられる。
じっと見つめてくる紅い瞳は、警戒と戸惑いが入り混じり、何か言いたげだった。
アルベルトは一瞬、言葉を選ぶように沈黙し、それから静かに口を開く。
「……俺の血を飲めば、その体調不良は良くなるか?」
その一言に、ルカははっきりと目を見開いた。
視線はアルベルトの整った顔から、太い首元へと滑り落ちる。
健康で、力に満ちた体──それは、吸血鬼にとって抗いがたい誘惑だ。
ごくり、と細い喉が上下する。
「もちろん、君が望むなら、だが……」
「ッ……」
次の瞬間、ルカは衝動的にアルベルトの逞しい首へ腕を回していた。
吐息が近く、熱を帯びて肌に触れる。
「……良い香り……♡」
うっとりとした表情で見上げてくるルカに、アルベルトは一瞬だけ言葉を失うのだった。
チクリとした痛みの直後、快楽にも似た感覚がじわりと広がった。
首元に伝わる温もりと、ゆっくりと血を吸われる感覚に、アルベルトは思わず息を整える。
「ん……く……んく……♡」
ルカはまるで味を確かめるように、時間をかけて吸っている。
本当に吸血鬼なのだな、と今さらのように思いながら、アルベルトは無意識のうちに、蜂蜜色の髪をそっと撫でていた。
「……美味いか?」
問いかけると、ルカは小さく喉を鳴らし──
「ん……♡ ぷはぁ……♡」
名残惜しそうに口を離す。
唇についた血を、舌先でぺろりと舐め取るその仕草は、あまりにも妖艶で。
──まずい。
胸の奥が熱を帯び、このまま抱き寄せて押し倒してしまいたい衝動が湧き上がる。アルベルトはそれを必死に抑え、名残を断ち切るように、そっとルカの体を引き離した。
「……少しは元気になったようだな。さっきより、顔色がいい」
ルカは一瞬きょとんとした後、視線を伏せる。
「……ありがとう」
素直なその一言に、アルベルトは微笑んだ。
「おやすみ」
それだけを告げると、彼は迷いなく身を屈め、その無防備な額へとキスをした。
「……っ!?」
驚くルカを残し、アルベルトは部屋を後にした。
──パタン。
扉が閉まる音がして、ようやくルカから声が漏れた。
「今、キス……された?」
じわじわと熱が顔に集まってくるのを自覚し、慌てたように額へ手を当てた。
「変なやつ……」
小さく呟く声は、どこか落ち着かない。
額にキスなんて、そんなことをされたのは、物心ついてからは親以外にいない。
撫でる指先に、まだ微かに温もりが残っている気がして、ルカはますます顔を赤くした。
金属が床に落ちる、乾いた音。
それを合図にするように、ルカの肩からふっと力が抜ける。
「疲れただろう。ゆっくり休むといい」
そう言って案内したのは、屋敷の奥まった廊下に面した一室だった。
扉を開けると、柔らかな灯りに照らされた寝台と、最低限ながらも上質な調度品が整然と並んでいる。
「ここが君の部屋だ」
ルカが一瞬、目を見開く。
それから部屋の中を見回し、扉の位置を確かめるように視線を滑らせ──やがて、すぐ隣の部屋に繋がっていることに気が付いた。
「……近いな」
「俺の寝室の隣だ。何かあったら、すぐ分かるだろう?」
「ふうん……監視付きってわけね……」
ルカはそう言うと部屋に足を踏み入れた。──その直後だった。
「……っ」
ふらり、と身体が揺れる。
アルベルトが声をかけるより早く、ルカはふらふらとおぼつかない足取りで、ベッドの縁に腰を落としていた。
顔色が明らかに悪い。
もともと白い肌が、さらに血の気を失い、呼吸も浅くなっている。
──やはり。
アルベルトはオークション会場にいた時から、彼が弱っていることに気づいていた。
反抗的な態度の裏で、体力が限界に近いことを、見逃すほど鈍くはない。
「大丈夫か」
ルカは答えず、ベッドに座ったまま、ぼんやりとした目で部屋を見回している。
逃げ場を探しているようでもあり、それ以上に、現状をうまく飲み込めずにいるようにも見えた。
やがて、その視線がアルベルトへと向けられる。
じっと見つめてくる紅い瞳は、警戒と戸惑いが入り混じり、何か言いたげだった。
アルベルトは一瞬、言葉を選ぶように沈黙し、それから静かに口を開く。
「……俺の血を飲めば、その体調不良は良くなるか?」
その一言に、ルカははっきりと目を見開いた。
視線はアルベルトの整った顔から、太い首元へと滑り落ちる。
健康で、力に満ちた体──それは、吸血鬼にとって抗いがたい誘惑だ。
ごくり、と細い喉が上下する。
「もちろん、君が望むなら、だが……」
「ッ……」
次の瞬間、ルカは衝動的にアルベルトの逞しい首へ腕を回していた。
吐息が近く、熱を帯びて肌に触れる。
「……良い香り……♡」
うっとりとした表情で見上げてくるルカに、アルベルトは一瞬だけ言葉を失うのだった。
チクリとした痛みの直後、快楽にも似た感覚がじわりと広がった。
首元に伝わる温もりと、ゆっくりと血を吸われる感覚に、アルベルトは思わず息を整える。
「ん……く……んく……♡」
ルカはまるで味を確かめるように、時間をかけて吸っている。
本当に吸血鬼なのだな、と今さらのように思いながら、アルベルトは無意識のうちに、蜂蜜色の髪をそっと撫でていた。
「……美味いか?」
問いかけると、ルカは小さく喉を鳴らし──
「ん……♡ ぷはぁ……♡」
名残惜しそうに口を離す。
唇についた血を、舌先でぺろりと舐め取るその仕草は、あまりにも妖艶で。
──まずい。
胸の奥が熱を帯び、このまま抱き寄せて押し倒してしまいたい衝動が湧き上がる。アルベルトはそれを必死に抑え、名残を断ち切るように、そっとルカの体を引き離した。
「……少しは元気になったようだな。さっきより、顔色がいい」
ルカは一瞬きょとんとした後、視線を伏せる。
「……ありがとう」
素直なその一言に、アルベルトは微笑んだ。
「おやすみ」
それだけを告げると、彼は迷いなく身を屈め、その無防備な額へとキスをした。
「……っ!?」
驚くルカを残し、アルベルトは部屋を後にした。
──パタン。
扉が閉まる音がして、ようやくルカから声が漏れた。
「今、キス……された?」
じわじわと熱が顔に集まってくるのを自覚し、慌てたように額へ手を当てた。
「変なやつ……」
小さく呟く声は、どこか落ち着かない。
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