バカなあいつが可愛くて

うんとこどっこいしょ

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2.自分勝手な奴

 木目調のサイドテーブルの上でスマホが震える。それを引ったくるように取って耳に当てた深司は「俺だ」といつもより低めの声で言った。

「声こわ」

 寝転がったままからかう謙也の頭に大きな手が乗って、髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。やめろよとそれを手で払うと、寝癖が酷かった髪型は更にボサボサヘアになってしまった。
 相手の人怖がってないかなぁ。そんな謙也の気持ちは大当たりで、通話相手である深司の部下は緊張で声が上擦っていた。時折、電話越しに「ひゃい!」と高い声が聞こえてくる。可哀想に、そう思っていると通話を終えた深司がサイドテーブルにスマホを置いた。

「残念だがダラダラしてる暇がなくなった」
「へ?今から仕事?」

 いってらっしゃーい。コロンと寝返りを打った呑気な男に「違う、お前も行くんだ」と深司は謙也から布団を剥ぎ取った。

「ちょっおい!俺もかよ?なんで?」
「引っ越し」
「はぁ?」

*

 深司の車に乗せられてドライブ……ではなく、謙也は自分の住んでいるアパートに連れて行かれた。
 ボロアパートの前には大型のトラックが一台止まっていて、引っ越しってまさか俺の……?と謙也はようやく気が付いたようだった。てっきり部下の人の引っ越しの手伝いだと思っていたのだ。

「高野くん!」

 車から降りると聞き覚えのありすぎる女性の声がして謙也の肩がビクッと跳ねる。

「か、川島さん……」

 うげ、と謙也は微妙な顔をして振り返った。
 大家である年配女性は「ちょっと!」と興奮気味に手招きをしている。
 絶対に家賃回収だ。先月分も払っていないからすごく怒っているだろうなぁ、と謙也はぎこちなく笑って「はは、こんにちは~」と挨拶をする。

「すんません、実は今月の家賃まだ用意できてなくって~……」
「家賃?それならもう貰ったわよ」
「……へ?」
「それよりあんた引っ越すんだって?どうして私に言ってくれなかったのよ、彼氏がいるってこと♡」
「はぁ?!彼氏!?」
「そこの人がそうなんでしょ?男前じゃない!」

 あらやだ~!と楽しそうに謙也の背中をバシバシ叩く大家の川島に、置いてけぼりの謙也はきょとんとするばかりである。
 この状況について説明しろよ!と深司を睨むと、彼は川島に向かってニッコリ笑って謙也の肩を抱いた。

「今までお世話になりました川島さん。家賃滞納してばっかですみません、コイツも反省してるのでどうか許してやってください」
「いいのよ~、気にしないで!それよりも仲良くやるのよ~」

 ウフフ♡と川島は少女漫画を読んだ後のようにウキウキしながら帰って行った。
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