魔王様に溺愛されています!

うんとこどっこいしょ

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第三章 第一話 雷の来訪者

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 バロンの城の一角。今日は珍しく空がどんよりと重くうねっていた。

「……雷の気配がするな」

 バロンが小さく呟いたと同時に、城の門が静かに開く音が響く。
 風が冷たく吹き抜け、男が一歩、また一歩と中へと入ってくる。

「ラグナ、来たのか」

 バロンが立ち上がると、その男──雷の四天王ラグナは鋭い金色の瞳をバロンへ向けた。

「久しいな、バロン。……ひとつ聞きたいことがある」

 柱の後ろでこっそり覗いていた春斗の背筋に冷たい汗が伝う。
(うわ、なんか……すごく強そうな人来た……)

*

「最近お前、ずいぶんと雰囲気が変わったな」

 ラグナが探るように問うと、バロンはフッと鼻で笑った。

「それは春斗の影響かもしれんな」

 ラグナの視線が一瞬、柱の影を見やる。その視線に気づき、春斗はギクリと固まった。

「隠れている意味はないぞ、人間」

「ば、ばれてた!」

 春斗がひょこっと顔を出すと、ラグナは無表情のまま彼を見下ろした。

「貴様が噂の人間か。……なんて華奢な身体だ」

「き、華奢って……!酷い!」

「ガリガリじゃないか。バロン、ちゃんと食わせているのか?」

「食べてます!」

 バロンが答えるより先に春斗が食い気味に言うと、ラグナは「そうなのか」と一言。
 その瞬間、遠くの空で雷が鳴った。音はすぐに近づき、二度、三度と連続して稲妻が走る。城の天井が唸るように震え、空気がぴりぴりと張り詰めていく。

 春斗は思わず窓の外を見た。黒い雲が、まるで生き物のようにうねりながら城を覆っている。

「な、なにこれ……!落ちたらどうしよう……」

「俺の魔力に雷が集まっているだけだ」

 無感情な声でラグナが告げる。その瞳が再び春斗に向けられる。

「お前、雷が落ちやすい体質だな」

「えっ、そ、そうなんですか!?」

 ラグナは黙ったまま春斗に近づき、無表情のまま彼の手首を掴んだ。冷たい手が肌に触れ、ぞくりとするような感覚が走る。

「……やはり、肌が反応してる」

「!?」

 春斗が手を引こうとするも、掴まれた手はびくともしない。

「雷に触れ続けると慣れる」

「えっ?じゃあラグナさんに触れてれば雷は落ちないってこと……?」

「ああ」

 春斗が言葉を失っていると、バロンがスッと間に割り込んだ。その眼差しは柔らかいが、どこか威圧的でもあった。

「ラグナ。春斗は俺の傍にいる。それで問題はないだろう?」

 ラグナは一瞬だけ目を細めると、ふんと鼻を鳴らした。

「ならせいぜい守ってやれ」

 言い放ったその瞬間、空が眩い光で閃いた。稲妻が大地を裂くように落ち、遠くで大きな爆音が轟く。城の奥で魔物たちがざわめく声が聞こえた。
 春斗はバロンの背に隠れるように身を寄せた。

「やっぱり……ちょっとこの人怖いかも……」

 その呟きが聞こえたのか、ラグナがちらりと春斗を見やった。だが何も言わず、再び窓の外へと視線を向けた。
 雷鳴が遠ざかると共に、空のうねりも徐々に静まり始めた。
 ラグナは肩についた埃を軽く払うと、無言のまま城の出口へと向かって歩き出す。

「用は済んだ。戻る」

「そっけないな。久々の再会だというのに」

 バロンが肩をすくめると、ラグナは足を止めずに短く答えた。

「人間とやらを見に来ただけだからな」

 ラグナはそれ以上何かを言うわけでもなく、そのまま重い扉を開き、冷たい風と共に去っていった。

 バタン、と扉が閉まる音だけが、やけに大きく響く。

「……行っちゃった」

 春斗がぽつりと呟く。
 バロンは軽く息をつきながら、春斗の髪を指先でとかすように撫でた。

「嵐のような男だ。だが、被害が出なかっただけ良しとしよう」

 春斗は苦笑しながら、バロンの隣でまだ少しざわつく胸の鼓動を落ち着けるのだった。
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