魔王様に溺愛されています!

うんとこどっこいしょ

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第二話 君と生きる、この世界(完)

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 雷鳴が再び空を割った夜。窓の外は黒く渦巻き、空が怒っているようだった。
 春斗はベッドの中で小さく丸くなる。布団をぎゅっと握りしめても、どうにも心臓がバクバクして止まらなかった。

(うぅ……やっぱり、怖い……)

 止まない雨と風に窓ガラスが震える。春斗は思わず顔をしかめて、思い切ってベッドから抜け出した。
 そして、バロンの部屋の前まで行くと、ノックもせずに扉を数十センチだけ開けた。

「……春斗?」

 覗き込むとバスローブ姿のバロンがベッドに座って読書をしていた。春斗を見るなり優しく微笑んだ。

「どうした?」

「あの、その……雷が、ちょっと、怖くて……」

 バロンは春斗の前まで歩み寄ると「おいで」と腕を引いた。
 春斗は少しためらったが、次の雷鳴に背中を押されるようにしてバロンの胸に飛び込んだ。

 バロンの体温はあたたかく、香りはほのかに甘い。春斗はその胸元に顔をうずめながら、ポツリとこぼした。

「ラグナさんがさ……雷が落ちやすい体質って言ってて……なんか、それ聞いてから余計に怖くなっちゃって……」

「ふむ。確かに落ちやすい体質だが……それは魔界の住人と比較した場合、ということだ。大丈夫、俺が傍にいる。何も恐れることはないさ」

 そう言って、バロンは春斗の髪を指で梳いた。

「さあ、もう寝よう」

 バロンはベッドに春斗を招き入れ、隣にそっと横たわる。大きな腕が春斗の腰に回され、包み込むように引き寄せられた。

「バロンさん……あったかいね……」

「君が冷えないようにしてるからな」

 そう言って春斗の額に軽くキスをするバロン。

「おやすみ」

 その声に春斗はきゅっと目を閉じる。おやすみなさいと言い返し、バロンの胸の音を聞きながら、いつしか眠りに落ちていた。



 どれくらいそうしていたのだろう。
 バロンの腕の中で眠りについていた春斗は、ふと目を覚ました。窓の外ではまだ雷鳴が遠くに響いているが、その音も、今はもう怖くなかった。
 バロンの胸に頬を押しつけながら、春斗はそっと呟く。

「……バロンさん」

「ん……どうした?」

 眠たげな声。でも、ちゃんと春斗の声に耳を傾けてくれている。それだけで、春斗の胸の奥が温かくなった。

「……好き、バロンさんのこと」

 それは、ずっと胸の中にあった気持ち。怖がっていたのは雷じゃない。──この想いを言葉にすることだったのかもしれない。
 バロンは少し黙って、それから優しく春斗を抱きしめた。

「ありがとう。春斗。俺も、君が好きだ。最初に会ったときから、ずっと」

 囁くようなその言葉に、春斗は涙が出そうになって、笑って誤魔化した。

「言っただろう?」

「え……?」

「惚れさせてみせると」

「ッ……」

 バロンは顔を真っ赤にした春斗をフッと鼻で笑うと、もう一度春斗の額にキスをした。

 雷はまだ遠くで鳴っている。さっきまではあんなに怖かったけれど──春斗には、もうバロンの腕の中という世界で一番安心できる場所がある。
 怖がることはない。もう、どんな夜も怖くない。
 春斗は、そっと心に決めた。

(ここで生きていこう。バロンさんの傍で……この魔界で。)

 この人となら、きっと大丈夫。
 春斗は静かに目を閉じて、愛しい人の体温に包まれながら、もう一度、深い眠りについた。

 ──終
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