劇中劇とエンドロール

nishina

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エンディング

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素晴らしい舞台だった。
 自分が在学中の時と、なんらひけを取らない出来栄えだったと思う。
 何せ一人一人の顔が、演技が生き生きとしていた。セットは少し手作り感が増しているが、ライトや効果音の使い方も上手いように思う。演者の心境や場面転換でのメリハリ、大事なシーンでより説得力を増すような工夫やタイミングを掴んでいる。
 何故だろう。
 舞台の中央では長い茶色の髪の少女が、優雅とは言い難いドレスに身を包みながらも、弾けるような笑顔で観客に頭を下げ、笑顔で仲間と笑いあっている。

「凄い。本当にあの子達はよく頑張ったね」

 隣にいる人物は、手放しに喜んでいるようだった。後輩達の成長と物語や演出に入り込んでいる様子で、瞳を輝かせている。
 何故だろう。自分はそうは思えない。
 自分達の努力は、作り出した舞台は決して彼等と比べても遜色のないものだった筈だ。
 俺が作っていたものより良いのか。皆そう思っているのか。どうしようもなくなって近くの人の顔を見るが皆お世辞ではななく、本気でこの芝居に会場いっぱいの拍手と感動が送られているとわかる。

 傍らの彼女は言った。

「あなたのつくるお芝居の世界は、あなたの理想で出来ていた、私は今は、そう。思う」
 どういう意味だ。俺の何が悪かった?まさか、自己満足でしかなかったとでも言いたいのか。
 問い詰めたくともこの歓声を破る気にはなれず……自分もつい一年前まで舞台に立っていた側だ。この空間に水を差したくない……立ち尽くした儘目の前の光景を見つめていた。
「……あれは」
 目に入った、少し前の席でここから見える横顔からでも視認出来る程嬉しそうな顔をして、舞台を見つめる黒髪の人物像。彼には見覚えがある。
「彼が書いてくれたの」
「……え」
 まさか、あいつが?あんな事があったのに?
 ……一体どういうつもりで。
 混乱する。これは何だ。あらゆる不快な感情が胸をせりあがってくる。気持ちが悪い。

 一生懸命だった。全てを捧げた。それは全部大事だったから。舞台に魅せられたからだ。
 それもこれも全部、素人の小説家気取りとあの。あの、舞台の中央で満面の笑みを浮かべているやつの踏み台でしかなかったのか。
「あの子達は、世界の為に頑張っただけ」
「……」
「芝居も、シナリオも、演出も全てなくちゃいけない。それを皆わかってるんだ」
 何かを責められている。それだけはわかったが、どうしてかわからず困惑した。俺を見上げ寂しそうに彼女は言った。

「やっぱり、あなたは変わらない」

 その後に続いた言葉は、続く歓声に遮られて聞こえなかった。
 

 
 舞台はあなただけのものじゃない。役者も、私も。
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