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夢
一話
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ずっと、ずっと自分だけが不幸なのだと思っていた。私の言葉を誰もまともに聞いちゃいない。私だけが一人塞ぎこんでいるのに誰も気が付いてくれない。
私は、自由になりたい。
私の声を聞いて、私を宥めて、優しく抱き締めてくれる人が欲しいのだ。
かたん。固く、軽い音が二度、鳴る。うっかり小さな扉に挟んでしまった指がもどかしく引きずる痛みを訴えてくる。
ご縁がありますように。
祈られたって何も嬉しくなどない。郵便受けに入っていた封筒をその場で開けて、さっと軽く目を通しただけで内容全てを悟り、がっくりと尾根 暁はその場に項垂れた。長い茶色の髪がさらりと揺れる。一纏めにしているそれは、あまりに長すぎて尻尾のようだ。そう、尻尾を垂れた元気の無い猫の。
今度こそはという思いはあった。オーディションでも今までにない手応えを感じていたのだ。しかしそれは、結局暁の独りよがりであったようだが。
落選通知をぐしゃぐしゃに折って無理矢理封筒に押し込めると暁はそれを乱暴に鞄の中に突っ込んだ。家族に見られては、堪らない。
いい加減諦めなよと言われると分かりきっていた。悲しいかな、見慣れてしまったあの哀れみと呆れの入り交じった視線とともに。
他の郵便物やチラシが郵便受けに覗く。手を突っ込んで纏めて掴んで引っ張り出す。勢い余って開いた郵便受けの扉が、その儘暁の手に再び跳ね返り、かたんと音を立ててぶつかった。そんな、自らが招いた小さな失態にすら苛立ちが抑えきれない。無意識にエレベーターへと向かう足取りが速く、忙しない。
自覚はしている。八階へ向かうボタンを押してエレベーター内に設置されている縦長の鏡を険呑な眼差しで暁は見つめる。そこに映っているのは一人の、何の華も、目立った特徴すらない地味な女子高生でしかないのだ。身長は同級生達より少し高い程度で、長い地毛の焦げ茶色の髪をヘアゴムで結んでいるだけで容貌は味気ない。化粧したところであまり変わらないだとか、若いうちから肌を痛めてどうするのと言われるだけのある、特徴の無い顔。色が白ければそれが女性として美徳と捉えられる現代日本において地黒の自分は、きっと画面越しに見たら余計に華が欠けて見られるだろう。鼻は低いし目は普通……小さくもなければ、マスカラ要らずとは言えない程度に睫毛は少ない。
胸も薄ければ、身体全体が女性的なくびれやまるみを感じさせないのだ。決して太っている訳ではない。子供の頃に慎重ばかりのびて唐突に成長期が止まった弊害だと、暁は思っている。
エレベーターが止まった。
一歩、通路に足を踏み出す。スニーカーの下にある靴下だって学校指定の地味なものだ。アルバイトも禁止な上に、毎月のお小遣いでオーディション会場への交通費や演劇を観に行くのに使ったらあっという間に無くなってしまう。暁には、着飾るものへ気を配る余裕などない。
「ただいま」
ごくごく平均的な、核家族向けのマンションの一室が、暁の家である。
真っ直ぐに廊下を進み、普通を装いながらリビングへと向かう。ソファの前にあるテーブルに郵便物を置いておくのが、学校より帰宅時間が遅い母への約束事である。
「あれ、あんた、佑果帰ってたの」
「ねーちゃんおかえりー」
リビングのソファに寝そべってテレビを観ていたのは、ふたつ年下の妹。佑果である。
暁は、この妹が自分と大差ない外見だというのに自分より圧倒的に可愛らしい名前なのが羨ましくて仕方ない。
「あ、ねえちゃんねえちゃん」
「何よ」
お調子者の妹がだらだら絡み付いてくるのを突き放そう、佑果がのばした手を暁は振り払おうとした。
しかし、妹の唇がにんまり歪み放たれた言葉に、暁の身体はぎくりと固まった。
「どうだったの!オーディションの結果!!」
私は、自由になりたい。
私の声を聞いて、私を宥めて、優しく抱き締めてくれる人が欲しいのだ。
かたん。固く、軽い音が二度、鳴る。うっかり小さな扉に挟んでしまった指がもどかしく引きずる痛みを訴えてくる。
ご縁がありますように。
祈られたって何も嬉しくなどない。郵便受けに入っていた封筒をその場で開けて、さっと軽く目を通しただけで内容全てを悟り、がっくりと尾根 暁はその場に項垂れた。長い茶色の髪がさらりと揺れる。一纏めにしているそれは、あまりに長すぎて尻尾のようだ。そう、尻尾を垂れた元気の無い猫の。
今度こそはという思いはあった。オーディションでも今までにない手応えを感じていたのだ。しかしそれは、結局暁の独りよがりであったようだが。
落選通知をぐしゃぐしゃに折って無理矢理封筒に押し込めると暁はそれを乱暴に鞄の中に突っ込んだ。家族に見られては、堪らない。
いい加減諦めなよと言われると分かりきっていた。悲しいかな、見慣れてしまったあの哀れみと呆れの入り交じった視線とともに。
他の郵便物やチラシが郵便受けに覗く。手を突っ込んで纏めて掴んで引っ張り出す。勢い余って開いた郵便受けの扉が、その儘暁の手に再び跳ね返り、かたんと音を立ててぶつかった。そんな、自らが招いた小さな失態にすら苛立ちが抑えきれない。無意識にエレベーターへと向かう足取りが速く、忙しない。
自覚はしている。八階へ向かうボタンを押してエレベーター内に設置されている縦長の鏡を険呑な眼差しで暁は見つめる。そこに映っているのは一人の、何の華も、目立った特徴すらない地味な女子高生でしかないのだ。身長は同級生達より少し高い程度で、長い地毛の焦げ茶色の髪をヘアゴムで結んでいるだけで容貌は味気ない。化粧したところであまり変わらないだとか、若いうちから肌を痛めてどうするのと言われるだけのある、特徴の無い顔。色が白ければそれが女性として美徳と捉えられる現代日本において地黒の自分は、きっと画面越しに見たら余計に華が欠けて見られるだろう。鼻は低いし目は普通……小さくもなければ、マスカラ要らずとは言えない程度に睫毛は少ない。
胸も薄ければ、身体全体が女性的なくびれやまるみを感じさせないのだ。決して太っている訳ではない。子供の頃に慎重ばかりのびて唐突に成長期が止まった弊害だと、暁は思っている。
エレベーターが止まった。
一歩、通路に足を踏み出す。スニーカーの下にある靴下だって学校指定の地味なものだ。アルバイトも禁止な上に、毎月のお小遣いでオーディション会場への交通費や演劇を観に行くのに使ったらあっという間に無くなってしまう。暁には、着飾るものへ気を配る余裕などない。
「ただいま」
ごくごく平均的な、核家族向けのマンションの一室が、暁の家である。
真っ直ぐに廊下を進み、普通を装いながらリビングへと向かう。ソファの前にあるテーブルに郵便物を置いておくのが、学校より帰宅時間が遅い母への約束事である。
「あれ、あんた、佑果帰ってたの」
「ねーちゃんおかえりー」
リビングのソファに寝そべってテレビを観ていたのは、ふたつ年下の妹。佑果である。
暁は、この妹が自分と大差ない外見だというのに自分より圧倒的に可愛らしい名前なのが羨ましくて仕方ない。
「あ、ねえちゃんねえちゃん」
「何よ」
お調子者の妹がだらだら絡み付いてくるのを突き放そう、佑果がのばした手を暁は振り払おうとした。
しかし、妹の唇がにんまり歪み放たれた言葉に、暁の身体はぎくりと固まった。
「どうだったの!オーディションの結果!!」
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