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夢
二話
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ソファの背もたれにのりあげてにやにやと唇をつり上げて笑う妹の顔は、悪意のない悪意に満ちていて、暁は絶句した。この妹は、中学校から帰ってきて一度は郵便受けを確認していたのだ。それにも関わらず、オーディションの結果通知を含め敢えて郵便物を回収せずに、それを目にした暁自身で落選結果を目にし、口にしなくてはいけないように仕向けたのだ。
僅か、毛程にも信じていない。姉の夢が叶うことなど。軽く、鋭い悪意の塊に暁の鞄に入ったものの存在をより重く感じてしまう。
「……落ちてたわよ」
「ああ、やっぱりー?」
今、この結果を自分の口で言わねばならない状況の暁の心がどれだけ疲弊しているかなど、考えは及ばないのだろう。妹は真面目ながらも、夢見がちな姉をちょっとからかう程度の気持ちで、何度目かのオーディション落選という、情けない現実にうちひしがれている姉を嘲笑っているのだ。
やってられるか。
「わっ」
乱雑に妹の足元に向かってチラシを投げつける。大切だろうその他の郵便物はテーブルに仕分けて置いた上での行動である。酷く傷付いているのに、完全に投げやりになりきれない自分の生真面目さが嫌になる。
「ちょっと姉ちゃん!落選したのは自分のせーでしょ!?八つ当たりしないでよね!」
「うるさい!!」
幸い、親は妹の佑果が成績、言動ともに信用ならない事をよくわかっている。帰ってきた両親が佑果に何を訴えられたところで、どうせまたお姉ちゃんに嫌がらせしたんでしょ、でおしまいだ。だからって何の気も晴れやしないが。
自分の部屋に入り、鞄を叩き付けるように机の上に置いた暁は制服を着替える気にもなれず、ベッドに座り込んだ。
果たして何度目だろう。見返す気にもならない。
暁は、ずっと役者になりたかった。高校二年生。テレビで見る若手女優とだって殆ど年齢は変わらない。彼女等に何時だって暁は劣等感を抱いていた。
夢へのタイムリミットは近い。焦りからか、最近は何でもテレビに出られる可能性があるのならば……何時か何かを演じる事が出来るならばと信じて、希望を見出だしてきたのだ。
今回も駄目だった。
会場にいた少女達。誰が受かったのだろう。演技力だけなら、自分が秀でていると思っていたのに。
「そんなに、外見が大事かよ」
わかっている。負け惜しみだ。外見が大事な事も理解しているし、演技が一番秀でているなんてのも自惚れ、気の所為だ。所詮自分の実力など学内で「才能がある」と言われる程度だ。
そしてその中でも主演を張れた事すらない。
去年の四月。入部して直ぐに歓声を浴びた。その時の事を暁はよく覚えている。それが暁を腐らせたのかも。先輩に一年生の中で一番才能がある、とか迫力のあるいい声だ、なんて言われていい気になっていたのか。
部屋の電気もつけずに暁は自分を嘲笑する内側からの声に耐えた。耐えるのに必死で、電気をつける気力もなかった。
「……メール?」
スマートフォンが制服のスカートのポケットから情報の到達を主張していた。手に取り、タップする。送り主からのメッセージが暁の目に飛び込んできた。
『出来たぞ。人が死ぬ話』
「いや、人が死ぬ話を望んでる訳じゃないんだけど」
相変わらず過ぎる彼からのメッセージに、しかし少しだが気持ちがほぐれたように思う。口元が、ゆるんだ。一見すると不穏なメッセージではあるが、確かに暁は彼からの連絡を待っていたのだ。
『ありがとう。私は何の役なのか、楽しみにしてる』
『残念だけど尾根は死なない』
『いや、死にたくはない』
『明日渡すぞ』
『よろしくー』
メッセージの主は加百 葵。彼は暁のクラスメイトである。
メールのやり取りからは信じられない程今のこの世で生き辛そうに呼吸をしている。暁が今まで出会った中で誰よりも暗い男である。
僅か、毛程にも信じていない。姉の夢が叶うことなど。軽く、鋭い悪意の塊に暁の鞄に入ったものの存在をより重く感じてしまう。
「……落ちてたわよ」
「ああ、やっぱりー?」
今、この結果を自分の口で言わねばならない状況の暁の心がどれだけ疲弊しているかなど、考えは及ばないのだろう。妹は真面目ながらも、夢見がちな姉をちょっとからかう程度の気持ちで、何度目かのオーディション落選という、情けない現実にうちひしがれている姉を嘲笑っているのだ。
やってられるか。
「わっ」
乱雑に妹の足元に向かってチラシを投げつける。大切だろうその他の郵便物はテーブルに仕分けて置いた上での行動である。酷く傷付いているのに、完全に投げやりになりきれない自分の生真面目さが嫌になる。
「ちょっと姉ちゃん!落選したのは自分のせーでしょ!?八つ当たりしないでよね!」
「うるさい!!」
幸い、親は妹の佑果が成績、言動ともに信用ならない事をよくわかっている。帰ってきた両親が佑果に何を訴えられたところで、どうせまたお姉ちゃんに嫌がらせしたんでしょ、でおしまいだ。だからって何の気も晴れやしないが。
自分の部屋に入り、鞄を叩き付けるように机の上に置いた暁は制服を着替える気にもなれず、ベッドに座り込んだ。
果たして何度目だろう。見返す気にもならない。
暁は、ずっと役者になりたかった。高校二年生。テレビで見る若手女優とだって殆ど年齢は変わらない。彼女等に何時だって暁は劣等感を抱いていた。
夢へのタイムリミットは近い。焦りからか、最近は何でもテレビに出られる可能性があるのならば……何時か何かを演じる事が出来るならばと信じて、希望を見出だしてきたのだ。
今回も駄目だった。
会場にいた少女達。誰が受かったのだろう。演技力だけなら、自分が秀でていると思っていたのに。
「そんなに、外見が大事かよ」
わかっている。負け惜しみだ。外見が大事な事も理解しているし、演技が一番秀でているなんてのも自惚れ、気の所為だ。所詮自分の実力など学内で「才能がある」と言われる程度だ。
そしてその中でも主演を張れた事すらない。
去年の四月。入部して直ぐに歓声を浴びた。その時の事を暁はよく覚えている。それが暁を腐らせたのかも。先輩に一年生の中で一番才能がある、とか迫力のあるいい声だ、なんて言われていい気になっていたのか。
部屋の電気もつけずに暁は自分を嘲笑する内側からの声に耐えた。耐えるのに必死で、電気をつける気力もなかった。
「……メール?」
スマートフォンが制服のスカートのポケットから情報の到達を主張していた。手に取り、タップする。送り主からのメッセージが暁の目に飛び込んできた。
『出来たぞ。人が死ぬ話』
「いや、人が死ぬ話を望んでる訳じゃないんだけど」
相変わらず過ぎる彼からのメッセージに、しかし少しだが気持ちがほぐれたように思う。口元が、ゆるんだ。一見すると不穏なメッセージではあるが、確かに暁は彼からの連絡を待っていたのだ。
『ありがとう。私は何の役なのか、楽しみにしてる』
『残念だけど尾根は死なない』
『いや、死にたくはない』
『明日渡すぞ』
『よろしくー』
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