劇中劇とエンドロール

nishina

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十一話

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 暁と梓の所属する桜野高校演劇部の部室は、主に使用する体育館内のステージと、体育館脇の出口の先に増設された、通路に沿うように作られた部活棟の中にある。主に体育館を使う部活用の部室の為、殆んどが運動部の部室の中に一際大きく、且つ設備もしっかりとした部屋を利用している演劇部は些か異彩を放っていた。

 桜野高校の演劇部は長い歴史と文化が存在している為か、学校側からの扱いも丁重な部分があった。コンクールで何度も入賞した経験と、部員の多さから実質生半可な運動部よりも上下関係は厳しいと言ってもいい。

 とはいえそんな古びた空気も最近では払拭されつつある。それは、今年度卒業する三年生の力が大いに関わっている事は暁の目から見ても、明らかだった。

「お疲れ様でーす」
 梓を引き連れ、軽いノックの音を三回程響かせてから、暁は部室のドアを開けた。
 部室は部員全員が入れるようになっている為、大学の講義室のように広いスペースが取られている。簡単な練習の時には各グループに別れて発声もする為仕切り用のカーテンなども準備されていて、規模が大きいのは見るだけでわかる。
「いらっしゃーい」
「おつかれー」
 口々に部室に既に集合していた部員達が暁達に声を掛ける。その中に、男性らしい低い声でありながらどこか耳を擽る、柔らかな甘さを感じさせる声の主が、暁に話し掛けてきた。
「尾根、お疲れ。台詞はどう?」
「お疲れ様です!副部長。私は大丈夫です。もう練習入りますか?」
 副部長の甲斐 柚葉はそうだなと手に持った小さな紙を目に落とす。
 少し長めの髪をひとつに纏めた、柔和な印象の男性。目立つような長身ではないが、足の長さとスタイルの良さの為か実際よりも身長が高く見える。
 人目を惹く美貌とは言い難いが、人の良さが顔から全身から滲み出るような人物だ。その為か、彼を副部長と慕う部員は多く、人望があった。

 暁の質問に対し、柚葉は紙から目を離すと眉を下げて申し訳なさそうに言った。
「んー、ちょっと待ってくれない?いや、始めてくれても良いんだけどな……ちょっと変更したいところがあるんだ」
「そうなんですか?」
 今回の演目は下級生を中心とした内容になっている。三年生の柚葉は全体の監督役といった形での関わり方だ。主要の役のキャスティングは2年生を中心で、初めて暁も主人公とまでいかなくとも、主人公の次に重要な役に抜擢されていた。
 そんなこともあって、役を与えられた人間は一年生も二年生も皆ここで実力を遺憾なく発揮して、先輩達に認められようと気合いを入れていた。
 衣装も台本も揃っており、台詞を覚え次第稽古に入ろうというところだった為、急遽変更点が出来たという柚葉の言葉に暁は疑問を抱く。
「何か変なところでもあるんですか?」
「変とかじゃないんだけど……」
 妙に煮え切らない態度の副部長に暁の疑問はどんどん大きくなる。
「兎に角、尾根も黒神もちょっと自由にしてて。台詞合わせでも良いから」
 そそくさと去っていく副部長を、文句を良い連ねる訳にもいかずに、困惑した儘暁と梓は見送った。

 暁の所属する演劇部では、既存の舞台の物語を原作として使用する事もあれば、古典文学、小説や漫画、ドラマのストーリーを借りたり、または物語を考えるのが好きな部員が挙手制でオリジナルのストーリーを発表する事もあり、それの出来がよければシナリオとして採用されたりする。今回は、部員の一人が考えた台本に柚葉が多少の手直しをし、完成したものを使用していると聞いていた。
「何が駄目なんだろう……?」
 手順がどうあれ、素人が作成した作品である事には違いない。どこかに矛盾でもあったのかと、鞄から取り出した台本に目を落とした時だった。
「ねえ、暁」
 梓が暁のスカートを摘まんで、引っ張った。
「何よ」
 人が集中しようとしている時に、と少々むっとしながら問い掛ける。梓は暁の反応には目もくれずに、広い部室内のある一方を指差して見せた。

「あれ、あんな人いた?」
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