劇中劇とエンドロール

nishina

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十話

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結局、暁は放課後まで野次馬共に邪推されからかわれ、問い詰められながら一日を過ごす事になった。
 お前ら加百の方に行けよ!と暁は思ったのだが、彼等にもそれはハードルが高いのだろう。葵は変わらずクラスの奴になど関心はない!と他人を遮断したいオーラを放ち続けている。だからこそ暁は葵と接点を持った事を不思議がられて今の状況に陥っているのだから。

 それでも果敢にも勇気ある男子が数名、葵にちょっかいを出しに行ったようだが聞こえてないのか頑なな無視なのかわからない態度に、心が折れていた。腹いせに葵のノートやペンを悪戯しないあたり、悪人になりきれないのである。

 だが暁だってそう暇ではないのだ。葵にちょっかい出せないからと、その皺寄せを食らい変な関係を想像されるのもいたたまれない。
 放課後のチャイムが鳴るのとほぼ同時に暁はバッグをひっ掴むと、逃げるように教室を飛び出した。
「あっ逃げた!」
 今日最初に葵との関係を追及してきた少女が叫んだのが耳に届くが、だからといって気を遣って止まってやる義理はない。廊下は走っちゃいけませんというがこれはケースバイケース。やむを得ぬ選択である。
 部室に全力で向かう暁は、野次馬共を振り払うのに必死だった。生い立てる声が小さくなるのにつれて、聞き覚えのある声が弱々しく暁を呼んでいるのに気が付いて、足を止めて振り返る。
 既に追手は諦めていた……というより、元々そこまで必死ではなかったのだろう。そこにいたのは、平均身長より高めの暁より更に背が高く、長い黒髪を背中に流した少女だった。
「待って、待ってよ、あかつき……」
 全力疾走の暁を必死に追い掛けてきた為か息をきらし、荒く呼吸を繰り返している。艶めいた長い黒髪が彼女の白い肌を撫でた。
「部活行くんでしょ、もう……置いてかないでよ」
「ごめん、ごめんちょっと焦ってた!」
 自分よりも長身で、同じ年ではあるがずっと大人びた美少女ではあるがつんと拗ねた様子で暁の制服の袖を掴む姿は子供っぽく、可愛らしい。甘えん坊の妹のような彼女の様子に、暁のささくれだっていた心も落ち着いた。綺麗な人の愛らしい仕種はどうにも保護欲を誘う。

「部活行こう部活行こう!大丈夫?」
「だい、じょぶ……じゃない。あかつき、足速すぎ」
 ぜいはあ言いながら黒神 梓は訴えた。仕方ないなあ、と漏れる呟きと共に手を差し出す。ぎゅっと握り返してきた手のひらは白くて綺麗な、暁の憧れる女優のようだった。

 黒神 梓は高校入学してから知り合い、今では友人の中でも一番一緒にいる時間の長い人物である。暁の紹介で演劇部に入り、二年生になった今も一緒に活動している。その事を暁は今も少し後悔している。

 長い、艶やかな黒髪に姿勢が良く、バランス良くのびた長身。大人びた美貌に、一挙一動が上品で無駄がない。口を開かなければ、美しすぎて近寄りがたいと感じてしまう。自分なんかが傍に寄っても良いのかと、気がひけてしまう。
 そう感じてしまうのも無理もないと思う。梓は去年の秋頃まで現役モデルだったのだ。それなのに「暁と一緒じゃないならいい」と言ってあっさりと女子の多数が憧れる職業から身を引いてしまった。
 良いのかな、と暁は今だって思っている。隣を歩く梓の美貌は近くだとますます眩しくて、先程果敢に葵にちょっかい出して完全に黙殺されていたお調子者の男子すら話し掛けられなくて仲良くなりたいと暁に相談してくる程なのに。
 そんな暁の胸中を勿論梓は知らない。
「今日のあれ、何だったの?」
「ああ、あれ」
 昼休み、一緒に昼食を食べた時は何も言ってこなかったので梓は気にしていないと思ったのに。
 苦笑いしか最早出来ずに、暁はふわふわした言葉で回避を試みる。
「たいしたことじゃないんだよ、ほんと……ま、まあ覚えてたら部活の時に話すわ」
「いや大したことじゃないなら、今話してよ」
「うーん……」


 正直言っても構わないかもしれない。だけど、何だか皆の期待が肥大化し過ぎてて今更話してもそんなこと?と言われかねない。

 本当に、何で教室で渡したんだあいつ。
 疑わしげな眼差しを間近から感じつつ、暁は部室に向かって歩を進めた。

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