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夢
十三話
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幾ら嫉妬の炎を滾らせたところで副部長の決定に一部員が異を唱える事も、決定そのものを覆らせるのが可能な筈もない。不承不承頷く暁の視線の先で、唐突にその少年が立ち上がった。そのままこちらを振り向いたので、一瞬自分達の会話が聞こえでもしたのかと、冷や汗を掻いたがそうではないのは、直ぐにわかった。
「はぁ~い、ぶちょ~入部届け書いたけど、これでいいの~?」
高く、良く通る声だった。
少年は入部届けらしき紙をひらひらさせながら暁達のいる方へとやって来ると、柚葉の肩を手にした入部届けでぺしぺしと叩く。一年生が三年生にやるような態度ではない。暁は無意識に頬がひきつっていくのを感じた。嫌いなタイプだ。
当の柚葉はまるで気にした様子もなく、ひらりと紙を少年の手から奪い取ると、内容を確認して頷き、オッケーと呟くと少年をこちらへと促した。
「尾根、黒神。先刻話した新入部員の柏 山吹。二人とも色々教えてやって」
嫌だなあと思いつつも副部長直々に言われては仕方がない。暁は平静を装い、少年……山吹に声を掛けた。
「はい。私は尾根 暁。二年生よ。よろしくね、柏くん」
「黒神です……」
暁の隣で、明らかに劇や部活動へのモチベーションが大幅に下がった様子の梓が子供っぽく不貞腐れながら自己紹介をしている。幸い、山吹は特に気にならなかったようだ。彼は高校生にしては愛嬌のある中性的な可愛さが残る顔に人懐こそうな笑みを浮かべた。
「柏っす。よろしくー」
人懐こい表情に笑顔を浮かべると、童顔なのが尚更幼く見える。身長も暁と殆ど変わらないし、中学1年生といっても通用しそうだ。
しかし、良い印象はそこだけでしかなかった。
人懐こい笑顔の儘、山吹は腕を組むと柚葉を見上げこう言い放ったのだ。
「で、俺は何をしたら良い訳?」
先輩に対してため口かよ。文化部といえど、昔の上下関係の厳しさが未だ残る演劇部において、山吹の態度は実に鼻に付くものだ。暁は胸中で眉をしかめた。
内心どう感じているのかは謎だが、柚葉はやはり気にしていないようだ。てきぱきと指示を出している。
「柏は隣の教室行っといて。そう、卓球部とは反対の部室。そっち衣装置場になってるから、田中と岡見って奴に自分の役聞いて、衣装のサイズ測るから」
「へーい」
飄々とした、という表現がぴったりな態度で憮然とした暁と梓、にこやかな笑顔で見送る柚葉を背後に、山吹は教室から去っていく。
直ぐ隣の教室の扉が開閉した音が聞こえてきたところで、暁は柚葉に話し掛けた。
「何か……凄い人なんですか?あの子」
柚葉はおおらかで滅多に怒る事はないが、それにしたってあの新入部員への態度は甘い気がする。いきなり役を与えてもう稽古も始まる芝居に参加させる特別待遇もだが、言葉遣いもそうだ。
怒らないだけの優しい副部長では、大人数の部活を纏めようにも舐められる。そうならないのは、柚葉は穏やかながらも指摘し難いミスや足りない部分を容赦なく指摘し、また部員の相談にも懸命にのる人の良さからだ。
生意気な新入りに、才能あるからと甘やかすとは思えない。
不信感が顔に出ていたのだろう。
「見たらわかると思う。尾根みたいなタイプは、特に」
「………」
結局副部長からはそれらしくわかりやすい返事などはなく、暁は引き下がるしかなかった。
今演劇部が抱えている課題は、夏にあるコンクール向けの打ち合わせと、暁達2年生が中心になって演じる舞台のみだ。そちらは柚葉の言うように、新入生ながら期待されてるらしき山吹の為に台本の書き直しを余儀なくされているらしく、暁達も立ち回りなど変更になる為、そちらが完成するまで今日は好きにしていて良いという話だった。
「暁、どうする?」
傍らでは暁以上にぶすくれた表情の梓が今にも副部長と新入部員への怨嗟をもらしそうな表情で、暁を見ている。
「うーん……まあ、やる事ないもんねえ」
暁も梓も既に衣装合わせは済んでいる。シナリオに変更があるなら、やるだけ無駄かもしれないが台詞合わせするのが一番現実的な気がした。
「はぁ~い、ぶちょ~入部届け書いたけど、これでいいの~?」
高く、良く通る声だった。
少年は入部届けらしき紙をひらひらさせながら暁達のいる方へとやって来ると、柚葉の肩を手にした入部届けでぺしぺしと叩く。一年生が三年生にやるような態度ではない。暁は無意識に頬がひきつっていくのを感じた。嫌いなタイプだ。
当の柚葉はまるで気にした様子もなく、ひらりと紙を少年の手から奪い取ると、内容を確認して頷き、オッケーと呟くと少年をこちらへと促した。
「尾根、黒神。先刻話した新入部員の柏 山吹。二人とも色々教えてやって」
嫌だなあと思いつつも副部長直々に言われては仕方がない。暁は平静を装い、少年……山吹に声を掛けた。
「はい。私は尾根 暁。二年生よ。よろしくね、柏くん」
「黒神です……」
暁の隣で、明らかに劇や部活動へのモチベーションが大幅に下がった様子の梓が子供っぽく不貞腐れながら自己紹介をしている。幸い、山吹は特に気にならなかったようだ。彼は高校生にしては愛嬌のある中性的な可愛さが残る顔に人懐こそうな笑みを浮かべた。
「柏っす。よろしくー」
人懐こい表情に笑顔を浮かべると、童顔なのが尚更幼く見える。身長も暁と殆ど変わらないし、中学1年生といっても通用しそうだ。
しかし、良い印象はそこだけでしかなかった。
人懐こい笑顔の儘、山吹は腕を組むと柚葉を見上げこう言い放ったのだ。
「で、俺は何をしたら良い訳?」
先輩に対してため口かよ。文化部といえど、昔の上下関係の厳しさが未だ残る演劇部において、山吹の態度は実に鼻に付くものだ。暁は胸中で眉をしかめた。
内心どう感じているのかは謎だが、柚葉はやはり気にしていないようだ。てきぱきと指示を出している。
「柏は隣の教室行っといて。そう、卓球部とは反対の部室。そっち衣装置場になってるから、田中と岡見って奴に自分の役聞いて、衣装のサイズ測るから」
「へーい」
飄々とした、という表現がぴったりな態度で憮然とした暁と梓、にこやかな笑顔で見送る柚葉を背後に、山吹は教室から去っていく。
直ぐ隣の教室の扉が開閉した音が聞こえてきたところで、暁は柚葉に話し掛けた。
「何か……凄い人なんですか?あの子」
柚葉はおおらかで滅多に怒る事はないが、それにしたってあの新入部員への態度は甘い気がする。いきなり役を与えてもう稽古も始まる芝居に参加させる特別待遇もだが、言葉遣いもそうだ。
怒らないだけの優しい副部長では、大人数の部活を纏めようにも舐められる。そうならないのは、柚葉は穏やかながらも指摘し難いミスや足りない部分を容赦なく指摘し、また部員の相談にも懸命にのる人の良さからだ。
生意気な新入りに、才能あるからと甘やかすとは思えない。
不信感が顔に出ていたのだろう。
「見たらわかると思う。尾根みたいなタイプは、特に」
「………」
結局副部長からはそれらしくわかりやすい返事などはなく、暁は引き下がるしかなかった。
今演劇部が抱えている課題は、夏にあるコンクール向けの打ち合わせと、暁達2年生が中心になって演じる舞台のみだ。そちらは柚葉の言うように、新入生ながら期待されてるらしき山吹の為に台本の書き直しを余儀なくされているらしく、暁達も立ち回りなど変更になる為、そちらが完成するまで今日は好きにしていて良いという話だった。
「暁、どうする?」
傍らでは暁以上にぶすくれた表情の梓が今にも副部長と新入部員への怨嗟をもらしそうな表情で、暁を見ている。
「うーん……まあ、やる事ないもんねえ」
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