劇中劇とエンドロール

nishina

文字の大きさ
18 / 59

十六話

しおりを挟む
 暁も部長といいながら幽霊部員のような彼女について、思うところが無い訳ではない。自分が必要性を感じなければ部活動を自分から引き離して、部長の役目を副部長の柚葉に押し付けるのであれば部長の立場を辞退するか、他の部員からの不満を抑える為にももう少し部活動に熱心に参加してくれても良いのではないか。

 彼女が二年生の時より明らかに部活に参加する頻度が減っているのは、一年生や三年生の反発の感情も影響しているように暁は思う。居づらい、と感じるのであれば、少しでも言葉や態度に出してくれなければ暁達にはどうしようもなかった。
「才能ある人って、変わった人が多いって言うじゃん。部長も、普段休んでるからいざ本番って時にはいいお芝居出来るのかもよ?」
「そういうもん?」
 だがそれをその儘言葉にするには、暁には抵抗があった。
 理由は考えたら幾つか出てくるが、多分単純にそれが大きいだけなのだろう……部長の事が、暁は嫌いではなかったからだ。
 彼女は不満そうだったが、暁はわざとらしく無い程度に言葉を重ねた。部長であるあの少女の儚く弱々しい佇まいと、それらが幻想であったかのような威風堂々とした立ち振舞い。どちらが彼女の真実かはわからないが、生涯の夢を芝居を続ける事だと願いを持つ暁には彼女の舞台での姿が全てであり、憧れだった。

「私がそう思うだけだけど。それに、花色先輩を差し置いて演劇部の部長を任されるのは、肩の荷が重い気がする」
「うん……まあ、そうかも」
 
 部長は、花色 光は暁が欲しいものを全部持っているように見えた。古山の気持ちもわかるし、言いたい事も最もだと思う。だがそれ以上に彼女の価値を批難するような言葉を聞かされたくはない。
 自分の大事にしている役者への憧れ、理想の一つを否定されたような気がした。
 
 
 柚葉達はまだ話し合いが終わらないらしい。
 ただ待っているのも暇なので、暁は自分の鞄を持ってきて部室の隅に座り込んだ。当然教室の中には机も椅子もあるが、あまり目立ったり人に見付かって覗き込まれるのも勘弁して欲しかったので、教室の壁に背中を付けて小さくなっていたかったのだ。
「うん……うむ。読む、か?」
 独り言を漏らしながら取り出したのは、今朝葵に渡されたファイルだった。クラスメイトの注目の的になった上に付き合ってる疑惑まで取り上げられた彼の小説が収まっている。
 試しにばらばらと捲ってみる。量はそんなに無いと思いきや、ルーズリーフにびっしり書き込まれてるので意外と読むのに難儀しそうである。そも、暁は元々読書家ではないので文章を読む速さも大したことはない。
「思った以上に大変かもな……」
 唸りながら天を仰ぎ、大きな溜め息を吐きながら視線をおろす途中で、椅子に座ってぼんやり辺りを眺めていた梓とばっちり目が合ってしまった。一瞬やばい、と思ったが直ぐに約束していた事を思い出し、右手で手招いてみると梓は席を立ち、長い黒髪をなびかせながら暁の傍にやって来ると、同じように壁際に座り込む。
「それって、あれよね。加百くんの……それでそれ、何?」
「話して良いのかわからないから、他の人には言わないでよ」
 梓が素直に頷いたので、暁はファイルの中身の正体とこれを葵に渡される事になった経緯を簡単に説明した。
 ファイルの中身を知った梓は当然といえば当然なのかもしれないが、葵の変質的ともいえる趣味にかける熱意に絶句していた。漸く絞り出した言葉が心底呆れたような一言だった。

「何、あの人ずっと落書きしてたの?」
「落書きっていうか、小説ね」
「小説って言うと、何かカッコいいねぇ」
「……そだねえ」
 頷きながら暁はファイルの一番最初のページを開いた。読んでみなければ何を言っても他人の小言だ。

「うあ」
 梓が唸るのも無理はない。

 葵の書く文字は小さく、角ばっていて一文字一文字を限りなく近付けて書くので読みにくいったらありはしない。女子中学生のように丸文字を駆使し、読み手が微笑ましくなるような愛らしい文を紡げとは言わないが、人に読ませるならもう少し考えて欲しい……と思ってから思い出す。葵は最初から読者を想定してこれを書いた訳じゃないのだ。
「個性的な字……」
 暁も頑張ったが、ポジティブな感想はそれで終了した。ざっと目を通しただけでも誤字が多すぎる。授業中だからって、漢字を確認せずに勢いだけで書き殴ったのだろう。

「本当にこれ読むの?めんどくさくない?」
 梓の言葉が、暁の心情を的確に抉ってくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...