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夢
十五話
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新入部員の彼は戻って来ない。副部長は未だに今回の脚本担当とああでもないこうでもないと言い合っている。
彼等の様子を横目で見ながら台詞合わせをしていたうちの一人が、台本を閉じて声をあげた。
「休憩、するか?」
「そうだねぇ」
その言葉に反応して、各々がのど飴を取り出したり水を飲みだしたりする。一人が鞄を漁りながら、キャスト陣に声をかけた。
「俺お茶買ってくるけど何か欲しい奴いる?」
「奢りなら。ミルクティー。一番高いやつ。ホットで」
「喧しいわ!!」
元々短編の劇である。読み合わせや打ち合わせを主要人物達で何度か繰り返していたら、あっという間に時間が過ぎていた。
「あー、あのさあ尾根」
「ん?」
水筒を取り出した暁に、お洒落なタンブラー片手に寄ってきたのは同時期に演劇部に入部した少女だ。暁と同じく長身だが、顔立ちが中性的かつ中学時代は剣道部で活動していた所為か体格もしっかりしていて、下級生からは男子よりもてている。実際、彼女をヒロインの相手役に抜擢した時は部内でも黄色い悲鳴があがる位だ。
彼女は奇妙に小声で暁の耳元で囁いてきた。
「古山、どしたの?」
「いやさあ、部長見てないかなって」
「ああ……」
つられた訳でもないが、暁もつい小声になった。
通常よりも広い教室内で、暁が幾つかのグループに分かれて劇の打ち合わせや小道具についての相談などをしている部員達をざっと視線を走らせた限りでは、教室の中に部長の姿は見当たらない。
「部長は休みだろうね」
相手も暁に確認するより先に察していたのだろう。やっぱり、と小声で呟きながら肩を竦める。
「またかあ……そりゃ、今回は三年は出ないけど。何日くらい出てないんだろ」
「うーん……」
暁の記憶が確かなら、新年度になって数回程度しか部活に出ていない気がする。新入生歓迎の時の劇と、劇のリハーサル二回だ。誠に申し訳ないが、1年生の中には部長を舞台でしか見ていない生徒が殆どであった。
暁やこの古山も似たようなものである。
皆、1年生。新入生の純粋な期待と不安を抱きながら、彼女の舞台を見て魅了される。迷わず演劇部に入部した生徒の殆どが言うのだ。入部動機は彼女の芝居が素敵だったからだと。
……そして、彼女の現状を知り落胆するのだ。
「去年の文化祭で部長を見た時は、凄い人がいるもんだって思ったんだけどね……学校の部活だからって、バカにしたらいけないって」
彼女は途中入部で、タイミングとしては梓と同じ位だ。部長の芝居を見て、自分でもあんな風に堂々と舞台に立ちたい、きらきらしてみたいと思ったのが、入部の動機らしい。
しかし現実はなんとも期待はずれだったようだ。
「何時まであんなんなんだろ、あの人」
「う、うん……言いたくは、なるかもね」
桜野高校演劇部の長い歴史に存在する、絶対的な上下関係と体育会系の気質を弾き飛ばし、実力主義に塗り替えたのは今の部長の存在をによるものだ。
当時一年生で入部したてだった暁の目にもそれは明らかだった。一度舞台に立てば誰もが彼女に引き寄せられる。他の者など、皆引き立て役でしかない。
当時はまだ部長ではなかったが、彼女は年功序列で役割を振り、才能あるものでも下級生ならば、ただひたすら雑用をこなさねば端役すら与えないという当時のやり方を実力のみで黙らせた。
だが彼女は新たな火種になりかねない存在でもあった。
彼女は何時だって自分のやりたいようにしかやらない。部活も気紛れに現れ、気が付けば消えている。今日のように最初からいない事も珍しくない。現に一年生すら最早部長の存在を気にしなくなっている。
特に今回は二年生が中心になる劇の為か私の事は必要ないでしょうとばかりだ。ここ二週間は姿を見ていない気がする。
彼等の様子を横目で見ながら台詞合わせをしていたうちの一人が、台本を閉じて声をあげた。
「休憩、するか?」
「そうだねぇ」
その言葉に反応して、各々がのど飴を取り出したり水を飲みだしたりする。一人が鞄を漁りながら、キャスト陣に声をかけた。
「俺お茶買ってくるけど何か欲しい奴いる?」
「奢りなら。ミルクティー。一番高いやつ。ホットで」
「喧しいわ!!」
元々短編の劇である。読み合わせや打ち合わせを主要人物達で何度か繰り返していたら、あっという間に時間が過ぎていた。
「あー、あのさあ尾根」
「ん?」
水筒を取り出した暁に、お洒落なタンブラー片手に寄ってきたのは同時期に演劇部に入部した少女だ。暁と同じく長身だが、顔立ちが中性的かつ中学時代は剣道部で活動していた所為か体格もしっかりしていて、下級生からは男子よりもてている。実際、彼女をヒロインの相手役に抜擢した時は部内でも黄色い悲鳴があがる位だ。
彼女は奇妙に小声で暁の耳元で囁いてきた。
「古山、どしたの?」
「いやさあ、部長見てないかなって」
「ああ……」
つられた訳でもないが、暁もつい小声になった。
通常よりも広い教室内で、暁が幾つかのグループに分かれて劇の打ち合わせや小道具についての相談などをしている部員達をざっと視線を走らせた限りでは、教室の中に部長の姿は見当たらない。
「部長は休みだろうね」
相手も暁に確認するより先に察していたのだろう。やっぱり、と小声で呟きながら肩を竦める。
「またかあ……そりゃ、今回は三年は出ないけど。何日くらい出てないんだろ」
「うーん……」
暁の記憶が確かなら、新年度になって数回程度しか部活に出ていない気がする。新入生歓迎の時の劇と、劇のリハーサル二回だ。誠に申し訳ないが、1年生の中には部長を舞台でしか見ていない生徒が殆どであった。
暁やこの古山も似たようなものである。
皆、1年生。新入生の純粋な期待と不安を抱きながら、彼女の舞台を見て魅了される。迷わず演劇部に入部した生徒の殆どが言うのだ。入部動機は彼女の芝居が素敵だったからだと。
……そして、彼女の現状を知り落胆するのだ。
「去年の文化祭で部長を見た時は、凄い人がいるもんだって思ったんだけどね……学校の部活だからって、バカにしたらいけないって」
彼女は途中入部で、タイミングとしては梓と同じ位だ。部長の芝居を見て、自分でもあんな風に堂々と舞台に立ちたい、きらきらしてみたいと思ったのが、入部の動機らしい。
しかし現実はなんとも期待はずれだったようだ。
「何時まであんなんなんだろ、あの人」
「う、うん……言いたくは、なるかもね」
桜野高校演劇部の長い歴史に存在する、絶対的な上下関係と体育会系の気質を弾き飛ばし、実力主義に塗り替えたのは今の部長の存在をによるものだ。
当時一年生で入部したてだった暁の目にもそれは明らかだった。一度舞台に立てば誰もが彼女に引き寄せられる。他の者など、皆引き立て役でしかない。
当時はまだ部長ではなかったが、彼女は年功序列で役割を振り、才能あるものでも下級生ならば、ただひたすら雑用をこなさねば端役すら与えないという当時のやり方を実力のみで黙らせた。
だが彼女は新たな火種になりかねない存在でもあった。
彼女は何時だって自分のやりたいようにしかやらない。部活も気紛れに現れ、気が付けば消えている。今日のように最初からいない事も珍しくない。現に一年生すら最早部長の存在を気にしなくなっている。
特に今回は二年生が中心になる劇の為か私の事は必要ないでしょうとばかりだ。ここ二週間は姿を見ていない気がする。
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