劇中劇とエンドロール

nishina

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二十二話

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 午前中のうちに柚葉に連絡を取り、今朝葵としたやり取りの内容をざっくりと伝えるとあちらはすっかりその気になったようだ。直ぐに話をしたい、小説も読ませて欲しいとの返事が返ってきた。

 放課後は通常なら演劇部の部活動がある日は、梓と二人で部室に向かうのだが、今日は違う。クラブに行こうと誘ってくる梓に少し待ってと制止をかけ、暁は鞄を持って葵の席に向かった。
「今から部活に行くんだけど、加百演劇部の場所知ってる?」
「知らない」
「だよね。私と梓と一緒に行かない?」
「わかった」
 リュックを背負うと葵は素直に頷く。
 朝の事もあり、かなりのクラスメイトの視線が痛くもあったがその大部分は加百が演劇部に入るのか?という方向に興味の方向が変化していた。それなら、ここ数日演劇部所属の暁と会話している姿が見られたのも、リサーチからだと納得が行くのだろう。
 引っ込み思案で人見知りな梓は、無愛想な男子と一緒に行動するのを態度ではなく表情で渋っていたが、こればかりは我慢して欲しい。
「加百って帰宅部なんだよね」
「やる事ないからな」
「文芸部とか、興味ないの?一人の方が楽しいなら、まあわかるけどさ」
 梓は暁と話したいようであったが、葵と会話するなんて機会もないし、今後また葵とは何一つ接触する事などない遠く離れたクラスメイトになるのは分かりきっていている。ここぞとばかりに暁は話を切り出した。

 一人で小説を書き続ける事が悪いとは思わない。満足するなら、発表する機会など欲していない人もいるだろうからだ。
 しかし葵の返答は暁の予想とは違っていた。てっきり他人と関わって書く時間が減るのが嫌だとか、他人の作品に興味ないといった返事だと思っていた。
 あっけらかんと彼は言った。
「部活は禁止されてる」
 桜野高校の部活動は強制ではない。帰宅部の生徒も多数いる。
 だが彼等の大多数は自分の意思である。適当な部活が見付からなかったり、部活動より興味のある活動が校外にあったり。はたまた早く帰って自宅の時間を過ごしたかったり。
 暁は想像もしていなかった。
 主語は無かったが、禁止されてるというなら対象はひとつしかないだろう。彼の両親のどちらかか、もしくは両方だ。
 言葉を失う暁の斜め後ろで梓が眉を潜めた。
「勉強しないと駄目だし、元々部活に行く暇ない」
「そうなんだ……」
 それも葵の意思ではないのだろう。勉強したい、という前向きな発言でない言葉が彼の口から出てきた意味くらい、小説を読まない暁でも理解できた。
 本人は、暁や梓がなんと返したら良いか悩んでいるのに気付いているのかいないのか、常と変わらない不機嫌そうにも見える無表情で淡々としたものだ。

 人の家庭の事情にどうのこうの言える立場ではない事は暁は分かっていたが、嫌な感情が口をついて出てきそうで、その感情をどう飲み下したら良いのか分からなくて黙ってしまった。奇妙に沈黙した、特に仲も良くなさそうな3人組が並んでただ廊下を歩く姿は端から見ていても近寄り難く、奇妙だったろう。
 親だからといって部活動の自由を制限されたくないと思うのに、それを葵に言えない自分にも、苛々した。葵は悪くないのだから、言っても良い筈なのに。
 

 結局沈黙に沈黙を重ねてお通夜のような3人組が演劇部にたどり着いた時には、部員はまだあまり集まっていなかった。どうやら先頭を行く暁が沈黙の気まずさから逃れる為に、無意識のうちに速足になっていたようだ。
 既に来ていたのは予め暁の連絡を受けていた柚葉と、数人の部員のみだ。部長の姿は何時も通り、ない。
「彼が小説を見せてくれた尾根のクラスメイト?俺が演劇部の副部長で、きみに脚本を書いて欲しいって無理言った甲斐だ。いきなりでごめんな」
 愛想良く話す柚葉に対しても葵は相変わらず無表情だ。副部長の気を悪くしないかと気を揉みながらも、脚本や小説については素人の暁に出来る事はない。横目で彼等の様子を見ながら、既に来ている部員と引き続き、台詞合わせや衣装についての確認について話し合いに行った。

 葵は暁が返した小説を改めて柚葉にも読ませた上で、こんなものしか書けないが本当に脚本の元になる話を俺に任せて良いのか、といった会話をしていたようだ。大きな会話でもなかったが、部員の数が少ない為に暁の耳にも時折二人のやり取りが漏れてきた。
「俺はこんなんしか書かないけど」
「話としてはちゃんと完結してるし、舞台にしても分かりやすい話になると思うよ。改めてお願いしたい。良いか?」
「そうなんだ。じゃあ」
 正直暁も葵が脚本を書くなら演じる立場としてどんなものになるか興味があったし、周りの人間もそれは同じだ。部活動に打ち込むもどこか気がそぞろで、彼等に意識がいってしまうのも無理はない。

「気楽に書いてくれ。こちらは悲劇でも、それをどう演出していくのかがやりがいになるし、腕の見せどころだ。加百の小説を任せてくれないか?」
 葵自身もそこまで熱烈に求められて悪い気はしなかったのだろう。すっかりやる気に火が着いたらしく、次の作品発表に間に合うように設けられた早めの締め切りにも不満を漏らさず引き受けているようだ。
 
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