劇中劇とエンドロール

nishina

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二十三話

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 2人の間で話はついた。その筈なのに葵は部室から去る事をせずにゆったりと、緩慢な様子で部内をぐるりと見渡した後、はっきりとこう言った。
「俺の書いた話が出来たとして、主役をやる人とかもう決まってる?」
「主人公が女性だったら、まず間違いなく部長が主人公を務める事になると思うよ。男だったら、役柄や性格によるかな……多分、俺か後あそこにいる黒髪の、そう。彼とその隣の彼あたりがうちの主力だから主人公になる場合が多い」
「部長は?」
 葵の質問につられるように暁も横目で部室内を見渡したが、段々と部員が増えてきたにも関わらず、部長の姿はどこにもなかった。
「悪い。今日は部長は休みなんだ。写真で良ければ、あるけど」
 副部長の柚葉や、部内で広報係を務める部員は他の部員の許可を得た上で、普段から部活動の写真を頻繁にスマートフォンやデジカメに納めている。
 スマートフォンを操作しながら柚葉は葵を手招きし、一枚の写真を提示した。
「ほら、これ。これが部長の花色 光。三年」
「なんか、ぱっとしねー女」
 先輩だとか部長だとか関係なく、真正面から失礼な発言をする葵にも柚葉は苦笑で受け流すと、大して気分を害した様子もなく続けた。
「ぱっと見はね。多分俺が撮った時の角度が悪かったんだろ」
 部長の画像を仕舞い、再び柚葉は葵に尋ねた。
「どう?この人が主人公のイメージになっちゃうんだけど。見せちゃったからには」
「大丈夫だろ。あんまり気にならんし」
 そのような会話が、微妙に聞き耳をたてるつもりはなかったつもりの暁の耳にもしっかり入ってきた。つまり、傍でシーン毎の打ち合わせを行っている梓含めた部員達も同じ状況下にあるだろう。

「ねえ、最初に主役やるなら誰?って聞いたの、あっちだよね。何でケチつけといてあんな偉そうなのあの人」
「さ、さあねえ」
 他の部員にそう聞かれても、暁には柚葉より数段下手くそな、ひきつった苦笑いで誤魔化すしかない。
 そんなんこっちが聞きたい、バカタレが。
 手にした台本を握り潰しそうになるのを、暁はギリギリ堪えた。
 全く人の部活で好き放題して何様なのだ。いや、こちらが依頼した立場なのだから、事情を考えれば副部長が下手に出るのは当然なのかもしれないが……。
 しかし部員であり、成り行きとはいえ葵を紹介した立場に立たされてしまった暁の気持ちも考えて欲しいものだ。
 
 ああ憎たらしやと視線を送る。別にそれで葵が転んで痛い目を見る訳でも、自分の言動がちょっとばかり失礼だったと悟って反省するでもないとはわかってはいるのだが、ほんの少しの腹立たしさとがそうさせた。
「……いっ?」
 ばっちりと、当の葵と目が合ってしまった。
 いや正確にいえば、葵の視線がこちらへ向いている事に気付くよりも早く、彼の指先がこちらを真っ直ぐ捉えていたのに面食らっておかしな声が漏れてしまったのだった。
 一体何だろう。何のつもりだと声を出すより先に、葵が口を開くのが早かった。
「副部長、聞きたいんだけど。俺が話書いたら、その話にアイツは出せる?」
 人を指差すなよ、と思う余裕すらなかった。葵の発言は完全に暁の反応出来る想定外のものだった。こいつは何を言っているのかと、顎が外れそうになる。気持ちではもう外れていた。
 何言ってんだと止めなければなるまい。葵にそこまで口を挟む権利は存在しないし、次の劇でも役を奪いたい暁の差し金と思われては堪らない。

 しかし反応は副部長の方が早かった。
 最早葵に対する感情のレパートリーがそれしか残されていないのだろう。苦笑いのお手本のような表情を浮かべた儘、柚葉は葵と同じく暁の方へと視線をスライドさせた。
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