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桂木透子
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浦田問題から一か月後。
何事もなく平和な日々に、新しい光が差し込んだ。
転校生である。
「桂木 透子です。よろしくお願いいたします。」
珍しく黒髪のロングで間違いなく美人顔。
見た目はおとなしそうなタイプ。
「おい、新城の横開いてるだろ、教科書届くまで見せてやってくれ」
男子は美人の登場に、歓喜の声を上げ女子は白けていた。
「すいません、迷惑かけて」
「いえいえ…」
まぁ、男子がチラチラ見て俺を睨む。
いいねぇ、青春だわって浸ってたよ。
放課後。
掃除当番の俺は残って片づけてた。
転校生は先に帰った。
掃除が終わり、例のごとくジムに向かう。
あれっ?
後ろ姿…というかロングの黒髪は…
「桂木さん?」
振り向くと当たりだ。
笑顔で一礼された。
ここでふと疑問が湧いた。
かなり前に帰ったはずなのに、校門からまだここを歩いている。
遅くね?って思った。
けどその理由が分かった。
桂木の歩き方がおかしい。
左足の動きが違うことに気づいた。
「もしかして足ケガしてる?」
「あぁっ、これね…違うの。生まれつき不自由なの」
「えっ?」
思いもよらなかった。
聞くと、脊髄内にある神経に問題があるようで動きが悪いのだとか。
他はなんともないという。
あとで調べたら「肢体不自由」と分かった。
「大変だね」
「私は慣れてるけど、友達と歩くとペースが遅いから疲れるよね」
「部活してないの?」
「うん、転校ばかりしてたから続けれないの」
「じゃあ、また転校するの?」
「お父さんは、もう10年はしないって言ってた」
「そっか…」
「そういう新城クンは部活してないの?」
「個人的に武道はしている?」
「えっ!?格闘家なの?」
「違うよ、あくまで自己防衛の意味でね、ムエタイやってる」
「はぁーっ、すごいね」
なんだろう、すげぇ青春してるよ。
学校帰りにJKですよ、JKと並んで帰る。
この他愛もない会話が超新鮮です。
「ウチは親父がいないから、母さんと妹守らなきゃだからね」
「家族思いなんだね」
ニッコリ微笑んだ顔が可愛すぎるわ!
一郎の時、JKなんてただのロリだと思ってたよ。性の対象なんてならなかったよ。
でも、この桂木 透子の笑顔はすげぇ破壊力だわ。
やばい、恋に落ちそう…
「でも、いいね…運動もやってみたかったな」
「そっか、なんか…ごめんな」
「いいのよ、別にそういう意味じゃないから気にしないで?」
「じゃあ、休みの日とか出かけたりしないのか?」
「うーん、家族でドライブはあるけど友達の時は気を使うから一人が多い…かな」
「あのさ、来週の日曜日ってヒマ?」
「う、うん」
「じゃあ、渋谷行かない?」
「えぇっ!!行く、行く、てか行きたい!!」
なんか自然にデート誘っているし、この辺りは図々しい一郎なんだよね。
千佳子との初デートも勢いで申し込んだからな。
後で聞いたら「断ったら殴られると思ってた」って笑ってたな。
「でも…」
「どした?」
「私、歩くペース遅いから…たぶんイライラするよ?」
「それは大丈夫!!悪いけど俺はそれを利用させてもらうから」
「へっ?どーいう意味?」
「訓練だよ、実はゆっくり歩くのって訓練になるんだ。ワザと足腰に負荷かけるからね」
「そーなんだ、じゃあ…お願いします」
ぺこりって頭下げたよ、下げられましたよ。
ダメだ…可愛すぎる、もうムエタイなんて通用しない可愛さだ。
いやね、何がいいって礼儀を心得てる子って弱いのよ、オジサンにはね。
はい、いくらでもお願いされますよ。
その日から何着ていこうか、女子か!!ってなぐらいルンルン気分。
やべぇ…青春が楽しい。
「なんか、お兄ちゃんのクラスに美人さんが転校してきたって?」
「おう!!来週その子とデートよ」
「えぇぇぇっ!!デートぉ~?いつの間に…」
「フフフっ…兄を舐めるなよ」
「ねぇ、女の子の扱い方ちゃんと分かってるの?ガサツな事しちゃダメなんだよ」
妹よ。誰に言ってるんだ?
俺は生前は既婚者ですよ?
分かってますよ…
クラスにバレると面倒くさい。
せめてデート終わってからにしたい。
隣で揺れる桂木の髪からいい香りがする。
休憩時間には、男子数名が色々と聞きに来る。
時々、桂木が合間を縫ってウインクしてくる。
そんな攻撃しないで下さい。
確実に死にます。
知っててやってたら小悪魔だよ。
さて、そんなこんなで日曜日。
待望のデート日で天気も良い。
桂木とは駅で待ち合わせることにした。
目の前で車が止まった。
後部座席から、黒髪の少女が降臨してきましたよ。
おぉっ、ストライプのシャツと白のロングスカート。
可愛いねぇ…
はっ、いかんいかん。完全なオヤジ目線だったわ。
お父さんらしき人が運転席から降りてきた。
こういう時は初動の挨拶が肝心なのです。
好印象もたせるためにね。
「初めまして、新城 直哉と申します。今日は透子さんをお借りします」
「初めまして、透子の父で雄三と言います。新城クンはしっかりしてるね、今日はよろしく頼むよ」
「はい、夕方には戻るようにしますので」
一礼して去る。
完璧だわ。
この挨拶が大事なのよ。
改札抜けて、エレベータを探すが桂木が階段で行くと言う。
彼女も訓練らしい。いつか動くと信じているのだとか。
涙でるわ。そんな日が来てほしいよ。
「新城クン、先上がってて」
「いえいえ」と俺は一歩ずつ歩調を合わせた。
実は足首にはパワーバンド(つまり重り)を装着しててね。
階段では上る時、足の滞空時間を長くすると負荷がかかる。
けっこう来るんですよ。
「それがトレーニングなの?」
「ういっす」
「なんか変よ。あははっ」
二人で上まで登って電車を待った。
「ありがとうー、階段で一緒に上がったの初めてなの」
「いえいえ、いつでもしますよ」
電車に乗ると、桂木が一歩近づいて俺の顔を見上げた。
「新城クンて何センチあるの?」
「んー百八十三だったと思う」
「そうなんだ、私ね見上げるのが好きなんだ」
「どーして?」
「下を見ると、時々ちょっとだけ嫌な気持ちになるから…」
そうなんだ。
これが健常者に分からない心理なんだよね。
障害を持つ人たちは、みなそれぞれ懸命に生きている。
彼らが望むのは、大金でも名誉でもない。
健常者と同じように不自由なく生きたい…なのだ。
改めて勉強になる。
渋谷に着いた。
すごい人だらけだ。
「ふわぁ…迷子になりそうね」
「あのさ、すまんけど手をつないでもいいか」
「えっ!?」桂木の顔が赤くなった。
「こんだけ人がいると、桂木のペースが掴みにくくなるから…その、手をつないでいればペース崩れないから」
ちょっと考えてから手を差し出した。
「ありがとう、ごめんね」
白く細い手だ。
ちょっと力入れたら折れそうだ。
「新城クンの手って大きいんだね」
「痛い?」
「ううん、なんか安心するの…」
マルキューに行った桂木のパワーは凄かった。
あちこち見て試着して、学校と違う一面が見れて楽しい。
逆に俺の方がダウンしそうだ。
途中でアイスを食べた。
「なんか新城クンの美味しそう…そっちにすれば良かったかなぁ」
「ははっ、じゃあ、これ食べるか?」
「いいの?」
「交換しよう」
こんな他愛もないやりとりが、こんなにも新鮮に感じる。
心はとっくに経験済みなんだけどね。
なんか身体が感じるんだよね。
決してスケベな意味じゃなくてね。
約束の夕方が迫り俺たちは電車で帰った。
家まで送ることにした。
ここでもペースは合わせたよ。
でも心地いいんだよね。
「私、歩くのが遅いけどいいこともあるの」
「へぇ、、聞かせてよ」
「途中の景色をゆっくり眺めるの。木の枝とか、公園の滑り台とか、よく見ると違って見えたりする」
「そんなものかねぇ」
「うん、目的地だけ見ててもつまらないし、こうやってじっくり眺めていると違いとか分ったりするの」
なるほどね。
桂木 透子という女の子が少し理解出来た。
確かに見慣れた風景でも、視点を変えると違うのかも知れない。
足は不自由でも感受性は豊かなんだな、と感心したよ。
家に着いた。
最後のシメも大事です。
「ただいまぁ~」
「お帰り」
「お帰りなさい」
今度は両親ですか。
「今日はとっても楽しかった。ありがとう、新城クン」
「こちらこそ、無事にお送りしました。これで失礼します」
両親が笑ってる。
帰ると門のところでお父さんが寄ってきた。
「あんなに喜んだ娘を初めて見たよ。あの娘には今まで転勤で苦労もかけた、友達も中々出来なくてね。良かったらこれからも遊んであげてくれないか?」
きましたよ。父公認!!
もう黄門様の印籠貰ったようなものです。
「こちらこそ。またお誘いします」
帰りは少しペースを落として歩いた。
なるほどね、違って見えるか…そうかもしれないね。
翌週から桂木との距離は一気に縮まった。
ほかの男子とも明るく話してる。
女子も何人か話しかけてる。
そして、時々俺にウインクしてくる。
これがたまらない。
人目を盗んでこっそり耳打ちしてきた。
「この間はありがとう…また誘ってね、待ってる」
女の耳打ちはどうしてもこんなに気持ち良いのだろう。
ヒソヒソ声がたまらない。
メールでのやりとりもしていた。
学校のこと、友達のこと、お互いのプライベート、そして足のこと…
<できれば、新城クンと同じペースで歩ける日が来るといいなぁ>
心打たれるよ。
<焦らず、じっくり行こう。俺は気にしてないし、桂木が笑顔でいてくれればそれが一番>
<ありがとう…そんなこと初めて言われました。とても嬉しいww>
「お兄ちゃん」
「あっ、メシ?」
「うん、出来てるよ」
「この間のデートどうだったのよ~?」
「そりゃあ、楽しみましたよ」
「桂木さんだっけ? 美人でおっぱいも大きいもんね~」
「なんだ?ひがみか?…」
確かにね、それは俺も思った。
「なによ!そりゃあ…胸はちっちゃいけど…あたしだってコクってくる男子ぐらいいるんだからね」
「おぉ…そうか!よし、お前に男を落とすいい方法教えてやる」
「えぇっ…ゲーマーのお兄ちゃんに分かるのぉ?」
「ウインクしてみろ」
「えっ…こう?」
意外とできない人多いんだよね。
「それ…瞑ってるだけ」
「じゃ…こう?」
「完全に閉じてる…」
「あ~難しいよぉ」
「じゃあ、手料理で頑張れ!」
「…そっか…それもいいな」
妹が食べながら呟いた。
「お兄ちゃんさぁ、事故以来変わったよね」
「そ、そうかな…」
「うん、前はもっと暗かったよ。でも、今はすごく明るくて社交的な感じだよ」
「うーん、思考回路が変わったのかな?」
「だってゲーマーだったのが全然しなくなったし、ムエタイなんてやりだすし…」
「嫌いか?」
「あたしは今の方が好きだなぁ…クラスの女子でもお兄ちゃんのファンがいるんだよ」
マジか!!
モテ期到来か!
風呂から上がりベッドで寝転んだ。
確かに中身が違うから変わって当然なのだが、いつも心のどこかで本当の直哉クンには申し訳ない気持ちがある。
彼のスマホは事故で破壊した。
だからアルバムでの小さい時しか分からないが、俺が見てもおよそ似つかわしくない表情をしていた。
亜紀もどこかで感じ取っている。
いつか真相を話す時が来るのだろうか?
それは桂木 透子に対してもだ。
体格がいい割に暗かったらしく、小学生の時に虐めにあっていたこともあると聞いた。
彼は限界を感じていたのかも知れない。
もしかしたら自らの命を絶つことも考えたのかも知れない。
でも、それじゃ家族が悲しむ。
だから、彼は俺にSOSを出したのではないか?
自分では出来ないことを俺に託したのだろうか?
しかし、今となっては彼に聞きようもない。
それから二週間過ぎた。
桂木は病院への定期検査とかで早退していた。
事務に向かう途中、一人の下級生らしき男の子がぶつかってきた。
ドン!!
「いてっ!おい、どこ見てるんだ?」
ひょうしに転んだ下級生は焦った顔していた。
「こ、ごめんなさい」
そして、そのままダッシュで走り去っていった。
(なんだい…)
足元でガサッと音がした。
ん?
なんだこれ?
チョコレートだ。
しかも未開封のだ。
彼が落としたのだろう。
明日届けてやるか、と鞄に入れた。
その時、後ろで走ってくる音がした。
「おい!今走った奴ヤツを見たか?」
こっちは上級生、つまり三年生ぽかった。
ちょうどここは交差点。
俺は虐めだろうと思い逆の方を指さした。
礼も言わず三人とも間違った方向へ走っていった。
下級生虐めかよ。
その時はそう思ってた。
家に帰って、鞄から出てきたチョコを見た。
そういえば、こんなパッケージ見たことないな。
表面にはデカデカと<Crush>と書かれている。
最近のやつだろうか?
夕飯時に亜紀に聞いてみた。
「Crush?知らなぁい」
お菓子大好きな亜紀が知らない。
新発売のものか?
「外国製のだと分からないけど、日本ものならウチらチェックしてるから分かるんだけど」
現物見せてみた。
「見たことないなぁ…あれ?でもこれ日本語で書いてあるね」
いいたいことは分かった。
成分や注意書きが初めからパッケージに印刷されている。
輸入物はシールで上から貼り付ける。
つまりこれは国内で作られたものということ。
「たぶん、亜紀と同級生だと思うんだが…」
「どんな人?」
大体の風貌を伝えた。
「もしかして二組の会田クンかなぁ…」
「会田…なんで知ってんの?」
「この間、テストでいきなりトップとってたから」
「もともと良かったんだろ?」
「ううん、逆のドベレベルだった。だから話題になったのよ」
何気ないチョコレートだが、何かが引っ掛かった。
翌日。
一年生のクラスは全部で五クラスある。
二組を訪ねた。
「会田クンは今日は休んでますよ」
しかしその日だけではなかった。
翌日も、その翌日も休んでいた。
風邪かと思われたが、休む前の日まで元気に来ていたとか。
仕方なくあきらめた。
俺は溶けても困るので冷蔵庫に入れておいた。
その晩。
亜紀に貸してたDVDを見ようと部屋をノックした。
「開いてるよ~」
開けて驚いた。
冷蔵庫のチョコ食ってやがる。
「それ人のもんだぞ」
「いいじゃん、どーせ休んでいないんでしょ?」
あーあ…半分も食ってるわ。
もう返せない。
「あのさぁ…これいい気持ちね」
「なんだって?」
「これ食べたらさぁ…なんか気分よくなってきちゃった」
そう言ったとたんに様子が変わった。
「うっ…おぇっ!!!」
おいおい、吐くなよ!!
とっさにゴミ箱を出した。
亜紀はその中に夕飯もチョコもすべて吐いてしまった。
一息ついてベッドに寝かせた。
「大丈夫か?」
「…うん…吐いたらスッキリした…」
「人様のもの食うからバチが当たったんだぞ」
「…うぅ…ごめん、でもね…」
「どーした?」
「食べてすぐに気分良くて、全然眠くならないの。なんでも出来るよーな感じだったの」
えっ?と思った。
「そしたら、いきなり胃がボコンとなった感じで気持ち悪くなったの」
おかしい…たかがチョコにそんな成分あるか?
チョコ中毒はあるが、今まで食べて何ともないのに。
この時、一郎の経験が鐘を鳴らした気がした。
もしかして、何か別のものが入ってる?
覚醒剤でもあることだが、この症状は違法ドラッグによく見られる。
覚醒剤は注射が基本だが、最近は鼻や口からの摂取もある。
しかし、覚醒剤はオーバードーズすると全身にしびれやショックを起こす。
最悪は絶命だ。
嫌な予感がした。
亜紀は一日すると回復した。
「賞味期限切れてたかなぁ」と呑気に言ってたが、まずそうじゃない。
食中毒なら回復までもう少しかかる。
取り上げた半分のチョコを調べる必要があった。
「Crush? 知らないわ」
桂木の答えも同じだった。
少なくとも高校生レベルで成分分析なんて無理な話だ。
マトリの中でも半数は薬剤師の資格は持っている。
しかし、分析用の器械が無ければ不可能だ。
まして、今の俺は高校生だ。
こんなもん持ち込んだら一発で疑われる。
民間でやっているところもあるが、金がかかる上に違法性のものが入っているとなれば通報される。
「ね、ところで今度の土曜日の夜にご飯食べに来ない?」
「桂木ん家に?」
「うん、お父さんが新城クンの事気に入ったみたい、良かったら誘ってみてって」
「うん、いいよ。じゃあ、七時にでもいいかな?」
「分かった。お父さん喜ぶと思うわ」
チョコの件は置いといて、土曜日の夜は桂木邸を訪問した。
新しい一軒家を借りているとか。まぁ、転勤族だからね。
「いらっしゃい」
「お招きありがとうございます。図々しく来てしまいました」
「あはは、大人の挨拶みたいだなぁ」
何でもお母さんが腕によりをかけて作ってくれたようだ。
家のとも千佳子のとも違う。
台所では桂木がエプロン着て手伝っている。
楽しそうだ。
「なんでも事故にあったと聞いたが…」
「まぁ…おかげで記憶を全部無くしてしまいました」
「そうなのか?それは大変だったろぅ」
「ええ、なんせ母や妹の名前すら分からなくて大変でしたね」
「子供をかばったって聞いたが、出来る事じゃないよ、大したもんだ」
申し訳ない。
それ直哉クンなんです。一郎じゃないんです。
「ねぇ、二人で何話しているの?」
桂木がチャチャ入れてきた。
「いや、桂木が美人だって話してたんだよ」
「ほんとかなぁ…」
「さぁ、出来ましたよ。たくさん食べてね」
ここ最近ではメチャ食いましたよ。
食べっぷりがここの一家には新鮮だったみたいで。
美味しいのよ、ついついおかわりしたらお母さん大喜びしてたな。
とにかく楽しかった。
桂木の性格が良いのも頷ける。
俺の経験もそうだが、良い家庭の子供は大抵は良く育つものだ。
そして、密かに期待していた桂木の部屋を訪問出来る事となった。
いつ以来だ??
確か千佳子の一人暮らしの時以来だな。
超ドキドキするわ。
「なんか恥ずかしいな」
入ったら、THE女子部屋!!
ピンクと白の可愛い部屋だよ。
ベッドに定番のぬいぐるみもある。
あ~たぶん、あのタンスに…あるんだろーなぁ。
いかん!!今は誠実な直哉クンなんだ。邪心はいかん!!
「ねぇ、あんまり見ないで…」
「お茶持ってくるね…」
それから部屋で色々話した。
常に甘い香りが流れてる。
「そーいえば、あのチョコレートってどうしたの?」
「それがさ…」
妹の事を話した。
まぁ、びっくりするわな。
「大丈夫だったの?」
「次の日はピンピンしてたよ」
「なんか怖いな…」
「もし、見つけたら俺に連絡してくれ」
「うん、分かった」
九時には家を出た。
悲しいかな、高校生だからここが限界なのだ。
桂木邸と俺の家は歩いて十分程度の距離で途中に公園がある。
公園の横を歩くと声が聞こえた。
んっ?
「チョコレートくれよ」
「お前、この間買ったばかりだろう」
「あれが欲しいんだよ!!勉強が捗るんだ」
「ダメだ、既定の量を超えることになる。来週まで我慢しろ」
Crush…そう思うよね。
木の陰に隠れながら脅してみた。
「おまえら、こんなところでなにやってんだ!!!」
全員がビクッとして見回してバタバタと逃げていった。
ゆっくりたまり場の所に行くと落ちてたよ。
Crushがね。
同じやつだ。
元マトリの勘も言ってるが、これはおそらく薬物入りチョコだ。
たぶん常習性のあるもので、ハイになれるものだろう。
覚せい剤ならコカイン系と思われる。
売人が高校生か。ウチの高校で三年生あたりが元締めか?
いや、おそらくバックに誰かいるはずだ。
こういうものは工場が必要だ。
たかが高校生に作れるシロモノではない。
盛田が言っていた。
数年前から突然の進学校になった、合格者の数名が行方不明だと言うこと。
そしてビリだった会田がトップになったこと。
目的は進学レベルの引き上げか。私立の高校は金を集めるのに必死になる。
一番言えることは、進学校には黙っていても金が集まる、ということだ。
しかも、急成長すれば人を引き付ける力も増していく。
しかし、進学レベルを上げるためにドーピングをするものか?
リスクが高すぎる。
どっかの優秀な先生を引き抜く手もあるはずだ。
目的はそう単純ではない気がした。
今の段階では何も確証はない。
マトリに流すことも考えたが、出所がはっきりしていないし成分が何かも分からない。
仕方ない、アイツに全てを話して協力させるか…
信じないだろうなぁ…でもオカルト好きだったから、なんとかなるかな。
直接コンタクトしてみるか。
分かりやすい番号だったから覚えてる。
ショートメールで送ってみた。
実はマトリの検挙ネタ元に多いのがタレこみである。
その辺りを利用するか。
最初は一人か二人で探りを入れて、摘発が決定すれば組織的に対応する。
<新種の情報あり>
これだけで通じる。
すぐ返信来た。
<場所は?>
<〇〇公園 木のベンチ>
<日時は?>
<今週、土曜日夕方五時>
<了解>
タレこみもほとんどが短文のやりとりだ。
あとは、どう理解させるかだな。
土曜日。
ラフな格好で待っていた。
おっ来たな。
少しチャラさが抜けたな。
「きみか?」
「はい」
「新種のネタとは?」
「その前に話しておくことがあって」
「なんだよ」
「北川 光彦 28才 独身 趣味 オカルトゲーム 月に二度の風俗通い」
「なっ!!なんで、えっ?なんで知ってるんだ?」
「昔、元カノに噛まれたお尻に三針縫って傷は残ったまま」
「えっ!!」
「半年前から萌えキャラにハマり、イベントには休みを取って参加中」
「だっ誰だ、おまえ?」
「ちなみに、そのイベント参加が上司にバレて怒られた」
「だから、なんで知ってるんだよ?」
「怒られた後の上司からの一言は、初音ミクは時代遅れなのか?」
「えっ?えっ?えっ?」
「俺だよ、新庄 一郎だよ」
「はいぃぃぃっ? いやいやオマエ高校生だろ?」
「そ、だけどホントなんだよ」
「バカ言うな!新庄さんはもうこの世に」
「いないよ、意識というか心というか、この高校生に転移したんだよ」
「オマエからかってんだろ?」
「じゃ、なんでミッチーの隠したい本性知ってんの?」
「その呼び方は…新城さんの?」
「オマエはイチさん、俺はミッチーだったよな?」
「分かった、オマエ新庄さんに聞いたんだろう?だから知ってて…」
「じゃあ、なんで高校生がマトリの電話番号知ってるんだ?」
「いや、それは…」
「一般には非公開の番号だ。知ってるのは仲間内と情報屋ぐらいだろ」
半信半疑ってとこだな。
「じゃあ、新城のよく言ってた言葉思い出せるか?」
「……あっ!」
「じゃあ同時に言おう、せーの」
「99%間違いない!」
どうやら、これで信じたようだ。
「え…ホントに新庄さん?」
「家の近くで刺されて死んだ、で、同日に事故で生死の境を彷徨ってた高校生の中に入ったわけ」
「そんなこと…ほんとにあるんだ…事実は小説より奇なりってホントだ…」
やっぱり、オカルト好きは理解が早くていいね。
俺は今までの経緯をかいつまんで話した。
ミッチーは更に信用する眼差しを向けてきた。
「いやぁ、すごいわ!高校生なんてまた青春してるんすね」
「バカ言うな、結構大変なんだぞ…全くの他人になってるんだからな」
「えっ…じゃあ奥さんとかみおりちゃんには?」
「まぁ、一度助けられたって設定で会いに行ったよ。自分の線香あげにな。立ち直ってて安心したよ」
「話さないんですか?」
「それは出来ないな。今の俺は新城 直哉だ。もう別の家庭に組み込まれている。見守ることしかできん」
「なんかせつないっすね…で、新種ってのはブラフですか?」
「あぁっ…いやいやそれはホントなんだ。ミッチーの手が借りたくさ。なんせ高校生じゃ何にも出来ん」
ポケットからチョコレートを渡した。
「チョコ??」
「おそらく薬物入りだ、成分を調べてほしい」
「なんでこんなものが?」
「偶然、手に入れたものでな…どうも生徒たちの一部で出回っているようなんだ」
「高校で?新たに商売先の開拓ですか…」
「いや、どうもそうじゃない気がしてる」
「というと?」
「ヤクの商売は不特定多数に売るから、元締めに辿り着きにくいだろう?」
「…そうか。高校なんて狭い場所で売れば、元締めは分かりやすくなる…」
「そのリスクを冒してまで、こんなもの売ってるという事は…」
「他の目的がある…」
「99%間違いない」
「あっ、それそれ」
「今までのヤクとか、違法ドラックとは違うような気もする、頼むよ」
「分かりました。ケンさんに調べてもらいますよ」
「おっ、ケンさん元気か?」
「孫が産まれてから、目尻下がりっぱなし!」
「そうかぁ…みんなそれぞれだな」
「でも、たまたま帰省中で刺されるなんて」
「ずっと単身赴任だったからな。帰省で気が緩んでたよ。そこを狙ったんだろうがな」
「捜査一課で探してますけど、未だ犯人は…」
「あぁ…たぶん、消されてるだろうな」
ジャンキーには薬をエサにするのが一番だ。
もう薬漬けの人間にはまともな思考なんて働かない。
殺人だろうが誘拐だろうがなんでもやってしまう。
そこで北川と別れた。
翌週。
後ろの席の盛田は情報通だ。
虐められないように、普段から情報収集は欠かしていない。
これも自己防衛の一種と言える。
「なぁ、ウチの三年生ってどうなんだ?あくまり話に出ないけどさ」
「あぁっ…そうだよね、新城クンは記憶無いんだよね…」
「なんかあるのか?」
「正直、あんまり関わらない方がいいよ」
「なんでだ?」
「美田園 麗香って知ってる?」
「いや…」
「ようは金持ちの娘でね、美人で頭も良くてスタイルも抜群の人でさ、一年の頃から目立ってたんだ」
「ほぅ…」
「男子たちがアタックしたけど全員玉砕したの。フラれた中に石丸っていう不良もいたんだよ」
「石丸ねぇ…」
「そいつが腹を立てて、美田園をレイプしようとしてた」
「そりゃ…大胆だな」
「ところが、逆に襲った石丸がボコボコにされてね」
「取り巻きが守ったのか?」
「違うよ、美田園 麗香本人がやったんだよ」
「そんなに強いのか?」
「極真の三段だって…」
「あらら、で、石丸はどうなった?」
「肋骨三本にアゴ割られて三か月の入院さ」
「まぁ、それぐらいはやられるな」
「でも、美田園は退学にならず今も来ている。あれ以来、誰も美田園に声をかけなくなったんだ」
「だが、それが三年生と関わらない原因なのか?」
「いや、そうじゃない。美田園は学校内でクィーンと呼ばれてるんだ。周りに部下みたく腕に覚えのあるヤツを従えてさ。先生たちも何も言えない感じなんだよ」
「でも、問題起こしてるワケじゃないよな?」
「まぁね、だけど…」
「だけど?」
「何か計画しているらしい…と聞いたことがある」
「計画?なんだそれ」
「そこまでは分かんないよ。ただ、美田園が入ってきてからさ、ホラ前に言ったじゃん、進学校のレベルが上がったって話さ」
「あぁ…関係あんの?」
「美田園が入ってから飛躍的に上がったんだよ。だからさ、なんか匂うなぁって思わない?」
「ふーん…」
今だから思うけど、盛田の説はあながち外れていない。
チョコレート、進学、学力アップ、美田園、そして合格後の行方不明…これらは一本の線で繋がっている。
確かに、学力アップと学校のブランド化はどの学校でも欲しがる。私立なら猶更だ。
もし、薬物のドーピングで学力が上がったとして、なぜ合格者連中が行方不明になる?
経験上、思いつくのは<裏切り><密告><逃亡>だ。
自責の念にかられてのことか、それともドーピング無しのレベル差についていけずの逃亡か?
だが何か釈然としない。
「なぁ、その合格者連中っていつ頃から行方不明なんだ?」
「えーと、全員のまでは知らないけど…確か半年以内だったと思う」
「騒ぎになったのか?」
「いや、当時の新聞にも載らなかったと思うよ。あくまで先輩たちから聞いた話だからさ」
よほどの大物じゃない限り、学生の行方不明なんて新聞に載るはずがない。
年間八万人以上も行方不明者がいる。そのうち二十代以下の割合は二十パーセントを超える。
大抵は一週間以内で見つかるのだが、それでも二万人近くは未だ見つかっていない。
「盛田が聞いてるのは何人だ?」
「四人だよ、男三人で女が一人…」
なんかマトリ時代に戻った気分だ。
生まれ変わったのに、またあの暗雲の世界に踏み入れるのか?
「何の話してるの?」
桂木が割り込んできた。
「いや、盛田にどーやったら彼女が出来るか…をね」
「へぇ、盛田クン好きな人いるの?」
手と首をブンブン振ってる。
「帰ろう」
桂木の誘いに応じて校舎を出た。
「ねぇ…お父さんもお母さんも新城クンの事をすごく気に入ったみたいなの」
「そうなんだ、ありがたいですねぇ」
「でね、今度はいつ来るの?って…何回も聞かれちゃって」
「あぁ…お母さんの手料理は美味かったよ」
「ガツガツ食べる新城クン見てて、やっぱり、もう一人男の子産めば良かった~なんて言うのよ」
「そんな食ってた?」
「うん、凄かったよ。私も見てて気持ち良かった」
「あはは、お恥ずかしい」
「もうお母さんの方が気に入ったみたい…でね?」
「うん、じゃあ、また土曜の夜とかどうかな?」
「あはっ、お母さん喜ぶわ」
「桂木は?」
「えっ?」
「喜んでくれないの?」
桂木は背伸びして俺を引き寄せた。
「い・ち・ば・ん、私が嬉しいの…」
あぁぁぁぁ…これだよ、これ。
そんな男の心をグイングイン揺さぶらないでよ。
惚れてまうやろ!!
もう惚れてるけど…千佳子…ゴメン…浮気じゃないからね。
いつもの通りで俺たちは別れた。
ジムで今日から新しい格闘技を会得するためだ。
一郎の頃から興味あったんだけど、忙しくて出来なかったテコンドー。
空手と違い、テコンドーは遠い間合いからの足技に長けている。
多彩な足技とスピードは、おそらく格闘技の中でも群を抜く。
先生がテコンドーもやっていると聞き、お願いしてみた。
「なぁ、大会に出てみないか?」
と言われ続けているが、別に格闘技バカでもないので丁寧にお断りした。
やはりこの身体はすごいわ。
柔軟性がハンパない。
このバネのような足。
そして、しなりからのケリは一発でKO出来るな。
しばらくテコンドー中心に練習することにしよう。
「ねぇ、お兄ちゃんさ。今度の土曜日何食べたい?」
「いらないよ」
「えっ?もしかして…」
「そっ、桂木ん家お呼ばれしてるの」
「えーっ!!またぁ?」
「そうです」
「ねぇ、付き合ってんの?」
「まだだけど…」
「ふーん、好きならそろそろハッキリさせないとダメだよ」
「ちゃんと考えてますよ」
「でも、桂木さんてキレイな人だよねぇ」
「そう思うか?」
「うん、アタシもああなりたい!!」
「じゃあ、もっとおしとやかにならないとだな」
「うるさい!!」
そーなんだよね。俺も惹かれてるしなぁ。
多分、断らないよな。
どこかのタイミングで告白するかな。
やっぱりグッとくるのがいいよね。
土曜日。
「いらっしゃーい」
「すいません、お邪魔します」
「ささ、入って」
この間から、そう日にちが経っていないせいか緊張は半分くらいかな。
うわぁ…なんかすごい並んでる。
「新城クン、いっぱい食べてね」
また食いました。亜紀のメシも美味いけど、こっちの方が上を行く。
「ねぇ、いっそのことウチの子にならない?」
はいっ?
「お母さん…もう…ごめんね」
「だって、こんなに食べてくれるなんて嬉しいわ」
まぁ、テーブルのほとんどの料理は俺の胃の中です。
お父さんは、相変わらず酒飲んでる。
いいなぁ…ビール飲みてぇ。
でも、未成年だしなぁ。
辛いところだ。
「ところで新城クンは成績もいいと聞いたが…」
「そうよ、だって記憶無いのにテストでも上位なんでしょう?」
まぁ桂木には話していたけど、直哉クンの頭が良いだけで一郎はスカポンタンです。
「今度、透子にも教えてやってくれないか?」
「あら、いいわね。透子お願いしたら?」
「えっ…うん」
チラッと上目遣いで見るのヤメてください。
断れるワケないでしょ。
「まぁ、僕で良ければ」
「じゅう、決まりね」
お母さんて天然ですか?
もう一人飛んでますよ。
メシも終わり桂木の部屋に。
あぁ…あのタンス、違う!!
俺はこれから直哉クンとして一大事業に取り組まねばならぬ。
邪な気持ちはいかん。
テーブルにコーヒーが二つ並んでる。
「ごめんね、お母さん何でも飛んじゃう人だから…」
「あのさ、話があるんだ」
居住まいを正す。
「……うん」
「俺と付き合ってくれないか?」
あれ?下向いた?ダメ?計算違い?勘違い?
「……アタシでいいの?」
きたぁぁぁぁぁ!!!
「桂木がいいんだよ」
「片足不自由なんだよ?」
「いいよ、それでも頑張って前向きな桂木に惚れたんだ」
泣き出した。
「ありがとう…初めて告白された…」
えっ、初めてですか? こんな美人なのに?
「一つお願いしてもいい?」
「なに?」
「二人の時は透子って呼んでくれる?」
「じゃあ、透子…」
「…はい」
うわぁ、すっぱいわぁ!甘酸っぱいわ!!ビバ青春!!
純愛だよ、千佳子ごめん。
でも、今度は順番守ったぞ。
千佳子の時は押し倒してからだった。
「あのね、そういうのは先に言うことでしょ?」って言われたなぁ。
「正直、言われる気はしてたの。でも、どうして今日なの?」
「まぁ、色々考えたんだけどさ。桂木の部屋ならずっと心に残るだろ?」
「……そんなこと考えてたの?」
「この部屋に入るたびに思い出すだろ?」
「ずいぶん、ロマンチストなのね…」
正直、メチャクチャ恥ずかしいよ。
でも前世で失敗した分、改善はしないとね。
あっ、勢いついでに言ってみる??
拒否されるかな??
「じゃあ、俺からのお願いしてもいいかな?」
「うん、なに?」
「その…キスしても…いいかな?」
驚いた顔してる。
やっぱ調子に乗りすぎたか?
そっか初めての告白だもんな。
男に免疫無いよな。
うわぁ、言って後悔だわ。
「…うん」
んがっ!!
いいの?ホントにいいの?
よし、気が変わらないうちに。
柔らかい、なんて柔らかいんだろう…
千佳子、ごめん。
君より柔らかい。
少し長めにね。
舌は入れませんよ、入れたいけど…引くだろうし。
唇が離れた。
「どんな気分?」
「…うん、すごく幸せよ。今日眠れないかも…」
こうして俺と桂木は恋仲になった。
いいねぇ、ホント青春だねぇ。
帰り道。携帯にメールきた。
北川からだ。
<分析完了。場所と日時は?>
<明日の日曜日。昼に例の公園で>
<了解>
さて、今度はこっちだ。
どんな結果が出てくるか?
何事もなく平和な日々に、新しい光が差し込んだ。
転校生である。
「桂木 透子です。よろしくお願いいたします。」
珍しく黒髪のロングで間違いなく美人顔。
見た目はおとなしそうなタイプ。
「おい、新城の横開いてるだろ、教科書届くまで見せてやってくれ」
男子は美人の登場に、歓喜の声を上げ女子は白けていた。
「すいません、迷惑かけて」
「いえいえ…」
まぁ、男子がチラチラ見て俺を睨む。
いいねぇ、青春だわって浸ってたよ。
放課後。
掃除当番の俺は残って片づけてた。
転校生は先に帰った。
掃除が終わり、例のごとくジムに向かう。
あれっ?
後ろ姿…というかロングの黒髪は…
「桂木さん?」
振り向くと当たりだ。
笑顔で一礼された。
ここでふと疑問が湧いた。
かなり前に帰ったはずなのに、校門からまだここを歩いている。
遅くね?って思った。
けどその理由が分かった。
桂木の歩き方がおかしい。
左足の動きが違うことに気づいた。
「もしかして足ケガしてる?」
「あぁっ、これね…違うの。生まれつき不自由なの」
「えっ?」
思いもよらなかった。
聞くと、脊髄内にある神経に問題があるようで動きが悪いのだとか。
他はなんともないという。
あとで調べたら「肢体不自由」と分かった。
「大変だね」
「私は慣れてるけど、友達と歩くとペースが遅いから疲れるよね」
「部活してないの?」
「うん、転校ばかりしてたから続けれないの」
「じゃあ、また転校するの?」
「お父さんは、もう10年はしないって言ってた」
「そっか…」
「そういう新城クンは部活してないの?」
「個人的に武道はしている?」
「えっ!?格闘家なの?」
「違うよ、あくまで自己防衛の意味でね、ムエタイやってる」
「はぁーっ、すごいね」
なんだろう、すげぇ青春してるよ。
学校帰りにJKですよ、JKと並んで帰る。
この他愛もない会話が超新鮮です。
「ウチは親父がいないから、母さんと妹守らなきゃだからね」
「家族思いなんだね」
ニッコリ微笑んだ顔が可愛すぎるわ!
一郎の時、JKなんてただのロリだと思ってたよ。性の対象なんてならなかったよ。
でも、この桂木 透子の笑顔はすげぇ破壊力だわ。
やばい、恋に落ちそう…
「でも、いいね…運動もやってみたかったな」
「そっか、なんか…ごめんな」
「いいのよ、別にそういう意味じゃないから気にしないで?」
「じゃあ、休みの日とか出かけたりしないのか?」
「うーん、家族でドライブはあるけど友達の時は気を使うから一人が多い…かな」
「あのさ、来週の日曜日ってヒマ?」
「う、うん」
「じゃあ、渋谷行かない?」
「えぇっ!!行く、行く、てか行きたい!!」
なんか自然にデート誘っているし、この辺りは図々しい一郎なんだよね。
千佳子との初デートも勢いで申し込んだからな。
後で聞いたら「断ったら殴られると思ってた」って笑ってたな。
「でも…」
「どした?」
「私、歩くペース遅いから…たぶんイライラするよ?」
「それは大丈夫!!悪いけど俺はそれを利用させてもらうから」
「へっ?どーいう意味?」
「訓練だよ、実はゆっくり歩くのって訓練になるんだ。ワザと足腰に負荷かけるからね」
「そーなんだ、じゃあ…お願いします」
ぺこりって頭下げたよ、下げられましたよ。
ダメだ…可愛すぎる、もうムエタイなんて通用しない可愛さだ。
いやね、何がいいって礼儀を心得てる子って弱いのよ、オジサンにはね。
はい、いくらでもお願いされますよ。
その日から何着ていこうか、女子か!!ってなぐらいルンルン気分。
やべぇ…青春が楽しい。
「なんか、お兄ちゃんのクラスに美人さんが転校してきたって?」
「おう!!来週その子とデートよ」
「えぇぇぇっ!!デートぉ~?いつの間に…」
「フフフっ…兄を舐めるなよ」
「ねぇ、女の子の扱い方ちゃんと分かってるの?ガサツな事しちゃダメなんだよ」
妹よ。誰に言ってるんだ?
俺は生前は既婚者ですよ?
分かってますよ…
クラスにバレると面倒くさい。
せめてデート終わってからにしたい。
隣で揺れる桂木の髪からいい香りがする。
休憩時間には、男子数名が色々と聞きに来る。
時々、桂木が合間を縫ってウインクしてくる。
そんな攻撃しないで下さい。
確実に死にます。
知っててやってたら小悪魔だよ。
さて、そんなこんなで日曜日。
待望のデート日で天気も良い。
桂木とは駅で待ち合わせることにした。
目の前で車が止まった。
後部座席から、黒髪の少女が降臨してきましたよ。
おぉっ、ストライプのシャツと白のロングスカート。
可愛いねぇ…
はっ、いかんいかん。完全なオヤジ目線だったわ。
お父さんらしき人が運転席から降りてきた。
こういう時は初動の挨拶が肝心なのです。
好印象もたせるためにね。
「初めまして、新城 直哉と申します。今日は透子さんをお借りします」
「初めまして、透子の父で雄三と言います。新城クンはしっかりしてるね、今日はよろしく頼むよ」
「はい、夕方には戻るようにしますので」
一礼して去る。
完璧だわ。
この挨拶が大事なのよ。
改札抜けて、エレベータを探すが桂木が階段で行くと言う。
彼女も訓練らしい。いつか動くと信じているのだとか。
涙でるわ。そんな日が来てほしいよ。
「新城クン、先上がってて」
「いえいえ」と俺は一歩ずつ歩調を合わせた。
実は足首にはパワーバンド(つまり重り)を装着しててね。
階段では上る時、足の滞空時間を長くすると負荷がかかる。
けっこう来るんですよ。
「それがトレーニングなの?」
「ういっす」
「なんか変よ。あははっ」
二人で上まで登って電車を待った。
「ありがとうー、階段で一緒に上がったの初めてなの」
「いえいえ、いつでもしますよ」
電車に乗ると、桂木が一歩近づいて俺の顔を見上げた。
「新城クンて何センチあるの?」
「んー百八十三だったと思う」
「そうなんだ、私ね見上げるのが好きなんだ」
「どーして?」
「下を見ると、時々ちょっとだけ嫌な気持ちになるから…」
そうなんだ。
これが健常者に分からない心理なんだよね。
障害を持つ人たちは、みなそれぞれ懸命に生きている。
彼らが望むのは、大金でも名誉でもない。
健常者と同じように不自由なく生きたい…なのだ。
改めて勉強になる。
渋谷に着いた。
すごい人だらけだ。
「ふわぁ…迷子になりそうね」
「あのさ、すまんけど手をつないでもいいか」
「えっ!?」桂木の顔が赤くなった。
「こんだけ人がいると、桂木のペースが掴みにくくなるから…その、手をつないでいればペース崩れないから」
ちょっと考えてから手を差し出した。
「ありがとう、ごめんね」
白く細い手だ。
ちょっと力入れたら折れそうだ。
「新城クンの手って大きいんだね」
「痛い?」
「ううん、なんか安心するの…」
マルキューに行った桂木のパワーは凄かった。
あちこち見て試着して、学校と違う一面が見れて楽しい。
逆に俺の方がダウンしそうだ。
途中でアイスを食べた。
「なんか新城クンの美味しそう…そっちにすれば良かったかなぁ」
「ははっ、じゃあ、これ食べるか?」
「いいの?」
「交換しよう」
こんな他愛もないやりとりが、こんなにも新鮮に感じる。
心はとっくに経験済みなんだけどね。
なんか身体が感じるんだよね。
決してスケベな意味じゃなくてね。
約束の夕方が迫り俺たちは電車で帰った。
家まで送ることにした。
ここでもペースは合わせたよ。
でも心地いいんだよね。
「私、歩くのが遅いけどいいこともあるの」
「へぇ、、聞かせてよ」
「途中の景色をゆっくり眺めるの。木の枝とか、公園の滑り台とか、よく見ると違って見えたりする」
「そんなものかねぇ」
「うん、目的地だけ見ててもつまらないし、こうやってじっくり眺めていると違いとか分ったりするの」
なるほどね。
桂木 透子という女の子が少し理解出来た。
確かに見慣れた風景でも、視点を変えると違うのかも知れない。
足は不自由でも感受性は豊かなんだな、と感心したよ。
家に着いた。
最後のシメも大事です。
「ただいまぁ~」
「お帰り」
「お帰りなさい」
今度は両親ですか。
「今日はとっても楽しかった。ありがとう、新城クン」
「こちらこそ、無事にお送りしました。これで失礼します」
両親が笑ってる。
帰ると門のところでお父さんが寄ってきた。
「あんなに喜んだ娘を初めて見たよ。あの娘には今まで転勤で苦労もかけた、友達も中々出来なくてね。良かったらこれからも遊んであげてくれないか?」
きましたよ。父公認!!
もう黄門様の印籠貰ったようなものです。
「こちらこそ。またお誘いします」
帰りは少しペースを落として歩いた。
なるほどね、違って見えるか…そうかもしれないね。
翌週から桂木との距離は一気に縮まった。
ほかの男子とも明るく話してる。
女子も何人か話しかけてる。
そして、時々俺にウインクしてくる。
これがたまらない。
人目を盗んでこっそり耳打ちしてきた。
「この間はありがとう…また誘ってね、待ってる」
女の耳打ちはどうしてもこんなに気持ち良いのだろう。
ヒソヒソ声がたまらない。
メールでのやりとりもしていた。
学校のこと、友達のこと、お互いのプライベート、そして足のこと…
<できれば、新城クンと同じペースで歩ける日が来るといいなぁ>
心打たれるよ。
<焦らず、じっくり行こう。俺は気にしてないし、桂木が笑顔でいてくれればそれが一番>
<ありがとう…そんなこと初めて言われました。とても嬉しいww>
「お兄ちゃん」
「あっ、メシ?」
「うん、出来てるよ」
「この間のデートどうだったのよ~?」
「そりゃあ、楽しみましたよ」
「桂木さんだっけ? 美人でおっぱいも大きいもんね~」
「なんだ?ひがみか?…」
確かにね、それは俺も思った。
「なによ!そりゃあ…胸はちっちゃいけど…あたしだってコクってくる男子ぐらいいるんだからね」
「おぉ…そうか!よし、お前に男を落とすいい方法教えてやる」
「えぇっ…ゲーマーのお兄ちゃんに分かるのぉ?」
「ウインクしてみろ」
「えっ…こう?」
意外とできない人多いんだよね。
「それ…瞑ってるだけ」
「じゃ…こう?」
「完全に閉じてる…」
「あ~難しいよぉ」
「じゃあ、手料理で頑張れ!」
「…そっか…それもいいな」
妹が食べながら呟いた。
「お兄ちゃんさぁ、事故以来変わったよね」
「そ、そうかな…」
「うん、前はもっと暗かったよ。でも、今はすごく明るくて社交的な感じだよ」
「うーん、思考回路が変わったのかな?」
「だってゲーマーだったのが全然しなくなったし、ムエタイなんてやりだすし…」
「嫌いか?」
「あたしは今の方が好きだなぁ…クラスの女子でもお兄ちゃんのファンがいるんだよ」
マジか!!
モテ期到来か!
風呂から上がりベッドで寝転んだ。
確かに中身が違うから変わって当然なのだが、いつも心のどこかで本当の直哉クンには申し訳ない気持ちがある。
彼のスマホは事故で破壊した。
だからアルバムでの小さい時しか分からないが、俺が見てもおよそ似つかわしくない表情をしていた。
亜紀もどこかで感じ取っている。
いつか真相を話す時が来るのだろうか?
それは桂木 透子に対してもだ。
体格がいい割に暗かったらしく、小学生の時に虐めにあっていたこともあると聞いた。
彼は限界を感じていたのかも知れない。
もしかしたら自らの命を絶つことも考えたのかも知れない。
でも、それじゃ家族が悲しむ。
だから、彼は俺にSOSを出したのではないか?
自分では出来ないことを俺に託したのだろうか?
しかし、今となっては彼に聞きようもない。
それから二週間過ぎた。
桂木は病院への定期検査とかで早退していた。
事務に向かう途中、一人の下級生らしき男の子がぶつかってきた。
ドン!!
「いてっ!おい、どこ見てるんだ?」
ひょうしに転んだ下級生は焦った顔していた。
「こ、ごめんなさい」
そして、そのままダッシュで走り去っていった。
(なんだい…)
足元でガサッと音がした。
ん?
なんだこれ?
チョコレートだ。
しかも未開封のだ。
彼が落としたのだろう。
明日届けてやるか、と鞄に入れた。
その時、後ろで走ってくる音がした。
「おい!今走った奴ヤツを見たか?」
こっちは上級生、つまり三年生ぽかった。
ちょうどここは交差点。
俺は虐めだろうと思い逆の方を指さした。
礼も言わず三人とも間違った方向へ走っていった。
下級生虐めかよ。
その時はそう思ってた。
家に帰って、鞄から出てきたチョコを見た。
そういえば、こんなパッケージ見たことないな。
表面にはデカデカと<Crush>と書かれている。
最近のやつだろうか?
夕飯時に亜紀に聞いてみた。
「Crush?知らなぁい」
お菓子大好きな亜紀が知らない。
新発売のものか?
「外国製のだと分からないけど、日本ものならウチらチェックしてるから分かるんだけど」
現物見せてみた。
「見たことないなぁ…あれ?でもこれ日本語で書いてあるね」
いいたいことは分かった。
成分や注意書きが初めからパッケージに印刷されている。
輸入物はシールで上から貼り付ける。
つまりこれは国内で作られたものということ。
「たぶん、亜紀と同級生だと思うんだが…」
「どんな人?」
大体の風貌を伝えた。
「もしかして二組の会田クンかなぁ…」
「会田…なんで知ってんの?」
「この間、テストでいきなりトップとってたから」
「もともと良かったんだろ?」
「ううん、逆のドベレベルだった。だから話題になったのよ」
何気ないチョコレートだが、何かが引っ掛かった。
翌日。
一年生のクラスは全部で五クラスある。
二組を訪ねた。
「会田クンは今日は休んでますよ」
しかしその日だけではなかった。
翌日も、その翌日も休んでいた。
風邪かと思われたが、休む前の日まで元気に来ていたとか。
仕方なくあきらめた。
俺は溶けても困るので冷蔵庫に入れておいた。
その晩。
亜紀に貸してたDVDを見ようと部屋をノックした。
「開いてるよ~」
開けて驚いた。
冷蔵庫のチョコ食ってやがる。
「それ人のもんだぞ」
「いいじゃん、どーせ休んでいないんでしょ?」
あーあ…半分も食ってるわ。
もう返せない。
「あのさぁ…これいい気持ちね」
「なんだって?」
「これ食べたらさぁ…なんか気分よくなってきちゃった」
そう言ったとたんに様子が変わった。
「うっ…おぇっ!!!」
おいおい、吐くなよ!!
とっさにゴミ箱を出した。
亜紀はその中に夕飯もチョコもすべて吐いてしまった。
一息ついてベッドに寝かせた。
「大丈夫か?」
「…うん…吐いたらスッキリした…」
「人様のもの食うからバチが当たったんだぞ」
「…うぅ…ごめん、でもね…」
「どーした?」
「食べてすぐに気分良くて、全然眠くならないの。なんでも出来るよーな感じだったの」
えっ?と思った。
「そしたら、いきなり胃がボコンとなった感じで気持ち悪くなったの」
おかしい…たかがチョコにそんな成分あるか?
チョコ中毒はあるが、今まで食べて何ともないのに。
この時、一郎の経験が鐘を鳴らした気がした。
もしかして、何か別のものが入ってる?
覚醒剤でもあることだが、この症状は違法ドラッグによく見られる。
覚醒剤は注射が基本だが、最近は鼻や口からの摂取もある。
しかし、覚醒剤はオーバードーズすると全身にしびれやショックを起こす。
最悪は絶命だ。
嫌な予感がした。
亜紀は一日すると回復した。
「賞味期限切れてたかなぁ」と呑気に言ってたが、まずそうじゃない。
食中毒なら回復までもう少しかかる。
取り上げた半分のチョコを調べる必要があった。
「Crush? 知らないわ」
桂木の答えも同じだった。
少なくとも高校生レベルで成分分析なんて無理な話だ。
マトリの中でも半数は薬剤師の資格は持っている。
しかし、分析用の器械が無ければ不可能だ。
まして、今の俺は高校生だ。
こんなもん持ち込んだら一発で疑われる。
民間でやっているところもあるが、金がかかる上に違法性のものが入っているとなれば通報される。
「ね、ところで今度の土曜日の夜にご飯食べに来ない?」
「桂木ん家に?」
「うん、お父さんが新城クンの事気に入ったみたい、良かったら誘ってみてって」
「うん、いいよ。じゃあ、七時にでもいいかな?」
「分かった。お父さん喜ぶと思うわ」
チョコの件は置いといて、土曜日の夜は桂木邸を訪問した。
新しい一軒家を借りているとか。まぁ、転勤族だからね。
「いらっしゃい」
「お招きありがとうございます。図々しく来てしまいました」
「あはは、大人の挨拶みたいだなぁ」
何でもお母さんが腕によりをかけて作ってくれたようだ。
家のとも千佳子のとも違う。
台所では桂木がエプロン着て手伝っている。
楽しそうだ。
「なんでも事故にあったと聞いたが…」
「まぁ…おかげで記憶を全部無くしてしまいました」
「そうなのか?それは大変だったろぅ」
「ええ、なんせ母や妹の名前すら分からなくて大変でしたね」
「子供をかばったって聞いたが、出来る事じゃないよ、大したもんだ」
申し訳ない。
それ直哉クンなんです。一郎じゃないんです。
「ねぇ、二人で何話しているの?」
桂木がチャチャ入れてきた。
「いや、桂木が美人だって話してたんだよ」
「ほんとかなぁ…」
「さぁ、出来ましたよ。たくさん食べてね」
ここ最近ではメチャ食いましたよ。
食べっぷりがここの一家には新鮮だったみたいで。
美味しいのよ、ついついおかわりしたらお母さん大喜びしてたな。
とにかく楽しかった。
桂木の性格が良いのも頷ける。
俺の経験もそうだが、良い家庭の子供は大抵は良く育つものだ。
そして、密かに期待していた桂木の部屋を訪問出来る事となった。
いつ以来だ??
確か千佳子の一人暮らしの時以来だな。
超ドキドキするわ。
「なんか恥ずかしいな」
入ったら、THE女子部屋!!
ピンクと白の可愛い部屋だよ。
ベッドに定番のぬいぐるみもある。
あ~たぶん、あのタンスに…あるんだろーなぁ。
いかん!!今は誠実な直哉クンなんだ。邪心はいかん!!
「ねぇ、あんまり見ないで…」
「お茶持ってくるね…」
それから部屋で色々話した。
常に甘い香りが流れてる。
「そーいえば、あのチョコレートってどうしたの?」
「それがさ…」
妹の事を話した。
まぁ、びっくりするわな。
「大丈夫だったの?」
「次の日はピンピンしてたよ」
「なんか怖いな…」
「もし、見つけたら俺に連絡してくれ」
「うん、分かった」
九時には家を出た。
悲しいかな、高校生だからここが限界なのだ。
桂木邸と俺の家は歩いて十分程度の距離で途中に公園がある。
公園の横を歩くと声が聞こえた。
んっ?
「チョコレートくれよ」
「お前、この間買ったばかりだろう」
「あれが欲しいんだよ!!勉強が捗るんだ」
「ダメだ、既定の量を超えることになる。来週まで我慢しろ」
Crush…そう思うよね。
木の陰に隠れながら脅してみた。
「おまえら、こんなところでなにやってんだ!!!」
全員がビクッとして見回してバタバタと逃げていった。
ゆっくりたまり場の所に行くと落ちてたよ。
Crushがね。
同じやつだ。
元マトリの勘も言ってるが、これはおそらく薬物入りチョコだ。
たぶん常習性のあるもので、ハイになれるものだろう。
覚せい剤ならコカイン系と思われる。
売人が高校生か。ウチの高校で三年生あたりが元締めか?
いや、おそらくバックに誰かいるはずだ。
こういうものは工場が必要だ。
たかが高校生に作れるシロモノではない。
盛田が言っていた。
数年前から突然の進学校になった、合格者の数名が行方不明だと言うこと。
そしてビリだった会田がトップになったこと。
目的は進学レベルの引き上げか。私立の高校は金を集めるのに必死になる。
一番言えることは、進学校には黙っていても金が集まる、ということだ。
しかも、急成長すれば人を引き付ける力も増していく。
しかし、進学レベルを上げるためにドーピングをするものか?
リスクが高すぎる。
どっかの優秀な先生を引き抜く手もあるはずだ。
目的はそう単純ではない気がした。
今の段階では何も確証はない。
マトリに流すことも考えたが、出所がはっきりしていないし成分が何かも分からない。
仕方ない、アイツに全てを話して協力させるか…
信じないだろうなぁ…でもオカルト好きだったから、なんとかなるかな。
直接コンタクトしてみるか。
分かりやすい番号だったから覚えてる。
ショートメールで送ってみた。
実はマトリの検挙ネタ元に多いのがタレこみである。
その辺りを利用するか。
最初は一人か二人で探りを入れて、摘発が決定すれば組織的に対応する。
<新種の情報あり>
これだけで通じる。
すぐ返信来た。
<場所は?>
<〇〇公園 木のベンチ>
<日時は?>
<今週、土曜日夕方五時>
<了解>
タレこみもほとんどが短文のやりとりだ。
あとは、どう理解させるかだな。
土曜日。
ラフな格好で待っていた。
おっ来たな。
少しチャラさが抜けたな。
「きみか?」
「はい」
「新種のネタとは?」
「その前に話しておくことがあって」
「なんだよ」
「北川 光彦 28才 独身 趣味 オカルトゲーム 月に二度の風俗通い」
「なっ!!なんで、えっ?なんで知ってるんだ?」
「昔、元カノに噛まれたお尻に三針縫って傷は残ったまま」
「えっ!!」
「半年前から萌えキャラにハマり、イベントには休みを取って参加中」
「だっ誰だ、おまえ?」
「ちなみに、そのイベント参加が上司にバレて怒られた」
「だから、なんで知ってるんだよ?」
「怒られた後の上司からの一言は、初音ミクは時代遅れなのか?」
「えっ?えっ?えっ?」
「俺だよ、新庄 一郎だよ」
「はいぃぃぃっ? いやいやオマエ高校生だろ?」
「そ、だけどホントなんだよ」
「バカ言うな!新庄さんはもうこの世に」
「いないよ、意識というか心というか、この高校生に転移したんだよ」
「オマエからかってんだろ?」
「じゃ、なんでミッチーの隠したい本性知ってんの?」
「その呼び方は…新城さんの?」
「オマエはイチさん、俺はミッチーだったよな?」
「分かった、オマエ新庄さんに聞いたんだろう?だから知ってて…」
「じゃあ、なんで高校生がマトリの電話番号知ってるんだ?」
「いや、それは…」
「一般には非公開の番号だ。知ってるのは仲間内と情報屋ぐらいだろ」
半信半疑ってとこだな。
「じゃあ、新城のよく言ってた言葉思い出せるか?」
「……あっ!」
「じゃあ同時に言おう、せーの」
「99%間違いない!」
どうやら、これで信じたようだ。
「え…ホントに新庄さん?」
「家の近くで刺されて死んだ、で、同日に事故で生死の境を彷徨ってた高校生の中に入ったわけ」
「そんなこと…ほんとにあるんだ…事実は小説より奇なりってホントだ…」
やっぱり、オカルト好きは理解が早くていいね。
俺は今までの経緯をかいつまんで話した。
ミッチーは更に信用する眼差しを向けてきた。
「いやぁ、すごいわ!高校生なんてまた青春してるんすね」
「バカ言うな、結構大変なんだぞ…全くの他人になってるんだからな」
「えっ…じゃあ奥さんとかみおりちゃんには?」
「まぁ、一度助けられたって設定で会いに行ったよ。自分の線香あげにな。立ち直ってて安心したよ」
「話さないんですか?」
「それは出来ないな。今の俺は新城 直哉だ。もう別の家庭に組み込まれている。見守ることしかできん」
「なんかせつないっすね…で、新種ってのはブラフですか?」
「あぁっ…いやいやそれはホントなんだ。ミッチーの手が借りたくさ。なんせ高校生じゃ何にも出来ん」
ポケットからチョコレートを渡した。
「チョコ??」
「おそらく薬物入りだ、成分を調べてほしい」
「なんでこんなものが?」
「偶然、手に入れたものでな…どうも生徒たちの一部で出回っているようなんだ」
「高校で?新たに商売先の開拓ですか…」
「いや、どうもそうじゃない気がしてる」
「というと?」
「ヤクの商売は不特定多数に売るから、元締めに辿り着きにくいだろう?」
「…そうか。高校なんて狭い場所で売れば、元締めは分かりやすくなる…」
「そのリスクを冒してまで、こんなもの売ってるという事は…」
「他の目的がある…」
「99%間違いない」
「あっ、それそれ」
「今までのヤクとか、違法ドラックとは違うような気もする、頼むよ」
「分かりました。ケンさんに調べてもらいますよ」
「おっ、ケンさん元気か?」
「孫が産まれてから、目尻下がりっぱなし!」
「そうかぁ…みんなそれぞれだな」
「でも、たまたま帰省中で刺されるなんて」
「ずっと単身赴任だったからな。帰省で気が緩んでたよ。そこを狙ったんだろうがな」
「捜査一課で探してますけど、未だ犯人は…」
「あぁ…たぶん、消されてるだろうな」
ジャンキーには薬をエサにするのが一番だ。
もう薬漬けの人間にはまともな思考なんて働かない。
殺人だろうが誘拐だろうがなんでもやってしまう。
そこで北川と別れた。
翌週。
後ろの席の盛田は情報通だ。
虐められないように、普段から情報収集は欠かしていない。
これも自己防衛の一種と言える。
「なぁ、ウチの三年生ってどうなんだ?あくまり話に出ないけどさ」
「あぁっ…そうだよね、新城クンは記憶無いんだよね…」
「なんかあるのか?」
「正直、あんまり関わらない方がいいよ」
「なんでだ?」
「美田園 麗香って知ってる?」
「いや…」
「ようは金持ちの娘でね、美人で頭も良くてスタイルも抜群の人でさ、一年の頃から目立ってたんだ」
「ほぅ…」
「男子たちがアタックしたけど全員玉砕したの。フラれた中に石丸っていう不良もいたんだよ」
「石丸ねぇ…」
「そいつが腹を立てて、美田園をレイプしようとしてた」
「そりゃ…大胆だな」
「ところが、逆に襲った石丸がボコボコにされてね」
「取り巻きが守ったのか?」
「違うよ、美田園 麗香本人がやったんだよ」
「そんなに強いのか?」
「極真の三段だって…」
「あらら、で、石丸はどうなった?」
「肋骨三本にアゴ割られて三か月の入院さ」
「まぁ、それぐらいはやられるな」
「でも、美田園は退学にならず今も来ている。あれ以来、誰も美田園に声をかけなくなったんだ」
「だが、それが三年生と関わらない原因なのか?」
「いや、そうじゃない。美田園は学校内でクィーンと呼ばれてるんだ。周りに部下みたく腕に覚えのあるヤツを従えてさ。先生たちも何も言えない感じなんだよ」
「でも、問題起こしてるワケじゃないよな?」
「まぁね、だけど…」
「だけど?」
「何か計画しているらしい…と聞いたことがある」
「計画?なんだそれ」
「そこまでは分かんないよ。ただ、美田園が入ってきてからさ、ホラ前に言ったじゃん、進学校のレベルが上がったって話さ」
「あぁ…関係あんの?」
「美田園が入ってから飛躍的に上がったんだよ。だからさ、なんか匂うなぁって思わない?」
「ふーん…」
今だから思うけど、盛田の説はあながち外れていない。
チョコレート、進学、学力アップ、美田園、そして合格後の行方不明…これらは一本の線で繋がっている。
確かに、学力アップと学校のブランド化はどの学校でも欲しがる。私立なら猶更だ。
もし、薬物のドーピングで学力が上がったとして、なぜ合格者連中が行方不明になる?
経験上、思いつくのは<裏切り><密告><逃亡>だ。
自責の念にかられてのことか、それともドーピング無しのレベル差についていけずの逃亡か?
だが何か釈然としない。
「なぁ、その合格者連中っていつ頃から行方不明なんだ?」
「えーと、全員のまでは知らないけど…確か半年以内だったと思う」
「騒ぎになったのか?」
「いや、当時の新聞にも載らなかったと思うよ。あくまで先輩たちから聞いた話だからさ」
よほどの大物じゃない限り、学生の行方不明なんて新聞に載るはずがない。
年間八万人以上も行方不明者がいる。そのうち二十代以下の割合は二十パーセントを超える。
大抵は一週間以内で見つかるのだが、それでも二万人近くは未だ見つかっていない。
「盛田が聞いてるのは何人だ?」
「四人だよ、男三人で女が一人…」
なんかマトリ時代に戻った気分だ。
生まれ変わったのに、またあの暗雲の世界に踏み入れるのか?
「何の話してるの?」
桂木が割り込んできた。
「いや、盛田にどーやったら彼女が出来るか…をね」
「へぇ、盛田クン好きな人いるの?」
手と首をブンブン振ってる。
「帰ろう」
桂木の誘いに応じて校舎を出た。
「ねぇ…お父さんもお母さんも新城クンの事をすごく気に入ったみたいなの」
「そうなんだ、ありがたいですねぇ」
「でね、今度はいつ来るの?って…何回も聞かれちゃって」
「あぁ…お母さんの手料理は美味かったよ」
「ガツガツ食べる新城クン見てて、やっぱり、もう一人男の子産めば良かった~なんて言うのよ」
「そんな食ってた?」
「うん、凄かったよ。私も見てて気持ち良かった」
「あはは、お恥ずかしい」
「もうお母さんの方が気に入ったみたい…でね?」
「うん、じゃあ、また土曜の夜とかどうかな?」
「あはっ、お母さん喜ぶわ」
「桂木は?」
「えっ?」
「喜んでくれないの?」
桂木は背伸びして俺を引き寄せた。
「い・ち・ば・ん、私が嬉しいの…」
あぁぁぁぁ…これだよ、これ。
そんな男の心をグイングイン揺さぶらないでよ。
惚れてまうやろ!!
もう惚れてるけど…千佳子…ゴメン…浮気じゃないからね。
いつもの通りで俺たちは別れた。
ジムで今日から新しい格闘技を会得するためだ。
一郎の頃から興味あったんだけど、忙しくて出来なかったテコンドー。
空手と違い、テコンドーは遠い間合いからの足技に長けている。
多彩な足技とスピードは、おそらく格闘技の中でも群を抜く。
先生がテコンドーもやっていると聞き、お願いしてみた。
「なぁ、大会に出てみないか?」
と言われ続けているが、別に格闘技バカでもないので丁寧にお断りした。
やはりこの身体はすごいわ。
柔軟性がハンパない。
このバネのような足。
そして、しなりからのケリは一発でKO出来るな。
しばらくテコンドー中心に練習することにしよう。
「ねぇ、お兄ちゃんさ。今度の土曜日何食べたい?」
「いらないよ」
「えっ?もしかして…」
「そっ、桂木ん家お呼ばれしてるの」
「えーっ!!またぁ?」
「そうです」
「ねぇ、付き合ってんの?」
「まだだけど…」
「ふーん、好きならそろそろハッキリさせないとダメだよ」
「ちゃんと考えてますよ」
「でも、桂木さんてキレイな人だよねぇ」
「そう思うか?」
「うん、アタシもああなりたい!!」
「じゃあ、もっとおしとやかにならないとだな」
「うるさい!!」
そーなんだよね。俺も惹かれてるしなぁ。
多分、断らないよな。
どこかのタイミングで告白するかな。
やっぱりグッとくるのがいいよね。
土曜日。
「いらっしゃーい」
「すいません、お邪魔します」
「ささ、入って」
この間から、そう日にちが経っていないせいか緊張は半分くらいかな。
うわぁ…なんかすごい並んでる。
「新城クン、いっぱい食べてね」
また食いました。亜紀のメシも美味いけど、こっちの方が上を行く。
「ねぇ、いっそのことウチの子にならない?」
はいっ?
「お母さん…もう…ごめんね」
「だって、こんなに食べてくれるなんて嬉しいわ」
まぁ、テーブルのほとんどの料理は俺の胃の中です。
お父さんは、相変わらず酒飲んでる。
いいなぁ…ビール飲みてぇ。
でも、未成年だしなぁ。
辛いところだ。
「ところで新城クンは成績もいいと聞いたが…」
「そうよ、だって記憶無いのにテストでも上位なんでしょう?」
まぁ桂木には話していたけど、直哉クンの頭が良いだけで一郎はスカポンタンです。
「今度、透子にも教えてやってくれないか?」
「あら、いいわね。透子お願いしたら?」
「えっ…うん」
チラッと上目遣いで見るのヤメてください。
断れるワケないでしょ。
「まぁ、僕で良ければ」
「じゅう、決まりね」
お母さんて天然ですか?
もう一人飛んでますよ。
メシも終わり桂木の部屋に。
あぁ…あのタンス、違う!!
俺はこれから直哉クンとして一大事業に取り組まねばならぬ。
邪な気持ちはいかん。
テーブルにコーヒーが二つ並んでる。
「ごめんね、お母さん何でも飛んじゃう人だから…」
「あのさ、話があるんだ」
居住まいを正す。
「……うん」
「俺と付き合ってくれないか?」
あれ?下向いた?ダメ?計算違い?勘違い?
「……アタシでいいの?」
きたぁぁぁぁぁ!!!
「桂木がいいんだよ」
「片足不自由なんだよ?」
「いいよ、それでも頑張って前向きな桂木に惚れたんだ」
泣き出した。
「ありがとう…初めて告白された…」
えっ、初めてですか? こんな美人なのに?
「一つお願いしてもいい?」
「なに?」
「二人の時は透子って呼んでくれる?」
「じゃあ、透子…」
「…はい」
うわぁ、すっぱいわぁ!甘酸っぱいわ!!ビバ青春!!
純愛だよ、千佳子ごめん。
でも、今度は順番守ったぞ。
千佳子の時は押し倒してからだった。
「あのね、そういうのは先に言うことでしょ?」って言われたなぁ。
「正直、言われる気はしてたの。でも、どうして今日なの?」
「まぁ、色々考えたんだけどさ。桂木の部屋ならずっと心に残るだろ?」
「……そんなこと考えてたの?」
「この部屋に入るたびに思い出すだろ?」
「ずいぶん、ロマンチストなのね…」
正直、メチャクチャ恥ずかしいよ。
でも前世で失敗した分、改善はしないとね。
あっ、勢いついでに言ってみる??
拒否されるかな??
「じゃあ、俺からのお願いしてもいいかな?」
「うん、なに?」
「その…キスしても…いいかな?」
驚いた顔してる。
やっぱ調子に乗りすぎたか?
そっか初めての告白だもんな。
男に免疫無いよな。
うわぁ、言って後悔だわ。
「…うん」
んがっ!!
いいの?ホントにいいの?
よし、気が変わらないうちに。
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千佳子、ごめん。
君より柔らかい。
少し長めにね。
舌は入れませんよ、入れたいけど…引くだろうし。
唇が離れた。
「どんな気分?」
「…うん、すごく幸せよ。今日眠れないかも…」
こうして俺と桂木は恋仲になった。
いいねぇ、ホント青春だねぇ。
帰り道。携帯にメールきた。
北川からだ。
<分析完了。場所と日時は?>
<明日の日曜日。昼に例の公園で>
<了解>
さて、今度はこっちだ。
どんな結果が出てくるか?
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