2人の騎士と壁の花

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「わっ、私、私は……殿下とは、踊ることができません!このお誘いは、大変もうしわけなく思うのですが、お断りいたしますっ!!」


 震える声を精いっぱい絞りだして、やっとそれだけ言った。
 場がシンと静まりかえる。悲鳴や呪詛じゅそ野次やじもピタリと止んだ。
 まるで肌にズブズブと突き刺さるような鋭い視線にさらされながらも、残った一欠片ひとかけらの勇気をかき集めるがごとくギュウと強く拳をにぎりこむと、断罪されるのも覚悟の上でまっすぐに殿下を見た。

――網膜もうまくにうつる彼の口元が大きく上がり、みるみる弧を描いていく。


「皆の者よ、よく聞くがいい。ヴァルトハウゼン伯爵家の3女ゾフィアは、いまこの瞬間から、この私の誘いを断れるほどの淑女になった。新しい舞姫まいひめに祝福を!」


 バァァンと耳をつんざく破裂音はシンバル、同時に金管楽器がけたたましく鳴り始める。急に始まったオーケストラの演奏はおめでたい席でよく演奏される賛美歌、ゾフィアも観客もなにがなにやら、わからない。わからないが、どうやら王太子殿下は満面の笑みであることから、さきほどの答えは間違っていなかったことを悟る。
 音楽隊が全員総立ちで演奏するその中央を、ベルベット色の上等な布を手にのせた可愛らしい小姓が駆けてくる。手に持ったものを大事そうに王子へと手渡し、そそと後方へと下がった。
 なんだろうか。
 布に包まれたそれは、ごく間近にいるゾフィアにも見えない。

「ああ、あれか」

すぐ後ろでヴォルフが笑う。


「さぁ、これを」

 バラの花弁を押し開くようにうやうやしい手つきで取り出されたものは、金色の褒章ほうしょうだった。

「えっ」

 考える暇はなかった。気がつけばもう目の前にいた王太子は呼吸がかかりそうなほどゾフィアと距離をつめて、そして手が、彼女の左胸を飾るレース生地をつんとつまみ上げる。
 呆然と見ている間に、手早くそれはまるでコサージュのように取り付けられ、彼女の胸元へと収まった。

「……ええっ!?」

 困惑顔で王太子殿下を見ても、彼はただおかしそうに笑っているだけ。あわてて説明を請うべくヴォルフを振り返る。

「覚えていないのか、4年前のことを。おまえが俺を見かけたあの日に、俺もそれを王から賜ったなぁ」

 覚えていない!いや、幼かったからわからなかったのか。
 ではなに?これは、これの意味は……

 賛美歌が盛大に終わると、会場はいつの間にか、あたたかい拍手でいっぱいになっていた。誰も彼もがゾフィアに微笑みかけ、祝辞を次々と述べては、嬉しそうに手をたたいている。
 テーブルに置いてあった花瓶の花が次々にホールへと投げられ、いたる場所でワインの栓を開ける音が、ワイングラスを鳴らして祝福する音がする。
 ヴォルフの立ち位置のさらに先を見ると、さっきまですったもんだしていた4人組の騎士達がお互いに腕を組んで喜びあっている、その左隣のアルフレートは滂沱ぼうだの涙を流しつつ棒立ちに、さらに左隣には憤怒の形相の父ヴァルトハウゼン伯爵の姿があった。

「わ、私……!?」
「壁の花は卒業だとさ。今日からは舞姫らしいぞ」
「私が……舞姫……」

 呆然としていると、ふいに王太子殿下の真っ白い手袋がダンスホールを指さした。

「さぁ、門出にもう1曲見せておくれ。貴方の舞うところを」


――ふいに視界が揺れた。
 透明のゆらゆらした膜のせいで手袋まで揺れて見えた。揺れた視界のまま、指先のしめす方向へと視線を送る。
 振り返ったら、涙が小さな水珠となって舞い散った。

「はい、かしこまりました。――アルフレート様!」
「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 名指しされた金髪の騎士は滝のような涙もものともせず、全速力でホール中央に向けて駆けだしていく。
 
 
 
 
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