二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
18 / 475

トラウマ

しおりを挟む
 見えたのは赤。
 立ち竦む縁の周りは真っ赤に染まり、少しずつ侵食するように近づいてくる。 
 怖い。
 気持ち悪い。
 震える身体は、だが支えてくれるようなものは何もなく一向に治る気配がない。
 やだ。いやだ。
 何か、何かないかと周りを見た時だった。
 カタンとなにかつま先にあたった感触がした。
 一体なんだろうと足下を見下ろせばーー

 「ーーヒッ!?」

 人間の頭が転がっていた。
 それも1つではなく、見渡せばそこら中に。
 どこをどう見てもあるはずの首から下がなく、魂が抜けたような虚ろな目はしかし縁を捕らえて離さない。

 「いや……いやだ」

 何がいやなのか自分でも分からない。
 でもいやなんだと、考えるより先に出てしまう。
 どうしよう、どうしよう。
 混乱する頭でどうにかしなければと思うがなにも浮かばない。

 「いや、やだ、血が……助けて…助け、てアレン。助けて、セイン…血が」

 流れ落ちる涙を拭うこともできず、ずっと近くにいてくれた頼もしい背中を思い出す。
 
 「ーーーシッ!」

 「えーーっ!」

 声が聞こえた気がした。
 縁の知っている声。

 「ーニシッ!」

 「えーにし!」

 「エニシッ!」
 「えにしっ!」

 「ーーーっつ!?」

 驚き見開いた瞳は泣いたせいだろう、涙でぼやけてしまいなにがなんだか分からない。
 未だにに混乱して震える身体は、だがすぐに前後から温かい何かに包まれる。

 「大丈夫。大丈夫だ、エニシ」

 「怖いものなんてなにもない。大丈夫だ、えにし」

 「全部悪い夢だ。大丈夫だ」

 大丈夫大丈夫と前からはアレンが背中を撫で、後ろからセインが大丈夫だと頭を撫でてくれる。
 太く力強い2人の腕に大人しく抱き込まれていれば、混乱していた頭も少しずつ落ち着いてくる。

 「……ありがとうございます」

 破裂しそうなくらい辛かった動悸も治り、自分で止めることができなかった涙はアレンがいつのまにか拭いとってくれていた。
 冷えきった体に2人の体温が心地良く、ずっとこうしていたくなる。

 「…ごめんなさい。迷惑かけちゃいましたね」 

 「昼間のこと思い出しんたんだろ?大丈夫だ。もう終わったことだろ?みんなここにいる」

 どうやらアズを寝かしつけた後、2人を待つ間にソファでうたた寝してしまったらしい。
 喧嘩しながら風呂から上がった2人がソファを見れば、全身を震わせ、涙しながら助けを呼ぶ縁がいたらしい。
 昼間のことを知るアレンがなにか察したらしく、抱きしめ宥めようとしたのをセインも手伝ってくれたようだ。
 あの一面赤い光景を気にしないようにしていたつもりだったが、心のどこかでやはり引っかかっていたのだろう。
 やっと落ち着いた安心感からソファで寝てしまったせいで、抑えていた感情が溢れてしまった。
 怪我人を見たのは初めてではない。
 死人を見たのも初めてではない。
 けど、あれほどの…一面血の海を、縁は見たことはなかった。
 無惨に腕がちぎれ、普段見えないはずの足の骨が飛び出し、大きく開いた腹からは内臓がこぼれ落ち、転がる頭は首から下が見あたらない。
 叫んだせいだろう大きく開いた口はそのまま、魂が抜け光を失った虚ろな目は今も縁の脳に焼き付いて離れない。

 「これじゃアズのママ失格ですね」

 「それなら気付いてやれなかった俺たちはパパ失格だな」

 少しでも空気を軽くしようと冗談まじりに言えば、セインものってくれた。
 ほっとした縁は力を抜くと背後のセインに寄りかかり、前にいるアレンを抱き寄せる。
 2人がいてくれてよかった。

 「私の名前、めぐり合わせって意味があるんです。誰かと出会うきっかけ、人と人が関わり合う。父が付けてくれました。子どものころは古くさい名前だってずっと思ってたんですけど、この名前のおかげでみんなに出会うことができたんだとしたら、今は心から父にありがとうって言いたい」

 小さい頃に両親が亡くなって、どちらにせよもう会うことはできないがたくさんの想いを込めて考え付けてくれた両親に感謝したい。

 「えにし…縁、か。そうだな。縁の親父さんが、俺たちにめぐり合わせてくれたんだな」

 「縁の父親は縁を本当に愛してたんだな。おかげでこうして縁を抱きしめることができる」

 日々薄れていく両親の姿に、いつのまに自分はこんなに薄情者になったんだと思ったことがあった。
 だが、今なら思い出せる。
 いつも優しく見守ってくれた母の微笑み。
 頑張れと背中を押してくれた父の手の温かさ。
 覚えてる。
 ちゃんと覚えてる。
 あちらで死んでなにも思わなかったなんて嘘だ。
 早くに死んだ両親の代わりにもっと精一杯生きたかった。
 寿命がくる最期の最期まで悔いのないよう生きて、天国で見守ってくれているだろう両親に褒めてもらいたかった。
 けど、できなかった。
 でも今なら。今からなら。
 神さまにもらった第二の人生、面白おかしく精一杯悔いのないよう生きてやろう。

 「2人にお願いがあるんですが聞いてくれますか?」

 「あぁ、いいぞ」
 「縁のためなら、もちろん」

 優しく逞しい私の番。
 一緒にずっと寄り添ってくれるだろう番。
 彼らがいるなら大丈夫。
 もうなにも怖くない。
 元より彼らを拒否することなど思いつかなかった。
 無意識に2人に呼んでいたのはそういうことなのだろう。
 だから今ならはっきり言える。

 「2人とも私の番になってくれませんか?」
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...