二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
77 / 475

大変です

しおりを挟む
 その日も縁は自分でも何かできることはないかと隠れ家を彷徨い歩いていた。
 特にこれ!といったものに出会うことも出来ず半分は散歩気分だったが。
 今日は珍しくスノーも一緒で、漸く住人たちも怯えなくなったため隠れることなく縁の首に巻きついている。

 「私にもできることないですかねぇ」

 「キュァー?」

 いい子いい子とスノーを撫でてやりながら歩いていれば、目の前から見知った姿が。

 「エバンスさん、おはようございます」

 「……おはよう」

 元々寡黙なエバンスは表情もあまり動かないらしく、それでも話しかければきちんと答えてくれるため無表情でも縁はあまり気にしていなかった。
 その上猿の獣人というだけあって一番親近感がある。

 「今からお仕事ですか?」

 頷くエバンスについて行っていいか聞けば、首を傾げながらも了承してくれた。
 
 「今日は何をするんですか?」

 手先が器用なエバンスは武器や防具などの補修作業が主らしく、他にも頼めば色々と作ってくれるらしい。

 「修理」

 どうやら今日は防具の修理らしい。
 見ても楽しいものではないと皆に言われたが、細々と器用に何でも直していくエバンスに縁は感心していた。
 
 「いつ見ても素晴らしいですね」

 「………」

 返事がなくてもとくに気にすることなく魅入っていれば、スノーも首から降りエバンスの手元を覗いていた。

 「キュァ?」

 「そうです。エバンスさんがこうして綺麗に直してくれるおかげでみなさん助かってるんです」

 首?を傾げるスノーに教えてやれば、それを見たエバンスが少し驚いたようにこちらを見ていた。

 「?、どうかされましたか?」

 「……分かるのか?」

 「いえ?私はエバンスさんみたいに器用ではないですし、そもそも性格が大雑把なので壊れきるまでまぁいいかで済ませてしまいます」

 とてもじゃないが修理などには向いていないと言えば、そうじゃないと首を振られた。

 「ちがう。言葉、分かるのか?ソイツの」

 どうやら作業工程ではなく、スノーの言葉を理解しているのかと聞きたかったらしい。
 
 「んー、なんとなく?」

 「………そう」

 もちろんスノーの言葉は理解できてはいないため、なんとなくこう言っているのでは?ぐらいである。
  エバンスもそれ以上は諦めたのか再び作業に戻る。

 「あ、そういえばエバンスさんて飾りものって作れますか?」

 「?」

 「えーと、魔石下さい。と、コレなんですがスノーに何か身につけられるものを作ってあげたくて」

 鞄から形見の魔石を取り出せば、エバンスが驚いたようにこちらを見た後魔石を手に取り確認していた。
 確認もなにも本物なのだが。

 「コレどうした?」

 「スノーのお母さんの形見なんです。なので持たせてあげたいんですが……」

 「キュァー、キュァー」

 縁の言葉が分かったのか、魔石を持つエバンスの手首に絡みつくとスリスリと魔石に頭を擦り付けていた。
 スノーは自身の母親の姿は見たことはないが、それでもやはり分かるのかどこか嬉しそうである。

 「この子もまだ身体が小さいので今すぐというわけではないですが、もう少し成長したらお願いしたいんです」

 今はまだ持つどころか引きずってしまうだろうが、成長すれば相応しい大きさになるだろう。
 その時は是非ともお願いしたいと頼めば、了承するように頷くエバンスに縁も微笑むのだった。

 「エバンスさんは何か好きなものはありますか?」

 「?」

 首を傾げるエバンスに縁も首を傾げる。

 「………なぜ?」

 そんな不審がらずとも。

 「スノーの飾りを作ってもらうお礼に何かできたらと思ったんですが」

 「ない」

 あらま。
 何もないとは。

 「仕事は……むしろ足手まといになりますし、うーん、好きな食べ物とかはないですか?甘いものとか、辛いもの、お肉とか野菜でもいいですが」

 あまり得意とは言えないがそれでも縁が作れるならばと聞いてみる。

 「………芋」

 じっくり考えた末に出した答えだったが、芋と一言言われても幅が広い。
 じゃがいも?さつまいも?里芋…はこちらにあるのか分からなかったが聞けばどれでもいいらしい。

 「甘くても大丈夫ですか?それとも辛いものとかがいいですか?」

 「なんでもいい」

 それほど味の好みはないようだ。
 好物を聞けただけでもよしとしとこう。

 「お芋美味しいですよね。私も昔はよくご飯がわりに食べました」

 焼き芋も、大学芋も、蒸かし芋も、ポテトサラダも好きだった。

 「は?」

 ん?何かおかしなことを言っただろうか?

 「アンタ人間だろ?」

 人間ですね。
 縁の知らない内に変化していなければ。
 そっと頭に触れてみる、がやはり獣耳はなかった。

 「人間なのに何でそんなもの食ってんだ?」

 「え、こちらの方ってお芋食べないんですか?」

 質問に質問しては申し訳ないが、驚きすぎてそれどころではない。
 あれほど美味しいのに何故食べないのだろう?

 「……食べるには食べるが、俺たちみたいな獣人か後は金のない人間ぐらいだ」

 なるほど。
 つまりは金を持ってるだろう縁が食べるものではないと言いたいらしい。
 かなりの誤解だが。

 「前から思っていたんですが、もしかしてみなさん私のこと貴族かなんかだと思ってますか?違いますよ」

 「……ちがうのか?」

 やはり誤解があったようだ。
 貴族でもなければ、こちらの世界の人間でもなかったのだ。
 今あえて言うならば無職の庶民だ。

 「違いますよ。あぁ、もしかして話し方ですかね?これはもう癖なので気にしないでもらえればいいんですが」

 「………」

 うーん、他にも?

 「それともヒョロヒョロのこの身体ですか?こればかりは今後に期待するしかありませんが……そういえばエバンスさんもいい筋肉ですね。どうすればそんなふうになれますか?」

 「……ムリだ」

 残念です。

 「そうですよね。そんな簡単に教えるわけにはいかないですよね」

 「ーーは?」

 「安心して下さい。これから親睦を深めてもっと仲良くなってから教えてもらうことにします。それまではこちらに通ってエバンスさんのことを知ることからーー」

 「帰れっ」

 そうして珍しく声を荒げたエバンスによって縁は部屋を追い出されるのであった。
 そんな縁が「道のりは長いですね」と呟いていたのを聞いている者はいなかった。
 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...