88 / 475
飲酒に注意
しおりを挟む
工房を案内してもらい、では試飲してみてはどうかとなった。
「お酒の良し悪しなんか分かりませんよ?」
「そうなんですか?」
意外だとランが驚いていた。
見た目はどうあれこちらに来てからというもの飲んだことはなく、日本にいた頃は所謂ザルだったこともありあまりこだわりがなかったのだ。
飲めさえすればなんでもいいとは言わないが、安くても高くてもある程度美味しければそれでいいと思っている。
「ランは強いんですか?」
「かなり強ぇぞ」
教えてくれたのはガンズで、慌てるランに笑って答えてくれた。
「こいつの父親がかなり強くてな。酒が好きで好きでとうとう自分で作り始めちまった」
なんと。
趣味が高じて酒造りを始めるとはかなりの酒好きだったようだ。
そう思えばランが強いのも納得できた。
「あ、あの!ぼ、僕は、お酒を作るのが好き、なだけで!そんな、呑んだくれとかじゃ、なくて……えっと、だから……えーと、なんだっけ?」
自分でも何を言っていたか分からなくなったらしい。
可愛いなぁと頭を撫でてやれば恥ずかしそうに俯いてしまうのだった。
「では、そのランの手作りを少しいただいてもよろしいですか?」
飲んでみたいと言えば嬉しそうに準備するランにガンズも苦笑いしている。
その生き生きとした表情にランにとって酒造りが生きがいなのが見て分かった。
「これです。どうぞ」
さっと差し出されたコップに入った液体はやはり縁が知る日本酒にそっくりで懐かしさに自然と笑みが溢れた。
透き通った無色透明で一見水に見えるが、匂いを嗅げば酒特有のツンとした匂いがした。
礼を言い受け取ると一口飲んでみる。
「ーー美味しい」
もう感じることができないと思っていた故郷の味に気分が上がる。
甘みがありながら喉を通る清々しさに何杯でも飲めてしまえそうだ。
「よかった。父さんが一生懸命考えたのでエニシさ…エニシくんに飲んでもらえてよかった」
ランにとって自慢の父なのだろう。
先程までのオドオドした様子はなく、笑顔で話す姿は本当に嬉しそうだ。
「私も嬉しいです。こんなに素晴らしいものを残してくれたランのお父様に感謝したーー」
「……エニシくん?」
急に言葉を止めた縁に皆が不思議そうにこちらを見てくるが、その瞬間目の前が真っ暗になったのだった。
突如糸が切れた人形のように前のめりに倒れていく縁の姿に慌てて手を伸ばせば、ドサリと倒れこんでくるのを何とか受け止めた。
「エニシくん!?」
「おいっ、大丈夫か!?」
真後ろにいた為気付けたが、未だドキドキと早鐘を打つ心臓が苦しい。
震える手でアレンが縁を抱き起こし、瞳を閉じるその顔を覗きこめばスゥスゥと規則正しい吐息が聞こえた。
「……寝てる」
「え?」
「はぁ?」
駆け寄ってきたランたちに縁を見せれば盛大な溜め息と共にホッと胸を撫で下ろしている。
「「「………」」」
あまりのことに3人が無言になる。
「おい、こいつにはもう飲ますんじゃねぇぞ」
「分かった」
「うん」
いきなり倒れこんだかと思えば意識もなく眠りこける姿に、皆が思った。
どんだけ(酒に)弱ぇんだよ!!
スヤスヤと幸せそうな寝顔に文句を言うこともできず、しかしどこも打ちつけることがなくて良かったと安堵した。
「これじゃ無理だな。もう帰って寝かしてやれ」
呆れたようにそう言うガンズにアレンも頷くと、縁を横抱きにし工房を出ようとし呼び止められた。
「あ、あの!これ、良かったら…その…他の方たちと飲んでみて下さい」
手渡されたのは先程縁が飲んでいた酒が入った瓶で、まさか自分に渡すなど思っていなかったアレンが驚いていれば、早く受け取れとガンズに促される。
「……ありがとう」
「いえ、エニシくんにはお薦めはできませんけど、その、あの、良かったら番のみなさんで飲んでみてください」
そう言って笑うランにアレンはどう接していいか分からず戸惑いながらも礼を言うと縁を抱え工房を後にした。
町を抜け隠れ家までの道をひたすら歩く。
「………」
まさか受け入れてもらえるとは思ってなかった。
どんなに縁が優しく、自分たちを大切にしてくれていると分かってはいてもそれを他に期待していなかったのだ。
とくに話すことなく縁に寄り添うだけだったアレン。
そのことに何も触れないランたちに自分は無視されているのだろうと思っていたのだが、それもいつものことだろうと気にしていなかった。
縁さえいれば他などどうでも良かったから。
楽しそうに縁と話すランたちに嫉妬しなかったと言えば嘘になるが、話しの内容を聞いていればなるほど縁が気にいるわけだと納得し、なるべく邪魔にならないようにしていた。
人間に期待などしていない。
それはアレンに限らず、セインにアズ、他の獣人連中もそうだろう。
だが縁も人間だ。
いくらアレンたちの番になったとは言え、やはり人間の仲間ともいたいだろうと縁のために我慢していた。
早く連れ帰りたいと思っていれば、いきなり目の前で倒れた縁に心臓が止まりそうになった。
慌てて確認すれば眠りこける縁にホッと息をついた。
駆け寄ってくるランたちに寝ていることを伝えれば彼らも安心したようだ。
だが、まさか縁があれほど酒に弱いとは思っていなかった。
スヤスヤと気持ち良さそうに腕の中で眠る縁に笑みが溢れる。
縁が友と認めた人間はオドオドしながらもしっかりとアレンの目を見て酒を渡してきた。
もう酒を飲ますなとアレンを見て言ったガンズも顔は険しかったが、それは縁を心配してのことだろう。
無視されていると勝手に思っていたアレンにとって有り得ないことだらけで戸惑い無愛想な返事しかできなかった。
「俺たちは……俺も、少しぐらいは人間を許してもいいのかもな」
今までのことを思えば全ての人間を許すことなんて絶対に出来ないだろう。
だが。
それでも。
今日、アレンのことを1人の人間として見てくれたランたちは認めてもいいのかもしれない。
縁ほどではないがそれでも蔑み、獣人たちを奴隷としか思っていない人間たちとは違う人間もいるということを。
「ありがとな…縁」
それを知る機会を与えてくれた愛する番に。
誰よりも、何よりも愛しているという気持ちを込めてキスを贈るのだった。
「お酒の良し悪しなんか分かりませんよ?」
「そうなんですか?」
意外だとランが驚いていた。
見た目はどうあれこちらに来てからというもの飲んだことはなく、日本にいた頃は所謂ザルだったこともありあまりこだわりがなかったのだ。
飲めさえすればなんでもいいとは言わないが、安くても高くてもある程度美味しければそれでいいと思っている。
「ランは強いんですか?」
「かなり強ぇぞ」
教えてくれたのはガンズで、慌てるランに笑って答えてくれた。
「こいつの父親がかなり強くてな。酒が好きで好きでとうとう自分で作り始めちまった」
なんと。
趣味が高じて酒造りを始めるとはかなりの酒好きだったようだ。
そう思えばランが強いのも納得できた。
「あ、あの!ぼ、僕は、お酒を作るのが好き、なだけで!そんな、呑んだくれとかじゃ、なくて……えっと、だから……えーと、なんだっけ?」
自分でも何を言っていたか分からなくなったらしい。
可愛いなぁと頭を撫でてやれば恥ずかしそうに俯いてしまうのだった。
「では、そのランの手作りを少しいただいてもよろしいですか?」
飲んでみたいと言えば嬉しそうに準備するランにガンズも苦笑いしている。
その生き生きとした表情にランにとって酒造りが生きがいなのが見て分かった。
「これです。どうぞ」
さっと差し出されたコップに入った液体はやはり縁が知る日本酒にそっくりで懐かしさに自然と笑みが溢れた。
透き通った無色透明で一見水に見えるが、匂いを嗅げば酒特有のツンとした匂いがした。
礼を言い受け取ると一口飲んでみる。
「ーー美味しい」
もう感じることができないと思っていた故郷の味に気分が上がる。
甘みがありながら喉を通る清々しさに何杯でも飲めてしまえそうだ。
「よかった。父さんが一生懸命考えたのでエニシさ…エニシくんに飲んでもらえてよかった」
ランにとって自慢の父なのだろう。
先程までのオドオドした様子はなく、笑顔で話す姿は本当に嬉しそうだ。
「私も嬉しいです。こんなに素晴らしいものを残してくれたランのお父様に感謝したーー」
「……エニシくん?」
急に言葉を止めた縁に皆が不思議そうにこちらを見てくるが、その瞬間目の前が真っ暗になったのだった。
突如糸が切れた人形のように前のめりに倒れていく縁の姿に慌てて手を伸ばせば、ドサリと倒れこんでくるのを何とか受け止めた。
「エニシくん!?」
「おいっ、大丈夫か!?」
真後ろにいた為気付けたが、未だドキドキと早鐘を打つ心臓が苦しい。
震える手でアレンが縁を抱き起こし、瞳を閉じるその顔を覗きこめばスゥスゥと規則正しい吐息が聞こえた。
「……寝てる」
「え?」
「はぁ?」
駆け寄ってきたランたちに縁を見せれば盛大な溜め息と共にホッと胸を撫で下ろしている。
「「「………」」」
あまりのことに3人が無言になる。
「おい、こいつにはもう飲ますんじゃねぇぞ」
「分かった」
「うん」
いきなり倒れこんだかと思えば意識もなく眠りこける姿に、皆が思った。
どんだけ(酒に)弱ぇんだよ!!
スヤスヤと幸せそうな寝顔に文句を言うこともできず、しかしどこも打ちつけることがなくて良かったと安堵した。
「これじゃ無理だな。もう帰って寝かしてやれ」
呆れたようにそう言うガンズにアレンも頷くと、縁を横抱きにし工房を出ようとし呼び止められた。
「あ、あの!これ、良かったら…その…他の方たちと飲んでみて下さい」
手渡されたのは先程縁が飲んでいた酒が入った瓶で、まさか自分に渡すなど思っていなかったアレンが驚いていれば、早く受け取れとガンズに促される。
「……ありがとう」
「いえ、エニシくんにはお薦めはできませんけど、その、あの、良かったら番のみなさんで飲んでみてください」
そう言って笑うランにアレンはどう接していいか分からず戸惑いながらも礼を言うと縁を抱え工房を後にした。
町を抜け隠れ家までの道をひたすら歩く。
「………」
まさか受け入れてもらえるとは思ってなかった。
どんなに縁が優しく、自分たちを大切にしてくれていると分かってはいてもそれを他に期待していなかったのだ。
とくに話すことなく縁に寄り添うだけだったアレン。
そのことに何も触れないランたちに自分は無視されているのだろうと思っていたのだが、それもいつものことだろうと気にしていなかった。
縁さえいれば他などどうでも良かったから。
楽しそうに縁と話すランたちに嫉妬しなかったと言えば嘘になるが、話しの内容を聞いていればなるほど縁が気にいるわけだと納得し、なるべく邪魔にならないようにしていた。
人間に期待などしていない。
それはアレンに限らず、セインにアズ、他の獣人連中もそうだろう。
だが縁も人間だ。
いくらアレンたちの番になったとは言え、やはり人間の仲間ともいたいだろうと縁のために我慢していた。
早く連れ帰りたいと思っていれば、いきなり目の前で倒れた縁に心臓が止まりそうになった。
慌てて確認すれば眠りこける縁にホッと息をついた。
駆け寄ってくるランたちに寝ていることを伝えれば彼らも安心したようだ。
だが、まさか縁があれほど酒に弱いとは思っていなかった。
スヤスヤと気持ち良さそうに腕の中で眠る縁に笑みが溢れる。
縁が友と認めた人間はオドオドしながらもしっかりとアレンの目を見て酒を渡してきた。
もう酒を飲ますなとアレンを見て言ったガンズも顔は険しかったが、それは縁を心配してのことだろう。
無視されていると勝手に思っていたアレンにとって有り得ないことだらけで戸惑い無愛想な返事しかできなかった。
「俺たちは……俺も、少しぐらいは人間を許してもいいのかもな」
今までのことを思えば全ての人間を許すことなんて絶対に出来ないだろう。
だが。
それでも。
今日、アレンのことを1人の人間として見てくれたランたちは認めてもいいのかもしれない。
縁ほどではないがそれでも蔑み、獣人たちを奴隷としか思っていない人間たちとは違う人間もいるということを。
「ありがとな…縁」
それを知る機会を与えてくれた愛する番に。
誰よりも、何よりも愛しているという気持ちを込めてキスを贈るのだった。
50
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる